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現世【うつしよ】の鎮魂歌  作者: 奈良ひさぎ
Chapter5.第七次対悪魔戦争 編

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#26 ”step into the gap world”

「誰かぁ……」

「……!!待って!今助けるから!」


 既に悪魔の襲撃を受け、破壊された地帯。そこで5人の行方不明の子どものうち、4人は見つけた。


「大丈夫?みんながいるところに行こっか」


 子どもの扱いが最もふさわしいというのも、ウラナが選ばれた理由の一つだった。


「そう言えばレイナは……大丈夫かな」


 あのことはほとんどの人が知っている。が、

 今のタイミングなら、シェドは知らないだろう。


「……ま、自分で考えるか、それぐらい。なんたって」


 機密省の超エリートだから。



「……ドコダ」

「は?」

「フロライト・ニカテナ・アルテミスガ、ドコニイルカトキイテイル!」

「さあ?」


 片言のような口調で聞く悪魔の一般兵に、思わずバカにしたような笑みを浮かべてしまう。


「自分で探せば?」

「ナルホド、ヨク判ッタ。協力感謝スル」


 そして撃ってくる。


「おっと、やっぱそうきますか」

「弱ソウナオ前ヲ殺ス!」



* * *



「絶対油断しないでよね」

「大丈夫ですって、こんなに余裕ないのに、油断かますことなんて……」


 ラインはクルーヴに向かって、そう言ってみせる。


「ずいぶんご苦労様なことねえ、新米ちゃん」

「さすがは期待の新星ね、やっぱり動きが違うわあ」

「誰!」

「これは失礼。あたしは洒洒。こっちの天然ちゃんが天爛。悪いけど退いてくれる?あたしが探してるのは別の人だから」

「誰を?」

「あたしの大じいさんを一発でぶっ殺した、裏切り者の悪魔。浄炎よ。――またの名を、ル・シェドノワール・アラルクシェ・アルカロンドともいう」

「シェドさんを?」


 ラインは眉をひそめてそう聞いた。


「あら、知り合い?じゃあ案内してもらおうかしら」

「ねえねえ、そいつとはもう綺炎たちが会ってるみたいなんだけどー」

「あら、そうなの?じゃあいよいよ、あたしたちがあなたたちの相手をするわけね」

「……。」

「ちょうどよかったわ。あなた、強そうだもの。しばらくは暇しないで済みそう」

「じゃあ私は青い髪の女の方?」

「そう。きっと天爛ならすぐだわ。あの女、あまり強くはなさそうだもの。どちらかというと―――」


 クルーヴの目に焼き目を入れんばかりの目で、洒洒が見つめる。


「―――能力に頼ってる。そんなところね」

「なっ……!」

「図星ね。その能力、見せてみなさい。天爛?」

「え?私?」

「――誰が見せるかよ」

「あら?急に偉そうな口を利くのね」

「あんたを蹴散らしてからよ。さっさとくたばることね」

「そんなこと言ってられるのもいつまでかしらね」

「ずいぶん今回は女の悪魔が多いじゃない」

「女だと殺しにくいでしょ?」


 あのアレクサンドロの最期のような目を、洒洒はした。


「大じいさんも言ってたわ。女を産めってね。そうすれば男より、殺される確率は低い、だって」



* * *



 ――おかしい。

 そう気づいたのは、いつからだったか。

「レイナ……」

「なあに?おじいちゃん」



「お前……大きくなりすぎじゃないか…?」



 ギミックにそう言われたときに、幼いレイナながら思い当たることはたくさんあった。

 その時を止める、“はたと止まる、世界の時間”(ステップ・イントゥ・ザ・ギャップ・ワールド)という能力を、

 

