#77 ずっと、一緒にいたい
Schneeholleで倉庫防衛戦が一段落し、サンテティエンヌ小隊とシェド、エニセイはKonigkissenまで戻ることとなった。飛行機を使いこの勢いで”西の国”に攻め込んでしまう強硬策も提案されたが、飛行機の操縦をできる者がいないこと(免許を持っていないという点で言えばミヒャエラもだ)と、いくらかいたとしてもまだ相手の兵力がどれくらい残っているか分からないところに数機で突っ込むのは危険だ、という理由で却下された。さすがのミヒャエラにもそこまでの腕の自信はなかったらしい。
「お前が来てくれて助かったぞっ、残念ながら酒はないが、料理なら振る舞えるからどうだ、少しだけ残っていかないか」
「マジで?俺そんなに何かした記憶ないけど」
「いやいや、お前がいなかったら困ってたぞ?あの倉庫が爆破されれば、この国はおろか周りのいくつかの国もまとめて焦土と化すほどの威力になるからな。それを防ぐ手助けをしてくれた功績は大きいぞっ。私がこうやって食事を作るぐらいでも、まだ釣り合わん」
「まあまあ、座れや座れや。できるまでちと時間はかかるだろうが、のんびりくつろいで待っといてくれ」
ミヒャエラの部下の一人がそう促し、シェドとエニセイを座らせた。ミヒャエラが鍋の前に立ち、男たちはいかつい顔つきに反してと言っていいのか、野菜の皮をむき切りとやっていた。
「よかったな、今日の担当が隊長さんで。愛の手料理だぜ」
「ちっ、ちがっ......!!!?」
「いっつもメシ作ってる時は楽しそうだが、こんなに楽しそうな隊長さんは初めて見たよな?」
「これは、違う、そ、そうだな......その、お近づきの、しるしというやつでだなっ、な、なにも好意を寄せているとかそんなことではなくてだなっ......」
「隊長さん、毎回思うけどウソ下手だよなあ」
「ウソじゃないっ!私は知ってるぞ、シェド、お前は妻帯者なんだろっ!?」
「へ?なんで知ってんの?」
「......これ、お前のだろ?」
ミヒャエラが軍服の懐を探り、シェドに渡した。それはレイナがシェドにあげたペンダントだった。中には一緒に写った写真が収まっている。
「これは......」
「その、お前の隣に写っている金髪のが、お前の奥さんなんだろ?」
「まだ結婚してないって発想にはならなかったのかよ」
「ただの彼女持ちによくある浮かれた様子がなかったからな」
「そんなところまで見抜いてるとか怖いな」
「ま、まあ、最初はお前の様子をずっとうかがっていたからな」
「ん?これ、いつ見つけた?」
「お前が私を助けてくれた時だ。懐から落っこちたのを見たからな」
「最初じゃん」
「別に興味があって見て、奥さんがいることを知ってガッカリしたりしてないぞっ!?拾ってごちゃごちゃしてたら開いて、知ってしまっただけだからなっ!?」
「ウソ下手だなー」
「うっ、ウソじゃないっ!!その、お前のような、正義感の強い男に憧れているのは認めるが、だな、その......」
「何だ?別に俺は正義のヒーローとかやってるつもりはねーんだけど」
「そういうこと言う奴が一番正義感にあふれているんだということを覚えてろ」
「......はあ」
「その......しょ、正直に、言っていいか?」
「おう、まあウソ言ってもすぐに分かるから一緒だけどな」
「うるさいっ!!......あ、あのだな、その......ダメだ。緊張して包丁で手を切りそうだ......食事の、後にするっ」
「そんなに?」
「昔レースゲームの世界大会に行った時の決勝戦並みに緊張しているぞ、私......」
「俺をゲームと同類にするな!!」
ミヒャエラたちが作ったのはカレーだった。何でも「海軍カレー」らしいのだが、残念ながらこのレンヌ小隊には海軍感は全くない。むしろ陸軍に近いくらいだ。全員分をよそい終わり(これがなかなかに時間のかかるものだったが)、全員席に着いたところで食べ始めた。
「おーすげーっ、野菜すごい入ってる!肉もうまそう!」
「ふんっ!ふんっ!」
「ん?」
「ふんふんっ!」
「どうした?トイレか?」
「違う!どうしてそうなるっ!......ふんっ!」
「ご飯の時は暴れるなよ。......お、うま!」
「ふんっ!ふんっ!」
「............分かった、褒めてほしいんだな」
「ふんふーん」
「子どもかよ」
ミヒャエラの好きな仕草は部下たちから聞いていた。手を伸ばし、わしわしっ、とシェドは彼女の頭をなでる。
「私の作った料理がまずくなるはずないんだ、思い知ったかっ!!」
