#27 ”absolute precipice”
――酔いが回ったような心地に襲われながら、おそるおそる目を開けた。
「……どこ、ここは……」
「あら、生きてる」
隣から声が聞こえた。
次の瞬間、ひたっ……っと、手のようなものが、腕に触れる。
「ひいっ!?」
「ん!その声は、レイナちゃん?」
「……ラプラタさんですか、良かった……」
「……気が付いたようだな」
不意に部屋が明るくなった。と言っても少し、周りが見える程度に、だが。
「あなたは……首尾?」
「よく覚えているな。さすがは機密省の歴代トップ入省。普通の者とは頭のつくりが違うか」
「そこまで褒めることでもないでしょうに」
「……そう言えば、お前の方も機密省だそうだな、ラプラタ・クローバー」
「私たちの情報はすべて、渡ってるわけね」
「まあそう言っても過言ではないな。何せ今回はこちら側に“協力者”がいるからな。情報を逐一、教えてくれる」
やがてゆっくりとした足取りで、その“協力者”は姿を見せた。
「気分はどうかね?レイナ君、ラプラタ君」
「「………!」」
遠くからでも目立つ、見事なまでの白髪。
さながらサンタクロースのように長く伸びる白いひげ。
優男であっただろう昔を思わせる、柔らかな目つき。
「改めて申し上げよう。アコンカグア・プレシピースだ」
プレシピース家。
その起源は五紋家と肩を並べるほどに長い歴史を持ち、度々重職を担い、さらには能力の有無に関係なく、自らの身を少し体力は削られるものの守ることが出来る防御能力“最後の砦”<<アブソリュート・プレシピース>>を開発し、全死神が使えるようにした、手柄のある一族。
その一族の最年長が、このアコンカグア・プレシピースという男であった。
「何であなたが?」
「四冥神のトップが、なぜ……?」
「君たちは、悪魔たちを絶対悪だと思っているか」
「当たり前でしょう」
「心の底から、そう思うか」
「ええ」
「死神たちは悪魔との戦いを重ねるうち、後から生まれてきた子どもたちに、そのことを教え込み始めた。だが考えてごらん。悪魔も死神も、人の命をもてあそんでいることに、変わりはないだろう?」
「違います」
レイナが強く、言い切った。
「私が現世にいたとき、同級生になった女の子がいました。通常現世の人間に、自分が死神であることは明かしません。確かに悪魔も死神も、現世では悪いイメージを持たれています。ですが彼女は違いました。悪魔や死神についてなら何でも本を読み漁り、ある程度、そのような存在についての理解がありました。だから私は敢えて、自分が死神であることを明かしました。彼女の見解はこうでした。悪魔は人を出し抜くことを中心に考えている。出し抜いて人の魂を奪う。対して死神は確かに人の魂を欲していることに変わりはない。だがそこには良い心がある。現世の人の魂を管理することを目的として、平和的に人の魂の回収に当たる。死神の方が、善である、と。」
「その子の言うことだけを信じて、君は行動しているというわけかな?」
「信じる信じない以前に、彼女の説は正しい。私たちが当事者だから言えることです。…では逆にあなたは、どう思っているんですか」
「わしは、死神が、悪であるとは言わん」
「どういうことよ、それ」
「だが悪魔が悪であるとも、言うつもりはない」
「中途半端な、意見ですね」
「人間は欲望を持つ。それがどのようなものであれ、人間は必死になってその欲望を満たそうとする。だが一時的に満たすことはできても、永遠に満たすことはできない。結局死ぬまで、人間は人間である以前に、動物と変わらないような欲望さえ満たせない。それがどうだ。自らの魂さえ差し出せば、欲望は自由に、永遠に満たされる。それが悪魔の務めだ。だが死神も人の死後にその欲望を満たしてやろうとはしているから、否定はできないというわけだ。つまり両者の対立はあってはならないとするのが、わしの考えだ」
「それを、悪魔支援の理由にすると」
「短絡的だな。だが大筋は間違っていない」
「……バカじゃないの」
そうバッサリ言い切ったのは、ラプラタだった。
「何?」
