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現世【うつしよ】の鎮魂歌  作者: 奈良ひさぎ
Chapter7.Ketterasereiburg 編(覚醒)

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Course Out7 あの頃、葬儀死神の国では

番外編、第七弾です。今度は葬儀死神たちの昔話です。

『招集令 第17305号  天蘭様


 未練死神教育第一期生候補の選定試験の対象となったため、以下の通りに指定した日時、場所に来て頂くようお願いいたします。

 なおこの招集令には絶対的な効力はないため任意という形ではありますが、特別な事情がない場合の欠席は禁止とします。』


 それはまだ、彼女が子どもの頃。

 それまで自分に宛てられた手紙など見たこともない彼女が、はじめて自分の名前が書いてあるのを目撃した瞬間だった。


「お母さま!」


 彼女はすぐさま誰かにこのことを言いたくなって、母親のもとへ行った。

 母親―――すなわち、青蘭(せいらん)


「どうして私の名前が?」

「これはね、天蘭、あなたのおばあさまが考えたことなのよ。未練死神、というのを知っているかしら」

「えっと......知ってる!前に霜晶が言ってた!」

「そうなの?」


「うん、『私たちが葬儀死神、と呼ばれるのには理由があるのです。私たちより後に、元は人間だった未練死神が生まれたからなのです』とか何とか」


「霜晶くんの言う通りよ、天蘭。私たち葬儀死神の中には、同じ死神を名乗るのは気に食わない、って言って譲らない人たちもいるけど、それは違うのよ。確かに未練死神が生まれた経緯だけをとってみれば、そう言いたくなる気持ちは分かる。けど、彼らがいてくれることで私たちにもいい影響があるのよ」


「どんな?」


「一番大きなところで言えば、当時協定を結んだ葬儀死神の人たちが出した条件で『死神を名乗ることが出来る代わりに、悪魔の現世への影響を排除し、また死神の安全に努める役割は、未練死神が担うものとする』というのがあって、その条件を受け入れたこと。彼らは―――今では結局不可能だったって結論付けられた錬金術の技術を応用して、いろんな能力を手に入れた。そのおかげで、この間の戦争も一般人の犠牲はほとんどいなかったと聞いているわ」


「じゃあ何で、こっちからその未練死神の世界へ行くの?」


「私やお母様......宵蘭様は、積極的に未練死神たちと和解して、親睦を深めていこう、という方針をとっているのよ。もちろん持ちつ持たれつの関係を続けていこうじゃないか、と考えてる中立派もいるのよ。この間の戦争が終わって、あちらのトップ―――主死神様になった人は、とても教育者として優れている、という話なのよ。幸い向こうのトップ陣も和解にかなり積極的だから、そのことを進める一環として、教えを乞おうじゃない、という話なのよ」


 もしかすると当時、この試験の受験資格を得た子どもたちは、試験を受けてある程度の成績をとりさえすれば未知の世界へ行けると、多くがワクワクしていたのかもしれない。実際、天蘭たちが未練死神の国へ派遣される前から幼馴染で天蘭とよく遊んでいた霜晶も、試験当日の朝は目をきらきらさせていた。霜晶の場合、単純に子ども心からくる興味なのか、それとももっと深い意味があるのかはよく分からなかったのだが。


「そんなに今から期待できるの?」

「もちろんです。向こうには、こちらが行くことは知らされていないそうですが、私たちは未練死神の同級生と時間を過ごせるかもしれないという、大きなチャンスを目の前にしているのです!何としてでも選ばれなければ」


 ふんっ、と鼻を鳴らし、躍起になる霜晶。後にメンバーが決まった時も、そのことを一番喜び、表現していたのは実は霜晶だった。



* * *



 未練死神の国には、主死神や副主死神の生活の場―――私邸であり、統括の拠点―――公邸でもある、大殿が存在する。同じく葬儀死神の国には、第一位の位にある者が住み、様々な重要事項を取り決めるための場所がある。試験はそこで行われた。その昔中国で行われていた科挙の最終試験に、殿試、と言って、皇帝の目の前で試験をするものがあったそうだが、ちょうど感覚的にはそれだ。もちろん通常の仕事があるため葬儀死神第一位の者が試験監督になることはないが、「ちょっと覗きに来る」ことが実はその日の業務の中に入っていたりするのだ。


