#70 そんな無茶な
今年半年間お付き合いいただき、ありがとうございました!来年一発目の更新は#71 冥府革命集団-6 で、1月5日となります。来年もよろしくお願いいたします!
再び連れ回されるようにしてシェドが倉庫を出て、大きく回り込むと確かに飛んできていた。爆弾を抱えているとか、明らかに攻撃する気を出しているわけではないが、味方でないのは確かだった。
「あれ......自動操縦のわりにはまっすぐ飛んでるわけじゃないけど、ホントに撃っていいのか?中に人は?」
「大丈夫だ、ここに来てあえて操縦者を乗せるメリットはないだろ?犠牲を生めばその分、国力が減るのは間違いないからなっ。あちらも偵察機を全部撃ち落とされたのは分かっているだろうから、人が乗っているように思わせるハッタリでもかけているんだろうなっ!」
その間にもミヒャエラは腰に差していた短刀を引き抜き、小さく「”冷酷なる雪の精”(ブリザーデーション)!」と唱え、
「ううぅっりゃああぁぁっっ!!!!」
と叫んで一機に向かって投げた。軍服がめくれてちらっと白いお腹が見えても全く意に介する様子なく、手を腰に当てて空を眺めていた。
―――ガゴンッ!
少しして金属同士のぶつかり合う音がして、肉眼でもくっきり見えるほどぱっくり機体が半分に割れ、煙や炎も上げず落ちていった。
「今ので一発命中かよ......」
「小さいころやっていたシューティングゲームの感覚さえ思い出せば、あれぐらい余裕だなっ」
「ゲームで養った腕かよ!」
「いいか?役に立たないと周りに言われたことでも、案外どこかで役に立つものだぞ?」
「いや、言いたいことはすごくよく分かるんだけど、そこじゃなくて」
「ん?意にそぐわなかったか?」
「こう、ゲームが元ってところが......」
現代っ子らしい。
「なんだ、ゲームはしないのか?それともシューティングゲームは苦手か?」
「んー......残念ながらそうでもなくて」
「何だ面倒だな......そうだ、そういうお前の凄腕というやらを、見せてもらおうではないかっ!」
「だから上手いわけじゃねーからな?」
ちなみに冥界にも現世の文化としてゲームは入ってきている。だが現世に行かないと手に入らない。配達で宛先を冥界にすることなどできないので、どうしても現世視察中の死神が帰ってくる時のお土産として入ってくることがほとんどで、若い死神の中でもゲームを知らない子は意外と多い。シェドは特別な存在だが、現世でもあまりゲームを触った経験はない。
呑気な雑談はともかくとして、シェドは早速銃を生成し、照準を定めた。定めたところで、大事なことに気づいた。
「......あ、そういやこの銃弾、命中した後に火を噴くんだけど」
「それはマズい!早く言えっ!!」
慌ててミヒャエラがその銃をぎゅっと握り、火を噴かないようにした。
「行くぞ」
ドオオンッッッ!!
爆風を感じるほどの勢いだった。
シェドは飛行機の胴体を狙ったはずなのだが、狙いが外れて尾翼に命中した。それでも後ろを失った機体はバランスを崩し、墜落していった。
「いい感じだ、この調子でいくぞっ!」
そう言ってミヒャエラも部下と協力してバケツリレーをして倉庫から引っ張り出した刀をひたすら投げるのを始めた。バケツリレーも連携はとれているが次々やってくる飛行機の全てに対応しきれるほどの速度はなく、ミヒャエラが逃した機体に狙いを定め、シェドが撃っていく。
「大丈夫だとは思うが倉庫の方には墜とすなよっ!地下に眠っているとは言え、衝撃で起爆するのも考えられなくはないからなっ!」
「そんなのコントロールできるか⁉︎」
「何だ、そのっ、......感覚というのがお前にはないのか⁉︎」
「そんな感覚ねーよ‼︎もういい我流でいく!」
倉庫の刀は一向に尽きる様子がない。にわかには信じがたいが、全世界の人々を武装できるほどの数、というのは本当なのかもしれない。
そしてミヒャエラと部下たち(エニセイもこちらに入った)の連携と、シェドのフォローで何とか全機を撃退した。
「もう終わりか?他国の協力を仰いでも大したことないんだなっ!」
「とか言いながら結構息乱れてるけどな」
「うるさい!私のやっていたことを見ていたか?常人なら無理な所業だぞ?」
「分かってるけどなんか強がってる気がして」
「強がってなどいない!事実途切れたではないか!......まさかバカにしているな⁉︎そういうことだな⁉︎思えば先ほどのゲームのくだりもそうだがなっ、......」