本人はめちゃくちゃうれしそうな顔をしていた。
他にもシェドがご飯のおかわりをしようと立ち上がると「いい、いい」と止めてミヒャエラがよそいに行ってくれたり、自分も山盛りおかわりして「小さいからって少食とは限らないんだからなっ!」と得意げな顔をしてみたりと、まるで本当に子どもを相手しているかのようだった。
食事が終わって少しの間は自由時間としているのか、部下たちは自分たちのテントに戻る中、シェドとミヒャエラは食卓に残っていた。
「で?さっきの話の続きは?」
「ん?ああ、それか」
「張本人が忘れんなよ......」
「私はな、」
食い気味にミヒャエラが言った。
「これまで男に恋愛感情を持ったことがないんだ。リンツ中隊長に憧れて育ってきたから、ずっと今の仕事をしたいと思っていた。だけどお前も、この道に女がそういないことなんかすぐに分かるだろ?最近になって増えてきたのは確かだが、それでも珍しがられる。見回せば筋肉隆々の男だらけだ、私は数日もすれば飽きた。この男たちとそういう方面の付き合いをすることはまずないだろうな、と考えた。だからこそあいつらと固い信頼関係で結ばれた隊を作ることが出来た。......だけどお前を見て、何かが変わった。私が持ってなくて、どれだけ努力しても手に入らないものを、お前は元から持っているようだった。私がお前に憧れていると気づくまでに少し時間はかかったが、私がわざわざ目立たないところに隠して置いてきたものを、かき分けて探して持ってこられたような心持ちだった。......何だろうな、お前といると安心した。いないと、何かが欠けた感覚になるかもしれない。お前に奥さんがいると分かるまでは、一緒にいてほしいとさえ思った。今は違う。その奥さんがお前のことをずっと思ってたんだと、見てすぐに分かった。一瞬で諦めるしかないと悟った」
「......。」
会ってまだ間もないのに、そこまで思ってくれていたとは、とシェドも驚いた。
「だからな、......せめて、もうちょっと一緒に戦っていたかったと思ったまでだ。それだけだ」
「それだけ、じゃねーよ」
「......。」
「素直に友だち欲しい、って言えよ」
「なっ......!!」
「そういうことじゃないか?確かにお前にそこまで思われてたのにはびっくりしたけど、友だちは大歓迎だぞ」
「......ふふ」
「ん?」
「いや、愉快だなって、思っただけだ。お前ほどバカらしい結論を堂々と出してくる奴は見たことがない」
ミヒャエラが立ち上がり、シェドの前に立った。手を伸ばして、シェドの頭の上に乗せる。
「......よろしく頼むぞ、相棒」
もう出発は次の日の朝だと決まっていたので、その日もレンヌ小隊、サンテティエンヌ小隊とともにSchneeholleでテント泊となった。シェドが自分のために用意されたテントに向かおうとすると、見慣れた小柄な女性の姿があった。
「......何だ、お前か」
「何だって何だよ」
「......さっきのを、あまり深い意味にとるなよ」
「深い意味って?」
「そ、......その、あれだ、要はだな、お前にレンヌ小隊副隊長の任をだな......」
「ずいぶん重い意味だな」
「ん?そうでもないぞ?なにせリンツ中隊所属の小隊に副隊長は存在しないからな。架空の役職だ、よく言えば名誉職、悪く言えば閑職」
「......それって確か一緒の意味じゃなかったか」
「いいんだ、要はお前が、私の相棒であれば」
「相棒、な。でもお前は、現世の人間なんだろ?それじゃあ......」
「......もう一つ聞きたい」
「ん?」
「私は、死神と人間のハーフだ」
「え?」
「母親が死神なんだ。名を出してお前が分かるかどうかは分からないが、母親はあまり有名ではないと、自分で言っていた」
「父さんは普通の人間ってことか」
「そうだ。私はそういう経緯があって、生まれつき能力を持っても寿命が縮むことはないらしい。だけど、おば......リンツ中隊長は、普通の人間だ。”連携強化”を持っていると聞いた。そういうのは寿命が短くなると聞いた。......人間は、どれだけ長く生きても、100年ちょっとが限界だ。死神はだいたい1000年も生きるんだと、母親から聞いた。なら、私はどれだけ生きるのか、私は知りたい」
「お前が正直に言った分、俺も正直に言う。知らない」
「......じゃあ、言うなよ」
「ってか、そんな感じで何年生きるか決まってて、その決まったコースに沿って生きていくって、俺でも分かるぞ、すごく退屈だろうな、って」
