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現世【うつしよ】の鎮魂歌  作者: 奈良ひさぎ
Chapter6.Ketterasereiburg 編(暗躍)

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#38 冥府機密省・機密課

 警察省長官、クルーヴ・エミドラウン。

 彼女はまだ323歳、人間換算にして24歳ほどだが、冥界で上から2番目の省のトップを務めている。彼女自身はいわゆる機密省処理壱課や弐課から移ってきたメンバーではなく、最初から警察省に志願して入省している。

 そんな彼女がその若さで1つの省のトップにのし上がったのには、たくさん理由がある。


 1つはコネ。前主死神の娘という強力な血筋。


 1つは頭脳。ペルセフォネにスカウト―――娘であるからされるのは自然な気がするが―――されて、そこで優秀な成績を修め、卒業できるほどの頭。


 そして能力。目から出す赤い光線で金属を生成し、相手を拘束できるという、かなり現場向きの能力を持っていること。


「ちょっと!それってムリやりのし上がってきたってことじゃない!裏で汚いことして、みたいな!」

「誰もそんなこと言ってないよー?」


 ミュールが口笛を吹いてそう言ってみせた。


「うぐっ……」

「………で、この警察省の長官サマを連れて来れば、何とかなるんじゃないかってことか?」

「そうです」

「どうだろうなあ……。まあ、行くか。行くしかねえな」

「本当ですか!?」

「ミュールお前、どうせ俺がいやダメだって言っても、強行突破で後先考えず殴り込みに行くだろ」

「まあ、そうなんですけど」


 えへへ、とミュールが笑い交じりに言う。先輩も半ば諦めている。


「よし、じゃあ行くぞ。活きのいい情報はとっとと捌かねえとな」



 史纂弐課は4階。処理参課は少し上がって7階。

 というふうに、どの階にどの課があるのか、という情報ぐらいなら、機密省内ではオープンなものだ。だが機密課は、それさえ分からない。


「こういうのは受付の人が大概知ってるんだよ」


 一行は張り切って1階の受付へ向かう。


「機密課の場所、ですか。そうですね……」

「えっ、ご存知なんですか」

「知っているけど知らない、といった感じでしょうか」

「……は?」

「機密課は人が訪れるたび、たどり着くまでのルートが変わるように設定されているんです」



「えーっ!!」



「しっ、静かに!」

「あ……ごめんなさい」


 エレベーターを待っていた人たちが一斉にミュールたちの方を振り向いたので、一瞬で恥ずかしくなった。


「迷宮の入口自体は知っています。そこまで案内しましょう」


 そう言って受付の人は、個人用エレベーターが並ぶ場所の突き当たりへ向かった。


「ここです」


 示したのはどこからどう見ても防火扉である。


「この中ですか?」

「そうです。迷路を進みきった先に、機密課があります」

「でもそれって機密課所属の人は普段からここを通ってるってことよね?」

「いいえ。これは来客用の入口です。所属の人はあなたたちと同じように、こちらのエレベーターを使います」

「なーんだ」

「それでは、頑張って下さい」




 防火扉を開け、一同が中に入ると、その扉は勝手に閉まった。


「開かない……戻れないってことね」

「おお、本格的。お化け屋敷だね、まさに」


 そして中は真っ暗である。


「今のところ、一本道みたいだけど」

「両側に壁があるしね」

「ねえ、ミュール?なんか、通りづらくない?」

「気のせいでしょ。きっと幸せ太りでもしてるんだよ」

「なっ………!?」

「私は普通に通れるし」

「そっか……そういうことか………」

「え!?レイナ!?そんなに落ち込む?冗談だよ、冗談!」

「全然大丈夫だってほら!ダンナさんにも何も言われてないでしょ?」

「たぶんそういうの、気を遣って言ってくれないし、……もしかしたら気づいてないかも……」

「むーっ……」


ひたっ。


「ひっ!」

「ん?どうしたの、レイナ?」

「ミュール、今私の背中に触った?」

「え?いや?触ってないよ?」


ひたっ。


「ほっ、ほら今!触った!すごく冷たい!」

「だから触ってないって!」

「え?本当に?」

「本当に」

「えっと、じゃあ……」


ぺたーっ……


「ぎゃ――――――っ!?」


 断末魔のような叫び声を上げ、レイナが一目散に先に逃げてしまった。


「……ったく、こんなところで落ち着けないんじゃ、意味ないじゃない」

「……あ、そういえばクルーヴさんそういえばいましたね」

「ええ、ずっとあなたの後ろにいたわ、ミュール」

「とりあえず3人でゆっくり進みましょうか」

「そうね」



「そういえばさっきから、ポンポンとか、ギュッギュッって、音しませんか?」

「私の方からかしら」

「はい……そうですね」

「それはきっと、マッサージの音ね」

「マッサージ?」

「さっきからご親切に誰かが肩を揉んだり、叩いたりしてくれてるのよ。最近夜勤が多かったり忙しかったりで肩が凝りっぱなしでさ。ちょうどいい加減だし無料だから、されるがままになってるんだけど」