「......来た」
「ふえっ⁉︎⁉︎」
「何だその声......ほらあれ!また来てるぞ!」
「確かにまたぞろぞろとっ......先ほどこそハッタリだったということかっ‼︎」
ミヒャエラたちのリレーはまだ解散していなかったので即刻ミヒャエラの手元に短刀が渡った。が、
「ちょっと待て......なんだ、あれ?」
シェドが少し違和感を感じてミヒャエラを制止したが間に合わず、ミヒャエラの短刀がまっすぐ先頭の機体ど真ん中目がけて飛んでいった。
直前までは完璧な軌道だった。だが生きている鳥のごとく、その当たる直前でひょい、と、身軽に刀をかわした。後続機も後を追って変則的な軌道をとった。
「かわしただと⁉︎」
「あれは偶然じゃないな。......見えてるようなよけ方だ」
「だが中に人が乗っているはずはないぞ⁉︎」
しかもよけただけではなかった。攻撃したミヒャエラをマークしたかのように一気に高度を落とし、ミヒャエラ目がけて突っ込んできた。
「危ない‼︎‼︎」
そのことをとっさに判断できたシェドが小柄なミヒャエラを抱え、できるだけ走って遠ざかったところで倒れ伏せた。
ほどなくミヒャエラのいた地面に機体が激突、爆発して煙を上げた。わずかだが爆風がシェドの背中にぶつかった。
「大丈夫か⁉︎」
シェドが慌てた様子でミヒャエラに声をかけた。
「......勇気があるな」
「は?」
「とっさの判断で私を抱えて、逃げることができるとは。部下のあいつらとはなかなかの信頼関係を築いているつもりだが、奴らは......お前と同じことが、できるだろうか?」
「あっちが飛行機の犠牲しかねーのに、こっちが人一人失うわけにはいかないだろ。俺にそれをしないっていう選択肢はなかった」
「......ありがとう」
「礼を言われるほどのことでも......顔、真っ赤だぞ」
「こっ......⁉︎こ、これはだな、その、何も照れているとか惚れているとか恥ずかしいとか、そんな情けない感情ではなくてだなっ、その......」
「それに、お前がそう思ってるだけかもしれないぞ。信頼関係が築けてるって思うなら、素直に信じてやればいいのにって、俺は思うんだけど」
「......。」
「ほら、早く対策考えねーと」
「......じょっ、上官に対しての、口のきき方に気をつけろっ」
「分かった分かった」
「......と、ともかく、改めてあちら側はあくまで人的犠牲を出すつもりはないと明らかになった。あの角度で地面に向かって突っ込める操縦技術を持つパイロットが”西の国”にいる可能性は、極めて低い」
小走りで戻る途中、ミヒャエラは言った。ちらっとシェドの方を見た。それは、死神ならば話は違う、という意味か。
「......いくら死神でも、あんなマネしようとは思わないと、思うけどな」
「そうか、確かに死神だから死なないことにはならないんだったな」
「そうだな。たぶん今ぶすっと刺されたら普通に死ぬし」
「人間の脆弱さを思い知るな、そうなると」
ミヒャエラは死神とのハーフであることで、よりそう感じているのかもしれない。
「......アレン・ザルツブルクという男が能力でこれらの飛行機を操っているのはほぼ間違いないだろうが、各機をあれほど複雑に、しかも同時に操るのは可能なのか?私は周りが普通の人間ばかりの環境で育ったから、その辺りの基準がよく分からないんだが」
「それは......人それぞれの体力による、かな」
「体力?そんなあいまいなものなのか?もっとアタックが極振りされているとか、具体的な数値として......」
「一回ゲームから抜け出さねーか?」
「......すまない」
「たぶん数値化されてるところもあれば、概念、みたいなあいまいの極みまで幅広いと思う。例えば俺の銃なんかは残り体力をそのままそっくり残り弾数に変換するから、すごく具体的になる。だけどウラナなんかはありあまる体力のやりくりを感覚でやってると思うし」
「で?こんな複雑な操作は結局可能なのか?」
「分からない。アレンだっけ?その男がどんな奴なのか知らねーし」
びゅんっ。
「......何だ今の音?」
「......上を見ろ、ミヒャエラ」
「......‼︎」
倉庫を乗っ取る目的で飛んできたはずの戦闘機が、ミヒャエラをマークし殺すために飛び回っていた。
「無理だっ、私には今刀がないっ......撃てっ‼︎」
「言われなくとも!」
