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現世【うつしよ】の鎮魂歌  作者: 奈良ひさぎ
Chapter8.Ketterasereiburg 編(混沌)

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#61 セントコバルト

突然ミュールたちの前に現れた、女の子とは......?

 その少女はミュールの方を向き、にっこりと笑いかけた。それからさっき段ボール箱を引っ張り出した袋に手を突っ込み、ごそごそし始めた。何かしてくるのではないかとミュールは警戒するが、出してきたのはかわいらしい包装のあめ玉だった。それをミュールに差し出す。それでもやはり安易に受け取るわけにはいかずじっとにらんでいると、もう一個取り出してどちらも中身を見せて同じだと示し、それから片方を自分の口の中に放り込んだ。


 やはりそれでも疑わざるを得なかったが、すうっ、とその少女の方から、ミュールの隣に移ってきた。そこまでされると逃げられず、しぶしぶあめ玉を受け取り、口に含んだ。ほんのり甘いミルクキャンディーだった。


「こんにちは」

「......。」

「わたしはカミュ。あなたは?」

「......。」

「あーっ、ずるい!名前言わないなんて!」

「......ミュール」

「ようし、ミュールさんだね。よろしく!」

「”連携強化”(アディショナル・コネクト)......」

「もう......早まりすぎだよ?」

「能力を持ってるのを見かけた以上、放っておくわけにはいかないの。しかも”連携強化”。おまけに現世滞在中の死神でもないみたいだし」

「なるほどー。じゃあ最初から普通の人だとは思ってなかったんだ」

「事前に情報、手に入れてたからね」

「じゃあ、もういいよね。......お察しの通り、わたしのコードネームは、セントコバルト。新入りだよ」

「やっぱり......!」


 それを聞くや否やミュールが少女を捕まえようとするが、少女の持つ小さな袋から煙が出て、ミュールの外套のポケットにあった手錠をとらえ、吸い込んでしまう方が先だった。


「そんなに簡単につかまるわけにいかないの。そもそも入ったばっかり、ってさっき言ったよ?人殺しなんてしてないし、する気もないのに」

「でもその程度で見逃してあげるわけにはいかない」

「”閣下”とは考えかた、少しちがうから大丈夫」

「”閣下”......なんて名前が出てきた時点で、もうダメだよ」

「えーっ、厳しいー」


 別にこの飛行機墜としたりはしないのになー、と少女、いやセントコバルトはぼやいた。


「……何が目的?」

「さっき言ったよ、この飛行機を墜とすつもりはないって」

「はぐらかさないで。何か目的がなければわざわざ乗ったりはしないでしょ。おまけに手錠を警戒して。もう見過ごせない」

「……うるさいお姉さん。人を殺す気はないから、別にいいでしょ。これ以上付きまとうなら、知らないよ」


 “連携強化”がどんなのか、その様子なら知ってるんでしょ。


 セントコバルトにその言葉を突き付けられ、ミュールの身体は固まった。事実だ。今は異界干渉系の能力である特性を活かして、何でもしまい、引き出せるようにしているだけだが、その気になればサー・グラーツのように強力な攻撃に用いることもできる。そんなことをして、少女であるセントコバルトの身体がもつかどうかは保証できないが……

 つまり少女を抑え込み、拘束する手段がない。ミュールがセントコバルトをにらみ、セントコバルトの方は半ば余裕の笑みを浮かべ、ミュールの顔を見ていた。


 その時だった。


「んんっ……うぅーん……」


ミュールの前の席からそんな声がした。


「……レイナ!!」


このタイミングで目が覚めるとは。あまりにも短い睡眠だ。

そしてミュールを確認しようとしたレイナは、自然にセントコバルトとも目が合った。


「はじめまして。お名前は?」

「レイナ・カナリヤ・レインシュタイン。小さいのに、1人で飛行機に乗るなんて偉いわね。しかもこんなに遅い時間。日本まではまだまだ時間あるから、ちゃんと寝るのよ?……あ、そうだ、あなたの名前は?」

