#26 ”step into the gap world”
「誰かぁ……」
「……!!待って!今助けるから!」
既に悪魔の襲撃を受け、破壊された地帯。そこで5人の行方不明の子どものうち、4人は見つけた。
「大丈夫?みんながいるところに行こっか」
子どもの扱いが最もふさわしいというのも、ウラナが選ばれた理由の一つだった。
「そう言えばレイナは……大丈夫かな」
あのことはほとんどの人が知っている。が、
今のタイミングなら、シェドは知らないだろう。
「……ま、自分で考えるか、それぐらい。なんたって」
機密省の超エリートだから。
「……ドコダ」
「は?」
「フロライト・ニカテナ・アルテミスガ、ドコニイルカトキイテイル!」
「さあ?」
片言のような口調で聞く悪魔の一般兵に、思わずバカにしたような笑みを浮かべてしまう。
「自分で探せば?」
「ナルホド、ヨク判ッタ。協力感謝スル」
そして撃ってくる。
「おっと、やっぱそうきますか」
「弱ソウナオ前ヲ殺ス!」
* * *
「絶対油断しないでよね」
「大丈夫ですって、こんなに余裕ないのに、油断かますことなんて……」
ラインはクルーヴに向かって、そう言ってみせる。
「ずいぶんご苦労様なことねえ、新米ちゃん」
「さすがは期待の新星ね、やっぱり動きが違うわあ」
「誰!」
「これは失礼。あたしは洒洒。こっちの天然ちゃんが天爛。悪いけど退いてくれる?あたしが探してるのは別の人だから」
「誰を?」
「あたしの大じいさんを一発でぶっ殺した、裏切り者の悪魔。浄炎よ。――またの名を、ル・シェドノワール・アラルクシェ・アルカロンドともいう」
「シェドさんを?」
ラインは眉をひそめてそう聞いた。
「あら、知り合い?じゃあ案内してもらおうかしら」
「ねえねえ、そいつとはもう綺炎たちが会ってるみたいなんだけどー」
「あら、そうなの?じゃあいよいよ、あたしたちがあなたたちの相手をするわけね」
「……。」
「ちょうどよかったわ。あなた、強そうだもの。しばらくは暇しないで済みそう」
「じゃあ私は青い髪の女の方?」
「そう。きっと天爛ならすぐだわ。あの女、あまり強くはなさそうだもの。どちらかというと―――」
クルーヴの目に焼き目を入れんばかりの目で、洒洒が見つめる。
「―――能力に頼ってる。そんなところね」
「なっ……!」
「図星ね。その能力、見せてみなさい。天爛?」
「え?私?」
「――誰が見せるかよ」
「あら?急に偉そうな口を利くのね」
「あんたを蹴散らしてからよ。さっさとくたばることね」
「そんなこと言ってられるのもいつまでかしらね」
「ずいぶん今回は女の悪魔が多いじゃない」
「女だと殺しにくいでしょ?」
あのアレクサンドロの最期のような目を、洒洒はした。
「大じいさんも言ってたわ。女を産めってね。そうすれば男より、殺される確率は低い、だって」
* * *
――おかしい。
そう気づいたのは、いつからだったか。
「レイナ……」
「なあに?おじいちゃん」
「お前……大きくなりすぎじゃないか…?」
ギミックにそう言われたときに、幼いレイナながら思い当たることはたくさんあった。
その時を止める、“はたと止まる、世界の時間”(ステップ・イントゥ・ザ・ギャップ・ワールド)という能力を、
遊んでいて、夜が来て欲しくない時も。
寄ってきた虫から逃げる時も。
楽しいこと。嬉しいこと。悲しいこと。苦しいこと。
終わってほしくない。逃げてしまいたい。
無意識に使っていた。
確かに思い通りにはなった。
だがそのたびに、年齢が加速する副作用には気づかなかった。
「許して」
もしも年上だって理由で、私が威張っていたのなら。
「アル……」
結局ペルセフォネ(大ばあちゃん)と一緒なのか。
何か人に言えない、重い秘密を抱えているのはつらい。
実はね。
私、もともと、アルと同い年だったんだ。
「レイナちゃん!?こら!」
ラプラタがふと、レイナの名を呼んだ。
「……!!」
「ボーッとしてたわ」
「そうですか?」
「……何考えてたのか知らないけど」
「すみません」
「そんなに感慨にふけっていていいのか?」「なめられたものね」
「また主兵……!」
「どうもはじめまして。首尾だ」
「私は蛍雪。よろしく」
「めずらしいわね、男女の組み合わせで来るなんて」
