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現世【うつしよ】の鎮魂歌  作者: 奈良ひさぎ
Chapter7.Ketterasereiburg 編(覚醒)

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#49 それぞれの想い

『Re and Ur r captured Garnet may give us hope Teleport Hurry.』

(レイナとウラナは捕らえられた、ガーネットがあれば何とかなるかもしれない、送ってくれ、早急に)


「そんな簡単にガーネット送れ、って言ってもなあ......」


 ミュールから伝えられた内容を聞いて、マドルテがつぶやいた。


「え、無理なんですか?」


 足のケガだけで済んだため、完治はしていないが仕事に復帰したシャンネもいた。


「あ、いや、別に無理ってわけじゃないよ。この冥界にある刀一つ、現世の閉鎖空間に送るぐらいで音を上げてちゃ筆頭研究員の名が廃れるね。ただ、時間はかかる」

「やはり、一筋縄ではいきませんよね」


「とは言え、普通の刀ではできないことなんだよ。前の戦争の時のように、送る相手のいる場所が特定されてるならできる。これは『ガーネット』なんて名のついた、冥府革命集団の創り出した妖刀だからこそできること。どうやら『ガーネット』には、ある程度自我があるらしいんだ。今自分を握っているのが主人なのか、あるいはそうではないのか判断するくらいなら一瞬みたいだ。だけど困ったのは、移り気なこと。主人か否か判断するところまではいいんだが、主人じゃなかった時に、その人を新たな主人として認識するみたいなんだよな。その難点を除けば、だいたいの転送位置を指定しておけば、あとは『ガーネット』自身が主の居場所を探してくれる」


「......確か、前の戦争の時、ウラナちゃんはベガに渡して......」

「おいおい、嘘だろ」

「確認はとりますが」


 ベガはどこの省に属しているというわけでもないので、直接連絡をとることができず、アルタイルを経由することになった。


「......それより、お怪我は大丈夫なんですか?」

「わたしのこと?ええ、それは全く問題ないわ。完全に治るまでにどれくらい時間がかかるかは分からないけれど」

「そうですか。あまり無理はなさらないでくださいよ」

「分かってるわ。それより早急にさっきの件、お願いね」

「了解です」



 結局アルタイルからの返事はすぐに返ってきて、『ガーネット』はすでにウラナに返したのだという。同じ内容をウラナから直接伝えられ、そのままもらってしまおうと曖昧な返事ばかりしていたところ、ウラナ本人が乗り込んできて、あっさり50連敗を喫したのだという。