 普段そんなお偉いさんの顔なんて見ることは珍しいから、子どもよりむしろ付き添いに来た大人たちがおどおどしていた。対して子どもたちは分かってるのは「テスト受けに来た」ことぐらいで、特に改まっている子などいなかった。未練死神の同級生と、だけではなく、同じ葬儀死神どうしでも友達になっておきたいと思ったのか、霜晶は休み時間にあちこちの部屋に行って、話しかけていた。天蘭も初めは彼についていって、色んな子と会っていたのだが、だんだんついていけなくなり適当なところで引き上げた。そのあとは頭を休めようとボーッとしてみたり、隣の席の女の子とおしゃべりする程度にとどめた。


 子どもたちはその日朝から呼び出され、試験を受け、終わったのは夕方だった。大抵の子どもたちはへとへとだ。天蘭も例外ではなく、自力で家に帰るには体力が残っておらず、ちょこん、と椅子に座っていた。へとへと、と言いつつ大半の子は親のお迎えが来て帰ってしまい、静かになった教室。そこにてくてく、とでも聞こえてきそうなほど軽快な足音がした。振り向くと、彼だった。


「霜晶?」

「まだいたのですか?お迎えは?」

「ううん、来てない。偶然お母さん、仕事入っちゃって、迎えに来れないんだって。だからちょっと休んでからにしよっかな、って」

「そうだぅたのですね。外は寒くて、一人で雪を踏み分けて帰るには少し寂しいですね。一緒に帰りましょう......と、言いたいところなのですが」

「......なの、ですが?」

「生憎、今日話しかけた子たちととても仲良くなることが出来まして、数人で帰る約束をしているのです。先ほどまで天蘭の隣にいた女の子はもう帰ってしまったようですし、その様子を見る限り、一人で帰るのでしょう?それはやっぱり忍びない。よかったら、一緒に帰りませんか?」

「......男の子、ばかり?」

「えっと、そうです。女の子のいくらかとももちろんお話ししたのですが、あちらはあちらでグループを作っていまして。彼女らを全員入れるとなると大人数となりましたので、諦めたのです」

「うーん。......じゃあ、いい。私の家、そんなに遠いわけじゃないし。一人で帰るよ」

「そうですか.........。ただ言っておきますと、窓から見えるのよりずっと、雪は深いです。くれぐれもお気を付けて」

「分かった」


 また軽快な足音を立て、霜晶は去った。天蘭は水筒に入った温かいおしるこ―――彼女の大好物なのだ―――を少し飲み、息をついた。


「分かってないよ、バカ......。霜晶の、バ――カ......」


 家も近くて、赤ちゃんの頃から友達だった霜晶。

 外で遊ぶのも、ご飯食べるのも、果ては一緒にお風呂に入って、隣同士で寝るのも霜晶。

 何もかも一緒。このまま大人になっても、ずっと一緒なんだと、そう思っていた。

 別に霜晶が悪いわけじゃない。むしろいつも通り、天蘭と一緒に帰ろうとしてるのに、それをわざわざ断った天蘭に非があるのだ。だが生まれて初めて、霜晶にそんな感情を抱いた。

 それでも天蘭は、心のどこかで思っていた。もしかしたら、もしかすると霜晶は戻ってくるかもしれない。ちょっと用を思い出したとか何とか言って断って、忘れ物でも取りに来たかのようにひょっこりやってきて、自分と一緒に帰ってくれるかもしれない。

 だがそれはなかった。代わりに聞こえたのは、違う足音。仕事が早く終わったから間に合った、とにこにこして言う母親の青蘭。その笑顔を見ても、天蘭の心の中に生まれたもやもやは消えなかった。


......やっぱり。霜晶の、バカ......



* * *



 試験が終わって数日して、追加のお知らせが届いた。


『追記


先日行われた試験ですが、採点をした上で順位をつけ、その上位10人が対象となる予定です。対象となった方には後日、各種書類が送付されますので、その際はご確認下さい。よろしくお願いいたします。』


 先日のように天蘭が母親に見せると、けげんな顔をした。


「何を勝手に......!」

「勝手、って?」

「本当は基準点を決めて、それを超えた子は全員、対象にするつもりでいたのよ。あまり多くは行かせられないとは言え、15人から20人くらいを予定していたのに、今になって10人なんて......」

「誰が変えたの?」

「あのトップのジジイに決まってるわ!お母様―――宵蘭様の、葬儀死神第三位権限による命令なのよ?それをひっくり返せるとしたら一位か二位、しかも今回のことに二位は一切関わっていないっていう話だから、必然的に決まってくるのよ。全く、そこまで未練死神が嫌いなのかしら?」