「……確認ですけど先輩。クルーヴさんの肩叩きとか、してないですよね?」

「ああ。ずっと壁を確かめながら、クルーヴさまの後ろを歩いているだけだが」


「……。」「……。」「……。」


「……クルーヴさん」

「なに?」

「ちょっと、落ち着きすぎ、というか、和んでませんか?」

「ええ」




「……分かれ道ね。右か左か」


 しばらく一本道を進むと、少し明るくなり、看板くらいは見えるようになっていた。


「読みますね。……右は、肩もみを失うがたどりつく。左は、仲間を一人失うがたどりつく」

「左で決まりね」

「ちょっとちょっとちょっと!?なんでそうなるんですか!?」

「まだ肩凝りが残ってるのよ」

「それでも仲間一人失うって重大すぎるでしょ!?これでクルーヴさんがいなくなったら来た意味がないじゃないですか!」

「うーん……分かった。右ね。」

「そういえば、レイナはどうしてるんだろ……」



* * *



「はあ、はあ、はあ、……」


 怖かった。

 ウラナよりは怖いものに強い自信があるが、それでも暗闇であんなことをされると耐えられない。

 そして気が付けば。


「あ……みんな、いない……」


 1人、はぐれていた。


 恐らくミュールたちは呆れて、3人で進んでいるだろう。

 それならば、自分も1人だけでたどり着かねばならない。

 覚悟を決め、進み始めたその時だった。


―――パカッ。


 そんなマヌケな音がして、レイナの今いる地面が、なくなった。


「わああああああああっ!!!???」


 彼女の突然の落下は、誰も知る由がない。



* * *



「ん?今なんか、甲高い叫び声が聞こえませんでした?」

「さあ、聞こえなかったけど」

「そっか。まあ、気のせいですね」


 肩たたきはなくなったが、着実に出口に近づいている。

 少なくともミュールには、その予感があった。


「無料の肩たたきがなくなったのは惜しいわね……」

「そんなにこだわってたんですか?愚痴るほど?」

「警察省には有料のマッサージチェアしかないの!」

「はあ……」


 警察省は意外に予算が厳しいようだ。対して機密省はお金持ちなのか、現世から少し高そうなマッサージチェアを買ってきている。その数、3台。しかも無料。


「なあにミュール、なんだかホクホクした顔してるけど」

「ええっ!そうですか?そ、そんなことは……」

「まあいいわ。……あれ、あそこに見えるの、出口じゃない?」

「そうですね!急ぎましょう!」



* * *



 ぼすん。

 落っこちたレイナはトランポリンのようなものに受け止められた。


「助かった……」


 と思ったら、すぐに機械音がした。

 レイナの身体がどこかへ運ばれてゆく。


「うわっ!?ちょっ、ちょっと!待って、助けてっ……!!」



* * *



 走って暗闇を抜けた。


「着いた……?」

「結局レイナとは合流できなかったわね」

「うわああああああっっっ!!!」


 ミュールたちが出てきたところの隣にあった少し小さめの穴から、レイナが滑り込んできた。


「うげーっ……」

「レイナ!無事だったんだ!よかった……!!」

「もしもしミュール?あなた今まで、さして興味なさそうじゃありませんでしたっけ?」

「しーっ!」

「………やっぱりミュール、呆れてたんだね」

「いやまあ、まあまあ。まあ正直大げさだって思ってたしね。でも頭の片隅では心配してたよ。……立てる?」

「ケガはしてないから大丈夫」


