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現世【うつしよ】の鎮魂歌  作者: 奈良ひさぎ
Chapter10.Ketterasereiburg 編(崩壊)

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Course Out8 ミュールとセントコバルト

かなり久々となりますが、番外編第8弾です。番外編と銘打っているため、話を進めないのがいいと思い、今回はほぼ話が進んでいません。本来はミュールのお風呂のシーンをメインに書こうと思っていたのですが、他のシーンも入っています。

 ミュールは処理参課のボスのおごりで、熱海で温泉に憑かれることになった。......セントコバルトを連れて。


「ねえねえ、どんなところ?」

「んー、どこでもいいけど、あそこなんてどう?」

「あの大きな看板の?」


 あまり遠くに行きすぎるとダメだろう。しかもどの温泉がいい、など初めて来てしかも下調べもしていないミュールには分からなかったので、パッと目に入ったところに入ることにした。

 時間が早かったのか、少なくとも女湯には誰もいないらしかった。ミュールにはただ疲れをいやすだけではなくて、セントコバルトから聞けるだけの情報を聞きたいという目的もあったので、ちょうどよかった。大声では話せないだろうが、小声なら大丈夫そうだ。......だったのだが。


 セントコバルトの方が先に用意を終え、中に入ろうとしたのだが、セントコバルトの目指したのは男湯だった。


「......そっち男湯だよ?」

「あ!」


 慌ててミュールの方まで戻ってきて、女湯ののれんをくぐった。



* * *



「......最初に聞いとこうかな。どうして男湯に入ろうとしたの」

「ごめんなさい」

「いや、ごめんなさいじゃなくて。私は言わないよ、『ごめんなさいで済んだら警察は要らない』って」

「言ってるじゃん」

「......と、とにかく、すっごく自然に男湯の方に行ったから」

「つい、この間までのクセで」

「クセ?ずいぶんませたクセだね」

「ほら、私”連携強化”を持ってるでしょ?でも世間一般の”連携強化”ほど強くない。もしかしたら私が大人になったらもっと強くなるのかもしれないけど、私ができることは、ぜんぶミュールさんが見抜いた通り。これ以上はもうできないって信じて」

「......。」

「......で、”連携強化”がそれぐらいのものだったら、私はただの女の子と変わらないから。私の得意な『変身』を使えって、”閣下”に言われたの。それから、セントビリジアンにも」

「普段は能力補助具は持ってないの?」

「そう。この間のは遠出するし、この事情に詳しい人に当たるかもしれないから持っておけ、って”閣下”が」

「それであの男の人みたいな感じの姿になって、しれっと男湯に入っていた、と」

「力弱いことさえバレなければ大丈夫」

「いろいろ問題ありそうだけどね」

「大丈夫、バレなかった。死神さんにも出くわさなかったし。ミュールさんとレイナさんが初めてだよ」

「そういう問題じゃない気がする。もっとこう、根本的なところ......」

「女の子なのに男湯に入ったこと?」

「分かってるならどうしてしたの」

「だから、この姿だとただの小さな女の子だから......」

「それが本来の姿でしょ!?」

「だって力弱いし、誘拐なんかされたらひとたまりもないし、......ただの人間に何ができるの、って話ではあるけど」

「あなたも”ただの人間”でしょ!?......もういい、何か疲れたよ」


 本当はやってはいけないのだとレイナから聞かされていたが、ミュールは頭ごとぶくぶくぶく......とお湯に沈んでしまった。



* * *



 温泉に浸かって、フルーツ牛乳を飲んで落ち着いた後、2人はボスの部屋に戻ったのだが、ボスはいなかった。


「......どこか行っちゃったのかな」

「他の温泉で楽しんでるんじゃない?」

「なんで知ったような口利いてるの?」

「えー、だってだいたい分かるじゃん。あんまり細かいこと気にしなさそうだ、って」

「合ってはいるけど......それ本人の前で言っちゃダメだよ?」

「言わない言わない、大丈夫。そういう口はかたいから」

「言ってることがすっかり大人......」

「何言ってるの、だって私の周りみんな大人の人ばかりだったもん。あ、今もだけど」

「心配しなくても数日後にはもっと怖い大人たちに嫌と言うほど囲まれることになるよ」

「ぐぬぬ......」

「さ、ボスもいないし、どこかお店行こっか」

「お店?何を買うの?」

「せっかくだしレイナに何か買っていこうかなって思って。あ、あれだよ?セントコバルトはボスと一緒に冥界に行くことになってるから。ボスは私と違って怒るとすごく怖いから、大人しくしてた方が身のためだよ」