「でも未練死神ってすごいんだよね?」

「え?......ええ、そうよ」

「霜晶が言ってた。未練死神はすごい能力を持つ人がいっぱいいるから、もし葬儀死神相手に戦争を起こされたら、ひとたまりもないって」

「そう。私たちが和解を進めようとする理由はもちろん他にもあるけど、それも大きな理由の一つよ。勝てない相手を一方的に憎んで、敵対視するほど愚かなことはないわ。逆に、彼らを味方にすることが出来れば、悪魔に対してより徹底的に対抗できる」



 それからまたいくらか経って、天蘭のもとに書類が届いた。未練死神の国へ、行くことが決まったのだ。


「......順位表」


 ご丁寧にその書類には、誰が何位で、というデータの記された紙も入っていた。天蘭は2位だった。同じ紙の下の方に書かれた説明を読んだ。......1位〜5位の5人を即派遣、6位〜10位の5人は途中から編入。前の追記から、更に内容が変わっている気もした。


「霜晶は3位、4位は玖雷(きゅうらい)、5位は北星(ほくせい)......1位は、氷天(ひょうてん)


 本当に霜晶以外、名前を知らなかった。......と、


「天蘭?霜晶くんが来ているわ。中に入れるわね」


 とたん、ダダダダッ、と足音がし、見慣れた顔が現れ、聞き慣れた声がした。


「天蘭!」


 外は寒波に見舞われ、雪の好きな子どもたちもさすがに寒がって家を出ない中、霜晶はそれこそ無邪気に外を走り、天蘭の家に来たのだ。帽子も手袋もしたまま、霜晶は天蘭の手を握り、まくしたてた。


「よかったです天蘭、私も天蘭も行けることになって!向こうに行っても一緒です!......」

「.........バカ」

「え.........?」

「霜晶の、バカ」

「天ら......?」

「バカ!!これからも一緒だって言うなら、どうしてこの間は!この間は、一緒に帰ってくれなかったの!」

「それは......」

「どれだけさみしかったか!何で......!」

「......ではなぜあの時、断ったのですか?」

「............。」


「天蘭はあの時、わざわざ自分から断ったではありませんか。迷ったそぶりを見せたのならまだしも、あの時は特にそんな様子はありませんでした。確かに私はいつも天蘭と一緒です。けれど、頭の中までは一緒にできません。天蘭自身が、その気持ちを表してくれなければ分からないんです。その時天蘭が私と一緒に帰ると言い張ったとして、私が断って、天蘭と一緒に帰ったかどうか......というと、その確証はありません。けれど......」


「.........分かっ、た」

「......天蘭?」

「分かったよ。私のワガママだった。霜晶は、さ、すごいよ。そうやって正しいことをいつでも、ずっと素直に言えて。テスト頑張って、霜晶より成績がよかったのも、こんなことでいつまでもグダグダ言ってちゃ、台無し、だよね......」

「......そんなことは、ないです。私だって、嘘はつきます。例えば今、私は......」


 どさっ。


 彼の声が、途絶えた。




「今日わざわざ、行くこともなかったんじゃないの?」


 霜晶は、天蘭の部屋のベッドに寝かされていた。

 彼はただでさえ寒い葬儀死神の国でも寒いと言われたほど強烈な寒波に見舞われ凍えるこの日、改めて派遣メンバーに選ばれた喜びを分かち合おうと、5位の北星、4位の玖雷に会いに行った。さらに1位の氷天の家に行こうとしたが場所が分からず、辺りをくまなく探したがそれでも見つからず、諦めて天蘭のもとに先に来たのだという。そして無理がたたって、熱を出して倒れた。


「霜晶がそんなことするなんて。さっきの賢いとか言ったの、取り消しだね。やっぱりバカだ」

「倒れずに帰ればそうならずに済んだんですがね......」

「そんなに急ぎじゃないでしょ、まだ行くまで日にちがあるはずなのに」

「......実は主に、氷天という方に会いたかったのです」

「あの1位の?」

「そんな名前の子は、あの日見かけませんでした。女の子には比較的話しかけなかった......というのもあるのでしょうが」


☆「そん探してくれてる霜晶ゆうのは、あんたのこと?」


 天蘭でも、もちろん霜晶のものでもない、声がした。


☆「誰、とは言わしぇないよ。わたしが今さっきまで話してた氷天だもの」


 仁王立ちで霜晶の部屋の入口を塞ぐ彼女は、心が洗われる......とまで言っても過言ではないくらい、透き通った水色の髪をしていた。クリスタルブルーとか、セルリアンブルーみたいな、そんな感じの色。だがそれとは裏腹に、彼女の身なりはお世辞にもきれいとは言えなかった。汚れこそそこまで目立つものはないが、もう何度も、何度も着ているのか、あちこち擦れて穴があいて、ほつれて糸が伸びていた。


