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現世【うつしよ】の鎮魂歌  作者: 奈良ひさぎ
Chapter8.Ketterasereiburg 編(混沌)

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#67 ”stronger imitation”

 様子をうかがっているのか、シャルロッテが決めた1週間の間に”西の国”側が攻めてくることはなかった。他国からの応援の小隊で早く到着したものは準備ができた時点でKonigknieとLerbdesrindenの境界に配置され、見張りに当たった。



「準備が出来次第、ウラナは出動してもらって構わない。この分でいけばウラナが攻め込んだタイミングで向こうの兵士も攻めてくるだろうから、地上の分は我々に任せてくれ」

「オッケー、悪いけど後ろばっか見てる暇はないから流れ弾なりなんなりが飛んでくるかもしれないけど、気をつけなさいよ」



 ウラナは思い切り飛び上がり、”西の国”の東側2都市を、空から眺めた。


「(電気柵は壊すか否か......)」


 そう考えつつ、その電気柵の上に降り立った。

 そのとたん、であった。



”......見えるか。お前が降り立った瞬間に、兵が出てきた”

「そうみたいね。あれはたぶんあたしの担当じゃないでしょうけど、確かにタイミング的には」



 ほどなくしてサイレンの音が鳴り響き、ウラナのいる真下にも兵がぞろぞろと集まり、銃を構えだした。



「あれは、あたしに対する歓迎ってことで、いいのかしら」

”お前がそう思うのであれば、相違ない”

「じゃあ歓迎にはちゃんと応えてあげないとね。......行くわよ」

”了解した”


「『(ダル)』‼︎」


 ガーネットの見た目が変わるわけではない。しかしこの『鈍』でガーネットは、鋭い刃からいわゆるなまくらとなった。刀で斬り伏せておきながら実際は殴られるのと同等、致命傷にはならないようにするものだ。


「死に急いでるとこ悪いけど......骨2、3本折るのでとどめさせてもらうわ」


 そうつぶやき、その兵士たちの中に向かってウラナは飛び降りた。何の迷いもなく飛び降りたことに対し兵士たちに若干の動揺が広がるが、大抵の者はためらいなく銃弾を発射した。


「あんたたちに『囲』を使ってる余裕はないっ......『(アトモスフィア)』ーーー其は、生物の根幹‼︎」


 彼らに向かい強烈な酸素の風を送り込んだ。瞬間的にそこに暴風が生まれ、あっけなく兵士たちは吹き飛ばされる。空いた地面にウラナが着地し、次の手に出る。

 まずあまり怯むことなくとどまった、一番近くにいた兵士を瞬間で斬り伏せる。ただ強烈な打撃により気絶しただけだと悟られないうちに手に持つ銃を弾き飛ばし、一部受け止めて懐にしまい、また斬り伏せ、銃を上に向けて撃って威嚇し、近付こうとした兵士を退がらせ、また斬り伏せる。


「そろそろ『チョロい』って気づいたかしら⁉︎」


 一通りそのルーティンを終えるとウラナは再び飛び上がった。


「『(コグニション)』」


 それは単なる物体に自我を与える。ウラナは自らの羽織る外套に、自我を与えた。ただし以前シャルロッテが使ったのと同じ、不十分なもののままだ。半分以上の確率で自我を持った外套は銃弾を跳ね返すが、逆に言えばもう半分は元と同じく受け止めるか、あるいは貫通してしまう。

 そのことを気にしつつ、ウラナはいったんの目的地、新王宮に向かって飛ぶ。


”......おそらく体力消費の大きい『囲』を意図的に避けているんだろうが、それで怪我をすれば元も子もないぞ”

「分かってる。ヤバい時は使うようにする」


 この都市の長であるアーリアが出て来なければ、ウラナの本当の仕事は始まらない。だからあえて地上から肉眼でも見えるところを飛び、以前ウラナが開けた穴から新王宮に入った。


「(......誰もいない)」


 ここにいた時は自分とレイナ、シャルロッテ、それからお付きのお手伝いさんが何人かこの新王宮にいた。女王がいなくなってしまった今、もうお手伝いさんを置いておく必要もないということか。


「......シャルロッテが壊したところもそのままね」

”この壊し方は、能力か?”


