転機
図書館に本を読みに来た。
俺の能力閲覧を使えば、一瞬で本を読むことができるらしいが、あまりの激痛に最初やったときは気絶した。どうやら俺では脳の容量が足りないらしい。あまり使うと廃人になるかもしれないと思ってそこから一度もやっていない。だから、時間さえあれば普通に本を読むことにしている。
各地の伝説や、気候などを知ることは衛兵を辞めたら必要になるだろうと思ってのことだ。
図書館は年中無休で開いている。
国内の資料庫などがここにある為、どうせなら図書館自体を国民に開放し、金を取ろうと考えたらしい。
この世界の本というのはやたらと高く、本一つで金貨 4枚くらいは取られる。
この世界の通貨は右から石貨 鉄貨 銅貨 銀貨 金貨で日本円でいうと
石貨 1円
鉄貨 100円
銅貨 1000円
銀貨 10000円
金貨 100000円
という感じだ。
いかに本が高いのかがわかると思う。
娯楽も乏しい世界なので、図書館とは超人気スポットなのだ。
ただ、仕事が終わってから行くと流石に人は少なく、静かに本を楽しむことができる。
入館料鉄貨幣3枚をはらって中に入り、魔法のコーナーへ行く。
魔法の発動には魔方陣を書いた媒体が必要だ。
戦闘中に使うことを考えると普段から魔法陣を書いた媒体を持っていることが好ましい。
まあ、魔法戦士や、魔導師など、能力で魔法が使える奴は魔法陣を必要としない。
「今日は風の魔法陣を覚えるか。」
持ってきたノートに魔法陣を写し取り、何度も反復する。
とても複雑な形をしており、難しいものの、いつか使うだろうと練習している。
今使える魔法は本当に基礎中の基礎である魔法のみである。。
それ以上の攻撃魔法は図書室で閲覧することができず、また、魔力量も圧倒的に足りない為、
覚えても仕方ないのだ。
「はぁー。きょーも疲れたわー」
マナーの悪い客が入ってくる。
むっとしてそちらを見るが、クラスメイト達だった。
面倒だ。またいじめられる。
隠れよう。
あいつらに見つからないように図書館の誰もいかないような、奥の方に移動する。よくこういうことはある。でも、国のとても広い図書室のこの古い以上に分厚い本が並ぶこの場所には誰も来ない。
あいつらがいなくなるまでここで隠れていようか・・・・・ひまだな。
ふと気になって、題名を見ているとひとつだけ、何も書かれていない本があった。
その本を見た途端、急に本に引き付けられた。なぜか目を離せなくなったのだ。
どうしてだろう・・・・・本のもとに移動し、軽くその本に触れたその時だった。
『司書持ちを確認しました。転移させます。』と女の声。
「え?」
今何か聞こえ・・・・・
触れている本が青い光を放ち始める
「この本は一体・・・」
魔力の風と共に、俺の体を青い光が包み込んだ。
眩しさに目を瞑った。
目を開けるとそこは薄暗い洞窟だった。
「これは・・・・また転移したのか?」
薄い青や、緑の結晶が光を放っていつ幻想的な空間だった。
そのだだっ広い洞窟の中心に男が座っている
「よく来たな。待っていたぞ」
「は?」
白髪の壮年の男だった。
その男の身体からは生気を感じられない。
まるで、死体のようだった。
しかし、彼の目は爛々とひらり、まるで新たな旅立ちを待ち望む若者のような、そして狡猾な知性をうかがいしれることができた。
「・・・ぎりぎり間に合ったか。
転移者よ。私は炎龍 ギルという。
貴様を待っていた。」と白髪の男。
「・・・・・・・・・・え?いや、あの・・・・これは一体・・・?」
「まず、私は古より、この世界を見守って来た龍である」
おじいちゃんに見えるんだけど・・・・?