「もうミュールさんで十分怖いよ。私に対してこうもしつこくボコボコにしてきたの、ミュールさんぐらいだし」

「......まあ確かに例の集団の一員だからって、仕打ちがしつこくてひどかったかもしれない、とは若干思ってなくもないけど」

「全然思ってないじゃん」

「要は自分の意志で組織に入ってるっていうのがダメなんだよ。その組織がいったい何をしてるところなのか、分かってなお参加してるってことだからね」


 ミュール自身も、こんなに小さな子どもが明確に意志を持って組織に入っていることに驚きを隠せなかった。そんな年端もいかない少女を味方に引き入れなければならないほど衰退しているのか、それとも単に”連携強化”に対して一応反応を示したから組織に入れているのかは分からない。子どもに対しての仕打ちとしては少々残酷かもしれないが、冥府革命集団の一員に対しての仕打ちとしては、これを残酷と言えば冥界内の不満は噴出するだろう。


「強いて言えば、あなたが冥界で何か情報らしい情報を吐けば、進展もあるってところなんだけど」

「情報......」

「そもそもどうしてあなたが下級幹部じゃなくて普通の幹部なのか分からないし」

「下級幹部のことは知ってるんだ」

「ええ。今身元が分かってるのは下級幹部の一人と、”閣下”、それからセントサファイアだけだから」

「歳の順じゃないよ」

「......。」

「詳しい決め方は知らないけど、持つ能力がすごいものだったら幹部に認定されるみたい。私もただ変身できるだけだけど幹部だし、逆に私よりずっと年上のおじさんでも、適合した能力がなかったとか、あるいは能力を手に入れても大したものじゃなかったから下級幹部、って人もたくさんいるし。もちろん適合以前に死んじゃったら論外」

「......最高幹部は?」

「最高幹部......聞いたことはあるけど、詳しくは知らない。幹部でも最高幹部とか”閣下”に会える人と会えない人がいて、私は会えない人だったから。セントビリジアンは会える人だったみたいだけど」

「......じゃあ、そのセントビリジアンを何とかして捕まえたいね」

「無理だよ。逃げるところ見たでしょ?あれは消火器とかじゃないもん。あの時は普通の煙だったと思うけど、セントビリジアンは煙を動かして攻撃できる能力を持ってるもん」

「煙を動かして攻撃......空間干渉系ね」

「それに私が捕まったの見たから、危険って判断して日本にさえいないだろうし」

「なるほど」

「......あと、ボスには気をつけた方がいいよ」

「なんであなたが言うの」

「ちょっとね。ちょっとだけど、心当たりがあるから」

「心当たり......それは?」

「私、ボスと一緒に冥界に行くんでしょ?なら一緒だよ。その時に分かる。......そうだ、私が何も悪いことはしてないって、分かったらどうなるの?」

「何もしてなかったら......そうだね、その時によるかな」

「その時による......?」

「例え現世でも冥界でも、悪いってされてることを何もやってなくても、冥府革命集団の一員だっていうだけで大きくイメージが違うから。全部処理参課とか警察省の判断に任されることになるよ」

「そっか......」

「まあ、”監獄のフロア”行きにはならないと思うけどね」


 セントコバルトの件もそうだが、何よりボスの言っていた『つかんだ情報』がどんなものかによって、状況は変わる。四冥神会議の開催が要求できるほどの大きな情報だというのは聞いているが、その内容は分かっていない。

 レイナへのお土産をどうするか悩んでお店を練り歩きつつ、ミュールとセントコバルトは話していた。と、


「おーい」


 自分たちを呼ぶ声がした。正面に手を振る男の人がいた。


「ボス......」

「こんなところにいたのか。探したぞ」

「こっちのセリフですよ。一回部屋まで戻ったんですから」

「ああ、ならすれ違ったか。さっき戻って、荷物をまとめて出てきたところなんだ。で?この女の子を連れていけばいいんだね?」

「そうです、よろしくお願いします」

「だが、この子は普通の人間だろう?もしも罪の程度によって、冥界に残る必要がなくなったらどうする?」

「それは......転生、ですかね」

「そのことだけははっきり決めておこう。人一人の生死に関わることだから」

「ですが、転生させれば記憶を残す残さないに関わらず、再び冥府革命集団に関係することになりませんか」

「その確率は人類全員に等しく存在しないか?本来死神専用だった超能力を人間にも強制的に広めて、世界を従えようとするその考え方に賛同するなら所属するだろうし、そうでなければ関わりは持たないだろうし」

「......分かりました。判断は、ボスに任せた方がいいですね。......ただ、あまりひどい仕打ちはやめてほしいです」

「......ほう」「ミュールさん?」

「冥界に現世の人間がおおよそ2日以上滞在すれば死亡扱いになりますし、セントコバルトが滞在する期間は確実に2日以上になります。でも、まだこんなに小さい魂が旅立つのは、どうかって思うんです。一人間に対する、思いですけど」

「......そうか」


 ボスはミュールの肩を、ポンポン、と叩いた。


「気持ちはよく分かった。最善を、尽くさせてもらう」

「本当ですか!?」

「ああ、だが、それは罪状が軽かったり、なければの話だ」

「分かっています」

「では、一刻も早く四冥神会議の開催要請をしたいのでね。短い間だったが、先に帰らせてもらうよ」

「はい。お願いします」


 ボスは重たそうなかばんを引きながら、セントコバルトを連れて行った。

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