「カミュ。今ね、このミュールさんとお話ししてたの。レイナさんは、ミュールさんの知り合い?」

「ええ、そうよ。ちょっと日本に出張する機会があってね」

「そうなんだねー。じゃあ、また起きた後にお話ししようね!」

「ええ、そうしましょう。おやすみ」

「おやすみなさーい」


 その言葉を合図に、レイナが席を立った。ミュールがあわててそのあとをついていった。



 レイナはトイレの方へまっすぐ向かった。ミュールにトイレに行く気はなく、そのまま席にレイナが戻ってしまえば意味がないので、肩をたたいてレイナを呼ぶ。


「レイナ、今のじゃ分からなかったかもしれないけど、……」

「知ってるわよ?」

「……え?」

「大丈夫、分かってる。あれは例の集団の一人なんでしょ」

「どうして……」

「あれだけ短い時間、私が本当に寝てたと思う?」

「寝てなかったの?」

「そりゃまあ、最初は寝ようとしてたけど、セントコバルトって聞いちゃって、聞いてないふりして寝続けるわけにはいかないわ。しかもよりによって“連携強化”持ち」

「そう。私、処理参課所属だから、特に現世に行くときは警戒して、外套のポケットに簡易的な手錠を忍ばせるように言われてるんだけど、それもとられた。本人は飛行機に何かしたり、人を殺したりはしないって言ってるけど……」

「まあ、何かしようとしてることは確実ね。あるいは、本当にただのKetterasereiburg国からの帰りか」

「どういうこと?」

「兄さんがどこにいるかは、誰にも分からないでしょ?あの子がセントコバルトっていう名前で、ただ“連携強化”を持っているだけなら、兄さんも最高幹部に指定したりはしないでしょうし。もっと……サー・グラーツよりも断然使いこなせて、実は圧倒的な戦果があるんです、って言うなら別だけど」

「じゃあ?」

「おそらく日本に、兄さんの居場所を知る人がいるんでしょうね。手ごろな国と言えば、日本だったんでしょう」



「正解っっ!!」



 少女がいた。


「だいたい合ってるよ。むしろ今後の予定まで言ってもらって助かるよ。レイナさんがそんなに賢いなんて」

「さて……どうやって捕まえましょうか?」

「……この“連携強化”は、ただの四次元ポケットじゃないよ……」

「“はたと止まる、世界の時間”(ステップ・イントゥ・ザ・ギャップ・ワールド)」


 時間が止まった。

 飛行機自体はもちろん、中の人もすべて動きを止める。夜食としてカップラーメンを提供しようとお湯を入れていたCAさんも、お湯を入れる姿勢のまま止まる。お湯も重力に逆らい、空中に浮かぶ。

 何もかも止まったその世界の中で、唯一動くことのできるレイナがその世界を動かせる。彼女はすぐ隣にいたミュールに触れた。そのいわば「支配者」が触れた物や人は、時間の狭間で動く「許可を得て」、能力使用者と同じように動けるようになる。



「......止まった」


 さすがの”連携強化”も、空間干渉系能力には敵わなかった。セントコバルトもレイナやミュールを見上げた格好のまま止まっている。


「早く済ませてしまいましょう」


 そうレイナが言ったので、セントコバルトの身体に触れないように、ミュールがセントコバルトの腰から巾着袋をもぎ取った。


「手錠はこの中にある......はず」


 ミュールが巾着袋の中を探る。


「あっ......ミュール‼︎」


 レイナが叫ぶも遅かった。


バチンンッッ‼︎


 静電気によるものよりずっと激しく、大きな音がして、ミュールの手に激痛が走る。瞬間的なものだったが、びっくりするあまりその袋を離してしまった。


「”最後の砦”<<アブソリュート・プレシピース>>!」


 だがすかさずミュールがそれを発動し、巾着袋は堅固な壁に覆われた。外から見れば、陶器でできたサイコロ状の物体である。


「持っててくれる?」


 それをミュールが拾い上げ、レイナに手渡した。これほど密度が高くて、見た目の割に重いものでも、ミュールは失くしてしまうかもしれない可能性を考えたからだ。


「分かった」


 レイナもその意図を汲み取って、外套のポケットではなく、外套の下に着ている服の中にねじ込む。その拍子に少しレイナの胸元が見えたがしかし、それを見たのはレイナ自身とミュールだけである。