向こうからわざわざ当てやすい的にしてくれている。すぐに銃を構え、ほぼ本能で撃った。それを目の端で見届けてミヒャエラがさらに走り、土手っ腹に穴の開いた機体との衝突をかわす。弾数の消費が比較的少ないうちに、もとの倉庫の前までたどり着いた。
「お前っ......覚悟はあるか⁉︎」
「か、覚悟?」
「よし十分だついてこいっ‼︎」
「ちょっと待て、まだ返事は......!」
そういう間にもミヒャエラは走っていく。ついていかなければならない気がしてシェドも後を追った。
* * *
ミヒャエラはそのまま倉庫の地下に入ってゆく。彼女は目的の場所が分かるからすいすい行くのだろうが、シェドはさっきの1度しか入っていない。一度戦争が始まる前にここには来たが、倉庫の中にまでは入っていないのだ。ミヒャエラの小柄な姿を薄暗い中見失わないようにするのは少し骨が折れた。
地下に続く長い下り階段を下りると、シャッターがぴしゃりと下ろされた部屋の前に来た。ここでようやくミヒャエラがシェドの存在を確認し、そしてためらいなくシャッターを押し上げた。
まず飛び込んだのは、何よりもまぶしい明かり。人が来れば自動的に明かりが灯る仕組みになっているらしい。しばらく視界が遮られた後、目の前に現れたのは、
「飛行機......?」
「そうだ、驚いただろう?」
「こんな地下にしまって、どうやって使うんだよ」
「まあ気にするな、乗るぞっ」
ミヒャエラの誘う声はむしろ楽しげだった。
ミヒャエラがまず先に運転席に乗り込む。もともと2人乗りのつくりのようで、自然とシェドが後ろに乗る形になった。
「なあ」
「ん?何だ?」
「いろいろ聞きたいことはあるけど、一番大事だと思うことを聞こうと思う。......免許、持ってるか?」
「何だ、そんなことか。当たり前だ」
「そうか、よかっ」
「持っていないぞ。私は空軍出身ではないからな」
「......すみません降りさせてください」
「無理だ無理だっ、もう......」
ブオンッ!......と機体が身震いし、煙が巻き起こった。シェドの声もミヒャエラの声もその音にかき消され、次の瞬間には勢いよく滑り出し、壁に突っ込んでいく。本能で目をつぶった。
だが次に目を開けた時、シェドの身体はがれきに挟まっているわけでもなく、また血が出ていることもなかった。それどころか、
「............⁉︎⁉︎」
高く、高く空を飛んでいた。敵機よりずっと高いところを飛び、見下ろして位置をじっくり把握している。窓の外から困惑し軌道を決めあぐねているたくさんの戦闘機が見えた。
「ちゃんと、飛んでる?落ちないだと?」
「当たり前だ、私のゲーム歴をなめるな?常に360度見渡しながら敵機を殲滅する私のステータスに敵うと思うなよ?」
「またゲームかよ......」
「バカにしたな⁉︎今のははっきり分かったぞ、貴様ゲームの感覚の信用度を侮っていると見た、ならばっ......」
「わっ、ちょっと待っ......‼︎‼︎⁉︎」
ミヒャエラが操縦桿を思いっきり傾けた。とたんシェドの身体に尋常ではない重力負荷がかかる。口を開く余裕もない。一方のミヒャエラは特に変わった様子を見せず、高度を上げたり下げたり、一回転してみたりしている。さらに同時に機銃掃射で無駄な弾なく正確に敵機を撃ち落としてゆく。さきほどシェドが尾翼に当てて墜としたような、そんな生ぬるいものではなく、コックピットに撃ち込んで自動制御不能に陥らせ、エンジンに大穴を開けて爆弾をねじ込み、飛行機の形をした大爆弾に変えるというのを淡々とこなし、繰り返す。もはや地面に墜ちることも許されず、空中爆発、分解して燃え尽きて塵となっていく。
警戒したのかいったん残りが遠ざかったのを見て、再びミヒャエラがシェドに話しかける。
「......どうだ?これでも認めないか?」
「うぐ......」
シェドに答える余裕はなかった。普段から飛べるウラナならまだしも、銃を扱う以外特別なことのないシェドにいきなり適応しろというのは無理があった。
シェドが認めない、と答えることはいっさい考えていない。そんな調子でミヒャエラが続けた。
「そういえば銃は持っているか?」
「あ、ああ......」
何か楯突くとろくなことにならないと嫌というほど分かったので、自分の銃を差し出した。
「実はこの戦闘機はな、もっとすごい機能があるんだっ。この銃をスコープホルダーにセットしてだな......」
がちゃん、と音がしてシェドの銃が運転席にある穴に吸い込まれた。
「いくぞ」
ズドンッ!