遊んでいて、夜が来て欲しくない時も。

寄ってきた虫から逃げる時も。

楽しいこと。嬉しいこと。悲しいこと。苦しいこと。

終わってほしくない。逃げてしまいたい。

無意識に使っていた。



 確かに思い通りにはなった。

 だがそのたびに、年齢が加速する副作用には気づかなかった。



「許して」


 もしも年上だって理由で、私が威張っていたのなら。


「アル……」


 結局ペルセフォネ(大ばあちゃん)と一緒なのか。

 何か人に言えない、重い秘密を抱えているのはつらい。



 実はね。

 私、もともと、アルと同い年だったんだ。



「レイナちゃん!?こら!」


 ラプラタがふと、レイナの名を呼んだ。


「……!!」

「ボーッとしてたわ」

「そうですか?」

「……何考えてたのか知らないけど」

「すみません」

「そんなに感慨にふけっていていいのか?」「なめられたものね」

「また主兵……!」

「どうもはじめまして。首尾だ」

「私は蛍雪。よろしく」

「めずらしいわね、男女の組み合わせで来るなんて」

「それでも揺さぶっているつもりか」

「いいえ、全然。興味本位」

「……。」

「……黙った」

「だって黙らせようと思ってやったし」


 ラプラタはてへ、としたり顔をレイナに向けた。

 ……相変わらず若い、今の自分よりもだいぶ年上のはずなのに。

 私もラプラタさんのように、自由気ままに大きな秘密もなく、生きていけたら…


「どうせもう他の連中が口を滑らせただろう?」

「――あくまで私たちの目的は、業炎、禍炎その他たくさんの悪魔たちの敵討ち、って言いたいのね。わざわざどうも……」

「さすがに十聖士だな。この程度の奇襲は予想済みか」


 ……とっさに二人とも銃弾をよける。


「ラプラタさん、ちょっといいですか」

「――使うの?」

「……やむを得ません」


 レイナがラプラタの手を握った。能力の使用者本人が相手の身体に触れれば、同じ時が止まった世界で動くことが出来る。


「終わった?」

「はい、準備完了です」

「よし」



「“はたと止まる、世界の時間”(ステップ・イントゥ・ザ・ギャップ・ワールド)」



おかしい。


「…どこへ行ったの?」

「消えた……?」


 時間の止まった世界のはずなのに、例の二人の悪魔は、気がつけば目の前から消えていた。



―――カチャッ。


「「………!?」」

「残念だったな」


 外套越しでも分かるくらい、冷たい感触。

 背中が震える。


「その時を止める能力は、俺たちには効かない」



* * *



「これで確認出来た主兵は7人、か」


 主兵の数だけで言えば、前の戦争とあまり規模は変わらない。


「どうする、エニセイ。そろそろ送ろうか」

「ええ、そうしましょう。目の前にうじゃうじゃ見える」


 エニセイもマドルテと少し会話を交わしつつ、目の前の状況の見極めに努めていた。


“エニセイ・クローバー、抜刀”


「さあ、行くか」

「……待て」

「――8人目か」

「久しぶりだな」

「……風樹か」

「覚えていてくれたか」

「悪魔にしては珍しく仁義のある奴だったからな」

「おかげさまで悪魔界こちら側では上級幹部だ」

「ずいぶんと偉くなったもんだな。どうだ、強くなったか」

「以前のお前ならば片手仕事だったろうが、どうだろうな」

「悪いがお前との戦いは手短に終わらせてもらう。今回は最低でも“目的”は果たさねばならない」

「……目的、か」

「前回殺された業炎様、禍炎様たちの報復だな。その程度の情報ならば、すでに伝わっているだろう」

「ああ。今知った」

「……!!」

「ならば主たる標的は前回の戦争の立役者というわけだ」

「そういう言い方をすれば、前回俺を足止めし倒したことで貢献したお前も対象になるがな」

「……どちらでも構わない。今は戦力を少しでも減らす。それが最優先だ」

「ほう。ならばこちらも、その手で行こう。お前が残っていると、何かと厄介だ」



* * *



「くっ……!!」

「ドウシタ?コウゲキシナイノカ?コレハソウゾウイジョウノ、ザコダッタナ」

「……使うか」


 窮地に陥ったウラナに、マドルテがそう伝える。


「……。」

「確かにリスクは負うかもしれないが、……そのまま殺されるのでいいのか?」

「………いいです。使いましょう」

「よし。その意気だ」

「オオ。ヨウヤクマトモニ、タタカウキニナッタカ」

「ええ。……それが遺言かしら?」

「ナニ?」


“ウラナ・アマリリス、抜刀”