 そうして2人は元の座席へ戻り、何食わぬ顔をして、レイナがまた時を動かした。重力が再び働いてお湯はカップ麺の容器の中に注がれ、また手を滑らせペーパーバックを落としたまま固まっていた男は、かがんでそれを拾い上げ、読んでいたページを探した。


 やがてしょんぼりした様子でセントコバルトも戻ってきて、ちょこんと座った。ミュールの方をこれでもかとにらみつけるが、ミュールは知らん顔である。能力を使う際の主要な道具は奪ったから、かなり行動は制限されたはずだ。手錠は引っ張り出せず、完全に拘束できていないのが気がかりではあるが。


 セントコバルトというコードネームを与えられてはいるが、やはり基本がただの子どもであることに変わりはない。座席に座りしばらくするとうとうとし出し、やがてかくんっ、と眠りに落ちてしまった。

 それを確認してレイナもまた眠る。ミュールだけは見張っておかなければと思いパソコンに向かいつつちらちらとセントコバルトの方を見やっていたが、眠気に耐えられなくなり、電源を落として眠りについた。



* * *



 なかなか楽に寝られるビジネスクラスの座席でミュールが次に目を覚ましたのは、何となく食べ物のいい匂いが機内に漂い始めた頃だった。

 ふと、レポートを途中でやめたのを思い出し、パソコンを立ち上げて、待ち時間に目をこすって周りを見た。隣にいた少女はいなかった。いなかったからといって怪しいことをしているとは決して言えない。確かにこれ以上怪しいことをしないともとても言えないが、ただトイレに行っているだけと考える方が自然だ。それよりもミュールはお腹が空いていた。さっき立ち上げたばかりのパソコンをそばにのけて、ちゃんと機内食にありつけるよう準備を整えた。



”日本における国内線のみにとどまらず、世界各国の主要都市と日本とをつなぐ多様な国際線を展開する弊社。海外から日本へ帰国されるお客様に多くご信頼、ご利用いただいているという実績を踏まえ、対象の便で提供させていただく機内食は、どれも『日本でしか出せない味・料理』をテーマに、有名店監修のもとこだわりぬいた自慢のものばかりです”



「むむーっ......んんんっーーっ‼︎」


 ビジネスクラスの一席からこんな女性の声が聞こえれば、深い眠りについている人もびっくり。数時間前に手を滑らせペーパーバックを落とした男は、今度は落とすまいとペーパーバックを握りしめた結果、危うく真ん中で引き裂きそうになっていた。


「(こんなだし巻き卵、作れるようになりたいっ......‼︎)」



 ミュールはレイナと仕事でよく行動をともにするためレイナによく影響され、日本食をよく作るようになっていた。レイナが現世にいる時も1人でひそかに練習を続け、ようやく旦那さん(もちろん仮想!)に自信を持って出せるようになったところだったのだ。よりにもよって一番得意だと自負していただし巻き卵は、あっけなく完敗した。メニュー表に書かれていたことはまさに真実。その後もザ・日本食をこれでもかと堪能し、ミュールは大満足で食事を終えた。


「(さすがにこのレベルにするのは無理だけど、もっと上達の余地はある......‼︎)」


 

 と、食事を終えたタイミングで、前の方からコツ、コツと足音が聞こえてきた。特に何も考えることなくふっ、とそちらの方を見るとなんのことはない、航空券を確認する乗務員の男性がやって来る音だった。

 ビジネスクラスの座席に座る人にも確認は行われ、やがてミュールの前で立ち止まった。

 ポケットをごそごそして航空券を取り出し手渡す。レイナの分もまとめて、ミュールが国際線の日本の航空会社のカウンターで買ったものだ。搭乗数時間前だったからか、そこそこ並ぶことになり少し疲れて......


