龍の洞窟へ
その夜、俺たちは彼らに歓迎を受け、楽しい宴になった。
環状の村の中央で火を焚き、宴になって酒を飲み、歌を歌い、踊り狂った。
楽しい夜であった。
食事には鹿や果物類や山菜が出た。
隠れて食料庫を見たが、冬を越せる量はなく、笑っている彼らだったが、これから大変な時期に入るのは目に見えていた。
俺たちにとても感謝してくれているみたいだったが、正直ここまでされたら・・・・。
お返ししないとな。
村の人々が俺たちを見送ってくれていた。
「じゃあ、リヒト。俺、いくから。」
「お世話になりました。アン!元気でね!」
「うん!じゃあね!」
「あ、そうだ。リヒト。これ、やるよ。」
「なんだ?」
リヒトが月矢から槍を受け取る。
「なんだこれ?・・・って、オークのやつじゃないか。」
「ああ。それを畑に刺してみてくれ。」
「は?・・・・まぁ、いいけどよ。」
リヒトは村のすぐ外にある畑に槍を刺した。
すると・・・・・・
「「うわ!なんだこれ!」」
「「え???」」
リヒトが刺した槍からニョキニョキと麦色の穂が出てきたのだ。
「どういうことだ!大地?」
俺はにいっと笑った。
「さぁ、今から収穫だろ!
その槍、あと1週間で効力切れるから!
じゃあな!」
「え?あ、これまさか・・・兵士たちに盗られる前の状態に??」
「ええ。土壌に栄養を満たして、《草の魔法書》の力を使い、土の下に残っていた植物達に生気を吹き込んだのです。
元の姿まで回復したのは驚きです。
よほどよみこんで、理論と検証を夜のうちに重ねたのでしょう。
司書の能力の使い方を理解したようですね。」
「わ、悪い。ほとんど意味がわからん。」
リヒトが笑った。
「では、さようなら。」
シルフが手を振り、月矢の横に走っていく。
「月矢、シルフ!ありがとうな!
いつか礼をさせてくれ!!
いつでも歓迎するからな!!!!」
月矢達は村をどんどん離れていく。
田んぼのあぜ道を歩いて。
横の田にはどんどんと麦色の穂がニョキニョキと生え出していた。
「月矢様。顔がにやけてますよ?」
「・・・・・いうな。」
「さすがですね。」
シルフが俺の顔をじっと見つめる。
「ちょっと・・・好きになっちゃったかも。」
「・・・・・・へ?」
なにか、小さい声で言われたが、聞き間違えたのだろうか?
「なんて?」
「もう!いいです!ちゃんと聞いててください!」
シルフがむすっと頬を膨らませ、どんどん歩いていく。
「なんだよ!」
「帰りますよ!転移!」
シルフが右手を上げ、転移の詠唱をする。
転移の場所として登録した場所ならば、魔法陣なしで転移できる。
まぁ、緻密な魔力コントロールや、拠点登録として、いろいろな儀式が必要らしいが。
「ちょっと待てって!」
急いでシルフの体にしがみつく。
「うわっ、セクハラですよ!」
「うるせぇ!急に転移しようとすんじゃねぇ!」
青い光が俺たちを包み込み光り輝く。
眩しさに目をつぶる。
「・・・いつまで抱きしめてるんですか?」
俺達は龍の洞窟に戻ってきていた。
「え?・・・・うわっ。」
シルフに後ろから抱きついていたことに気づき、慌てて離れる。
「顔真っ赤だぞ?」
「・・・・チッ」
「あれ?舌打ちしたよね?」
「してません!」
「したよね?」
「・・・・チッ」
「シルフさん、戦闘モードになってません?
・・・・って?うわっ、ちょっ。《クルモア》はだめだって!」
バリバリと音を立ててクルモアが雷を放つ。
その夜、俺は二度とシルフをからかわないことを誓ったのだった。