ヒロインさん、出番ですよ。 前編
「いい天気だなぁ…」
外に出ると、
始業式に相応しい晴天が広がっていた。
近くの桜道も、すっかり満開になった
桜の木が、迎えてくれているかのように
並んでいた。
俺は、子骨眼になりながら、空を見つめた。
そして…。
「あぁ、やっぱこの時期は増えるよなぁ…」
俺の目に映った光景は、
大量の女子高生らしき人物が、
コスプレみたいな服を身に纏い、
空を飛んでいるというものだ。
「ヒロインも、平和なのにあんなに増えてどうする気なんだろうな…」
あれが、この時代でいう『ヒロイン』という
存在なのである。
『ヒロイン』
それは、選ばれたものにしかなれない存在。
それは、悪からの攻撃を守る存在。
それは、世界を平和にするため奮闘する存在。
その存在は、おとぎ話やアニメでしか
いないようなものだと思われていた。
だが、この時代『ヒロイン』は、
自己申告でなれるのだと言う。
どこに申し込むのか?と言うのは、
噂でしか聞いたことないのだが、
ヒロインになりたいと願いながら
ネットで検索すると、あるサイトに繋がり
契約ができるのだという。
女子しかそのサイトを見ることは
出来ないという。
俺も冗談半分でやってみたができなかった。
そんなわけで、空が飛べて楽じゃん!
思った通りに可愛くなれるとか素敵!
と言った理由で、ヒロインになるという
あまりにも適当なヒロインが多いらしい。
まあ、あの青だぬきの時代さえ
あと数十年で来るくらいだし、
こんなこともあり得るのだろう、多分。
だったら建物や乗り物も近未来的になったの
かといえば、そんな訳はなく、
母さんのいう、昔とあまり変わらない状態
だそうだ。
だから、『ヒロイン』という存在が
公に出てきた時は、心底驚いた。
が、こうも増えると、それが当たり前だと
思えるようになってしまうのが
人間の性なんだと思う。
(俺も空を飛べたら、楽に登校出来るのに)
なんてくだらないことを考えるくらいには。
「オー!健ー!」
振り向くと、そこには幼馴染みの雄二がいた。
「ああ、おはよ」
「なんだよー連れないなー、あ、もしかして?」
?なんだ???
「ヒロインのパンツでも見てんだろ!」
「見てねえよ!!!」
「ジョーダンジョーダン!てか、それ以前に」
雄二の目線に合わせて、俺も空を見上げる。
(…見えないんだよなぁ、パンツ)
幼女向けのアニメに出てくるヒロインの
スカートみたいに、鉄壁のスカート
とでも言うのか、ブラックホールかのような
真っ黒な闇に包まれていて、
スカートの中身は全く見えないのである。
「いくらヒロインが可愛いからって、あれが見えなきゃ夢がねえよなぁ」
「まあな、見えたら見えたで問題ありだけど」
「まぁ、見てるのがバレて、男の俺らより強い女子にボコボコにされるって、一番幸せなな死に方な気もするけど」
「死ぬ前提かよ…」
雄二のアホっぷりには毎回呆れる、
ホント、顔だけならイケメンなのになぁ。
黒縁の眼鏡をかけて、目もクリッとしてて
剣道部のため、程よく脂肪も筋肉もついてて
平均より7センチほど身長が大きくて、と
中学入学の頃はキャーキャー言われてたが
その変態っぷりが知らしめると、
次第にただの変態担当になっていた。
高校では、そんなことがないように
そっと見守っていかないとな…。
「お前、そういえば部活はどうするんだ?」
「あぁ、バイトしたいし帰宅部かな、お前は?」
「もち、剣道!」
あ、やっぱりそうなんだ。
「って言いたかったけど、ここ剣道部ないんだよな、だから俺も帰宅部予定ー」
「そっか、まあ暇が合えば遊ぼうぜ」
「もちもちよー!」
とか、なんてことない話をしてると
あっという間に学校の近くまで到着した、が。
「おいおい、なんだあれ?!」
校門前で、黄色い歓声が聞こえた。
視線をそちらに向けると、ヒロインや
普通の女子高生が大量に群がっていた。
その真ん中には…。
「うげっ?!あれ、学校のプリンス的なやつか?!」
そこには、制服をぴしっと着て
2年生のネクタイをきっちり締めて
『生徒会』と書いてあるタグを
二の腕につけた男が、困り顔で立っていた。
「すげえな、おい…人気ありすぎ」
「くそー!!ああいうヤツ本当大嫌い!!」
まあ、気持ちはわからなくもないけど…。
「あいつがいなけりゃ俺が全員とハーレムする予定だったのに!!」
「そっちかよ、てか普通に考えて有り得ねえよ」
「即否定?!」
だが、実際モテそうな顔立ちである。
つり目で、黒目が長細めだが、
中性的な顔をしていて、妖艶な雰囲気が
出ている、まるで狐みたいだ。
左目は、何があったかはわからないけど
白い眼帯をつけている。
ツーブロックの黒髪は、さらさらと
していて、風になびいてもすぐに元の形に戻る。
身長も推定180センチ、体型は若干
細めってところか?
「…雄二、残念だけどお前の負けだ」
「戦ってもないのにかよ?!」
どう考えてもお前の負けだよ。
「おーいお前らー、もうすぐ始業式始まるぞー!」
そこには、四海先生が立っていた。
その言葉を聞いて、沢山いた女子も、
校舎の方へ走っていった。
「大丈夫だったか?」
「は、はい…今体育館に向かいます…」
おいおい、大丈夫かよ生徒会…。
「あまり無理するなよ?」
そう先生が言うと、生徒会の人は
こくりと頷いた。
「健一!雄二!お前らも始業式早々怒られたくなかったらさっさといけ!」
あ、やべ、行かなくちゃ。
「まっず!おい行くぞ健一!!」
「お、おう」
俺は、雄二に腕を引っ張られながら
校舎へ向かって走った。
(…あれ?)
今、生徒会の人、俺のこと見てた?
しかも、なんだか悲しそうな目だった気が…。
「何やってんだよ!行くぞ!」
「あ、わりい、いくいく」
…気のせい、だよな、きっと。
続く。