「それでも揺さぶっているつもりか」
「いいえ、全然。興味本位」
「……。」
「……黙った」
「だって黙らせようと思ってやったし」
ラプラタはてへ、としたり顔をレイナに向けた。
……相変わらず若い、今の自分よりもだいぶ年上のはずなのに。
私もラプラタさんのように、自由気ままに大きな秘密もなく、生きていけたら…
「どうせもう他の連中が口を滑らせただろう?」
「――あくまで私たちの目的は、業炎、禍炎その他たくさんの悪魔たちの敵討ち、って言いたいのね。わざわざどうも……」
「さすがに十聖士だな。この程度の奇襲は予想済みか」
……とっさに二人とも銃弾をよける。
「ラプラタさん、ちょっといいですか」
「――使うの?」
「……やむを得ません」
レイナがラプラタの手を握った。能力の使用者本人が相手の身体に触れれば、同じ時が止まった世界で動くことが出来る。
「終わった?」
「はい、準備完了です」
「よし」
「“はたと止まる、世界の時間”(ステップ・イントゥ・ザ・ギャップ・ワールド)」
おかしい。
「…どこへ行ったの?」
「消えた……?」
時間の止まった世界のはずなのに、例の二人の悪魔は、気がつけば目の前から消えていた。
―――カチャッ。
「「………!?」」
「残念だったな」
外套越しでも分かるくらい、冷たい感触。
背中が震える。
「その時を止める能力は、俺たちには効かない」
* * *
「これで確認出来た主兵は7人、か」
主兵の数だけで言えば、前の戦争とあまり規模は変わらない。
「どうする、エニセイ。そろそろ送ろうか」
「ええ、そうしましょう。目の前にうじゃうじゃ見える」
エニセイもマドルテと少し会話を交わしつつ、目の前の状況の見極めに努めていた。
“エニセイ・クローバー、抜刀”
「さあ、行くか」
「……待て」
「――8人目か」
「久しぶりだな」
「……風樹か」
「覚えていてくれたか」
「悪魔にしては珍しく仁義のある奴だったからな」
「おかげさまで悪魔界側では上級幹部だ」
「ずいぶんと偉くなったもんだな。どうだ、強くなったか」
「以前のお前ならば片手仕事だったろうが、どうだろうな」
「悪いがお前との戦いは手短に終わらせてもらう。今回は最低でも“目的”は果たさねばならない」
「……目的、か」
「前回殺された業炎様、禍炎様たちの報復だな。その程度の情報ならば、すでに伝わっているだろう」
「ああ。今知った」
「……!!」
「ならば主たる標的は前回の戦争の立役者というわけだ」
「そういう言い方をすれば、前回俺を足止めし倒したことで貢献したお前も対象になるがな」
「……どちらでも構わない。今は戦力を少しでも減らす。それが最優先だ」
「ほう。ならばこちらも、その手で行こう。お前が残っていると、何かと厄介だ」
* * *
「くっ……!!」
「ドウシタ?コウゲキシナイノカ?コレハソウゾウイジョウノ、ザコダッタナ」
「……使うか」
窮地に陥ったウラナに、マドルテがそう伝える。
「……。」
「確かにリスクは負うかもしれないが、……そのまま殺されるのでいいのか?」
「………いいです。使いましょう」
「よし。その意気だ」
「オオ。ヨウヤクマトモニ、タタカウキニナッタカ」
「ええ。……それが遺言かしら?」
「ナニ?」
“ウラナ・アマリリス、抜刀”
「……行くわよ」
「盛大にやってこい!……」
マドルテはそう言って、ウラナとの通信を切った。マドルテは大殿の自室で椅子に深くもたれかかり、そして独り言のように付け加えた。
「……期待してるぞ、“赤いハイエナ”さんよ」
大殿では歓喜の声が上がっていた。
「すっげーっ!」
「さすがだな」
「これはもはや討伐数じゃないですね!」
「なかなかこんなに強い奴はいないからな」
「頑張れ!俺は応援しかできないけど!」
「……落ち着けフリードリヒ。雑魚兵が入ってきた」
「よっしゃあ!俺もやりますよ!」
「くれぐれもやられんなよ」
「分かってますって。こちとら数は多いんだ。なめてもらっちゃあ困る。寝てていいですよマドルテさん」
「サガレ!タチムカウナ!ケサレルゾ!」
「あら、さっきまでの余裕はどこへ行ったの?」
「ソウテイガイダ……ウラナ・アマリリス……キサマガ、“ゼネラル”ダッタトハ……!」