「ちなみにその50戦全て、5秒以内の決着だったそうです」

「相変わらず無茶苦茶するわね......」

「ってことは、今ポチッと転送作業しても、大丈夫ってことだね?だいたいの位置は聞いてセットしてるから」

「構わないと思います。ウラナちゃんの家に実物があるかどうか、確認する必要があるでしょうか?」

「いや、別にいいんじゃない?もしダメだったら、エラーが出るようにしてるから」

「そんな適当でいいんですか......?」

「大丈夫大丈夫、ウラナに限って雑に管理してるなんてことないだろうし」


結論。

エラーが出た。


「ほら言ったでしょう!?ちゃんと確認するべきですかって!?」

「落ち着けってシャンネ。『ガーネット』のせいじゃない。僕の転送システムの不具合だよ」

「そっちの方がより問題です!!」

「ま、最近メンテナンスサボってたからなあ......」

ぼんやりつぶやきながら、マドルテがしゃがみ込み、あれドライバー、とまたつぶやいた。

「もう!やる気あるんですか!?ウラナちゃんとレイナちゃんの一大事なんですよ!?いいです、わたしがやります!」


「やめろ」


「......!!?」


 普段のマドルテからは想像もつかない、ドスの効いた声だった。立ってマドルテの後ろにいるシャンネが、しゃがみ込んでいる彼のあまりの変化に、口を開けず固まっていた。


「たやすく触れるな」


「.........?」


「ああそうだ。その機械の前に座ってやってることはただの武器の転送だ。ただのな。だけど僕がそのシステムを開発して、やっと一人前の研究者になれて、悪魔とか、ここに攻めてくる敵に迅速に対応するのにもってこいだって認められるまでに、どれだけかかったと思ってる?この冥界では研究者はあんまり役に立つ存在だって認められてないんだ。戦えない、たったそれだけの理由でね。たとえその『戦う』行為を大きくサポートしているのが研究者だっていう事実があっても。それでも知って欲しいんだよ。研究者ってのが、役に立つ、誇れる仕事なんだって。能力なんかなくても、戦闘向きでも何でもない能力しかない人でも、いくらでも活躍できるんだって。そうやって一生懸命頑張ってきた証を、お前は、氷が楽々操れるお前は、握りつぶしでもするつもりか?そんなに面白いことかよ?」


「そんな、つもりじゃ......」


「じゃあ何でこの転送装置に触ろうとした?お前が思ってるほどこいつは単純じゃない。転送開始地点の細かな指定、この装置と開始地点の距離の測定、転送予定地点の指定、冥界-現世間移動の有無、冥界脱出に必要な速度条件の算出、最小限のエネルギー消費で抑えられる経路の特定、転送物が破損しない程度の限界速度の計算............他にもたくさんのことを、全てこの一台でやってる。そんな現世顔負けの精密機械を扱いきる自信があるのか?僕だってそれなりに集中してないと扱えない。それでもやるっていうなら、ご自由に」


「じゃあ、.........じゃあ、初めから、真面目にやって下さいよ......!何でそうやっていつも、ふざけて!前の戦争の時だって!どうせ戦場に出られないってひがんで、死と隣り合わせの人たちの気持ちを考えたことは!?」


「......あるさ」


「......?」


「あるよ。十分にね。僕の両親は悪魔戦争で死んだ。悪魔側に捕虜にされて、悪魔たちが全滅するときに、一緒に殺された。そんな境遇にある人が、考えたことがないなんて、そう思うか?」


「それは......」


「何でペルさんが、自分の後継にシャンネを指名したと思う?」


「.........。」


「単に信頼してたとか、そういうのじゃないと思う。いろいろ愚痴言ったり駄々こねたりしてたけど、なんだかんだで人を選ぶようなことはしなかったから。僕もよく叱られたけど、信用がなくてそうしてたんじゃないって自信はある。......任せられるのが、シャンネしかいなかったからだ。ペルさんは幼い頃からずっとアレクサンドロを師に仰いでた。アレクサンドロが主死神をやってた時期が長くて、ペルさんがいざ主死神になった頃には、いつ死んだっておかしくない歳で、しかも右も左も分からない悪魔戦争の後処理を主導しなきゃいけなかった。ペルさんが思い描いてた冥界トップ陣はきっと、若くて期待ある人が、年上の側近に年功を活かした助言を受けて国を動かしてく、そんな姿なんだよ。僕は確かに、全てを完璧にして、これまでやってきたなんてとてもじゃないけど言えない。けどそれはこれまでの1100年を無駄に生きてきたこととイコールじゃない。僕は一研究者として、副主死神として、シャンネを助けられる策を考える。アルテミスだってそうだ。僕が真面目にやってるってあんまり受け止められてないのはよく知ってる。......だけど、僕にやれることまで、奪わないでくれ」


