#65 ”NIGHTMARE”
夢とは、その日1日あったことを、脳が整理しようとして起きるものだという。
ただ彼女には、今目の前にあるものが夢か現実か分からなかった。相手がはっきりしていないのはもちろん、自らの判断力が弱っているようでもあった。
今、彼女の目の前には、長い髪に、奇妙な面をかぶった人が立っていた。その身なりから、その人が人間ではなく、死神なのだということは分かった。しかしその程度のことが分かった所で、何も解決はしない。
その人は面をこちらに向け、自分に近づいてくる。自分のことをくまなく観察しているようであった。
ふと何を思ったか、その人が面をとった。しかし面をとってもなお、その下には面があった。そして自分の顔に、その面をつけようとした。
「(やめて......!!!?)」
声が出なかった。口がパクパクと開く感触はあるのに、喉がついてこない。その面を受け取ってしまえば、何か失ってはならないものを失う気がした。それが何かは分からない。分からないが、失うことが恐れられることなのだということは、分かっていた。抵抗できない。そして目と鼻の先まで面が迫ったとき、光が差すようにして周囲の様子が変わった。
次に彼女が見たのは、白い壁だった。そして彼女は、仰向きに寝ていた。ピッ、ピッ......と、無機質な音が響いていた。
彼女の口には、何か覆うものがあてがわれていた。シューッ......と音がし、口元へ風が送られている。それを吸うと心なしか周りが明るくなった気がした。
「こんにちは」
彼女に向かって語りかけているのだろう声がした。その声を発した人物を探そうとするが、首が思うように動かなかった。動かせるのは目線だけだった。
するとその視界に、すごく心配そうな顔をした女が飛び込んできた。驚きはしない。彼女が驚いてしまうことのないようにか、ゆっくり顔を出してくれた。
「こん......にち、は?」
彼女はようやく、そう口にした。するとその女はにっこりと笑いかけた。それは彼女を少しばかり安心させた。
その女はすぐに、彼女の寝ている隣にある椅子に座ったようだった。
「......落ち着いて、ゆっくり、思い出しながら話してね。......いいかしら」
こくり。
とうなずこうとしたが、できなかった。困った彼女は、点滴の刺さっていない左手を、ぴくり、と動かした。
「それは、はい、ということ?」
ぴくり。
「それじゃあ、いいえはどうしましょう」
ぴく、ぴくり。
「分かったわ、2回動かせば、いいえということにしましょう」
ぴくり。
「まずはじめに、あなたの名前は?」
名前。そんなものは考える必要もなく、口をついて出るはずのものだ。しかし彼女に、すぐに思い浮かぶものはなかった。自分も含めて多くの人が、名前を持っているものだとは知っているのに。
しばらくした後、ぴく、ぴくりと手を動かす。
「......そう。もしかしたらいけないのかもしれないけど、教えてもいいかしら」
ぴくり。
「グロリア・フローリエ・レインシュタイン。それが、あなたの名前よ」
それは彼女にとって、頭の隅で聞き覚えのあるようなものではあった。だがそれは自分の名前である、ということを知らされても、違和感が残った。
「......次に、いくわね。今ここがどこか、分かるかしら」
ぴくり。
手を動かし、「病......院」と言えた。それは、分かった。
「じゃあなぜ、あなたがここにいるのかは?」
ぴく、ぴくり。
「......あなたは、大ケガをしたの。それこそ、生死の瀬戸際に陥るようなね。今そうやって答えられているのも、あなたと、あなたの手術をした医者の人が頑張ったから」
ぴくり。同意の返事を送る。
「あなたは大人、それとも子ども?」
「......大人?」
「ええ、そうよ。ここではあなたはもう、大人になっているわ」
ぴくり。
「あなたは今、働いている?」
ぴくり。
「結婚は?」
ぴくり......?