「さあ、ようやく私の出番ってわけね」


 エミーが張り切って前に出る。


「もしもし?そちらに通していただきたいんだけど」

「名前を」

「警察省長官、クルーヴ・エミドラウン」

「……クルーヴ様?」

「ええ。……はい、証明書」

「……なるほど、確かに。用件を」

「冥府革命集団の構成員に関する個人情報の調査」

「……冥府革命集団?」

「ええ。どうかしら」

「少々お待ちを」


 その男の人は奥に行ってしまった。


「今のがガードマンかなあ、レイナ?」

「そうじゃない?がっしりしてたし。いざという時は力ずくで侵入を阻止できるように」

「まあ今回は女3人だし、仮に侵入しようとしても秒殺だと思うけどねー」

「俺もいるぞ?忘れてないか?」

「大丈夫ですよ、私たちの監督役でついて来てもらってるんですから。忘れちゃあいません」

「俺いつからお前たちの監督になった?」




 10分後。


「お待たせいたしました。どうぞ」

「今で何分?」

「うーん、10分ぐらい?」

「ホントに!?最短記録じゃない!」

「その前に、1度機密課にお越しいただいたので、こちらのライセンスをお渡ししておきます」


 4人はなにやら薄いカードを一枚ずつもらった。エレベーターに打ち込むコードがついたものだ。


「次回からはエレベーターよりお越し頂けます」

「「やったあ!!」」


 子どものようにハイタッチをするレイナとミュール。


「……若いっていいわね」

「もしもしクルーヴさん?あなたもそんなに歳いってないでしょ?」


 もうすでに気疲れしたと見える先輩がエミーに言った。

 横の自動扉が開いたので、一同は中に入った。


「「ひっろ――――――い!!」」


 再びレイナとミュールがはしゃぐ。


「ここから1つの情報を探すなんて……」

「絞り込みはできるみたいよ、エミー」

「この端末?」


 エミーの目の前に、現世の図書館によくあるような検索機があった。


「『ヘッドホンを装着してください』?」


 エミーが言われたとおりにすると、『お探しの書類のキーワードを思い浮かべて下さい』と表示が切り替わった。


「レイナ?誰だっけ、調べる人?」


 レイナに声をかけた瞬間、


『お探しの書類の候補が見つかりました:レイナ・カナリヤ・レインシュタイン』


「あらら……レイナのが出ちゃった」

「えっ、本当ですか!?せっかくだから見ちゃいましょうクルーヴさん!」

「ええっ、やめて!ダメっ!!」

「あれー?レイナ、何かやましいことでもあるのかな?」

「なっ、ないけど、人の個人情報を勝手に覗くのは、ダメだと思うわ」

「そうよ、ミュール。それに今は関係のないことでしょう」

「はーい」

「これたぶん情報統制の最たる形なんだろうね」

「どういうこと、レイナ」

「ほら、スクリーンに直接打ち込んだら指紋から何を打ったのか分かっちゃうし、口に出せば盗聴器が拾うかもしれないし。こんなのとかね」


 レイナが手のひらを見せると、つぶれたデバイスが出てきた。


「やっぱりここ、狙われやすいのかもね……」

「どこにあったの?」

「この部屋の外。分厚い壁で隔てられてはいるけど、結構これ、高性能みたいだし」


 さすがのエミーも背筋に冷たいものを感じた。


「それで……レイナ、そういえば調べる対象の名前、なんだっけ」

「ああ、そういえばエミーには言ってなかったわね。貸して」

 レイナはエミーからヘッドホンを受け取った。しばらくすると、


『お探しの書類の候補が見つかりました:ガリレイ・ハイビスカス』