 たぶんガーネットが人なら疑問を浮かべた顔をしていただろう声で、ガーネットがしゃべった。


「あ、そっか、あんたには言ってなかったわね。シャルロッテも”連携強化”持ちだったのよ」

”だった?”

「あたしが能力補助器壊したら、能力も失っちゃったみたいで」

”なるほどな、まあ不自然ではない。相当な弱変化タイプだと考えれば説明はつく。......簡単に説明を聞くか?”

「ええ、お願い。ただし急な事態の変化にあたしが対応できるくらいにはしてね」


”分かっている。......”連携強化”は異界干渉系唯一の能力、冥界でも禁止された能力というのは、常識だな。使用者はいかなる適合度でも、能力補助器を必要とする。その補助器を失った時の変化によって、分類がなされる。能力そのものを失ったり、直接危害を与える性質を持たないものは弱変化型。失っても失う前と同程度、あるいは前より強力になるのが強変化型、両者の中間が中変化型だ”


「......となると、あのグラーツって男はなかなか手強そうね。かなり”連携強化”を使いこなしてる感じだったし」

”現世の人間ながらそのレベルに達することは不可能に近いんだがな。まあ......”

「......『囲』」


 急にウラナが少し低い声でそう唱え自身を囲んだことでガーネットの言葉は途切れた。


”どうした”

「外よ。あの穴から見えた。この新王宮全体に、『囲』が使われてる」

”お前がやったんじゃないのか”

「誰がそんな自虐行為進んでやるもんですか。うっかり破壊でもすりゃ立派な自殺じゃない」


 ウラナの見たものは果たして正しかった。爆発の前はほんの少し不気味な静寂が訪れるとウラナは感じるが、それがあった。そしてほどなくしてウラナの周囲は爆風が巻き起こり、がれきとともにウラナを囲んだ結界が落下、さらに辺りが炎に包まれる。


''このまま燃やされるつもりか?”

「んなわけないでしょうが!『気』ーーー其は、植物固有活動の糧‼︎」


 植物固有活動の糧、すなわち、光合成のもと、二酸化炭素。それを自身の結界の外で発生させ、突風を起こす。助けのなくなった炎は勢いを失い、やがて消えてゆく。視界が開け、ウラナは結界を解いた。


 そこに、彼女はいた。

 白衣は着ていない。軍服の一番上を羽織った形で、着崩していると言えた。

 片手には刀を構えている。真っ赤でこそないものの、禍々しい様子は、ウラナにはすぐにうかがえた。

 そして、爆発の中怪我をすることなく出てきたウラナに特に驚く様子も見せず、彼女は口を開いた。


「はじめまして。もう聞いているかもしれないわね。私はアーリア・ストラスブール、西部Ketterasereiburg首相、近衛軍司令長。再び囚われに来たということで、間違いない?」


「そう思うならご勝手に。あたしの目的はあいにく違うわ。......あんたたちのその腐った性根を叩き潰すためよ」


「なるほど、あくまで生意気ね。そっちと同じ能力が使えるのを知ってるなら、少しは考え直してみるのもいいんじゃないかしらね?」


「......あんたと呑気におしゃべりしてる暇もないのよ、こっちには。悪いけど大人しく消し飛んでもらうわよ」


「どの口が。......〈囲〉」


 ウラナの使うのと全く同じだった。瞬時にウラナが結界で囲まれる。質感まで自分のものと見分けがつかない。

 だがそこまで同じであれば、短所も手に取るように分かるというものだ。


「ただ囲んでるだけが能じゃないわよ!」


 すぐさまガーネットを振って結界を壊す。同じ能力がゆえにガーネットでも対応できるのだ。


「〈(サーキット)〉」


 自分を中心として広がる円形の刃。これも撃ち出される高さを知っているがゆえに飛べば対応できる。


「生意気ですばしっこいなんて、なかなかイライラさせてくれるじゃない」

「まあね。あたしがニセモノに翻弄される時代はもうとっくの数百年前に終わってるから」

「また大口叩いて。後で泣き言喚いても知らないわよ?ほーら、〈(ルイン)〉‼︎」


 『囲』を伴わない『破』はウラナも出さない手である。爆発範囲を示していないため刀の周りにあるどこかがランダムに爆発し、非常に危険なのだ。最悪自爆もあり得る。それをアーリアはためらいもなく使った。


「これはっ......」

”『囲』だ!”