「......。」
「俺はまだ237年しか生きてねーから、偉そうにあーだこーだって言えない気がするけど、そう思わないか?」
「......237年、か」
「そこか」
「237年でまだあーだこーだと言えないなら、まだ19年しか生きてない私は、まだまだだな」
「あ、忘れてた、確か冥界と時の流れが違うから、ここでの年数にしたらもうちょっと短くなるとは思うけど」
「いや、同じだ。私よりよほど長く生きていることに、変わりはない。......確かに、その質問に意味がないことは、分かるんだがな。だけど、自分がどうなるか分からないって、単純に不安じゃないか?」
「それは俺も一緒だ。死神でも人間でも、どうやらそこは変わらないみたいだぞ。俺だっていつどうなるかなんて分かったもんじゃないし、実際最後まで、どうなるか分からなかったやつも見てきたし」
「お前がそんな大変な経験をしてきたようには見えんがな」
「うるせーな」
「ははっ、まあいい。なんか、お前といると考え方がまるっきり変わってしまいそうだ。......明日は、もうお前とは会わないんだな」
「そうだっけ?」
「お前が朝一番に会うのはあの熱血男だ」
「もう聞いただけでめんどくさそうだな」
「覚悟しておけ、それなりに面倒だからなっ」
「......分かった、心の準備はしとく。おやすみ」
「おっ......!?お、おやすみ、なさい」
そう言った後は、互いに振り返ることなくそれぞれの寝床に戻った。
次の朝、2人は本当に会うことはなかった。
* * *
朝から腹の底から声を張り上げ、勢いのまま突き進んで、帰るサンテティエンヌ小隊。あたかも出陣のような気合の入れようである。その中に交じるシェドとエニセイは、適当に声を出していると小隊の部下に頭を叩かれるので、性には合わないとは思いながらも合わせて声を出していた。前日の戦闘のせいかそれともこの時のせいか、シェドとエニセイは帰ってくる頃には疲れ果てていた。
王宮に戻るとシャルロッテがまず出迎えた。
「わざわざお疲れ様だった、ゆっくり休んでくれ」
「あれ?他の人は?」
「霜晶君は奥にいるぞ。軍医小隊の面々も」
「......ウラナは?」
「それは......」
「いない?」
「メイリアと仲違いをして、そのまま姿を消してしまった」
「姿を消したって、」
「私にもウラナがどこに行ったのかは分からない。だが、この王宮の中にはいなかった」
「仲違いしてどっか行くって、何があったんだよ」
シェドとエニセイにも、ウラナがメイリアの孫であるアーリアを殺したこと、それから考え方が変貌してしまっていたことが知らされた。
「......その、”西の国”の最奥部じゃねーのか」
「私ももちろんその可能性は考えたが......」
「俺はそれしかあり得ねーと思うんだけど」
「だが体力の限界だぞ?監獄を吹き飛ばして体力が底をつきかけるなら、一つ都市を吹き飛ばして疲弊しないはずがない。しかも1日で回復できるとも思えない」
「確かに......でも無理をおして出たってことかもしれない」
シェドが王宮の外へ出ようとした。
「どこへ行く」
「決まってる。ウラナのとこだ」
「お前だけで行く気か?死にに行くようなものだぞ!」
「ウラナがずっと、被害を最小限に抑えようと、あとなるべく早く戦争を終わらせて、復興しやすくなるようにしてたのはみんな知ってんだろ?でも今のウラナはそうじゃない。メイリアとケンカ別れして出て行ったっていうなら、それは衝動的に行動してるだけなんじゃないか?それって自分の感情に任せて行動してるってことだから、街がどうなるとか考えてるとは思えない。だったら戦争がちょっと長引くことになるかもしれなくても、俺はウラナを止めなきゃいけないと思う」
「......。」
シェドの強い言葉に、シャルロッテが押し黙った。その間にシェドは王宮の外に出て、すぐに森の方へと消えてしまった。
「何かありましたか」
奥から霜晶が出てきた。シャルロッテがすぐさま答える。
「......出動だ」
「......と、言いますと?」
「シェド君がウラナの後を追って行ってしまった。再びこちらに兵が攻め込んでくるのも時間の問題だ。ひとまず境界まで移動して、そこで休むこととする」
シャルロッテの予定では数日ここにとどまることになっていたのだが、その予定は思わぬ形で崩れることになった。
次回更新は2月10日と、少し開きます。ご注意ください。




