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現世【うつしよ】の鎮魂歌  作者: 奈良ひさぎ
Chapter8.Ketterasereiburg 編(混沌)

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88/233

#80 ―――暗転

「待てっっっ............!!!!」

「............!?!?」


 それはその場に、一瞬の間を生んだ。普通なら攻撃と攻撃の間のどこにでも存在しそうな、特に長くもない、不利にもならない時間だ。その間にウラナは振り向いて、気がつけば声が出ていた。


「シェド............!?!?」

「やめろ、目を覚ませよ......!殺すとか、死ぬことが目的じゃねーだろ!!」

「............」

「そんなのは大昔の人間の戦争に任せとけ!今お前がやんなきゃなんねーのは、そんなことじゃねーはず......」

「うるさい!!」

「......!?」

「ええそうよ確かに殺すことが目的なんて醜いわね醜さの極みよね!?だけどあたしは今そんなこと問題にしてないのよ!!あたしは今この男が殺せればそれでいい!!この戦争はやるべきじゃなかった!!結局”西の国”の暴走止めるとかなんとか言って、堂々と街ぶっ壊してんのはこっちよ、それも分かってる!だけどもう終わり!!この男を殺せば全てが終わるってことぐらいあんたも分かってんでしょうが!?だったらおとなしくそこで指くわえて、黙って見てなさい!!」

「......それでいいのかよ」

「はあっ!?」

「それで殺し散々やって、向こうに帰って、それが堂々と周りに言えんのかよ!!人殺しは戦争に勝ったから英雄です、って現世の人間殺したこと、レイナに言えんのかよ!?」

「............!?」


 レイナが出てくるとは思わなかった。そこまで考えてはいなかった。シェドがそこまで考えていったのかどうかは分からないが、その言葉はウラナの心の中で響き、言葉を発せなくなった。それでも頭にすぐ思い浮かんだことをウラナは即座に口にして、反撃する。


「......だから何!?レイナがどうしたってのよ!!あたしが今ここで何しようがあたしの勝手、レイナは関係ないでしょうが!!それで説得できると思ったら、......」



ごぽ、......ごぽぽっ。



 水がそこにある時にするような音だ。水のないところでそんな音がした。それが自分から出ている音だと気づくまでに一瞬かかった。


「ウラ、......ナ......?」

「あ、......が」


 血だ。

 血だ、血が、出ていた。

 口端から、腹部から、赤黒いのが、流れていた。



「隙が多すぎるよ、君は」


 グラーツだ。

 すぐそこまで迫っていた。一瞬の隙は、あまりに長すぎた。グラーツが能力を使って檻から抜け出し、反撃する時間は十分にあったということだ。そして無数の短剣で、腹部を貫かれていた。自分がその傷を負ったということに気づくまでにも、また時間がかかった。彼女が地面に倒れて、地面が間近に見えて、初めてそのことを悟った。


「詰めが甘いお嬢ちゃん、か。君は十分強いから仲間に入れたいとやはり思っていたが、やめだ。そこまで隙が多いようでは、使い物にならない」



「ウラナっっっ............!!!!」



 動かなかった。

 ただ目を見開いて、地面の方を虚ろに見つめる、人形になり果てていた。腹部から、口から血を流し、殺害されて絶命する、一人の人間だった。そこに人間らしさにおいて、何ら変わったことはなかった。



「次は君の番だ。どうやら邪魔が予想以上に入っているようだが、この女がこれほどの隙を見せるようならば、そこの君とて大したことはないだろう」



 矛先がシェドに向いた。


「て、め」

「ほう?何を......」

「てんめえええええええっっっっっっ!!!!!!!!」


 シェドの理性など吹っ飛んでいた。何が起きたか、おそらくまだ彼の脳は理解していない。理解する前にことが起こりすぎている。だから本能で、目の前の男を反撃対象として認識して、即座に銃を生成して、襲いかかる。



がぐん。

ドスンッ......


