#17 情けないけど私は、死神としての仕事を全うしようとした
気づいたのは、いつからだろうか。
胸が痛い。
はじめは特に気にならなかった。だから放っていたら、どんどん痛くなって、生活にも差しさわりが出るようになった。するとふっ、と痛くなくなって、今度は足が痛くなった。
そうしてどこかが痛いような生活を送っていると、ある日体から力が抜けて、意識を失った。
「だ......大丈夫か、ペルセフォネ」
ハデスが珍しく、動揺してそう言った。
「大丈夫。疲れてたのかも」
入院して、ベッドに寝転んで、はたとペルセフォネは気づいた。
―――寿命?
何故そんなことを思いついたのかは分からない。でも確かに、自分は生きすぎている。
死神が1400年を超えてなお生きているなんて、ありえないことだ。たとえ過去の罪を償うために、生かされているとしても。
なんで私は、ハデスを無理やり冥界に引きずり込んでまで、伴侶にしたかったのだろう?
若気の至り? いやハデスを一度、殺しているのだ。そんなものでは済まされない。
ハデスは妹と、仲が良かった。それに嫉妬したのだろうか?
いずれにせよ、主死神になった時点でもう、自分は死んでもおかしくない年だった。
いや、もしかすると、小さい体でないと体がもたなくなった時点で、1200年も生きられるはずがないのかもしれない。
謎は、深まるばかりだった。
* * *
あれは、ハデスが冥界に来たばかりの頃だった。ハデスがいかにも不思議そうに尋ねてきた。
「お前......そんなに出来が悪いので有名なのか」
「うるさい」
ペルセフォネはそう返事するしかなかった。
「でもあの主死神様、とかいう人に言われてただろう」
「まさか現世の健康な人間を殺してまで伴侶にしたがる死神がいたとは、って意味よ」
「死神がわざわざそんなことをするのは禁忌だろう」
「分かってるわよ!」
ハデスに、元人間になど言われなくても分かっていた。許しを得て、今ここにいることが、どれだけ奇跡なことか。分かっているからこそ、むきになってしまう。
その男は有能か、と聞かれ、山から植物を取って様々な薬にするような能力がある、と答えると、死後その男を冥界に連れて来れば(すなわち正規の方法で)、罪を許してやると言われれば、誰だってやるに決まっている。
「分かってるから......もうその話には触れないで」
「......。」
「何の話だ」
気まぐれにハデスを呼び出した時もあった。
「子ども、いいよね」
「......何を偉そうな。それに俺はそんな煩わしいものは要らない。妹がいただけで十分だ」
子ども嫌いのハデスには、どんな子どもの話をしても無駄だった。全て厄介なだけだ、の一言で終わらされた。
「これは相当なシスコンね」
「うるさい」
「じゃあ、いいよ。いつか心が変わったら、教えて」
ハデスがはじめて、冥界生まれの死神もちゃんといるのだと、知った時があった。新しく冥界で生まれた赤ちゃんに、会えることになったのだ。
「必ずしも人間出身の死神が全て、ってわけじゃないの。......名前はマドルテ、って言うそうよ」
ハデスはすごく、厄介そうな顔をしていた。これだから子どもは、とでも言わんばかりの目だった。
「ちょっと、抱っこかおんぶしてみる?」
「いいんですか? じゃあ、おんぶしよっかな。ほら、ハデスもおいで」
「......嫌がらせか?」
「あら、子どもは嫌い?」
赤ちゃんの母親が、優しい声でハデスに語りかけた。
「え? ......まあ、好きではないです」
「いいものよ、子どもは。確かに世話は大変かもしれないけれど、その子が大人になって、一人立ちしていく時の感動は、何にも代えがたいと思うわ」
仏頂面をするハデスに、その母親は笑顔で言った。
「......そうですか?」
「ほーら、ハデス、この子面白いぞ!」
おんぶしてもらっていたその赤ちゃんは、ペルセフォネの頭を触っては、ケラケラ笑っていた。
「あれ? 何か不自然じゃないか?」
「え? もしかして能力とかかな」
あまりケラケラと笑うので、ただの戯れではなさそうだったのだ。
この赤ちゃんが、人の過去を知ることのできる能力を持つ、後のマドルテだった。
「心は変わった? ハデス」
少し揺らぎかけているハデスの気持ちを感じ取ったか、ペルセフォネがにゅっ、と顔を出した。
「変わったら教えろと言ったのはお前だ。なんでわざわざ聞いてくる」
「私はあの子を見て、子どもを育てたい、って思った。私と同じ轍は、踏ませない。男の子でも女の子でも、賢明で、視野の広い子を育てたい」
「だから何だ。俺を説得したいのか」
「ハデスもそう思わなかったの?」