「あなたが氷天、なのですか?」

☆「失望したでしょ?でも確かに、あんたたち2人よりよか成績、とったんばい」

「その特徴的な方言......行政区の出身、ですか?」

☆「ずいぶんざっくりゆうんやね。でも合ってるよ。こん国有数のスラム街、南部第四行政区の出身」

「行政区にも、資格通知は届いたんですね」

☆「当たり前ちゃ。あんだたちのごたぁな高貴な生まれからしゅればがとからんけん、理解に苦しむかもしれんけんばってん、南部は真っ先に行政区に指定しゃれたおかげで、まいまい暮らしやしゅくなっちるんやけん。......もちろん、相変わらずっち人もいるばってん。どっかんなんげなっちゆうお偉いしゃんの威張っち金ばらまいとうだけで、仕事げな仕事もせんしぇいでね」


 霜晶も天蘭も、高貴と言われれば、そうなる生まれだ。天蘭たちの家は正確に言えば葬儀死神トップを中心とする統制派と対立しているが、そんなことは氷天にとって関係のないことなのかもしれない。


「それは......」

☆「まいよかよ。そげなんあんだたちに言ったっちどーにもいかんしね。で?なしてうちに会いたかったと?」

「えっと......何と言いますか、単純な好奇心と言いますか......」

「霜晶にもそんなことあるんだ!全部に深い意味があるのかって勝手に思ってたけど」

☆「好奇心かぁ......がとかるちゃ、なんっちなく。実はね、うちもたまがった。ましゃか1位、っちれるなんてね」


 いっちゃんおおじょうしたんはお母しゃんでしゃ、とにこにこして氷天は続けた。


☆「ましゃか即派遣組に選ばれるっちは思わなかったのごたぁでしゃ。いまぁ荷物やらなんやらで大忙しばい」

「荷物ですか......。そう言えば私たちも、用意しなければいけませんね」

「そうだね......。何が要るんだろ。筆箱と、非常食のおしること、......」


 まるでちょっとそこらへピクニックにでも行くような感じで、天蘭が言った。


☆「あんだたちの用意しゅるんじゃなかやろ、用意『しゃしぇる』やろ」


 使用人に、である。


「違うわよ!さすがにこれぐらいは自分で......」

「よかったら氷天さん、一緒に準備、しませんか。というかいっそ、私の家にお住まいになられませんか」

「は!?!?」

☆「え.........どげんゆうこつ?」さすがに氷天も不思議がっていた。

「今の間だけで思ったんです。氷天さんと一緒にいると、楽しそうだなって。それにせっかく長い間に出かけるのですから、少しでも楽しいものにしないと。それに......」

☆「まだあっけんと?」

「まだまだ氷天さんの話、面白いことがありそうなんです。たくさんお話、聞かせてください」

☆「そげな大したばいもんなかばってん?」

「それでも、です」

☆「......がとかった。ばってんお母しゃんば1人で残しゅこつになるんちょん」

「それも心配ありません。うちを使っていただいても、構いませんよね?」


 側に控えていた使用人は一瞬返事に困ったが、じっ.........と霜晶が目を合わせると、慌ててウンウンとうなずいた。霜晶らしくない強引さだ。


「どうやら父上と母上は昔......今も、かもしれませんが、女の子をお望みだったようで、今もこの家のどこかにたくさん、かわいらしい服が眠っているんだとか」

☆「ほんなごと!?そいはうちの着なきゃ」


 気づけば氷天も予想外のことがたくさんではしゃいでいた。


 その隣で熱を出して寝込みながらも話している霜晶のさらに隣で、天蘭が「2人だけのいい雰囲気」を目の前で見せられ、ひどくふくれていたことを霜晶は知らない。




「今行くのは、見送り......ですか」

「そうなんだ、この前の検査で、いろいろ引っかかっちゃったところがあるみたいで。代わりに6位の子が繰り上げになるんだってさ。一応知り合いなんだけど、遼条、っていう女の子」


 また別の日のことだった。霜晶は5位の北星からみんなに伝えてほしいことがあると言われ、話を聞きに来ていた。北星はもともと体調を崩しやすいらしく、今回も出発までに復帰は難しそうだということで、6位の遼条という子が繰り上げとなった。

