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現世【うつしよ】の鎮魂歌  作者: 奈良ひさぎ
Chapter6.Ketterasereiburg 編(暗躍)

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Course Out5 花火大会

番外編その5。

レイナ、ウラナ、エミー、ミュールの4人が、日本の花火大会に行く話です。行くまでがメインみたいになってます。ごめんなさい。

「日本に行こうよ!」

「まーたですかぁ?」


 仕事中。レイナはミュールに、突然そう言った。


「またって、私ミュールと行ったことあったっけ?」

「ないよ。ウラナちゃんと一緒に行ってるでしょ。でもレイナが有給取った時って、いつも日本に行ってる」

「今度は夏祭り!このポスター見て!今年は1000年記念で特に大規模になるんだって!」

「へえ......で、誰と行くの?どうせダーリンでしょ?」

「ううん、ウラナとエミーを誘おうかなって思って。どう?」

「別に私はいいけど、ウラナちゃんとエミーさん、空いてるの?」

「それを今から確認するの」


 結局ウラナはもともと休みで、エミーはエリザベスさんに「たまにはのんびり休んできなさい!」と背中を押されたことで都合がついた。

 ウラナは何度か日本に行ったことがあるが、特にミュールは初めての日本だった。


「う〜ん、きれいな空気!そして暑い!犯罪級の暑さ!」

「だから言ったでしょ、日焼け防止に長袖なんて後悔するよ、って」

「ちょっと、レイナもエミーさんも、肌の露出多くないですか!?」


 レイナに至ってはノースリーブだった。

 レイナやエミーは現世の暑さを知っていた。はじめて現世視察にやってくる死神がまず驚くのは圧倒的なまぶしさ、それから冥界との大きな温度差なのだ。冥界はほとんどの時期が寒く、そのため外套が手放せない。

 だがレイナの薄着姿はあまりに刺激的だ。隣にいる同性のミュールがその4人の中でダントツに大きいレイナの胸に目をやってしまうほど。


「......ん、どうしたのミュール、目がうつろになってるよ」


 しかもそんな目線に気づかないのがレイナの危ないところなのだ。


「ねえレイナ、これなんて言うんだっけ?」

「ああ、それは扇子。パタパタすると涼しいよ」

「こうかしら?」


 扇子を持ったエミーがあおいで見せる。


「何か......大人の魅力を感じる......」

「お姉さんだねー」

「そう?」


 ふふん、とエミーは得意げだ。


「あれ?ウラナはどこ行ったの?」

「さあ?そういえばゲート通った時からもういなくなってなかった?」

「うっそ」


 まさかウラナ、はぐれたんじゃ?

 若干方向音痴が入ってるウラナが迷子になると......


