#59 ドレークの思い
グレッグ王子VSシェド、最終局面。そして......?
「温度だよ。......お前の攻撃は、人間の体温以上の温度を持つものに、効かねーんだ」
それは物理干渉系の能力としては、致命的だと言う人もいるかもしれない。人間の体温以上ということは、生きた人間には効かないし、迫り来る炎にも対処できないことになる。
だがグレッグ王子にとっては、これまでその弱点は、弱点のうちに入っていなかった。なぜか。彼以外に、人間以上の温度を持つものがない環境だったからだ。
「............ははは」
「......。」
「アッハハハハハハハハハハハハハハ‼︎‼︎‼︎......いや、いいね。すっげえ最高。何だって体温以上?いいじゃん、それ。それでお前が死んだら、幸せすぎんだろおがよう............‼︎‼︎」
ドオオオオッッッ‼︎‼︎
最大級の殺意のこもった”幻想郷の終焉”がシェドの脇腹めがけて発射される。同時に覚悟を決めたシェドが銃をしまい、右手の拳を握り、グレッグ王子の方へ飛びかかる。
ギュウウゥゥゥンン‼︎‼︎
シェドに当たったそれは反射して大きく軌道を歪まされ、グレッグ王子の背後の壁に激突、煙幕を巻き起こした。しかしその視界を遮るものなど無駄だというばかり、拳はそれを突き抜け、襲いかかる。
ズバアァァァン‼︎‼︎
グレッグ王子の鼻柱に、強烈に入り込んだ。足場を転がる音がする。効いた。能力以前に、直接殴るのが有効だった。
「......おば......え......」
もはや効く効かないは、グレッグ王子の懸案事項ではないらしかった。グレッグ王子の右手に再び禍々しい殺気が宿る。
十分に蓄積もされないままそれが放たれた。射線の延長線上に左腕を構え、跳ね返して再びよろよろとして何とか立っているグレッグ王子との間合いを詰める。
「ぐっっっ............‼︎」
「......出直してこい」
「クソ......が......‼︎‼︎」
「お前が人のこと笑えんのは、その自惚れと醜さ治してからだ‼︎‼︎」
もはやグレッグ王子に「かわす」コマンドは用意されていなかった。再びまっすぐに拳が決まり、その身体は後ろの方へ引きずられるように飛ばされ、意識を失った。
「............ぐっ」
シェドもここまでで、体力をかなり消耗していた。少しよろけたので手すりをつかみ、その空間を出る。
* * *
エニセイは霜晶が”東の国”の方へ歩き始めたのを見届けると、自分も持っていた小型通信機を取り出し、ウラナにつないだ。
”......はい?”
「地上は片付いた。霜晶をそちらに帰したから、霜晶を確認し次第、ウラナ、お前が来い」
”......ホントに?”
「嫌か、それなら構わないが」
”いいえ、むしろ歓迎よ。ゴロゴロしてばっかじゃ、身体がなまっちゃうし”
「そうか。......ケガは大丈夫か?」
”まあ今すぐ戦いなさいって言われれば、100%は出せないかもしれないけど。体力は温存してあるから、力にはなれるはず。使わなきゃ溢れる一方でもったいないし”
しばらくして城塞都市・Konigknieに、赤髪の女が現れた。同じく紅に染まった刀を持っている。当たり前のことかもしれないが、かなり目立つ。”西の国”側に厳重にマークされていたのもうなずける。
「待たせたわね。どう?何か変わったことはあった?」
「いや、時々爆音は聞こえるが、どれくらいの深さで、どれくらいの規模なのかまでは分からない。あまり楽観的に助けに行けるわけではなさそうだ」
「......そう。迷路っていうのがまた難儀よね......で、あたしの仕事は?」
「行くか」
「......へ?」
「洞窟の中だ。出口が確実に分かる場所まで進んで、シェドが無事に出てこられるよう誘導する。1人では自分まで迷い込んでしまう可能性があるから、2人で行く」
「やっぱり爆破はダメ?」
「お前の『爆破』の規模を目の当たりにしたことがないから分からないが、まあダメだろうな。よく考えてみろ、上から一階層や二階層吹っ飛ばしても大丈夫でしょ、とかお前なら言いそうだが、吹っ飛んだ地面が地下を塞いで、それこそ脱出できなくなる」
「......さっきまであたしが言ってたことそのまんま......なんか怖い」