少し手が迷ったが、同意するほどの自信は何とかあった。
「子どもが何人いるかは、覚えてる?」
「............1人」
「......分かった。ひとまず、質問はこれで終わり。少し急用を思い出したから、席を外させてもらうわね」
ぴくり。
彼女が同意の返事を送ると、その女はまたにっこりと笑い、病室を去っていった。
彼女の周囲は、再び白い壁と無機質な音たちだけになった。
* * *
静かに病室を出た女―――エリザベスが次に向かったのは、階下にある院長室である。グロリアの病室は、最上階の病室のうちの一つだ。
実はエリザベスはある仕事を任され、この院長室とグロリアの病室とを往復していた。
丁寧にノックをし、中に入る。別の患者の診察結果を眺めている途中だった。
「おお、エリザベス君か。ご苦労様だった。......質問の方は、どうだった」
エリザベスがその内容を伝え、そして最後に付け加えた。
「私の考えでは......グロリアは、直近の230年の記憶を失っているのだと、思います。つまり、あと2人―――レイナちゃんと、ロルくんのいない世界」
院長はうなずいた。
「そうだろうね......最後の質問に対する答えが、決定的だね。子どもが一人、すなわちフェルマーのみ......彼が例の集団のリーダーであることをグロリア君が認識しているかどうかは、まだ不透明だがね」
「自分の名前も、思い出せていませんでした」
「だがむしろ、記憶喪失の度合いが軽い方だと言えるかもしれない。あれだけ精神的に応えていただろう傷を受けて、頭にも深い傷を受けているんだ、全ての記憶を失っていても、おかしくはなかった」
「......そうですか」
「......ひとまず、経過観察だ。確かに彼女がどこまで覚えているのか、知ることも大切だが、何より全身に傷を負っている。そちらを治すのを、まず優先すべきだ」
そう言うと院長はエリザベスから受け取った質問票を棚にしまい、また別の患者のカルテを眺めるのに戻った。それを合図に、エリザベスも院長室を出た。
そのままエリザベスは病院を出た。まだリハビリ段階であるエミーの代わりをこなすエリザベスには、まだまだ仕事がある。通信機を取り出し、相手を呼び出す。ジグだ。
「どうした?」
「こっちは一段落ついたわ。そっちはどう?」
「どうもこうもねえ、てんやわんやだ。現場に着くまでの道のりさえめちゃくちゃ、おまけに現場に着けたのもさっきだ。ったく、何でこんなに不便なつくりなのかねえ。現場はかなりの高層階なんだが、階段はなくてエレベーターしかねえというもんだからエレベーターホールに向かってみれば全部が全部木っ端みじん、箱があった跡もなくなってやがる。しゃあねえから何とか飛べる死神を探して一人ずつ運んで、ようやく全員が上に上がってこれたところだ」
「エミーちゃんは?」
「あいつは警察省に残らせてる。まだケガ人だし、あんまりリハビリにはふさわしくねえシロモノだ。......まさかとは思うが、今からでも遅くないからあいつを現場に送れとか言わねえよな?」
「いえ、それはないわ。残らせたのはいい判断」
「こっちの増員は要らない。今の人数でも正直混乱してる、もうちっと落ち着いて、人が足りねえようだったらまた連絡する」
「分かったわ」
通信を切った。
グロリアが警察省の前で血だらけで倒れているのが発見されてほどなくして、また一件の通報が入った。いわく、「機密省がむちゃくちゃになっている」......と。
ひとまずグロリアを病院に運び情報を整理すると、前日の夜に侵入警報が省内に出されていたらしい。機密省の中のことは外に伝わるのが非常に遅い。その警報のため残業者のいる課が入口を閉鎖して一夜過ごしたらしく、まずは警察省所属の飛べる死神が総動員され、警報を解除してその人たちを救助した。さらに次の日にかけて捜査員が踏み込んでも安全かどうかの確認がされ、ようやく捜査が始まったのだ。
そのタイミングで何とかグロリアが意識を取り戻したため、いったんエリザベスはそちらに回った。本当は院長がエリザベスの役目をすればいいのだが、多かれ少なかれ記憶が飛んでいることは分かっていたので、むやみに不安を与えないようエリザベスに任された。
「ひとまず、エミーちゃんの様子を見ようかしら」
エリザベスはそうつぶやき、警察省の中に入った。入口から少し入ったところの売店で食べ物を買い、長官室の扉をノックする。
反応がなかった。
「......いないのかしら」
少し待っていると、エリザベスの後ろから人がやって来た。まだ省に入って間もない若手だった。
「エミーさん、っスか?」
「ええ、そうよ」