「……行くわよ」

「盛大にやってこい!……」


 マドルテはそう言って、ウラナとの通信を切った。マドルテは大殿の自室で椅子に深くもたれかかり、そして独り言のように付け加えた。



「……期待してるぞ、“赤いハイエナ”さんよ」




 大殿では歓喜の声が上がっていた。


「すっげーっ!」

「さすがだな」

「これはもはや討伐数じゃないですね!」

「なかなかこんなに強い奴はいないからな」

「頑張れ!俺は応援しかできないけど!」

「……落ち着けフリードリヒ。雑魚兵が入ってきた」

「よっしゃあ!俺もやりますよ!」

「くれぐれもやられんなよ」

「分かってますって。こちとら数は多いんだ。なめてもらっちゃあ困る。寝てていいですよマドルテさん」




「サガレ!タチムカウナ!ケサレルゾ!」

「あら、さっきまでの余裕はどこへ行ったの?」

「ソウテイガイダ……ウラナ・アマリリス……キサマガ、“ゼネラル”ダッタトハ……!」

「あんたたち死神をなめ過ぎよ」


 ウラナの通るあとは、次々に砂山が連なっていく。


「そんなに弱いのに、よく大口叩く気になったわね。あ、これ、あくまでさっきお仕返しだから。その辺理解してね」


 その一振りで、雑魚兵が軽く15は砂と化す。


「ずいぶん派手にやってくれるな」

「うるっさいわね、ごちゃごちゃ言ってないでさっさと下がりなさいよ」

「ぐごっ……」

「ユ……ユイガサマ!」

「なに、今の?もしかして主兵なの?」

「イキナリユイガサマトハ……ヒキョウナ!」

「じゃああんたたちならOKなのね」

「グゴッ……!?」

「分かった。かわいそうだから、一発K.O.じゃあ。しばらくお仕置き部屋にいなさい。あとでどうするか決めるわ」

「ユイガサマヲドウスルツモリダ!」

「ちゃんと人の話聞きなさいよお!捕まえて説教するだけだっつってんでしょうが!」

「ユイガサマヲ、ソノヨウニアツカッテ…ドウナルカワカッテイルノカ!」

「どーなるか分かんないからそうするんでしょうが!?次から次へと人の話右から左に受け流すんじゃないわよ!?」

「ワレワレニソノヨウナノウリョクハナイ」

「あーっもうイライラする!あんたら全員吹っ飛んでろ!!」



“さすがだウラナ、開始5分と経たずに下級兵220体を討伐し、主兵を一人捕虜にまでするとは”

「“ゼネラル”なんだから、これくらいは軽くやってのけないと」

“そいつ、どうするんだ?”

「どうしましょう?」

「おい!“お仕置き部屋”に連行するんじゃなかったのか!?」

「だってそんな部屋ないし」

“いや、あるぞ。大殿に連れてこい”


 通信機の向こうで別の声がした。


「ハデスさん!?」

“昔ペルセフォネのために十ほどそんな部屋を作ったからな”

「どんだけやんちゃだったんですか……」

“地下にたくさん部屋があるから、どこがそうだったか分からなくなってな。たくさん作ってしまった”

「……了解です。今から連れていきます」

“そいつの銃は回収したか?”