「......申し訳ございません、詳細な確認をいたしますので、少し来ていただいてよろしいでしょうか」

「......はい?」


 何か問題でもあったのか、そう言われた。こういう時に怪しくないと言って行かないのが一番怪しいと思ったので、素直についていった。



 ついていった先は機内のより前の方、ファーストクラスの席も通り過ぎた、乗務員だけがいる場所だ。他の乗務員も確認に回っているのか、そこには1人もいなかった。そう考えると急に不安を覚え、ミュールは尋ねた。


「あの......私の券が、どうかしたんですか?」


 その時だった。


 前を向いたまま受け答えするかと思いきや、振り向きざまに蹴りを入れようと足を回してきた。とっさに避けようとするが間に合うはずもない。ゴンッ、と鈍い音がしてまともに受け、狭い通路の壁に当たる。


「......‼︎」


 すかさず殴打が顔面めがけて飛んで来る。これもふらついた体が追いつけずまともに受ける。ちょうど若干気流が乱れた場所に入ったらしく機体が揺れ、ミュールはへたりこんでしまった。


「......終わりだ。あっけないな」


 足を大きく振り上げかかと落としが落ちてくる。たしかに頭上からこんなものが来れば終わり、よくても気絶。攻撃が始まってから実にスムーズ。


「............‼︎‼︎」




 ただ、その分隙が多い。


 かかと落としは普通、早いあまり両手で受け止めることなどできない。だがそのかかと落としは違った。


ーーーパシンッ。


「......は?」


 その足をつかんだまま立ち上がり、もう片方の軸足を払う。床との接点がなくなった男は見事にすっ転び、したたかに頭を打った。


「......変身(・・)しても無駄だよ、......セントコバルト‼︎」

「......くそっ!」


 男が一旦少し下がってすっくと立ち上がり、再びパンチを繰り出すが、ミュールは正面からそれを受け止め、代わりにもう片方の手で拳を握りみぞおち向かって繰り出す。


「ごおっ⁉︎⁉︎」


 それほど力の強くないはずのミュールのパンチで、男は後ろに吹っ飛んだ。


「何が起きてるか、分かってないでしょ?」

「......」

「こう見えても私は処理参課所属。”連携強化”(アディショナル・コネクト)にどんなことができて、どんなタイプがあるかは把握済みなんだよ」

「......ほう」

「もちろんセントコバルト、あなたみたいな『変身』タイプも」


 ミュールが男に近づき、男の帽子を取った。すると煙のようなものに男が包まれ、煙が晴れた時にはもとの少女の姿に戻っていた。帽子も消えていた。


「......よくパンチ受けて、無傷でいられるね。鍛えてるの?」

「違う。『変身』タイプは”連携強化”の弱変化パターンの代表例。例え筋肉隆々の大男になったって、元がか弱い少女なら繰り出せる攻撃も少女並み。それを知ってたから、敢えて受けたんだよ」

「......ほんとは対応しきれなかったくせに?」

「言ってるといいよ。どうせ変身を解かれたら再変身はできない、おまけに能力補助具もないから、能力に頼る方法はもうないはず」


 ミュールは少女から航空券を取り返し、首根っこをつかみ引きずって座席まで戻った。



 ミュールが座席の場所まで戻ってくると、レイナが起きてご飯を食べているところだった。ミュールが思わず変な声をあげたのと同じ、特製の日本食である。納豆をかき混ぜ、まさにタレを投入しようとしたその時にセントコバルトを引きずるミュールと目が合ったレイナは、ミュールが自分の後ろに座るまで固まってしまった。


「......どうしたの?」

「心配いらないよ。ちょっと一悶着あったけど、ケリはついたから」


 ミュールの袖がぐいっ、ぐいっ、と引っ張られる。もう自分で座るから離せ、というセントコバルトの合図だ。対してミュールは首を振り、少女を座らせきつめにシートベルトで固定してから、「”最後の砦”!」と唱え、少女の膝にプレートを載せた。ごんっ、と鈍い音がし、見た目によらない重さと単純にぶつかった痛みで少女が顔をしかめ、ミュールをにらみつけるがやはりミュールは知らん顔である。