「......すみません」


 マドルテがこんなに流暢に、こんなに多くのことをしゃべるのを聞いたのは初めてだった。


「もう転送作業は終わった。通常業務に戻るぞ」



* * *



 シャルロッテが王宮の廊下を壊して回ったときの音はそれなりに外に聞こえていたらしく、一人の男が慌てた様子でレイナのもとを訪れた。


「相当大きな音がしたようですが、いかがなさいましたか」

「さあ?確かに何だか物騒な音はした気がするけど、心当たりはないわ」

「......そうですか。こちらでも念のため原因の調査を行わせていただきます。ひとまずご無事でなにより。......失礼ですが、なぜミズ・リンツはそちらに?」

「私がスピーチの内容を考えている間何もしないのもいけないと思って、ウラナの話相手に呼んだ。何か問題はあったか」


「.........。」

「.........。」


 実際には戦闘になって、武器を持たないウラナが勝利し、口止めのためにここに拘束しているのだが。


「そうでございましたか。水を差すようになってしまい申し訳ございません。失礼いたします」



「あのぶっ壊しっぷりはごまかせないわね......」

「貴様がちょこまかと逃げ回るからだろう」

「あんたが突如逆上して武器振り回してくるからでしょうが。それで逃げない方がおかしいのよ」

「我々がどれだけ苦労をしてきているか、知らないからそのようなことが言えるのだろう」

「苦労ねえ。人殺して好き放題扱って苦労ですか」


「二人とも。そこで口争いしたって何も生まれないわ。シャルロッテ、あまりうるさくするなら、謀反の疑いありって、そう言うわよ」

「ぐぬっ......」


 さすがにその事態は避けたいか、シャルロッテは黙り込んだ。ウラナも特にシャルロッテを挑発したくてやっていたわけではないので黙った。

 だがみんな黙り込んでしまうとかえって居心地が悪くなったのか、今度はレイナが口を開いた。


「......ねえ、ウラナ。改めて、紅茶を淹れてくれないかしら」

「オーケー。砂糖は?」

「入れて。早く仕上げてしまいたいわ、ずっと気分が優れなくて」

「まあね。こんだけいろいろあって、元気でいられる方がどうかしてるわ。すぐに出すわね」


 それまでカタカタ、カタカタとまあまあの速度でキーボードを叩く音がしていたのだが、ふとその音は止み、レイナはマウスを片手で操作しつつ、頬杖をして画面を見つめていた。何か考え事だろうか。ちなみに外部とコンタクトをとろうとか、怪しいことをしなければパソコンも普通に使えるらしい。爆発したパソコンの他にもう一台あったので、それを使っていた。

 初めに使った時は特に意識していなかったが、紅茶の缶を見るとどうやらイギリス製のようだった。初の現世視察でレイナが日本を満喫している間、ウラナはイギリスに留学していたのでその時を懐かしみつつ、どうやってこの国まで輸入してきたのか不思議に思った。


「シャルロッテ、あんたも飲むの?」

「......いただこう」


 さすが軍人歴が長いのか、硬い姿勢を崩さなかった。


「ミルクが1人分ぐらいしかないんだけど。あんたの、何も入れなくていい?」

「......砂糖を入れてほしい」

「へえ。甘いもの、好きなの」

「うるさい。砂糖やミルクを入れた方が美味しいと感じるだけだ」

「案外かわいいじゃない」



どさっ。



 その部屋に響き渡るには、あまりにも大きな音がした。ウラナもシャルロッテも、どこから音がしたのか探した。ウラナはその音の異常性を察知して、シャルロッテは敵襲の可能性も視野に入れて。

 だが違った。


「レイナ......?」


 さっきまで頬杖をついていたレイナが、テーブルに突っ伏していた。


「レイナ!こら!寝るならベッドで......!」


 返事がない。ウラナは寝ている人なら起きる程度の声で叫んだのだ。

 ウラナがレイナに近寄ろうとすると、目の前を影が遮った。


「どうされたのだ、クイーン」


 もちろんシャルロッテがそう呼びかけても返事はない。


「クイーン?」


 レイナのあちこちを触り、何かを確かめた。ウラナには何を確かめたくてそれをしているのかは分からなかった。

 やがてシャルロッテがレイナの身体から離れ、息をついた。


「.........気絶だ」

「気絶......?まだクロロホルムの影響が残ってるっていうの?」

「違う。そもそもクロロホルムを少々嗅がせたところで簡単に気絶する人間はそうそういない。いるとすれば、体調を崩している者だけだ。別に貴様が気絶しなかったことは、不思議ではない。サー・グラーツなどは、疑問に思っておられるようだが」

「あたしはクロロホルムだって分かった瞬間に息止めただけよ?」

「......やはり貴様、ただものではないな」

「わざわざありがとう。で?あんたはレイナが体調を崩してるって、判断したわけ?医者か何かなの?」

「医者かどうかという質問に答えよう。正解だ。ドイツの医師免許は持っている。薮ではないから安心しろ。もう一つの方に答えよう。それも合っている。しかも女性にとって、最も重大な体調不良だ」