ズドドドドッッ......‼︎‼︎
普段は一発ずつ撃って絶大な威力を発揮する”炎”の一族の銃弾が、何発も連続で撃たれた。命中した機だけでなく、人の時と同じように周りの機にも炎が伝染し、外側が融けて原型をとどめていないもの、炎がエンジンに引火し機体そのものが爆弾となって散り散りになるもの、それはおそらく地上から見上げれば花火のようだろうと容易に想像できた。またしても地上にかけらさえたどりつくものはなく、無人の”西の国”爆撃隊はみるみる壊滅してゆく。
「人員削減といってケチるからそうなるんだ、我らがレンヌ小隊の実力を思い知ったか」
ここまで来てようやく事の重大さが分かったのか、辛うじてミヒャエラの猛攻を逃れた数機がちょろちょろと逃げ回っていた。もはや当初の目的、爆撃と倉庫乗っ取りの初めの一歩も踏み出せず、本当にただ墜とされないためだけに逃げ回るネズミだった。
「あれは調査用に残そうか」
ミヒャエラがそう言って、それまで確実に土手っ腹に銃弾を撃ち込んでいたのを、敢えて少し照準を外して尾翼に撃った。風向きや速度などを感覚で感じ取りそれを計算に入れて放たれた弾は当然狙い通り尾翼を貫通し、バランスを崩して墜ちていった。
「お疲れ様、だな。地上に戻るぞっ」
「............。」
あまりに一瞬すぎるその展開に、シェドは何も言えず外の変化を見ることしかできないでいた。
* * *
「......なるほど、な」
地上に戻った後ミヒャエラは早速墜ちた飛行機の中で形の残っているものがあるところへ走ってゆき、調査をはじめた。これもシェドはついて行かざるを得なかった。
「なるほど、って?」
「これを見ろ、いかにも精密そうなカメラだ」
墜ちた衝撃で、コックピットにあったものが飛び出していた。
「これでどの位置に敵とか目的のやつがいるか、見てたってことか?」
「まあそうと見て間違いないだろう。やはり他国の協力を仰いでいたか」
もっとも、そんな手をもってしても私には敵わないということだっ!......とミヒャエラが高らかに言い、悪役のような笑い方をした。
「いいかアレン・ザルツブルクよ。貴様ほどの能力適正者は初めて見たが、それでも我々には届いていないぞ?私たちを潰す気なら、もっと上手い能力の使い方をすることだなっ!」
カメラに向かってばっちり挑発までして、ミヒャエラはその場を去った。
「......よくやってくれた、レンヌ殿。空はそちらが全て対応してもらったおかげで、我々の隊が存分に陸上戦に集中できた」
「陸上でも来ていたのか?犠牲は?」
「そんな愚かな質問を今更するか?サンテティエンヌ小隊がどれほど犠牲を出さないことで有名かご存知ないのか?」
「......まさかとは思うが、逃げたりはしていないだろうな?」
「逃げるだとお?そのような生意気なことを言うレンヌ殿には、制裁を......」
「あっ、ちょっと待てっ、あわっ、あわわっ」
ごしごしと音が鳴りそうな勢いでダニエル・サンテティエンヌがミヒャエラの頭を撫でた。その手を一生懸命のけようとするミヒャエラ。
何とかやめさせてため息をついてから、
「......全く、そちらの暑苦しさが私に伝染ったらどうしてくれるんだ」
「はっはっはっ、暑苦しいのもいいことがあるぞ、我々の迫力で敵はまず恐れおののくことから始まるからなあ!」
ミヒャエラがゲームの腕を存分に活かし圧倒的有利に空中戦を進めていた頃、サンテティエンヌ小隊は大量の戦闘機に紛れてやって来たゲリラ兵に全身全霊で当たり、これまた快勝していたのだった。
アレン・ザルツブルクが倒れたり、あるいは捕まった訳ではないが、ひとまず落ち着いたと判断され、幾日か後にシェドたちとサンテティエンヌ小隊はKonigkissenへと舞い戻った。
いったんKetterasereiburgサイドは終了です。次からまたレイナ・ミュールサイドになります。