「龍は寿命がくる前に転生し、新たな生を得る。
何も知らん赤子になってしまうのは実に惜しい。今回の生は得たものがかなり多かったのだ。
どうにか、転生した後もできれば私でありたい。
そこで、数百年かけて、お前のような能力者を探していた。
貴様の能力、『司書』で、私の能力を保存し、私を私にして欲しいのだよ」
よ、って言われてもなぁ。
「えっと。僕・・・・の能力はそんなことができるんですか?」
「は?」
なんか驚かれた。
「貴様自分の能力の使い方も知らないのか?」
「知りません。頭痛になるので実験もできなくて・・・」
「司書は非戦闘職だが、文章や、記憶を本に写し、記録できる職業だ。
かなり珍しい」
「珍しいんだ・・・。」
「だが、戦闘職でもないのにあの国で暮らすのはきつかっただろう。それに、誰にも襲われないうえに、癖のある能力だからな。使い方がわからなかったのも無理はない・・・・か」
なんか、優しいな、こいつ。
「俺の能力って結構すごいんですね。本を記録できるなんて・・・・あれ?」
すごいか?割れるような頭痛を犠牲にして本を記録を移せる能力・・・。
「これだけでは大したことはない。まぁ、本など買えば良いからな」
「たしかに」
「だが私は記憶を記録できる媒体を発明した。この媒体に貴様が記憶を記録して」
「なるほど。次のあなたにそれを渡せばいいのですね?」
「ああ。お前から魔力の塊がそのうち出てくる。
龍の形に数秒でなるから、そこにこれを投げ込め。」
俺の前にふわふわと一冊の本が飛んでくる。
題名もない。中はなにも書かれていない。
「これは?」
「私が、何百年もの年月をかけて作り出した魔法道具だ。
いくらでも記録を写すことができる。
さらにはその紙はいくら破っても無くならない。
どうだ!凄いだろう」
・・・地味。
なんか、みんなもっとすごい武器と持ってたわ。
この前、クラスメートが絨毯みたいなやつになって飛んでくの見たが、一緒に可愛い子がらのっていた。
く、リア充め!
ギリギリと歯をくいしばる俺を見て不審に思ったギルが怪訝な顔をする。
「・・大丈夫か?」
「え?あ、はい。 問題ありません。」
「・・・・・まぁ、いい。
報酬はこの洞窟のものすべてだ。
では、私の記憶を複写しろ」
「あの〜どうやって?」
「・・・本を持って私の頭に手を当てろ。」
「当てました。」
「複写を詠唱しろ」
「えっと。《複写》」
その瞬間にすざまじいスピードで文字が本に現れる。
「閲覧しろ」
「え?はい。《閲覧》・・・んん!」
頭が焼けるようだ。
「いだい いだい いだいいいぃぃ
やめて、やめてくださいぃぁぁぁ」
「魔力を切れ」
体の魔力を切る。
「はぁ、はぁ」
複写には痛みがなかったから、もしかすると痛みがなくなるのかと思ったが。
「私の情報が頭に流れ込んだだろう。司書の能力は収納で情報を読み込み、閲覧で、自分と情報をリンクさせる。だが、私の記憶と非常に鮮明かつ濃密で、人間には耐えられないだろう。
できれば見ないでくれ。」
「はぁ、はぁ。こんなに痛いなら二度とやりませんよ。」
頭が焼けるかと思った。このくそ炎龍め。
「さて・・・・と」と龍から魔力がほとばしる。
「でこれですべては終了した。
私は一年か、二年くらいで転生するだろう。
では、しばし、さらばだ。」
彼が空中に浮かぶ。
そして巨大な黄金の龍に変化し、煌めくオーラとなって俺に向かってくる。
「え?ちょっ?まって」
『では!頼んだぞ!』
「うわっ 」
ずん、と身体に重い衝撃が走る。
胸に黄金の光が沈んでいった。
「また・・・痛いし」
目の前が歪んでいく。