「エミーさんなら今刑事部にいるっスよ。もうすぐ退院祝いってことでロシアンおにぎりとロシアンパンやってるとこっス」
「......それをエミーちゃんは承諾したの?」
「めちゃくちゃ乗り気っスよ!むしろエミーさんが発案者っス!!」
「......仕事してる?」
「もちろんっスよ!昼休みの一興っス!!」
「......そう」
「あれ、もしかしてエリザベスさん怒ってるっスか?」
「......いいえ。別に昼休みの時間だから、構わないけど」
「......しゃべり方が怒ってるっスよ?」
刑事部のフロアに着いて中に入ると、途端にがやがやとうるさくなった。
一番目立つデスクに、エミーは座っていた。そして悶絶している。
「大丈夫!?」
......とエリザベスが声をかけようとするとエミーが顔を上げた。ほころびにほころびきっていた。
「最ッ......高ね!!このハバネロおにぎり入れたの誰?」
「お、俺です......」
「めちゃくちゃおいしいじゃない!病院食って刺激なくて退屈してたのよね!!」
「そ、そうですか......?」
後輩は困惑しきっていた。そりゃそうだ。そのおにぎりは普通ハズレなのだから。
「ちょっとエミーちゃん!どういうこと!?」
「あ、お疲れ様です。今せっかくなのでゲテモノおにぎりこしらえてもらってるんです。えー......右からからし、一味、七味、トウバンジャン、テンメンジャン、わさび、ホースラディッシュ、ハバネロ、......が入ったおにぎりです。ちなみに任された3件の報告書は全て終わらせたうえで、こちらに置いてあるので大丈夫です」
「......怒れなくなってきたわね」
「......怒ってました?」
「......ええ、まあ。ちょっと頭痛くなってきたから、副長官室で休んでおくわね」
「分かりました」
エミーが極端な辛い物好きだということを失念していた。エミーたちの様子を見てどっと疲れが襲ってきたので、エミーのために、と買ったはずの食べ物とともに、副長官室に入った。
* * *
「......攻撃反応が2つある」
「2つだと?」
「ああ。ここから少し上がったところと、ほぼ最上階に近いところだ」
「その被害の度合いは?」
「どちらとも言えない......どちらも、大量の死人と物損がある」
「だけどなあ......見たかお前、あの大穴を」
「ああ。優先は上の方か」
「そうだな。......おーい、決まった。よろしく頼む」
警察省は冥界での事故や事件を一手に請け負う。日本語では単なる警察省、だが、英語表記ではThe Ministry of Policement and Investigation と、がっつり捜査をすることをうたっている。
そのメンバーには能力を持たない者も多いが、逆に任務に特化したとも言えるような能力を持つ者もいる。エミーの”仮想拘束光線”(イマジナリー・レイ)は、まさにそうだ。犯人をとっ捕まえるのに抜群の適性を持つ。今ジグともう1人が会話を交わしていたのだが、その1人もそんな能力を持つ。
それはその場所で一定時間の範囲内で攻撃が起こったかどうか、そしてだいたいどのくらいの被害があるかを、実際に現場を見なくても近くまで来れば見積もれるものだ。名前はついていない。なぜならあくまで「攻撃されたのかどうかを判断できる」だけで、「これからどこにどれくらいの攻撃がされるのかが分かる」ような未来予知系の能力ではないからだ。
そんな彼が、2箇所に反応を感じ取ったが、結局上を優先させることになり、警察省のメンバーの中で飛べる者をフル動員して、全員現着した。時間はかなりかかった。
そしてすぐに、皆がその状況にあぜんとした。
「何だよ、これ......」
先日見た『死体』ほど視覚を疑うようなものではないが、あちらこちらに砂が散っていた。通路のど真ん中に大きな穴が開いており、そこから強く風が吹きつけていた。記録担当が現場の写真を撮り、鑑識が死砂を集め始める。死後すぐであれば、おおよそその砂が誰のものか特定できるようになっている。
「だけど砂集めて鑑識が調べたって、どこの所属の奴か分からないんじゃ、誰のなのか見当もつかねえんじゃねえのか?」
「確かに......そうですね。ですがこの場には我々以外、生きている人はいないようですし......」
「ジグさん!」
後輩の男がしばらくして、ジグを呼んだ。
「どうした」
「生存者を発見しました」
「は?」
「少し奥に資料室があったんです。カギがかかっていたのですが強行突破して、発見に至りました」
「おとぎ話の世界かよ、まったく......ケガは?」