「大丈夫です。両手も封じてます」



「……着いたー」

「まさか死神の大殿に、入ることが出来ようとはな」

「捕虜という形でね」

「ぐっ……」

「おっ、来た来た。悪いけどフリードリヒの方に加勢してくれない?死んだら困るでしょ」


 ひょっこりとマドルテが姿を現し、そう言った。だがウラナの反応は素っ気なかった。


「別に困りません」

「いや、嘘でも困るって言えよ……」

「あいつと結婚するのはいやなんですよ!」

「って言ったってシャンネが決めたことだろ?ウラナをフリードリヒの許嫁にするって」

「何とか言って下さいよ!シャンネさんそこだけは譲れないって言うんですよ!わたしの気持ちも考えてくれ、って!あたしの気持ちはどうなんですか!?」



「なんで俺じゃダメなんだよ!」

「生理的に受け付けない!」

「ガーン……!」


 フリードリヒが頭を抱えてしゃがみ込む。


「やめてやれ、戦意喪失してんじゃん」

「してろしてろ、死んでもあんたと結婚する気なんかない!」

「俺が死んでもいいのかよ!?」

「くたばってしまえ」

「うぎゃーっ!」

「……仲いいな」

「「うーるーさーいーっ!!」」

「……俺は?まさか忘れたとは言うまいな」


 なぜかおそるおそる、捕まった唯我という悪魔が言った。


「ああ、すっかり忘れ去ってた。雑魚兵と一緒に吹っ飛んだとは思わなかったから」

「ぐっ……!」

「唯我!大丈夫か!?」

「兄貴ぃぃぃ!!」

「……また主兵?」

「私は無常だ!雑魚でチンピラ、おまけに愚図な弟の唯我を助けに来た!そいつを解放しろ!」

「兄貴ぃぃ……!」


 後ろで泣く声がした。


「こいつは貴重な情報源だ!やすやすと解放してたまるか!」

「雑魚は黙っていろ。私は今、赤い髪の女と話している」


 無常が真っ直ぐウラナを指差した。


「あたし?」

「こいつは大した情報を持っていない!今回メンバーに選ばれたのも99.999%の運と0.001%の運だ!」

「全部運じゃないの!?あんたらのメンバーの選び方どうなってんのよ!?」

「兄貴ぃ、もうやめてくれぇー!!」


 そろそろ唯我の涙腺が限界らしい。


「悪い。……そちらが唯我の身を渡さんとなれば、私はお前たちを倒してでも、取り返すぞ」

「できるもんならやってみなさい」


 乾いた銃声が、一発鳴り響く。


「……き、奇襲!?あんたそれ、卑怯じゃないの……?」

「卑怯?笑わせるな。正当な手段だろうが」


 ウラナはお腹を押さえていた。


「ふうん……“無常”型の銃の効果なのね……それが」

「そうだ、命中したところから闇が広がってやがて呑まれ……!?」


 黒い部分が広がっているのは無常の身体の方だった。


「何故……?どうして?どうやって……?」

「その銃、性能に特化しすぎてるのか知らないけど、弾速が遅すぎるわ。どれくらい遅いかって言うと、……あたしの刀で叩き落とせるくらい」

「ウラナ、それは君の戦闘力もあるんじゃ」

「余計なこと言わないのこのポンコツっ!」


 フリードリヒがすぐさま言葉の暴力で叩かれる。


「ポ……ポンコツ……!?」

「なるほど、“ゼネラル”か……どうりで勝てんわけだ、98.73%運、1.27%運で選ばれた私には」

「あんたも全部運だったのか!」


 不覚にも少し計算してしまった。


「さらばだ唯我…もし尋問されたら、なるべく情報を吐け。その方が楽になれるぞ」


 黒に呑みこまれた無常は、そのまま砂も残すことなく消えた。


「普通尋問されても情報は吐くな、でしょ?どんだけアホなの、この唯我ってヤツ……」

「……すべてが茶番の様だったね」


 マドルテも驚きつつ、そう結論するしかなかった。


「ウラナ、あの演技必要だった?」

「何としてでも結婚はしない」

「7ターンぐらい先を読まれた……!?」

「お前、まだウラナに求婚するつもりだったのか」

「だって許嫁ですよ!」

「絶っ対に嫌」

「何がそんなに嫌なんだ」

「……なんとなく」

「……分かった、ウラナ。お前、外に男作ってんだろ」

「何て言い方……!」

「図星だろ。そりゃそんなに頑なに拒否ってたらレイナじゃなくてもわかる」


 レイナに『ふ~ん?』と言われ、動揺してしまった自分を思い出した。


「誰だよそれ!俺は認めないぞ!」

「教えませーん」

「ま、許嫁がこんな奴だから、しっかりしてるだろ、そいつは」

「なっ……!!」

「あんたと違ってちゃんとした人よ」

「母さんに言いつけるぞ」

「子どもか!いいわよ別に、あたしそこは絶対に譲らないから」

「……おしゃべりは終わりだ。フリードリヒは大殿に残れ。ウラナは、他の奴の援護に当たってくれ」


 マドルテが真面目な顔に戻って、二人にそう言った。


「「……了解!」」



* * *



「おかしいですね。わたしたちだけみたいです、まだ主兵と当たってないの。ウラナちゃんはもう主兵1人を捕虜にして、もう1人討伐したって言ってますけど」

「はあ!?さ、さすが“赤いハイエナ”だけあるわね……若いし」

「その言葉、禁句です」

「え?」

「ウラナちゃんだってもう273歳ですよ」

「でも現世の人間換算で20歳くらいでしょ?まだ20歳なのに、最前線で活躍するなんて……」

「それがもう孫娘を思いやるおばあちゃんのセリフなんですよ」

「なにいっ!?おばあちゃんですって!?シャンネのくせに生意気な!!」

「……あんたが、主死神ってやつか」


不毛な言い争いをするシャンネとアルテミスの前に、一人の少年が現れた。


「……そうだけど?」


 ――左耳のすぐそばを、弾丸が通る。


「え……?」


 目の前のその少年は、ラインやライムよりずっと若く見えた。


「で?何か用?あんたみたいなガキは、避難……」

「僕は今、あんたに話しかけてない。黙っててくれ、おばあちゃん」

「なっ、なんですって!?も、もう一度言ってみなさいよ!?」

「おばあちゃん」

「このクソガキ!!」

「それでさ、主死神さんよ」

「なに?」

「さっきの一発どうだった?」

「は?そ、そりゃ、いきなりなんて、……」


 3発分の銃声が、耳を貫く。少年は銃を構え、シャンネを見て満足そうにしていた。腕に痛みを覚えた。


「うっ……」

「大丈夫!?」

「ええ、まあ……2発は避けましたけど……あとの1発が」

「左腕、かすめてるだけだけど……」

「申し遅れました。僕の名前は理路。今回の悪魔軍の副指令長を任されてる」

「あんたみたいなガキんちょが……?」

「ああ、主死神さん、傷ついちゃったみたいだね。じゃあいいよ、おばあちゃん。勝負しよう」

「最後の一言が余計なのよ……!!」

「まあもちろん……僕に勝てるなら、の話だけど」

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