「女性にとって、最も重大?」

「クイーンは貴様の親友であると聞いた。だからあえてはっきりと言っておく。触診したに過ぎないから確実ではないが、経験上クイーンと同じ症状を示したものはほとんどが、......妊娠していた」



「......妊娠?」



「妊娠、の言葉の意味が分からないか」

「いや、それはさすがに分かるから。あたしだって女なんだから。......でも、まさか、ね」

「それが本当だったとしてもまだ初期だろうから、より信憑性は低くなるが......」

「とりあえずレイナをベッドに寝かせてあげましょう。手伝って」


 シャルロッテと二人がかりでそっとレイナを抱え、ベッドに移した。


「まさか身ごもった状態だったとはな」

「たぶん本人も分かってはないと思う。ちょっと調子悪いかな、ぐらいにしか感じられなくてね。そうなると、いろいろ面倒になるわね......」

「面倒?何がだ?むしろ好都合ではないか。生まれてくる子が男だろうと女だろうと、次期王になることに変わりはない。我々の国が安定するための大きな一歩だ」

「......へえ。つまりあんたは、レイナに赤ちゃんが出来た、っていう大きな出来事を前にして、あたしたちがのこのここの国に残る、その前提で話をしてるってことね」


「............理解に苦しむな。この国を脱走しようと企てるのはこの際自由にやってもらって構わないが、果たしてそれが叶うかどうか。我々を見くびってもらっては困る。貴様が圧倒したのは、この国にのさばる賊共が仕事を得ただけの代物だということを忘れるな」


「忘れもしないわそんなこと。その辺の下っ端にやらせるだけやらせておいて、お偉いさんのあんたたちはやってない、指示なんて出してない、あいつらが勝手にやった、とかいくらでも言い訳できるものね。......そんな屁理屈、今時しらけた小学生ぐらいしかやらないわよ?」


「貴様.........!私だけでなくサー・グラーツやサー・ザルツブルクまで侮辱を......」


「あら、ようやく挑発に気づいてくれたみたいね。よかったわ」


「ふざけるな!!この......」


「だから、ここで暴れないでって、さっきから言ってるでしょうが」


 すかさずウラナがシャルロッテから奪った刀をシャルロッテの喉元に突きつけた。


「さあ。せっかくあんたが医者だって分かったことだし、レイナの調子が良くなるような薬を作りましょうか。幸いあたしは現世の大学で薬学部を出たことならあるから、どれを使うか言ってもらえれば調合はするわ。......もし毒薬の作り方なんて教えたらこの刀、動かすわよ。その覚悟で言うことね」


 普段のウラナならこんな冷酷なことを言ったり、脅したりはしないのだが、レイナの体調を安定させて、脱出のチャンスをうかがうためならそう言うしかないと、自分を納得させた。


「.........。」


 シャルロッテは何も言うことなく、持っていた手帳にすらすらと書き込み、そのページを破ってウラナによこした。


「......体調が良くなると言っても、つわりなどのあまり公務が滞る、ということになっては困る。安静が必要と考え、数日間深い眠りにつけるような薬を作るのがよいと考えた」

「それでいいわ」


 本当にこのクイーンの部屋には何でも揃っているようで、ドアを隔てた別室にはなるが、調剤室まであった。

 ウラナが調剤室に入ると、少しして扉の開く音がし、シャルロッテが入ってきた。


「......施錠は万全に行った。見張らなくとも、賊が襲いに来ることはない」

「その『賊』ってのがいったい誰を指すのか、教えてほしいものだけどね」

「............」


 挑発に乗るだけ無駄と感じたのか、シャルロッテは何も言わなかった。


「......やはりあれは、秘匿通信だったのか」


 口にしたのは別のことだった。


「ま、そうでしょうね。打つのが早すぎて、ちゃんと伝わってるのかどうかは、分かんないけど」

「貴様は分からなかったのか?」

「もうちょっと遅かったら分かったかもしれないけど、あたしと相談してやったことじゃない......あ、ヘッドホンを奪い返すっていうのは2人で計画したけど。あれは完全にレイナが考えて、1人でやったことだから」