「怪我はないようです。が、警戒しているようで口を開いてくれません。名前を含めて」
「......そうか。とりあえず病院まで運んでやろう。んでもって3班に分かれる。ここに残って捜査を続けるのと、病院に付き添いで行くのと、下の階の捜査だ。その1人以外に生存者がいねえようなら、俺は下の階の捜査に行く」
「了解」
* * *
「......こっちもこっちでひでえ有様だな」
砂は誰かがやったのか、同じような分量の砂の山があちこちにあった。だから一見してたくさんの死神がなくなったようには感じられなかったが、デスクや壁があちこち破壊され、やはりここでは何かあったのだ、ということを示していた。
「こっちの鑑識はどうする」
「やりましょう。これだけ固められていれば、かなり正確に区別できると思います」
~~~
一緒に来てくれるかと言うと、こくりとうなずいて自分で歩き始めた。
上の階唯一の生存者である女性―――子どもではないが、大人だとしても少し若すぎるかと見えた―――はしゃべることはなかったが、病院に行くという点においてはスムーズだった。
スムーズではなかったのはむしろ病院に着いてからだった。
「困るね、機密省であった事件の生存者だ、という理由だけでは最上階は許可できない。グロリア君はひどい怪我で一般病棟階に入院させるにはデメリットがあるから、特例で許可したようなものなんだ。まして彼女は目立った外傷がなくて、念のため。彼女が四冥神や十聖士であるなら話は別だがね」
…...と、院長直々に断られてしまったのだ。
さすがにあっさりそうですか、と引き下がるわけにはいかず、一般病棟の個室にするということで何とか許可が下りた。
* * *
何度もしつこいようだが、警察省は名称からしてばっちり「捜査・調査専門です」とうたっているので、事件が起きた、現場検証をした、その後が大変だったりする。現世の警察のように周辺の人に聞き込みをして有力な手掛かりを探すとか、現場近くの監視カメラの映像を分析するのはもちろん、冥界ならではの操作方法もとられる。機密省はその内部の極端な機密保持の目的から、監視カメラが乗っ取られ情報が漏れる可能性を考えて『敢えて』設置していないから監視カメラの分析は行われない。
そしてその「冥界ならでは」の捜査の1つが、死砂の分析である。状態や経過日数に大きく依存するものの、正確にその砂が誰のものかを明らかにできる。......のだが。
「......おかしいですね」
鑑識の男は首をかしげていた。ジグに相談し、来てもらっていた。
「1つも出ねえ、か......」
「何種類―――つまり、犠牲者が合わせて何人かは分析できたのですが......」
「時間が経ち過ぎてたのかもしれねえな」
「それなんですが、下の階と上の階、どちらもそれぞれの人数が特定できたんです」
「ってことは、それほど時間が開いてねえってことか」
「そういうことになりますね。......聞き込みの方は、どうなっているんですか」
「あくまでだいたいだが、あの上層階の大穴は夜に開いたらしい。大きな爆発音のような音を聞いた、という話がいくつも出たからな。......あの、グロリアだっけか、記憶喪失になっちまったからな......何か思い出してくれると、俺たちも助かるってもんなんだが。......分かった、ご苦労さん」
* * *
「......。」
口を開かない彼女を、警察省の男3人が囲んで、じっと様子をうかがっていた。さながら尋問、話したくても話せないのかもしれないと男を1人にしてみたのだが、しゃべらないのは変わらなかった。
「......おそらく精神的にかなり参っているんだろう。話せないのも不思議ではない」
「機密省の機密漏洩をおそれているのでは?」
「こんなときなのに、か?......いや、こんなときだからこそ、なのか」
「だとすれば、無意味に時間だけが過ぎます」
「どうするかな......」
「どうしたの、そんなに口への字に曲げて」
「......エミーさん?」「長官!」
警察省にいたエミーが病室にやって来た。いったん病室を出、事情が伝えられた。
「......なるほど。つまり、しゃべらせればいいのね」
「あの、凄惨な現場から発見された唯一の生存者です。尋問するのは......」
「大丈夫よ、そんなことは分かってる」
エミーが病室に入ると、その女性はエミーの方を向いた。
しばらく興味のなさそうな顔をしていたが、
「久しぶり」
エミーがそう声をかけたことが引き金となったか、少ししてぱっ、と明るい表情になった。
「元気にしてた?」
「......ええ!」
「......すみません、エミーさん。知り合い、ですか?」