「偉そうに言ってるけど、あんたがそうやって適当に中立叫んでるくせに支援してるおかげで、私たちが苦しんでるんでしょうが。訳分かんないこと言って犠牲呼んでんじゃないわよ」
「なっ……!!」
「あんたのせいで悪魔のものとも死神のものとも分からない、砂が増えるってことよ。ふざけるのも大概にして」
「なるほど。所詮、未練死神には、このような高尚な理論は理解できないというわけか」
「え……!!」
「ああ、そうか、言い忘れていたな。我々はお前たち未練死神のほかに、葬儀死神がいるという情報も得た。魂の回収という主たる死神の任務は、主に葬儀死神がやるのだということもな」
「……それもこのじじいが流したってわけ?」
「そうだ」
「何を余計なことを……!」
「わしの息子は物分かりが悪いことに、わしを追い出そうとしたがな。逆にヤツを追い出してやったわ」
「ならその役目は、私たちに回ってきたってわけね」
「そういうくだらんことが出来ぬように、そうやって今、お前たちを拘束しているのだよ」
「ぐっ……!」
レイナは右手を、ラプラタは左手を互いに手錠でつながれ、二人のもう片方の手は地面に固定された手錠につながれていた。
「君たちには、しばらくここで大人しくしてもらおう」
* * *
「どんな能力?試してみて」
警戒するクルーヴに対し、天爛が大きく手を広げる。
「その手になんか乗らないわ!」
「えーっ、今なら防御しない出血大サービスだったのにーっ」
「死神に誘惑でもかけてるつもり?」
「……そんなこと言っちゃうんだったら、私も本気出すよ?」
天爛が刀を構えた。
(銃じゃなくて、刀…?)
前回の戦争だったら、悪魔側は全員銃しか持っていなかった。
銃では不利だという考えに至った者もいるのだろうか。
(この女の言う通り、私が刀だけで、立ち向かえるとは思わない)
「勢いがないわね」
彼女の身体からは想像できないほどの勢いで、押される。
(……いまだ)
目線だけを彼女の太ももに移して、心の中で能力を使う。
(……100㎏)
金属がその太ももを覆いだす。
(行ったか……?)
「残念でしたあ」
「えっ……!?」
「なるほど、その左目が、、光線を出して金属で相手の動きを封じるのね。つまり、」
「……つまり?」
「それまでに避けてしまえば、何てことないわけよね?」
「……!!」
「図星かしら」
(確かに、弱点ではあるけれど…)
金属の生成時間は短い。普通なら、弱点には入らないはずだった。
「持ってる能力さえ分かったら、あとは単調作業。そういうことよね」
天爛が、にっこりと笑う。
その悪意を感じさせない笑みが、かえって恐ろしい。
「覚悟はいいかしら」
「………!!」
* * *
「へえ、なかなかやるじゃない。少なくとも、天爛の相手よりは」
「クルーヴさん……!」
「ああ。あの女がクルーヴ・エミドラウンなの?前主死神の娘っていう」
「あんなただのおてんばには、クルーヴさんは負けません」
「どうかしらね?あの子も伊達に、悪魔をやってないわよ」
「私だって……負けません」
3人の姉や兄が、懸命にそれぞれの役割を果たしている。
(ここに来て、末っ子の私が迷惑はかけられない)
ラインにはその責務があると、感じていた。
「疲れてるみたいね。若いから、スタミナはあるんじゃないかって思ってたけど」
(なぜこの悪魔…洒洒は、刀を使ってるんだろう)
銃ならばそれを壊せばいい話だが、刀だとそうはいかない。
刀にしてまで、生命機関を移すことはないだろう。
(私よりも倍ほどの速さで、刀を振り回してくる…)
自由に使いこなしているというよりも、刀と一体化して、暴れている感じ。
動きが読めないがゆえに、余計にやりづらい。
「まだまだ序の口よ?」
* * *
「ちょうど良かった、よりにもよって『炎』の一族と当たるとはね」
「……兄ちゃん」
「え?はい?」
「僕が行く」
「は?お前……」
「大丈夫。策はあるよ」
ライムは胸を張って、にっと笑った。シェドを引き止め、一歩前に出た。
「あら。最初に出るのが一番の若造?なめられたものね。華炎、さっさと片づけてしまいなさい」
「オッケー。手間かけさせないでよね」
「下がれ~っ!!」
ライムが威嚇の3発を、空に向かって撃ちこんだ。
「そんなので下がるもんですか」
