#62 凶行の兆し
久しぶりのエミー登場。実は話数カウントが一番多いのはシェドでもなく、レイナでもなく、彼女なのです(笑)
「......ふう」
ここは冥界の病院の、一病室。重役専用の最上階でそうやってため息をつくのは、セントラピスラズリの攻撃でケガをしたエミーである。
「何でそうなるかな......」
この日エミーは仕事復帰の一環として、悪魔である理路に協力した罪などで冥界に拘束されていた嵯峨浩明と仁科一の2人の男を転生させる作業の監督役をすることになっていた。
複雑だがこの転生は機密省が関わる悪質な”転生”とは違う。主死神にも公式に認められたもので、警察省の主導のもと行われる。
だが予定というのは名ばかりで、直前である今になって不自然なブルーシートがビルの狭間にかかっており、危ないものかもしれないので処理をしてほしい、という通報が入ったのだ。ビルが崩れているとも言っていたそうだが、とにかく状況の把握のためにいくらか動員されることになり、エミーもそちらに回されたのだ。実はエミーはそんな変更急にされても面倒なだけだ、と反論したのだが、そっちの現場の方が警察省らしい仕事でリハビリになるから、とエリザベスに押し切られてしまったところだった。ここまで来てようやく初めのエミーのため息につながる。
「ブルーシート、ね......」
日本の刑事ドラマでは事件現場を覆い隠すものとしてポピュラーなものだ。だがそのブルーシートは警察省が設置したという記録がなかった。
「中身は爆発物......?でも、それならもっと目立たなくするでしょうし......」
「エミーさーん!」
ガラガラガラッ!と勢いよく病室のドアが開き、入って来たのはラインである。万が一のことに備え、ラインが病室まで迎えに来ることになっていた。
「わざわざご苦労様。行きましょうか」
* * *
そのブルーシートがある現場は、大殿や機密省、警察省のある中心部からすれば外れにある、と言えるような場所だった。
「確かに、ここにはもともとビルが建ってたみたいね......」
エミーが少し前に撮影された航空写真や、そのほかの写真を見ながらつぶやいた。
今そのビルの面影はなく、ただコンクリート片が山になっているのみだった。単に破壊したのではなく、基礎の部分を狙って総崩れにした、という方が正しい。
「問題は、ブルーシートの中ですよね」
「ええ」
「「「せーの‼︎‼︎」」」
すぐ近くで声が聞こえた。その途端、
「あああっ、あ、あ、た、た、助けっ......!」
「ばっ......バケモノおおおっっっっ‼︎‼︎」
「みっ、見るな!こっ、こりゃあ......のっ、の、の、呪い、だ......」
ブルーシートを引きはがした大の男たちが、そんな悲鳴を上げはじめたのだ。
「何がうわーっ、ギャーッよ、情けない......」
吐き捨てつつテープをくぐったエミー。
しかし彼女も、悲鳴こそ上げなかったが、顔を引きつらせ、数歩後ずさりすることになる。
「これ、......は......?」
目の前に広がっていたのは、死神の死体だった。死体が、幾つもの層を作っている、異様な光景だった。
通常これは、冥界にいれば見ることはまずない。現世にいる場合を除いて、死神が死体を残したまま死ぬことがあり得ないからだ。悪魔も同じで、死んだ後には死砂と呼ばれるさらさらとした砂だけが残る。
それが、違った。エミーは現世に行った経験があるため、珍しいことだと驚くだけで済んでいた。おぞましいものを見てしまったとばかりに固まる男たちを退がらせ、その山に近づく。
「凶器は、......刀?」
死体のどれもが、背中を短刀で貫かれていた。裏側がちょうど心臓である場所を、一突き。その刀には、柄がなかった。たとえ人殺しの凶器だとしても息を呑むほど美しい色をした、水色に輝く刀。
「......まさか」
いや、口ではまさかと言うが、心の中ではほぼ確定だった。あのセントラピスラズリがやったとしか、考えられなかった。
―――セントラピスラズリが、行動を起こしはじめた。
自分とシャンネさんを襲ったのは、ほんの序章に過ぎなかったということだ。そしてこの大量殺人。この次がもうないはずがない。
しかし。
「(......その『次』を、どう止めろと言うの......?)」
ひとまず病院まで彼らが全員運ばれた後、エミーたちは警察省まで戻って来た。こうなれば機密省で冥府革命集団の調査を行っている処理参課との協力はより重要となる。すぐにでもさらなる協力を要請すべく、会議を開くつもりでいた。
だが、エミーのその予定は思わぬ形で崩れることになった。
「......⁉︎」
警察省の入口のすぐそばで、女性が倒れていた。着ている外套はあちこちが擦り切れ、身体もボロボロだと言えた。
「レイナ......?」
いや、違う。今レイナがこの場にいるはずはない。だとすれば、レイナ以外にこれほどきれいな金色の髪を持つ死神を、エミーは1人しか知らなかった。
「グロリア、......さん?」