「分かってる!」


 ここでようやく使った。自分を囲み、不規則な攻撃を防ぐ。

 その攻撃が止むか止まないかという頃合いを見計らって即解除。


「先制攻撃タイムは終わり?そんだけやったんなら死んでも、文句は言わないことね‼︎」


 飛びかかってアーリアの顔面向かい斬りかかる。アーリアは気付くはずもないが『鈍』による鋭利さの消滅効果は続いている。つまり正確には「殴りかかる」方が正しい。

 貫く光線のごとくまっすぐ向かって来たウラナのガーネットを、寸前で受け止める。単純な刀の腕でもウラナは過失的な隙を見せない。まして並の人間に毛が生えた程度では体力差で劣りはしない。押し返し、アーリアの刀を弾き返した。その勢いで数歩アーリアが後ずさりし、その隙を狙ってウラナが斬りかかる。


「〈破〉‼︎」


 苦し紛れの策だ。タネの割れた方法を敢えてもう1度用いている。勘づいたウラナがすぐに下がった。


「......”現実と歪みの境界線”(ディストピア・ディストーション)」

「(能力を変えた......⁉︎)」


 アーリアがコピー能力でもない、ウラナのものでもない能力の名前を唱えた。


「驚いたでしょう。別にコピーできるのが1つとは限らないのよ?この能力はね......例えば、こういうことが、できるのよ‼︎」


 ほんの一瞬、アーリアの前に閃光が走った。不意の眩しさにウラナが目をつぶり、開いた。

 そこに、それまでいなかった人たちがいた。その数、13人。


「さて、問題です。この人たちは私の”現実と歪みの境界線”という能力によってランダムに選ばれて、この国にワープしてきた、”東の国”のかわいそうな一般人です。彼らも突然、一緒にいた人の前から姿を消し、驚きを隠しきれていません。戦場のど真ん中に来てしまったモルモットたちは、これからいったいどうなってしまうでしょうか?」


「『囲』」


 その目的が分からないはずがない。まずウラナはその13人を結界で囲んだ。もちろんその結界にも驚いている。


「あら、分かってるじゃない、さすが。でもこれだけは覚えておきましょうね。......その結界は、私も壊せるということを」


「ふっ......ざけんなあああぁぁぁっっっ‼︎‼︎」


 ウラナが大声で叫びアーリアに迫る。


 アーリアの次の一手もほぼ同時であった。


「〈円〉」


 13人はアーリアを中心とした円周上に並べられていた。そこにアーリアが円形に刃を出す機能を使えば、どうなるか。そしてウラナの剣速がコンマ何秒の差で追いつかなければ、そこに広がる光景は何か。


「実験協力、感謝しますね」



 ウラナが受け止め弾き返したアーリアの刀の軌道は、すでにウラナの張った結界を壊し、中の人を貫き、それでも衰えずやって来たものだった。


 煙が晴れ、アーリアの姿が再び見えた時、ウラナはその現実を見た。


「......あら、どうしたの、そんなに哀れな顔をして?どうやら戦争に疎いようだから、この際言っておきましょうね。......戦争は、総力戦よ。民間人の犠牲なくして、戦争に決着がつけられると思ううちは、まだまだ甘いのよね」



「......ねえ」

「はい?」

「あんたは、そのおびただしい血を見て、どう思う?」

「血、とか言われてもねえ。戦争をいくつもやってたら、幾度となく見るものだし、特に感情は」

「......じゃあ、あんたが死んでも、大丈夫よね。知ってる?前漢建国の英雄劉邦に負けた項羽の遺体は、ほとんど残らなかったそうよ。右腕やら何やら、兵士に漁られてね。独特だと思わない?......すごいと、思わない?」



 アーリアがその時辛うじて感じ取ったのは、殺気だった。これまで経験してきた戦場で見たものとは比べものにならないほど、暗さにまみれた殺気。それ以外は全て押さえ込まれていた。

 その突然の変貌とあまりの異常性に、自分のしたことを忘れ、身体が金縛りにあい動けないでいたことを、アーリアは理解していなかった。

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