華炎がライムに近づく。
ライムは片手で耳をふさぎ、もう片方の手は天高く上げている。
「甘いわねっ!!」
華炎が引き金に手をかける。
「さようなら」「”最後の砦”<<アブソリュート・プレシピース>>」
ライムの周りだけが壁で囲まれる。
ライムが少し下がる。再び華炎が距離を縮めた。
「そんな壁、何度も撃って壊せばいいだけの話…!」
「華炎!下がれ!罠だ……!」
「え?」
驚いた顔の華炎のど真ん中を、銃弾が3発貫く。
「……あんたが乗ってきてくれる思った。最後まで、気づかないと思ってさ。賭けだったけど」
「姉ちゃん……」
「本当に苦肉の策ね。そんなに姑息に行くなら、こっちも」
「『何が卑劣だ。我々は手段を選ばない』。別に姑息にしようと思わなくても、もともとあんたたちは姑息なんだけどね」
「挑発かしら?」
「姉ちゃん……」
うつぶせに倒れた華炎は、背中と口から砂をこぼしていた。
「いいのよ、無理にしゃべらなくて。この下劣女は、私がちゃんと殺してあげる。砂一粒残さずに、燃やし尽くしてあげる……」
そう言う綺炎の目も、黙っている麗炎の目も、怒りで正気を失ったものだった。
「どうしてやる?普通のやり方じゃだめよね。私たちと一緒に連れ帰って、下僕にする?こき使って、過労死させちゃおうか?それとも……」
「あんた、手加減したでしょ」
華炎が口から砂をこぼしつつ、ライムに向かってそう言った。
「……なんで」
「『炎』の一族の銃弾が、どうして炎を吹かないわけ」
「力の衰退だよ。そのオプションがつくほどに力が強いのは、僕の兄ちゃんまでだ」
「……そう。大じいさんの力も、この有様ってわけか」
「そもそも僕ほどになると、死神の血の方が多くなってるのかもしれないけどね」
「ちゃんと実力で遠征軍に入った私が、こういう死に方、するなんてね……」
その言葉を最後に、華炎は砂と化した。
「……助かった、ライム。この3人が相手だと、たぶん……俺は死んでた」
「私も同感だわ」
「あんたは四冥神だろ!?何弱音吐いてんだよ」
「へえ、この女、四冥神なの。ずいぶんと偉くなったのね。殺せば褒章でかそう」
「さっさとやっちゃいましょう、綺炎。この3人以外にも、まだまだいるんだから」
「そうね」
と思うと、突然綺炎と麗炎は自らの銃を捨て、踏みつぶした。
銃が壊れても、彼女らはびくともしない様子だった。
「あら、そんなに驚いた顔することないじゃない。この200年間、伊達に悪魔やってないのよ?」
「もう銃ばっかに頼るなんて、そんな馬鹿らしいこと」
二人は刀を抜いた。
「やむを得ないわ、アル。相手が刀なら話は別よ。銃はやめなさい。圧倒的に不利に…」
――突然、乾いた音がした。
綺炎と麗炎の足元には、砕けた銃。
綺炎の右手には、新たな銃が握られていた。
銃をしまおうとした男が、ゆっくりと倒れていく。
「アル……!?」
「……おしゃべりが長いわ。退屈させないで」
* * *
「……あれ?割と強いじゃん、おばあちゃんのくせにさ」
「あんたみたいなガキとは違って、こちとら伊達に死神やってないのよ」
いざ理路と戦ってみると、ややアルテミスが有利であった。
(確かに一撃当たりは強いけど、アルテミスさんの方が、速さはずっと上、ね)
腕を負傷したシャンネは、陰から見ながらそう思っていた。
(もうあの子の刀もだいぶ欠けてきてる…そもそも今回は、刀を使う悪魔が多いような…)
「仕方ないなあ、アレ、使いますか」
理路がそう言うと、“了解した”という声が聞こえ、
「……!!」
何かに勘付いてアルテミスが飛び上がると同時に、見ているだけでも恐ろしい、おびただしい数の刀が地面から生えた。
「……どう?僕の“氷漬けの生き地獄”(ワールド・オブ・ブリザード)は」
「それ、……死神の能力じゃないの」
「ギリギリだったけど助かったよ。嵯峨くんと仁科くんのおかげだね」
「その名前は……!」
「ん?知ってる?先にここに侵入した人間たちだね。彼らはいい仕事をしてくれたよ。何せ死神の能力を発現させる道具を、少しの間だけでも盗んでくれたんだから。その道具の情報を送ってもらって、あとはこちらで開発すればいいだけだからね」