「ごめん、心配かけた?」


 ウラナが背後を取っていた。


「ひっ!?」

「なっ、なによ、アイス買ってきただけ!飛行機の中で機内食食べそびれておなかすいてたのよ!」

「アイス、だと?どこに売っていた、ウラナ氏」

「え?あそこのお店。一番最初に目に入ったし、暑いからぴったりでしょ?」

「私にも食べさせろー!!」


 ミュールがウラナに飛びかかる。が、ひらりとよけたので、ぼてんっ!と音を立ててミュールが転んだ。


「食べたいんなら自分で買ってきなさい。お金あるでしょ?」

「しゅん......」


 とぼとぼと歩き始めたミュール。


「「ミュール、私の分もお願い!」」

「とほほ......」


 日本人離れした若い女子4人が、アイスを頬張りつつ談笑しながら歩いている。

 いくら国際空港と言っても、やはり珍しい光景に違いはないのか、それなりに注目を浴びていた。


「で?会場までどうやって行くの?」

「......このまま行くの?」


 レイナがすごく不思議そうな顔をした。


「え?」

「いや、十数時間のフライトの後そのまま行くつもりだったんだ、って思って」

「そりゃあ、てっきりそんなもんだと......」

「私だったら無理よ。夜勤が多くて睡眠時間が少ないのに慣れてるエミーとか、ほぼ無尽蔵に体力があるウラナだったら違ってくるかもしれないけど」

「体力無尽蔵って、ちょっと聞き捨てならないわね」

「ウラナが疲れてるのあまり見たことない気がするんだけど」

「いくらなんでもあたしだって疲れるわよ!前の戦争の時、何百体雑魚兵吹っ飛ばしたと思ってるの」

「「「何『百』......」」」


 単位がおかしい。


「今日はホテルに一泊しまーす」


 二人ずつ入るために二部屋予約しておいた。



* * *



「そういえば、あんたと二人になるのって、初めてじゃない?」

「そうですねえ」


 普段ペアにならない二人で部屋に入ろう、ということで、ウラナとミュールが相部屋になった。そしてさっきからミュールがずっとニヤニヤしている。


「なんでそんなに嬉しそうにしてるのよ」

「何にもないですよー」

「......わ、分かった!あ、あのね、そういう色っぽい方面の担当はあたしじゃないから!あたしにそういうの期待してもムダよ!」

「ホントに?」

「そういうのはレイナに期待して」

「そうなんだ。あ、私は適当にテレビ見てるから、ウラナちゃん先にお風呂どうぞー」

「はいはい」


 お言葉に甘えて先に入らせてもらう。


「ーーーん?」


 何か悪い予感がした気がするが、たぶん気のせいだ。よほど面白いバラエティ番組でも見ているのか、ミュールの大爆笑の声がこちらまで届いている。


「そういえば『ちゃん』って呼ぶなんて珍しい......」


 自分をちゃん付けで呼ぶのは確かシャンネさんとか、エリザベスさんとか年上の人だけのはずだ。同年代にそう呼ばれるのは新鮮さがある。


「あちっ」


 お湯の温度を調節するのを忘れていた。


「......あれ?」


 さっきの悪い予感が、不意にぶり返した。シャワーを止め、外の音に耳をすませる。


「テレビの音が聞こえない......いや、やっぱり気のせい?」

「どーん!!」

「ぎゃーっ?!?!」


 驚きのあまり声が裏返ってしまった。ミュールがお風呂場に飛び込んできた。


「......あれ?一緒にお風呂入るのイヤだった?」

「......別にいやじゃないけど、狭いでしょ、大人の女2人じゃ」

「私は狭っ苦しくても、大人数で入る方が好きです」

「あっそ」

「ちょっと!もっと構ってよ!」

「これ以上どう構えってのよ」

「ウラナちゃん意外と胸小さ......」

「殺すよ?」

「ひぎーっ!?」


 確かにそれは自覚している。レイナなんかと比べれば一目瞭然。......そもそもレイナと比べるのが間違っているのかもしれないが。

 しかも他のところでカバーさせて、自分でも胸が小さい方が戦闘に向いてるって、納得していたのに。


「世の中には言っていいことと悪いことがあんのよ」

「ごめんなしゃい......」

「そういうあんたは意外と大きいのね。レイナより少し小さいぐらいはあるんじゃない?」

「私は成長期に乳製品たくさんとってたから!」


 えっへん、とミュールが威張ってみせる。


「乳製品ね......それって本当に効果あるの?」

「そりゃいきなりどーん!と大きくなったりはしないと思うよ。要は好き嫌いせずにバランスよく何でも食べましょうってことなんだよ」


 なんでも、ミュールの家ではとにかくバランスのいい食事をすることを心がけていたらしい。

 ......乳製品の話はどこ行った?


「せっかくだし背中の洗いっこ、しよう?」

「ええ、まあ」


 レイナからしばしば聞くことだが、ミュールはとにかくさみしいのが苦手らしい。誰かと一緒にいないとダメなのだという。

 そして週に一度はプリンを食べないと機嫌が悪くなるとも言っていた。


「そういえば何で突然レイナは、花火大会行くぞー、なんて言ったんだろ?」

「レイナにはよくあることよ?そんな理由で?って思うような用事で日本に行くし。買い物しに行くー、なんて何度あたしが付き合わされたことか」

「でもなんだかんだで行ってるんだね」

「まあね。行かない、って言ったら脅してきたりするし」

「脅し?」

「あたしのためにかわいい服買ってあげない、って言うことがほとんどだけど、ものすごく忙しいときに誘われて全力で断ったら、あたしを総務省から追放してやる、とか意味不明な脅ししてきたことあったし」