「破壊するだけで、破片が消滅することはないんだろう?」
「......ええ、まあ。コンクリートならまだしも、土だと、無理かも」
「ならやはりやめたほうがいいな。......早速だが行くぞ」
「了解」
* * *
シェドは電気ケーブルをたどりつつ進んでいた。国中に運んでいた名残か、あちこち分岐しているが、目を凝らし一番太いものを見つけ出してそれをたどる。それは結果正しかったようで、上に続くらせん階段が目の前に現れた。しかも特に古くはなさそうで、崩れ落ちるか、と心配する必要もなさそうだった。
上るたびコン、コンと静寂の中に音がする。不気味であることに変わりはないが、グレッグ王子はあれでしばらく気絶しているのは間違いないので、少しの安心感があった。ドレークがどこに行ったかは分かっていないが。
しかしその階段を上るので地上に行けるほど、この地下要塞は甘くなかった。1階層分くらい上ったところでその階段は終わった。階段の続きにあったのはまた重たい扉であった。
ギギィッ。
今度は少し思い切って開けた。
開けた先には、これも何か、プロの凄技を紹介するテレビ番組でよく映る集中管理室のような光景があった。位置からしてそのイメージは合っていて、下にある電気ケーブルの異常がないか監視する場所なのだろう。先ほどグレッグ王子が水を流し込み水没させたせいで、アラートが鳴り響いていた。
その部屋の中で一際大きなモニターの前には座席があり、一括して監視できるようになっている。その真ん中の座席に、人影があった。視界に入った瞬間シェドは驚きで数歩跳び退いたが、すぐに新たに銃を生成し、慎重に近づく。
「............‼︎」
その顔には非常に見覚えがあった。アラートとともに室内全体が赤く点滅して、目がチカチカする中でも分かった。ドレークだった。
「......ケケケ」
「なんでお前がここに」
「あなたの方こそ、ですよ、ケケ。私はグレッグ様の攻撃をまともに受け、吹っ飛ばされたというのに、あなたが平気でいられるとはね。私は、この通りです、ケケケ......」
「......ここで何をしてたんだ」
「ご存知ですか?ここの電気ケーブルは、普段電気を運ぶ用として、用いられていないんです。旧王国時代の、名残でしかない。少なくとも半年、これらのケーブルに電気が通っていないことは、先ほど確認しました」
「で、でもグレッグ王子って奴は、ここから国中に送ってるって......」
「それは考えられませんね、ケケケ。本気でそれを、言ったのだとしたら、愉快もいいところ。長期間地下に潜んでいた意味もない、というものです、ケケケ」
「そうなのか......じゃあ、さっき電気が通ってるような音がしたのは......」
「私が通したのですよ。この部屋に何とかたどり着いた時、目の前のモニターに映っていたのが、あなたたちの姿でした。勝った方が、感電して、再起不能になるよう、仕向けたつもりなのですがね、ケケケ」
続けてドレークがさて、とシェドの次の言葉をさえぎった。
「幸運だ、あなたは。このモニター室は地下空間の中でも、かなり重要な役割を、果たしているようです。後ろをご覧になるといい」
シェドが言われた通りにした。そこには大きなはしごがあり、ぽっかりと空いた天井の穴に続いていた。
「分かるでしょう、あれが、少なくとも地上に近いところまで、行けるものだと。......ケケケ、その分では、グレッグ王子も撃破したのでしょう、とても気分が優れず、見ることはできません、でしたが......あれを登って、いくといい」
「お前は?」
「私は、無理です。そのような力も、ありません。こうやって、座って、伏しているので、精一杯なのです。それに、......ケケケ、お忘れですか、グレッグ様の乱入で、混乱なさっているかも、しれないが、私はれっきとした、あなたの敵だ。その気になれば、”仮想拘束光線”、で、あなたを地下で監禁してしまうことも、できる。私がこの調子であるうちに、やはり出るといい」
ドレークは、この時低体温症を起こしていたのだ。シェドは水から顔を出し息をすることだけに集中することに成功し、体が冷えた程度で済んだが、ドレークは突然の鉄砲水に対応しきれず、水中で気絶してしまった。ゆえに長時間冷たい水に浸かることとなり、意識もぼんやりする危険な状態だった。シェドにも何となく、名前こそ思い出せないが、それであることが分かった。