「そう、それ!」


 レイナが一冊の本を手に取った。


「レイナ?これ、本じゃない?」

「本、ね……」


 重職についているか否かは、関係ない。ある者について、本が存在するならば、もうその人は故人であることを示す。


「中はどうなってるの?」

「どれどれ。……わあ。顔写真も、何枚かあるわね」

 そこには子どもらしいあどけないものから、中年の顔までさまざまな写真があった。

「……ちょっと待って」


 ふいに、エミーが言う。


「どうしたの?」

「家族構成のページ、見せてくれる?」

「うん、いいけど……でもこれ以上見ても、仕方ないんじゃない?この人はもう亡くなってるんだから」

「亡くなってる以上、逮捕はできないよね?」

「そうなんだけど……何か予感がするのよ。当たっちゃいけないというか、何となく、不吉な感じというか」


 該当のページを開く。


「息子がいるわね」

「えっ、子どもがいながら、組織にいたの?」

「別に不思議じゃないわ。……あなたのお兄さんはあの時、ちょうど今のあなたと同じくらいの歳だったそうよ」

「……。」


 息子の名前は、ニコライ・ハイビスカス。

 エミーが検索機まで行って、その名前を思い浮かべた。

 今度は“本”ではなかった。とじられてはいない。

 エミーは慌てた様子で、ページをめくり、顔写真を見て、「やっぱり……!」と言った。


「え?誰なの?……ん?分からない」

「そりゃそうよ、この中じゃよく分かるのは私しかいないはずだわ」


 エミーが息をついて、左手を額に当てた。


「……ジグ、あなただったとはね……」



* * *



 最近レイナが嬉しそうに話をしてくれる、彼女の友達のミュール。

 そのミュールに呼び出され、エミーが警察省を留守にしなければならなくなった。

 レイナから、けっこうかかりそうな用事だと連絡をもらっていたので、シェドの方が帰りが先となった。

 先日の話し合いをもって、シェドとラインは正式に警察省の一員となった。もちろん二人とも正式なルートで入ったわけではないので、まだまだ見習いではあるが。

 そしてラインとは何かと軽い言い争いをしつつも、円滑に協力できていた。


「久しぶり、アル。ちょっといいかしら」


「うわっ!……か、母さん」

「最近どうなの?」

「どうなの?って……順調だけど」

「レイナちゃんとケンカしてない?」

「ケンカは……そんなに」

「そう、よかった。あなたがケンカの原因になって迷惑かけてないかなって思って」

「確かにまあケンカはするけど、すぐに仲直りするし。……って、そんな何でもない話をしに来たのか?」

「いいえ、本題はこっち。はいこれ」


 エリザベスはシェドに一枚の紙を渡した。


「……命令書、ル・シェドノワール・アラルクシェ・アルカロンド及びレイナ・カナリヤ・レインシュタイン両人に、現世視察を命ずる。該当地:Ketterasereiburg……っておい!どういうことだよ」


「それは強制よ、アル。逆らったらどうなるか分からないわ」

「なんで!期間を延ばしてくれって、ちゃんと申請しただろ!?」

「ギミックさんが当分の間、死なないことが確定したのよ」

「……は?」

「過去の現世視察中に、現世の人間に死神信仰をさせた疑いで、強制自動延命措置がとられたの。真偽とか、罪の重さを裁定する時間が要るから」

「……!!」

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