「意外と現実的だよ?......まあ史纂弐課ぐらいじゃそんな権力はないけど、処理課が冤罪のひとつ捏造すれば強制連行できると思うし」

「冤罪って、あんたねえ......」

「機密省の闇は、深いのです......」

「ん?そういうことなの?」



* * *



 その頃、レイナとエミーの部屋では。


「レイナ、先にいいかしら?」

「あ、どうぞ!そっか、ごめんね。夜勤疲れ、まだとれてないよね」

「久しぶりの日本だから、飛行機乗るだけでこんなに疲れるなんて思ってなかったわ......」

「私は慣れてるからなあ......エミーでそんなのだったら、ミュールは大丈夫かな?もしかして無理してるのかな」



「どーん!!」

「ぎゃーっ?!?!」



 騒がしい声が隣からした。


「......心配いらないんじゃない?」

「うん、そうみたい」


 エミーがそれから少しして湯船に浸かると、安堵感が襲った。日本のお風呂でしか味わえない、寝てるときと同じくらいの落ち着き。


「ほっ......」


 落ち着くと急にまぶたが重くなる。


「(そういえば、最近夜勤続きだった気がするな......)」


 それが最後に思ったことだった。


「んっ......?」


 目を覚ますと、ベッドの上だった。


「おはよう、エミー」

「あれ?私、お風呂に......?」

「湯船に浸かって、溺れかけてたわ」

「え?」

「まったく、ずるっ、って音がしたから気づいたものの。しかもタオルも巻かずに裸だったし、警察にしては無防備すぎるんじゃない?」

「そうなんだ、ごめんなさい......」

「エミーがちゃんと起きるかなって、しばらく起きてたんだけど、朝まで起きそうになかったから」

「え?もう朝?」

「うん、まだ支度には早いけど」


 そんなことがあったなんて、不覚極まりない。

 自分の身体を見ると、ちゃんと服を着ていた。それも今日着て出かけるもの。


「服まで......」

「大変だったんだから。ホテルの人呼んで、2人がかりで服着せて」


 ふう、とレイナは息をついて、テレビをつけた。


「でもまあ、私も悪いよ。無理に連れてきちゃって」

「そんなことないって!私が油断してたのは確かだから」


 よりによって楽しいお祭りに行くような日に。


「今日の空模様はどうでしょうか、橋本さん?」


「わあ、ゆーりんだ」

「......友達?」

「ううん全然?」

「え?」

「最近有名な気象予報士さんなの。かわいくて、分かりやすい説明でも人気」

「へえ......」


 日本という国の中のそんなことまで把握している死神はせいぜいレイナぐらいだろう。


「今日は朝から暑いですね、まだ日の浅い朝のうちから熱中症に気をつけて、水分補給をしっかりしてください」


「大丈夫なの?こうやって言うってことは、夜も暑いんでしょう?」

「花火大会の時は暑い方が楽しめると思うよ。きれいな花火って、なぜだか分からないけど、見とれちゃうんだよね。真っ黒い空が彩られていく感じが、私は好き。みんながそう思うから、日本でずっと、『花火』が続いてるんだよ」

「ほんとに日本、好きなのね......」

「......まあ、ヨーロッパの国々に比べたら随分狭いけどね。でも、狭いぶんだけ、そこに世界を魅せる何かが圧縮されてるんだと思う。だからこの国がずっとあって、ほんとによかったと思ってる。......さ、朝ごはん、食べに行こっか」

「そうね。お腹空いちゃったし」

「あんなことあった後でよくお腹空くわね......」

「別に関係ないでしょう、溺れるのとお腹空くのは」



* * *



「むにゃむにゃ......」


 お風呂から上がるとすぐ、ミュールは寝付いてしまった。やはり長時間のフライトで疲れていたのだろう。


「ねえウラナちゃん。一緒に寝てくれる?」

「......は?」

「なんだか、あれから、一人じゃ寝られなくて」

「寝られなくてってあんた、じゃあいつもはどうしてんのよ」


 てっきり一人暮らししているのかと思っていたが、違うらしい。両親が現世で事故に遭って亡くなってから、レイナと一緒に暮らしていたという。


「それで、レイナが現世に行った時は、私とレイナの先輩に引き取ってもらってたの」

「え、でも今って、レイナは結婚してるんじゃ?」

「うん、さすがにそこまで迷惑はかけられないから、先輩と一緒に住んでる」

「へえ......で、一緒に寝てくれ、と。別にいいけど、何かしなきゃダメ?子守唄とか」

「子守唄は......いらないけど、お願いしようかなあ。ウラナちゃんの歌声聴いてみ......」

「じゃあやらない」

「タ、タブーに触れましたか私!?」


 結局ミュールが一緒に寝るまでもなく先に落ちてしまい、後からウラナがミュールの横にいく形になった。


「それにしても幸せそう......」


 夢の中でいいことでもあったのか、今にもよだれを垂らしそうになっている。

......よだれ?