「......来い」
「......。」
「あのバカ王子は本来ここにいるはずがないんだろ?それならまだ構わない、だけどお前がまだ生きてる、それで自分が死んだから、”西の国”の罪が晴れたなんて、俺はそっちの方が許せねーよ。確かに俺は直接その被害を受けたわけじゃない。お前が今までどんなことしたかなんて知りたくもねーけど、少なくとも野垂れ死んでそれで済むとは俺は思わないし、”東の国”の方も同じはずだ」
「............なるほど。立派な正義感です、ケケケ」
「それを『正義感』で片付けられるなら、お前はまだまだだな。やっぱり来てもらわないと困る」
シェドはぐったりと操作盤に突っ伏すドレークを何とか立たせた。が、身体がまだぐっしょりと濡れていた。シェドと違い、自分で乾かすことができないからだ。それに気づいたシェドは壁に向かって銃を撃ち、炎を出してから、ドレークに暖をとるように言った。というより、半ば強制的に炎の前までドレークを運び、炎に当たらせた。
その炎は悪魔10人に広がって一瞬で燃やしてしまうような強さだ。軽く当たっているだけでも、ずいぶん早く乾いていった。
「......水に浸かっていたことだけが、私が弱っている原因ではないんですよ」
「......どういうことだ?」
「あなたには私が、この能力をすっかり使いこなしているように見えるかもしれません。......ケケケ、ところがそう上手くはいかないのですよ。実際は変幻自在のこの能力を植えつけられ、人智を超えた異能の力の前に、身体中にガタがきています。自分で分かるくらいですから、相当なのでしょう」
「......。」
「あなたもそのはずです。......ケケケ、そのような炎がいくつも出せるなど、この”仮想拘束光線”より恐ろしい」
「......お前が自分で望んで、能力を得たんじゃないのか」
「とんでもない。すべてはサー・グラーツの政策の一環です。国土の面で劣る上、ここは昔世界中から悪評の高い王国だったのです。同じ王国制度が適切だと主張し続けるのが、どれだけ不利なことかは、我々はよく認知しています。だからこそ軍事の面で世界を圧倒すべきだと、サー・グラーツはおっしゃった。それが世界を脅かすことにならない限りは確かに正しいと、私は思います。だからこそ私の今があるのです。......ケケケ、ですがその方向性が現実離れしていることは、周知の事実。民間人をさらっては殺すことを繰り返す、犯罪者集団に堕ちてしまいました」
「お前たちみんながそれに賛成じゃないのか?」
「常識があれば、それがいけないことだとすぐに分かりますよ。ですがそれでもやる。なぜか、それはその行為が、必要不可欠だと思っているからです。少なくとも、サー・グラーツはね。いや、本当の元凶は、サー・グラーツにあのような考え方を授けた、『大閣下』なのかもしれません」
「大閣下?」
「名前さえ誰にも知られていませんよ。混乱の続くこの国に不意にやってきてサー・グラーツと会談し、また旅の者のように去って行きました。私たち幹部にとって存在だけは明らかなのですよ、ケケケ」
「そんな奴が......」
さて、と服が乾いたらしいドレークが少し姿勢を正した。火にあたってもなお、立てるほどの体力はないようだった。
「どのみち私は”東の国”に捕まるのでしょう?近衛軍副司令長という高位にある身ですし、近衛軍、と銘打ちつつ、軍に適格な民衆を探すためのこの計画を主導したのは他ならぬ我々。今逆らえばその強烈な銃で瞬殺される。逃げ場がないとは、こういうことですか」
バッ......と、ドレークが金属製の右腕を伸ばしてみせた。
「これがあるだけで苦しいのです。ミズ・リンツはどうでしたか?あの後死んでいないのであれば助かったはず。この右腕を撃ち抜いて、能力から解放してほしいのです」
「............。」
「......ケケケ、それとも信じられないと?」
「片手を失ったとして、どうやってこのはしごを登るんだよ。俺が背負って、きっちり身分引き渡ししてやる。その能力吹っ飛ばすのは、そっからでも遅くねーだろ」
シェドは再び、半ば強制的にドレークを背中に背負って、はしごに手をかけた。
* * *
「こわい......」