「あんたたち死神をなめ過ぎよ」
ウラナの通るあとは、次々に砂山が連なっていく。
「そんなに弱いのに、よく大口叩く気になったわね。あ、これ、あくまでさっきお仕返しだから。その辺理解してね」
その一振りで、雑魚兵が軽く15は砂と化す。
「ずいぶん派手にやってくれるな」
「うるっさいわね、ごちゃごちゃ言ってないでさっさと下がりなさいよ」
「ぐごっ……」
「ユ……ユイガサマ!」
「なに、今の?もしかして主兵なの?」
「イキナリユイガサマトハ……ヒキョウナ!」
「じゃああんたたちならOKなのね」
「グゴッ……!?」
「分かった。かわいそうだから、一発K.O.じゃあ。しばらくお仕置き部屋にいなさい。あとでどうするか決めるわ」
「ユイガサマヲドウスルツモリダ!」
「ちゃんと人の話聞きなさいよお!捕まえて説教するだけだっつってんでしょうが!」
「ユイガサマヲ、ソノヨウニアツカッテ…ドウナルカワカッテイルノカ!」
「どーなるか分かんないからそうするんでしょうが!?次から次へと人の話右から左に受け流すんじゃないわよ!?」
「ワレワレニソノヨウナノウリョクハナイ」
「あーっもうイライラする!あんたら全員吹っ飛んでろ!!」
“さすがだウラナ、開始5分と経たずに下級兵220体を討伐し、主兵を一人捕虜にまでするとは”
「“ゼネラル”なんだから、これくらいは軽くやってのけないと」
“そいつ、どうするんだ?”
「どうしましょう?」
「おい!“お仕置き部屋”に連行するんじゃなかったのか!?」
「だってそんな部屋ないし」
“いや、あるぞ。大殿に連れてこい”
通信機の向こうで別の声がした。
「ハデスさん!?」
“昔ペルセフォネのために十ほどそんな部屋を作ったからな”
「どんだけやんちゃだったんですか……」
“地下にたくさん部屋があるから、どこがそうだったか分からなくなってな。たくさん作ってしまった”
「……了解です。今から連れていきます」
“そいつの銃は回収したか?”
「大丈夫です。両手も封じてます」
「……着いたー」
「まさか死神の大殿に、入ることが出来ようとはな」
「捕虜という形でね」
「ぐっ……」
「おっ、来た来た。悪いけどフリードリヒの方に加勢してくれない?死んだら困るでしょ」
ひょっこりとマドルテが姿を現し、そう言った。だがウラナの反応は素っ気なかった。
「別に困りません」
「いや、嘘でも困るって言えよ……」
「あいつと結婚するのはいやなんですよ!」
「って言ったってシャンネが決めたことだろ?ウラナをフリードリヒの許嫁にするって」
「何とか言って下さいよ!シャンネさんそこだけは譲れないって言うんですよ!わたしの気持ちも考えてくれ、って!あたしの気持ちはどうなんですか!?」
「なんで俺じゃダメなんだよ!」
「生理的に受け付けない!」
「ガーン……!」
フリードリヒが頭を抱えてしゃがみ込む。
「やめてやれ、戦意喪失してんじゃん」
「してろしてろ、死んでもあんたと結婚する気なんかない!」
「俺が死んでもいいのかよ!?」
「くたばってしまえ」
「うぎゃーっ!」
「……仲いいな」
「「うーるーさーいーっ!!」」
「……俺は?まさか忘れたとは言うまいな」
なぜかおそるおそる、捕まった唯我という悪魔が言った。
「ああ、すっかり忘れ去ってた。雑魚兵と一緒に吹っ飛んだとは思わなかったから」
「ぐっ……!」
「唯我!大丈夫か!?」
「兄貴ぃぃぃ!!」
「……また主兵?」
「私は無常だ!雑魚でチンピラ、おまけに愚図な弟の唯我を助けに来た!そいつを解放しろ!」
「兄貴ぃぃ……!」
後ろで泣く声がした。
「こいつは貴重な情報源だ!やすやすと解放してたまるか!」
「雑魚は黙っていろ。私は今、赤い髪の女と話している」
無常が真っ直ぐウラナを指差した。
「あたし?」
「こいつは大した情報を持っていない!今回メンバーに選ばれたのも99.999%の運と0.001%の運だ!」
「全部運じゃないの!?あんたらのメンバーの選び方どうなってんのよ!?」
「兄貴ぃ、もうやめてくれぇー!!」
そろそろ唯我の涙腺が限界らしい。
「悪い。……そちらが唯我の身を渡さんとなれば、私はお前たちを倒してでも、取り返すぞ」
「できるもんならやってみなさい」