「……あの二人、先行工作部隊だったわけね」
「そういうことだね。……彼らはまだ、生きているみたいだけど」
「ひとしきり暴れたけど、今は大人しいみたいだから」
「彼らを解放してくれるなら、僕は降参するよ。どうする?」
「……は?」
「まあもちろん、あんたたちに捕まる、って意味じゃないけど」
「……とことん生意気ね」
「お褒めいただき光栄です」
「無理よ、解放は。あの二人が暴れた後の復興はだいぶ完了には近いけど、まだ手が付けられてないところもある。少なくともすべて復興するまでは、無理ね」
「……そっか。じゃあ仕方ない。僕らだって死神を潰そうと思って来てるんだ。死んでも文句言わないでね」
「そっくりそのまま返してあげるわよ、その言葉」
「……またクサいセリフを」
「何か言ったかしらシャンネ?」
「えっ!?いや、何でも」
シャンネは思い出す。
アルテミスがかつて、“ゼネラル”の位にあったことをだ。
“ゼネラル”は、相当な優遇がある。
支給される武器の性能も全く違うし、地位も、何もかも。
その栄誉を求めて、挑戦者がたくさんやってくる。
ほとんどは見事に惨敗する。“ゼネラル”が負ければ、その場で“ゼネラル”は交代するから、“ゼネラル”も本気である。
恐らく今アルテミスの頭の片隅にあるのも、そのことだろう。シャンネはそう思う。
「すみませーん、ここですか?」
「何?ここは子どもの来る場所じゃないわよ、ここは――」
「“ゼネラル”に挑戦する人が来るところですよね。あたしはそのために来ました」
「……ちょっと待って。あんた、ウラナ嬢じゃないの」
「しーっ。お母さんには、黙ってきたんです」
「わざわざシャンネに黙ってまで来るところだった?」
「だって“ゼネラル”、なりたいですもん」
「……よくもそんなことが言えるわね」
「だって……」
「分かった。いいわ、ウラナ嬢。相手してあげる。その代わり、コテンパンにしてあげるから。ここを出れば傷はすべてリセットされるんだから、問題ないわよね」
「そう来なくっちゃ」
この時まだウラナは、ペルセフォネのところで教わっている最中であった。
「本気なのか、こいつ」
アルテミスに呼び出されたマドルテも、疑念しかない様子だった。
「ええ……そうみたい」
「あんまりいじめてやるなよ」
「分かってるわよマドルテ。でも手加減はしない」
「それがいじめてるって言うんじゃないのか?」
「うるさいわね。……さっさとはじめて」
「スタート!」
……と言い終えたマドルテは、恐ろしいとも言える光景を見た。
アルテミスの刀が宙高く、弾き飛ばされていた。
「……終わり、ですか?」
ウラナはにこにこしていた。
「あ……」
「あり得んあり得んあり得んあり得んあり得ん!!!!何で!?」
「……もう一回やるか?」
さすがにマドルテも驚きを隠せない顔であった。
「よろしく、マドルテ。何かの手違いよ」
「手違いって言ってる時点で、既に負けを認めて、……」
「うるさい!!」
何度やっても同じだった。
5回、10回、20回、50回、100回。
剣をまともに交えた回もあった。だがウラナの剣速は、アルテミスの倍ほどはあった。その他ほとんどの回は、ほぼ瞬殺。
「とんでもない奴だな」
「何で……?」
「あたしだって、伊達に死神やってないんですよ」
「あんたが言うな!!」
「……負けを認めるか」
「いいえ」
「おい」
「でも“ゼネラル”の座は明け渡してあげる。その代わりその実力がエセじゃないか、時々相手してもらうわよ。今回のはまぐれかもしれないから」
「この期に及んでまだそれを言うか」
「うるさいのよ」
結局今の今まで、アルテミスはウラナに一度も勝てていない。すべてウラナの圧勝に終わっている、と聞いている。
「……見せてやろうじゃないの。元“ゼネラル”の実力を」
* * *
「ずいぶん変わったな。お前の目には、以前にはなかった、人を殺す奴の目つきが、宿ってる」
「そうだな。上級幹部になって、心に余裕がなくなったのやも知れん」
エニセイには何となく、分かった。
風樹の目つきが、230年前とは明らかに違う。
正々堂々とした戦いを好み、礼に始まり、礼に終わる。
そう感じた230年前の彼の目———というのは、記憶違いだったのか。