「まあね。同級生よ」
「ということは、前主死神様のもとで?」
「ええ、名前は......」
「シーナ・バットゥータ」
自ら名前を名乗った。
「......改めて私は、クルーヴ・エミドラウン。警察省長官」
「......長官?」
「ええ、そうよ。分かりやすく言えばトップね」
「そんな、エミーが......」
「シーナ、よく聞いて」
まだ包帯の残る手で、エミーはシーナの手を握った。
「私たちの求めていることは分かるわよね?もちろんシーナが機密省所属で、外部の死神に言えることが限られているのは、よく知ってるわ。その上での頼みよ。現場の捜査員から報告を受けたわ。誰もかれも、ほぼ同じ時間に死んでる。15分から30分の差さえもない、圧倒的なものだったとね。......言い方は悪いかもしれないけど、今シーナがここで何も話さなければ、その人たちは報われず、このままこの事件も埋もれていかざるを得ないと、そう思ってほしいの」
「......!!」
シーナと呼ばれた彼女はエミーの言葉に、雷に打たれたようにはっとした表情を浮かべた。
「......第一級、機密漏洩」
「......それがこわい?」
「......過去何人もが、その違反で虐殺されたの」
「虐殺......」
さすがに警察省では聞き慣れない言葉に、エミーも反応した。
「......分かった。あなたがその第一級機密漏洩に引っかからないよう、むしろ警察省に対する協力として名誉となるように、保証する」
「どうやって」
「次の職場として警察省を用意してもいいわ。そうなれば機密省は警察省全体を敵に回すことになる」
「すみません長官、それは職権乱用では?そもそも警察省と機密省では......」
「黙って病室の外に出ておきなさい」
「了解ですっ!!!!」
ぴしゃりとエミーが言い放つと、こちらも雷に打たれたように急に背筋を伸ばし、慌てた様子で出ていった。
「......本当に、保証してくれる?」
「少なくとも、警察省の一員になればね」
しばらくシーナは考え込んでいた。エミーも即答できない話であることは十分分かっていたので、じっと待つ。
「......分かった」
そしてぽつぽつと、しかし洗いざらい、今回の事件のことがシーナの口から語られた。
自分たちが特殊研究課、通称”トッケン”の所属であり、死神禁忌を取り扱う処理肆課と提携し、冥界で禁止されている”転生”を行っていたこと。
今回起きた事件で犠牲になったのはその処理肆課と”トッケン”であり、襲撃したのはセントラピスラズリだったこと。
セントラピスラズリが能力持ちだったこと。その名は「アンソロポロジック・ソナー」といい、広範囲で敵の正確な位置や距離、方角などを知ることが出来るそうだが、詳細までは分からないということ。
セントラピスラズリの目的は、”転生”を行っている自分たちを潰すというものだったということ。
そして、
「......緑の、目」
「緑?」
「知らない?」
「いえ、」
確かに知ってはいる。だが警察省の上層部になるにあたって、昔こういうことがあったんだと聞かされ学んだものの1つという、漠然としたものだった。
「”転生”にかかわり始めたのは、もう何百年も前と言われてる。当時は、......”閣下”と、協力していたらしいの」
「......それは、聞き捨てならないわね」
「例の14人―――”ナイトメア”の人格サンプルを、”閣下”は持っていた。そのうちのいくらかを、自分の幹部に使った。そのために、私たちの”転生”を利用した」
「......つまり、セントラピスラズリも」
「おそらく、埋め込まれた1人のはず。私は直接かかわったわけじゃないから、詳しいことは知らない。だけどもう死んだ、もう1人の最高幹部であるセントガーネットにも、同じことがされたのは分かってる」
「......なるほど」
エミーがメモを取り終え、席を立った。
「ねえ」
「なに?」
「私たちは、」
「......まあ、それ相応の制裁を受けるでしょうね。”転生”にかかわっていたことを”自白”したのだから。そこまでは、私もかばえない」
「......。」
「でもあなたがそれを悪いことだと認知して、制裁も受けて、それでも改めて、真っ当にやっていく強い意志があるのなら、私たちはあなたたちを全力でかばう。それが、警察省の仕事だから」
エミーはもうシーナの方を振り向くことなく、病室を出ていった。
お互いに知ることはなかったが、2人とも、明るい笑顔を浮かべていた。
ようやくになりますが冥界サイドはこの話で終わります。次からはまたKetterasereiburgサイドに戻り、次の都市へ進みます。