「......なぜ」

「......ん?」

「.........なぜ、そうまでして、逃げようとする?この国が、そこまで、廃れていると、貴様は、そう言うのか?」

「逃げようとする理由、って......あんた聞いてなかったわけ?さっき言ったばかりよ?」

「どうして、この国から逃れられると、そう考えるんだ?」

「それもさっき言ったはずなんだけど?」

「ここには逃げる者のために、様々に罠が仕掛けてある......そればかりではない、人の意思を喪失させ、自由に従わせられるようになるガスまである。我々の上司、サー・グラーツ総統の開発したものだ。それが......貴様は、恐ろしく、ないというのか?」

「そんなので怖気付いてちゃ世話ないでしょうが。そんなのひらひらかわせばいい話じゃない。あたしにとっちゃ目の前で電球が割れる方がよほど怖い」

「............それを、......それを、サー・グラーツの前で、言えるのか」

「言ってやろうじゃないの。あのねえ、所詮人間の作ったガスなんか知れてんのよ?それともあんたは、そんなバケモンみたいな能力使っておいて、そのサー・グラーツとやらに刃向かうのが怖いって言うの?」


「............怖い」


「.........?」


「怖いに、決まっている!私は、......私は!あの男に、全てを潰された!全て............この国が初めから忠実な者ばかりだと思っているなら、それは、大きな間違いだ!私が、...私たちが、王の死んだあの事件の後、どんな目にあったか......!親という身寄りがいなければ生きていけないまだ幼い私から、あの男がどれだけのものを奪ったか!高笑い混じりに人を使い、奴隷のように扱い、使い終えれば汚れたゴミのように簡単に捨て去る.........あの男を、あの男を、殺してやろうと、痛めつけてやろうと、何度、何度思ったことか!!」


 決して強硬な姿勢を崩さなかったシャルロッテが、大粒の涙を流し吐露した。これまで思っていたことを散々吐き出して、それでもまだ足りないような、悲痛な叫びだった。


「.........あんた.........」

「この国の途方もない幻想と、そう言ったな!?答えてやる、そうだ、途方もない幻想に過ぎない!私でも今我々が手を染めていることが、国際的に許されざることだと分かる!貴様にあんなことを言われなくとも分かっていた!だが......従うしかなかった!たとえ私の目の前で、弟も両親も、夫も殺した男でも!」


 声はかすれかすれ、嗚咽も何度も繰り返し、シャルロッテが言った。


「それでもまだ言うか!?家族を守れなかった絶望の後に待っていた服従の一択しか与えられなかった私を、卑劣極まりないと!!?」



「...............シャルロッテ」


 ウラナは手でシャルロッテを促した。ひとまず調剤室を出よう、そう示した。

 もう”西の国”の高官ではない、一人の犠牲者としての彼女の手を引き、ベッドに座らせた。ウラナもその隣に座った。


「.........あのさ」

「............。」

「......こんなこと言っちゃあれだけど、あたしも、一緒かもしれない」

「.........どういう、ことだ」

「あたしに本当の親なんてのはいないも同然だった、ってこと。ろくに育ててくれることもなかったし、戦争起きた時に敵側になって、処刑されて両方死んじゃうし。あたしがこの手で処理してやろうか、とさえ思った。.........ろくな人生じゃないでしょ?」

「私が言える義理ではない。少なくとも、貴様は真っ当だと思っていたのだがな」

「どういうわけか、あたしたちにはそういうのが案外多いんだけどね......」



 不意に大きな音がした。

 部屋のドアが壊される勢いで殴られていた。銃撃された痕まであった。


「何かしら?そんな物騒な訪問されても、こっちはそうホイホイ出て行くわけにいかないんだけど?」

「くそ、”例の女”か......どういたしますか」

「......んん?そんなもの蹴破ればいいじゃないか。何をためらっている?」

「......了解しました」


 その言葉どおり、何度か壊すような音がしたあと、派手に扉が倒れた。

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