乾いた銃声が、一発鳴り響く。
「……き、奇襲!?あんたそれ、卑怯じゃないの……?」
「卑怯?笑わせるな。正当な手段だろうが」
ウラナはお腹を押さえていた。
「ふうん……“無常”型の銃の効果なのね……それが」
「そうだ、命中したところから闇が広がってやがて呑まれ……!?」
黒い部分が広がっているのは無常の身体の方だった。
「何故……?どうして?どうやって……?」
「その銃、性能に特化しすぎてるのか知らないけど、弾速が遅すぎるわ。どれくらい遅いかって言うと、……あたしの刀で叩き落とせるくらい」
「ウラナ、それは君の戦闘力もあるんじゃ」
「余計なこと言わないのこのポンコツっ!」
フリードリヒがすぐさま言葉の暴力で叩かれる。
「ポ……ポンコツ……!?」
「なるほど、“ゼネラル”か……どうりで勝てんわけだ、98.73%運、1.27%運で選ばれた私には」
「あんたも全部運だったのか!」
不覚にも少し計算してしまった。
「さらばだ唯我…もし尋問されたら、なるべく情報を吐け。その方が楽になれるぞ」
黒に呑みこまれた無常は、そのまま砂も残すことなく消えた。
「普通尋問されても情報は吐くな、でしょ?どんだけアホなの、この唯我ってヤツ……」
「……すべてが茶番の様だったね」
マドルテも驚きつつ、そう結論するしかなかった。
「ウラナ、あの演技必要だった?」
「何としてでも結婚はしない」
「7ターンぐらい先を読まれた……!?」
「お前、まだウラナに求婚するつもりだったのか」
「だって許嫁ですよ!」
「絶っ対に嫌」
「何がそんなに嫌なんだ」
「……なんとなく」
「……分かった、ウラナ。お前、外に男作ってんだろ」
「何て言い方……!」
「図星だろ。そりゃそんなに頑なに拒否ってたらレイナじゃなくてもわかる」
レイナに『ふ~ん?』と言われ、動揺してしまった自分を思い出した。
「誰だよそれ!俺は認めないぞ!」
「教えませーん」
「ま、許嫁がこんな奴だから、しっかりしてるだろ、そいつは」
「なっ……!!」
「あんたと違ってちゃんとした人よ」
「母さんに言いつけるぞ」
「子どもか!いいわよ別に、あたしそこは絶対に譲らないから」
「……おしゃべりは終わりだ。フリードリヒは大殿に残れ。ウラナは、他の奴の援護に当たってくれ」
マドルテが真面目な顔に戻って、二人にそう言った。
「「……了解!」」
* * *
「おかしいですね。わたしたちだけみたいです、まだ主兵と当たってないの。ウラナちゃんはもう主兵1人を捕虜にして、もう1人討伐したって言ってますけど」
「はあ!?さ、さすが“赤いハイエナ”だけあるわね……若いし」
「その言葉、禁句です」
「え?」
「ウラナちゃんだってもう273歳ですよ」
「でも現世の人間換算で20歳くらいでしょ?まだ20歳なのに、最前線で活躍するなんて……」
「それがもう孫娘を思いやるおばあちゃんのセリフなんですよ」
「なにいっ!?おばあちゃんですって!?シャンネのくせに生意気な!!」
「……あんたが、主死神ってやつか」
不毛な言い争いをするシャンネとアルテミスの前に、一人の少年が現れた。
「……そうだけど?」
――左耳のすぐそばを、弾丸が通る。
「え……?」
目の前のその少年は、ラインやライムよりずっと若く見えた。
「で?何か用?あんたみたいなガキは、避難……」
「僕は今、あんたに話しかけてない。黙っててくれ、おばあちゃん」
「なっ、なんですって!?も、もう一度言ってみなさいよ!?」
「おばあちゃん」
「このクソガキ!!」
「それでさ、主死神さんよ」
「なに?」
「さっきの一発どうだった?」
「は?そ、そりゃ、いきなりなんて、……」
3発分の銃声が、耳を貫く。少年は銃を構え、シャンネを見て満足そうにしていた。腕に痛みを覚えた。
「うっ……」
「大丈夫!?」
「ええ、まあ……2発は避けましたけど……あとの1発が」
「左腕、かすめてるだけだけど……」
「申し遅れました。僕の名前は理路。今回の悪魔軍の副指令長を任されてる」
「あんたみたいなガキんちょが……?」
「ああ、主死神さん、傷ついちゃったみたいだね。じゃあいいよ、おばあちゃん。勝負しよう」
「最後の一言が余計なのよ……!!」
「まあもちろん……僕に勝てるなら、の話だけど」