「......暗闇もだめなのか、お前」
「入るときは考えなかったけど、よく考えたらダメだったわ......」
シェドを出口の方へ誘導するためにエニセイとウラナは2人で洞窟に入った。あくまで出口の方をその都度確認しながら、慎重に、である。だが想像以上の暗さに、ウラナが弱音を吐いたのだった。1人で行くというわけにもいかず、ウラナがエニセイの背中に抱きつくのを許したのだった。
すると少しエニセイにも悪戯心が芽生えるというものだ。
「......わっ」
「ひいいいぃぃぃっっっっ⁉︎⁉︎」
ウラナがその場で腰を抜かしてへたり込んでしまった。
「うわあああん」
「す、......すまない。やりすぎたか」
「..................。」
暗闇でもすぐに分かるほどすさまじい睨みをきかせてきた。
「あ......見ろ、外套が泥で汚れる。立って払っておかないと、な」
「..................。」
「......あ、あのだな、今回の目的はお前じゃないんだ、......そうだ、シェドとの通信はできるか?」
「..................。」
「なんだお前は!何が目的なんだ!」
「......いや、ホントに足腰立たなくて、介抱を、お願いできますか」
「......そ、そこまでか?すまなかった」
エニセイがウラナに近寄り、「だっこ」するような形で立たせ、それから肩を貸した。そこまできてウラナも通信機を取り出せるようになった。
”......が晴れたなんて、俺はそっちの方が許せねーよ。......”
「ずいぶん聞き取れるわね。シェドも地上に近づいてるのかしら?」
「あるいは、そもそも今いるこの場所から近いかだな」
「なるほど、どちらにしても、だいぶ望みはあるわね」
「望みはあるが、くれぐれも壊すなよ?今地面や天井を吹っ飛ばせば確実に死ぬぞ」
「分かってるわよ、それに今は杖代わりに使ってるから、使え!って言われてもすぐには反応できないし」
「思うんだがそれは明らかに使い方を間違えてはいないか?」
「いいのよいざという時にちゃんと使えれば」
”我から断らせてもらう。やめろ”
「いやー」
”何っ⁉︎子供か⁉︎”
「別に痛いことしてないでしょー」
”痛くないからというのは理由になってないぞ‼︎”
「あたしの刀なんだから好きにさせてよ」
”それは我に自我がなかったらの話だ。なくても目的外使用には眉をひそめるものだが......『鈍』を発動して、光沢をなくすぞ?”
「そっ、それはやめて!」
”本当に苦手なんだな”
「分かったからもう、勘弁して......」
「しっ、静かに」
不意にエニセイがそう言った。ウラナも黙り、そっと耳をすませる。
ーーーコンッ、......コンッ、......コンッ......
「......近いわね」
「しかもだんだん近づいてきている。俺が先に行って様子を確かめるから、ウラナ、お前はあくまで出口を確認しつつついてこい。後ろを見ておけばいい」
「分かった」
エニセイが何度か前に進んだり、また後ろに下がったりした後、ちょうどマンホールのような場所の真上で立ち止まった。
「ここが一番、音が近い。おそらくこの真下から音がしている」
「ちゃんとここから地上までの道は覚えてるから、この下に行く?これ、下の階層に行くやつでしょ」
「そうだな」
エニセイがそのふたを開けると、音はより一層大きく聞こえた。先導して飛び降りたエニセイが何かを見つけたらしく、ウラナの降りるのを手伝った。暗さにおびえるあまり、通常ならひょい、と飛ぶところさえ怖気付いていたからだ。
「見ろ......はしごだ。たぶんはしごを上る音なんだろう」
しばしじっと待っていると、やがて手が伸びてきて、2人、姿を現した。
「誰だ!」
当たり前だが、警戒して叫ぶ向こうの声が聞こえる。間違いない、シェドのものだ。
「シェドか?安心しろ、エニセイだ。ウラナもいる。もうここから地上までの道は分かってる」
「エニセイ......ウラナ?本当に?」
「ああ、よくやった、シェド。ずっと暗いところで苦労しただろう。お疲れ様」
シェドがまぶしいだろうと、懐中電灯を直接照らすようなことはなかったが、それでもぼんやりと明るく見えたシェドの顔は安心でほころんでいた。
次の60話から、レイナ&ミュールサイドになります。