「プリンっぽい......」


 おおかた大量のプリンに囲まれている夢なのだろう。大筋は間違ってない確信がある。

 そんな幸せそうなミュールを起こさないよう、そっとベッドに潜り込む。


「ふ〜む......」


 かすかにはウラナに気づいたのか、ミュールが寝返りをうって、

ーーーウラナの首を絞めた!


「はっ......!!?あがっ......ぐっ......!」


 しかも意外と力が強い!


「ちょっ......まっ......!(まさかここに来て謀反......!?)」


 降参降参!と、ミュールの手をペシペシ叩くと


「うーん......」


と言って反対側に寝返った。助かった。


「な、何よあんた......やばい化け物じゃないの、寝込み襲うとか......」


 寝ている間にまた首を絞められて、今度こそ死ぬのはごめんなので、ミュールの手の届かないところまで移動して、よくよく確認してやっと眠りについた。


 翌日。


「ゆうべは......よくもやってくれたわね...」

「へ?何のこと?」

「とぼけるな!あんた首絞めてきたじゃない!死ぬかと思った!ってか死にかけた!」

「ああ......やっぱりウラナちゃんにもやっちゃうんだ......」

「......どういうことか、説明してもらおうかしら?」

「どういうことも何も、寝てる間にどうやら無意識に隣の人の首を絞めちゃってるらしい、ってことだよー」

「いや絞めちゃうって何だ!怖くて隣でおいそれと寝れないわ!」

「ウラナちゃんに特別恨みがあるわけじゃないから安心して」

「だからそれが一番安心できないのよ!」

「首絞めてきたら、......殴るのはやめてほしいけど、バシバシ叩くぐらいなら起きないから、大丈夫」

「そういえばあんた、今先輩と住んでるって言ってたわよね?まさか先輩を......」

「いや殺してないから!サスペンスにはならないから!先輩も最初は戸惑ってたけど、もう慣れて軽く流すようになってくれたし」

「そのイレギュラーな状況を軽く流す方がイレギュラーね......」


ウラナがため息をついたその時、部屋のドアがノックされた。開けるといたのはエミーとレイナだった。


「おはよ、ウラナ、ミュール。調子はどう?」

「......疲れた」

「......奇遇ね、私も」

「え?」

「朝ごはん食べに行こっか。元気出そう」



* * *



 朝ごはんを食べて多少元気を取り戻してからは、それぞれが行きたい!と思いついた場所にみんなで行くことになった。ミュールが東京中のテーマパークめぐりをしたいとか、ウラナが日本刀の博物館に行きたいとか、エミーが警察庁の中に入ってトップの顔を拝んでみたいとか、多少無茶はあったが。さすがに時間的に無理があるとミュールを説得して、むすっとした顔のミュールを引きずって観光していると、すぐ夜になってしまった。


「ほほう、これが浴衣と言うので?」

「ミュールは着方教えてあげるね。ウラナはできるよね?」

「まあうろ覚えだけど」

「なんか、妙にすっと入るわね」


 あまり着方を知らないはずのエミーが、見よう見まねで一番早く着終わっていた。


「そりゃあんた、胸小さいからでしょ」

「なにおうっ!?ウラナだって大したことないでしょうが!」

「ほらほらケンカしない」「ケンカするとシワが増えるんだって」

「「大きいのは黙ってろ!!」」

「「ごめんなさい!!」」


 それぞれが浴衣を着た。


「えっへん、どうです、ちょっと日本人っぽくなったんじゃない?」


 近くを通りかかった女子高生2人の隣にすっと並ぶと、確かに違和感はなかった。「写真撮って!」と3人で腕を組んでいる。

 ミュールがその女の子たちとそのままどこかへ行ってしまったので、暗くなって女の子がはぐれてはいけないと3人は追いかけはじめた。


「まあ私とかエミーなら大丈夫だけど、ミュールはまずいからね」


ーーードン!ドン!


 小さな花火が上がりはじめた。浴衣を着るのに想定以上に時間がかかったせいか。


「すごい!あんな形にできるんだ!そして音大きい!」


 前でオーバーリアクションするミュールと、その反応にケラケラと笑う女子高生たち。

 隣のウラナとエミーも、花火の写真をきれいに撮るのに一生懸命だったり、知っている絵柄を見つけて喜んでいたり。

 レイナは何度も日本に来て、何度も花火を見ているから今では思わないことも、3人にとっては新鮮だ。少々無理やりではあったが、連れてきてよかったと、レイナはぼんやり空を見上げ思っていた。

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