「そしてお前には、更に他の奴を気遣う心が芽生えたのではないか?」
「どうしてそんなことを言う」
「少し鋭さが落ちているぞ。邪念が多いのではあるまいか」
「他の悪魔の動向を気にして何が悪い」
「理路は危険だ」
「理路……?誰だ」
「今回の悪魔軍最年少にして、副司令長だ。あいつは先行部隊を先に行かせて、死神の能力を不正入手している」
「……不正、か」
「もとより我々もたびたび打ち負かされるほどの力を持っていた。誰が相手をしているのかは知らないが、心してかかる事だな」
「聞くところによるとシャンネさんとアルテミスさんだな。大丈夫だ。特にアルテミスさんは元“ゼネラル”だからな」
「“ゼネラル”…だと」
「勘違いするなよ、元々の話だ。今は他の奴がやってる。その元“ゼネラル”に一度たりとも負けた事のない、“赤いハイエナ”が。どうやらもう、抜刀はしたみたいだが」
“想定範囲内の事だが、一応伝えておく。無常の砂化を確認した。唯我は死神側に捕縛され、捕虜となった模様。気をつけろ。二人の相手は”ゼネラル“だった”
「……!」
「言っただろう?……俺との勝負の前に、背後をとられないように気をつけろ。“ゼネラル”の動きは、俺たち死神側にも読めないからな」
「エニセイ……」
「何だ」
「俺を誰だと思っている」
「悪魔の上級幹部の風樹様だな。強気なことを言っていたが、やはり俺を殺す事を目的にすべきなのか、迷っている節がある」
長い沈黙があった。
「……分かるのか」
「たかが230年ごときで、がらりと性格を変えられるほど、器用な男ではあるまい」
「なるほど」
風樹がそう言い、大きくため息をついた。
「……そうだよ。結局俺にお前を含め、死神を“殺す”ことはできない。“倒す”ことはできてもな。弱気だと言うのならそれでかまわない。殺せないのは殺せない」
「本当にお前は、なぜ悪魔に生まれたのだろうな」
「不思議な話だ。死神に“協力者”がいると思えば、俺のような悪魔らしからぬ奴もいる。……なあ」
「何だ」
「何のために、俺たちは戦っているんだ?」
「……分かれば苦労はしない」
「そうか。そうだな。……だが一つ、言える事はある。———人間に欲望のある限り、悪魔は滅びない。人間に死のある限り、死神は滅びない」
「……上手い事言いやがって」
「だがな」
風樹がエニセイに向かって、斬りつけようとした。
「戦わなければいけないんだよ。少なくとも心の弱い俺は、首尾と蛍雪に歯が立たん」
「……そうか。ならば、手は抜かんぞ」
「その意気だ」
* * *
「……どこが危ないかしら」
他の死神たちも、まだどちらが優勢だ、などと決まっているところはない。ウラナは上空から冥界の様子を眺めつつ、そうつぶやいた。
「おう、“ゼネラル”じゃァねェか」
「……ローツェ」
「ん?その目は“ゼネラル”と大きな声で呼ぶのをやめてほしいって目だなァ。分かってるぜェ、ウラナ」
「分かってるなら最初からやめなさい」
ローツェ・プレシピース。ピエロのように顔を白く塗った、変な男だ。だが少なくとも十聖士に選ばれる程度の実力はある。
「親父さんはどうしたのよ」
「あァ?あんなクソイカレやがったボケ老人はなァ、放っておきゃァいいんだよ」
「ケンカ?」
「そんなもんじゃァねェよ。あの男は悪魔に味方しやがった」
「えっ!」
「悪魔共をかくまっていやがる。どうやら死神の女を二人、捕まえたという情報も入ってる」
「誰よ」
「レイナとラプラタだ。だがレイナの能力は効かねェんだとよ。時を止めても、今回の悪魔のトップ二人は動けるんだと」
「レイナ……!」
「下手に助けにいくなよ。お前の力があれば助け出せるかもしれねェが、今のところレイナとラプラタを殺すつもりはないみてェだ。それが気が変わって、まとめて自爆される、なんてことも考えられなくはない」
「じゃあどうするのよ」
「ひとまず後回しだ。他の死神の援護に行け。どこに行くかはお前次第だ」
「……一緒に来てくれるわよね?」
「言うと思ったぜ。どうせ俺の能力目当てだろう」
「その通りよ。あたしのサポートをお願い」
「そんで?どこへ行くつもりだァ?」
「シェドの所よ」