 その目の前に、障害物が現れた。それは赤く、一種不気味に光る、刀だった。


「なっ......!?」


 それはひとりでに跳ね上がったのではなく、持たれて動いていた。そしてまっすぐ、シェドを狙おうとしていた男の腹に突き刺さった。


「あ、が、」


「クッヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」



 動いた。

 それを受ければまず生きているはずのない傷を受けたウラナが何事もなかったかのように立ち上がり、そして、笑った。


「ウラナ......?」


「ヒ、ヒヒヒ」


 口は裂けんばかりに開き、満面の笑みを浮かべていた。


「な、ぜ......どういう、」


「ヒヒヒ」


 刀を抜いた。支えを失ったようにまっすぐ、グラーツが地面に倒れ込んだ、次の瞬間には、


「ヒヒヒ、ヒヒヒ、ヒヒヒ」


 一直線にガーネットを振り下ろし、グラーツの腹に刺して抜き、また刺しては抜き、ぼたり、ぼたり、と血を流したウラナが、


「ギヒヒ、ヒヒ、グヒヒ、ヒヒ、ヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」


 刺して、抜いて、刺して、抜いて、刺して、抜いて、


「がっ、ぐ、あ、が、」


 やがてグラーツが失血死して、息をしなくなり、抵抗しなくなっても、


「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」


 刺して、抜いて、刺して、抜いて、貫いて、持ち上げてみせた。


「フフ、ヒヒヒヒ」


 その冷たくなったであろう身体を自分の方へ引き寄せ、


じゅる、じゅる



 鷲掴みにして、首元に噛みついて、


じゅる、じゅる



 血を、啜っていた。


 顔も外套も、グラーツの血に塗れても、意に介する様子はなかった。



「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」



 啜りながら、笑っていた。シェドの脳は、追いつくことを許されていなかった。ウラナのその様子が視界には入っていても、それが何を示しているのか認識できなかった。ただ、それが恐怖の対象であることだけは分かった。


「あ、あ、あ......」



 そのウラナが、振り返った。振り返って、じっと、シェドを見た。ウラナの綺麗な赤い瞳はもう灰色に濁ったような、あるいは深い、暗い色になっていた。植物とは似ても似つかないが、緑色にも見えた。


「フフ、ヒヒヒ、......」

「......わ、ああ、あああ」


 グラーツの血を啜り終わったのか、その抜け殻を捨てて、じりじりとシェドのようににじり寄ってくる。シェドの足は、動こうとはしなかった。


「ダメだ、よなァ」

「............!?!?」

「これじゃァ、足しにも、なんねェ。失敗しちまったァ......死の瀬戸際にある奴の血が、一番美味ェってのによォ......」


 ウラナの口調とはまるで違った。別の人がウラナという身体を借りて、操っているような、そんな気さえした。


「殺してからの血はなァ、さほど美味くねェ、......活気がねェ、腹に溜まる感覚しか、しねェのよなァ」

「ウラナ、お前......?」

「今求めてンのは、そうじゃねェ。そうじゃねェ......!!!!」



 避ける余裕はなかった。ウラナのセリフを聞き終わったと思った瞬間には、ウラナがそこまで迫り、首元をがっしりと掴まれていた。息が出来ないほどの強烈な力で、首を絞めてくる。


「いやァ、いいねェ。死に際の表情の中でもそいつァ嫌いじゃねェぜ。ヒヒ、ヒヒヒ」



 そして、刃物のごとく鋭く伸びた歯がシェドの首筋に近づき、ゆっくり、首筋の肉をかき分け、突き刺さってゆく。男の液体が吸い取られ、奪い取られ、女の元に帰属していく。


 それなのに、女の身体の温かみだけが伝わった。その感覚は残ったまま、視界がかすんでいく。やがて女の姿さえ認識できなくなったその時、男の脳裏に、一言、言葉が、思い浮かんだ。












これが、死












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