 その様子を確認し終えてから、レイナが口を開いた。


「ミュールは、ご飯食べたの?」

「食べたよ。すっごくおいしかった!」

「だよね......この味を見習いたいものだわ」

「レイナがそう言うってことは、よっぽどなんだ......」

「機内食でこれだけのクオリティは、ほんとにすごい。もっと世間に知られるべきよ」

「......あれ?そう言えばレイナ、食欲ないんじゃないの?」

「うん、いつもよりはね。だけどこれは食べなきゃ、もったいないと思って」

「その心構えはいいけど、吐かないでね?時期的にはまだまだつわり、続くんでしょ?」

「ええ、もちろん迷惑はかけないわ。......ああ、そうだ、じゃあこのだし巻き卵、食べてくれないかしら」

「え?それが一番おいしいのに?」

「食べ過ぎたら吐くからやめろって言ったのはミュールの方じゃない」

「んーっ......納豆よりは食べとくべきだと思うけどなあ」

「そう?じゃあ、納豆をどうぞ」

「分かった」


 レイナがだし巻き卵を一つ持ち上げ、じっと眺めてから口に運んだ。


「......どう?」

「......。」

「......え?そうでもなかった?」

「......ちょっと、どうやって作ってるのか聞いてくるわ」


 そう言うなりレイナがいそいそとシートベルトを外して立ち上がり、CAさんのいる方へ行こうとした。


「あっ、待って!レイナはダメ!私が行ってくるから、落ち着いて!」


 少女が何かこれ以上手を打ってくることはなく、そのまま飛行機は無事、日本・成田国際空港に到着した。



* * *



「ちょっと......歩けないよ、どうしてくれるの」

「関係ない人がいっぱいいる飛行機で暴れようとしたそっちが悪いんでしょ」


 順次搭乗客が降りていく中、ミュールは”最後の砦”を解除し、シートベルトも外して、セントコバルトを抱っこして飛行機を降りた。


すうーっ、

はぁーっ。


「......どうしたの?」

「いえ、やっぱり日本に来ると、すごく帰ってきた気分になるから」

「よっぽど日本が好きなんだね」

「そりゃあ、もう。大きな危機もなく日本につけて、よかった」


 正確にはちょっとの危機はあった。

 入国審査を済ませて出てみると、同じ便からの乗客やその迎えの人たちでごった返していた。


 そんな中に、人混みの中でも目立つ人がいた。黒い外套を羽織り、葉巻を吸っていた。その人はほとんど、正面を見ていたが、時々出口の方をうかがっていた。やがてその目は、セントコバルトの姿を捉えた。


ーーー足がしびれて歩けず、しかも同じ黒い外套を着た女に背負われたセントコバルト。


ダダッッッ‼︎‼︎


 男が逃げた。追いかけようとしたが捨てられた葉巻からもくもくと煙が立ち上り、視界をさえぎった。加えて火事だ、消火器を!と叫ぶ人で場は混乱し、煙が消えた時には男の姿はどこにも見えなくなっていた。


「あれが、待っていた......」


 ”連携強化”を持っていれば、冥府革命集団の幹部として認められている可能性が高い。そのセントコバルトを待つ者となれば、


「同じ幹部か、あるいはそれ以上......?」


 日本ももはや、冥府革命集団の手が伸びていない安全な場所とは言えない。そう実感した、その時。


「おーい、姉さん!」


 レイナにとって、懐かしい声がした。


「ロル!待たせた?」

「いや、なんとか夕方に休憩をずらせただけだから、けっこうギリギリだった。......それより姉さん、妊娠なんて。大丈夫なの?」

「ちょっと、つわりが、ね。ロルの家にいさせてもらえると、うれしいんだけど」

「ああ、その方がむしろいいよ。最近同僚のひとと付き合いはじめたんだけど、彼女、産婦人科医なんだ。相談には乗ってくれると思う」


 レイナとミュールはロルの車に乗り、日が沈もうとしている東京へと向かった。

いったんミュール&レイナサイドは終わりです。次の話から冥界サイドとなります。

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