 そしてその遼条に会いに行ってみると、


「はじめまして。たぶん話したことないと思ったので。霜晶です、よろしくお願いします」

「(......すごい)」

「あの......もしもし?」

「(......かっこいい)」

「えっと......もしもーし」

「やったーーーーーーーっ!!!!!!!」

「えっ......!?!?」

「よろしく霜晶!!ボクはいつでもOKだよ!」


 突然叫んだかと思うと、また唐突ににっと笑って親指を立て、そう言った。


「また会おうね!」


 そして霜晶が何か言う前にとっととどこかへ姿をくらませてしまった。


「一体、何だったのでしょうか......」


 霜晶にはそれしか言えなかった。



 そう、はじめは遼条は「例の葬儀死神の教え子一期生の5人」には入っていなかったのだ。だがこの突然のメンバー変更は、後に5人それぞれに影響を与えることになったのだった。



* * *



「......ふう」


 今、彼女は未練死神の国にいる。当時和親派の筆頭だった彼女の祖母、宵蘭は既に亡くなっている。実は彼女はこちらの世界に留学するために葬儀死神の国を出て以来、故郷に帰っていなかった。だから詳しい事情は分からないのだが、おそらく母親の青蘭も、自分に家督を譲っている。そして彼女は、共に異国で学生時代を過ごした他の4人と、ほとんど連絡を取っていない。理由は簡単だ。彼女はペルセフォネのもとを卒業してからついこの間まで、悪魔に紛れてスパイをやっていた。そんな状況で外部、特に死神とは話などできるはずもない。


 孤独だった。もういいのではないか。本国からいっこうに帰還命令が下る様子はなかった。いつしかその空間から脱出することばかり、考えて過ごしていた気がする。結果は戦争に参加して、知り合いだが忘れられていたエミーに瀕死まで追い込まれ、何とかハデスに認知されここに残ることになった。


 よかったのか、これで。


 味方のもとに戻れたという点で言うなら、あっぱれだ。だが何となく、自分が思い描いていたものとは、違う気がするのだ。

 彼女はあったかいのが持続する、まほうびん、とやらに入ったおしるこ(メイド・イン・冥界だ)をそっと飲んで、ほっ......と息をついた。彼女がいるのは自分のためにわざわざ作ってもらった執務室だ。隣にプライベートの部屋まで用意してもらっている。本来なら彼女はただの十聖士なので、どこかに家を見つけて住まなければいけない。だが事情も事情、それに大殿の部屋はどうせ腐るほどある、ということで大殿住まいとなったのだった。


「どうかしたの?ずっと宙を見ていたけれど」

「え!......ああ、すみません」


気が付くと目の前にシャンネがいた。


「いえ、別に謝ることでもないわ。いろいろ思うところがあるのよね。なぜかそういうところは、妙に人間臭いわよね」

「思うところ......ってほど、大げさなものじゃないです。ただ、昔のことを思い出して......」

「霜晶くんのこととか?」

「そうで......え!?!?」

「そんなに動揺しなくても」

「べ、別に動揺は、してません。いきなり霜晶の名前だけ出てきたのに、びっくりしただけです」

「すごく昔を懐かしんでるように、聞こえたわ」


 ヘッドホン越しに、霜晶と会話した時のことだ。


「......そうですか?」

「ええ。今までつらかったんだろうな、って。もしあれなら、あちらの国に帰ってもいいのよ?」

「げほごほっ、ごほごほごほっっ!!!」


 唐突だった。飲み干そうとしたおしるこでむせた。


「そっ......それは、どういう意図で?」

「どういう意図も何も。故郷に帰ることを、遠慮する必要はない。そういうことよ?」

「でも私、十聖士に、なってしまいましたし」

「レイナちゃん、ウラナ、エニセイくんで3人もいない時点で、一緒だと思わない?......それに十聖士に多くを依存しなければいけないほど、冥界は弱くないわ。少なくともセントラピスラズリの問題は、十聖士にどうこうできるような問題じゃ、なさそうだし」

「では......」

「天蘭ちゃんは悪魔の有力な内部情報もたくさん、つかんでいるんでしょう?ならなおさらよ。大手を振って、帰ることが出来るわ」

「......1つ、いいですか」

「ええ。もちろん」

「......霜晶と一緒に、帰りたい、です」

「まあ」


 シャンネが手で口を覆った。


「ちょっと!どういう意味ですか!?」

「いえいえ、何も。そうね、その方がいいわよね。......けど、彼が戻ってくるのには、もうしばらく時間がかかりそうよ」


 ヘッドホンから流れてくる音。

 レイナたちとの通信を終えて以降も、たびたびつけている。そのヘッドホンからはここ最近、ずっと何かが爆発する音、激しい銃声が鳴り響いていた。

今回はじめて登場した氷天という女の子は、博多弁です。のちのち標準語に直したセリフ集を設定集の方で投稿しますので、ぜひそちらもご覧ください!

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