「......いや」
全く思わなかったと言えば、嘘になる。そんな顔をハデスはしていた。
「俺が世話をできたのは、ある程度物心ついた妹だったからだ。俺に、もっと幼い子の面倒を見られるとは、思えない」
「そっか......」
* * *
先々代の主死神様の頃には、『十聖士』という役職はなかった。先代が作ったものだ。
ハデスが来てからの私は、時には頼ることもあったが、大体は一人で多くのことを成し遂げ、若くして四冥神になることが出来た。私が492年目の時だ。
「この年齢、いったいどういう意味なんだ?」
「ここは、現世とは時の流れ方が違うの。こっちの方が、早く時は進んでる。こっちの2、3年が、現世の1年に相当するの」
「ということは、俺はまだ331年目だが、これも現世換算では100年ほどなのか」
「そういうこと。だいたい1200年か1300年が限界らしいよ」
「四冥神就任、おめでとうございます」
その日はマドルテが私とハデスの家に来て、私の四冥神就任を祝ってくれる予定だった。
「お、来た来た。まあ、座れ、マドルテ」
私はマドルテに椅子を勧めた。
「......もう成人したのか」
ハデスも相変わらずの仏頂面で応対しつつ、心の中ではちゃんと祝っている。
「いえ、まだです」
この時、確かマドルテは158年目。
まだ生意気じゃない頃だった。
「どうだった、能力の方は」
「人の頭を触ればその人の過去を知ることのできる、“巻戻し再生”(プレイバック)だということです。先天性です」
「先天性? 後天性もあるということか」
ハデスが素直に疑問を投げかけた。
「もちろん、手に入れようと思えば。一部の人はできないらしいですが」
「私は特に強い能力はダメだったな。ちょっとマッチ擦ったときに出る炎が出せるくらい」
「どうやってそんなこと」
「この冥界には能力を与えることのできる道具が五つ存在するの。それを一つずつ保存している家があるっていうわけ」
得意げに元から死神の私が説明する。
「ハデスさんもやってみたらどうですか」
「はあ......」
困惑しつつも言う通りにし、ハデスが手に入れたのは物を自由に動かせる、“物体の自由化”(プログラム・セル)という、強い部類に入るものだった。
「まあでも、乱用すれば疲れるとは思いますし、ある程度の制約はあるでしょうが」
「これで料理運びはラクチンね!」
「今さっき乱用はだめだって言ったばかりだろう」
ハデスはそう言って私を軽々と、天井まで浮かび上がらせた。
「うわっ! やめて! 私高いところ苦手なのに......!」
「なるほど、いざとなればこれでおしおき出来るわけだ。いい弱点だな」
「今一瞬で私の弱みを......!」
「弱みか。裏も取れたな」
「こんのぉー!!」
* * *
「あ、いけないいけない」
ペルセフォネはふと、昔のことを思い出して、それにふけっていた。
最後の仕上げを、早めにやっつけてしまわねば。......とは思いつつ、やはり過去を思い出すのは楽しいこと。また舞い戻ってしまった。まぶたが自然と下りてくる。
* * *
長く冥界にいるにつれて、自分の後輩がどんどんできてゆく。
ハデスが冥界で死神として新たな道を歩み始めてから623年目を迎えた頃、晴れてハデスも四冥神となった。今度はマドルテだけではなく、立派な青年になっていたギミックも祝いに来た。
「四冥神就任、おめでとうございます」
「おめでと、ペルさん」
ギミックはいたって礼儀正しかったが、マドルテは全くと言っていいほどだった。
「こらマドルテ、なんて口の利き方?しかも今回四冥神になったのはハデスの方なんだから」
「ギミックも大きくなったな、すっかり」
当のハデスはそれほど気に留めていない様子だった。
「いえいえハデスさん、そんなことありません。まだまだ俺は未熟者です」
「僕も昔はこんな真面目キャラだったよなあ」
「それが今ではびっくり、見違えるほどどうしようもなくなって」
ペルセフォネも精一杯の皮肉を言って参戦する。
「......ペルさんさっきからひどすぎじゃない?」
「そういえばギミック、能力は」
マドルテの非難から逃げるためにペルセフォネがギミックに尋ねた。
「俺はなしで頑張ります。あの道具を、試すつもりはないです」
「うわ来た、ギミックの真面目モード全開」
すねた様子で言うのはマドルテである。
「仕方ないよ。ギミックはマドルテと違って真面目さがウリなんだから」
「......ペルさん、僕のこといじめすぎなんじゃない?」
「なかなか懲りないからあえて言ってるの」
既に先々代の主死神様は亡くなり、先代の主死神の時代だった。
だが問題は、その先代主死神――アレクサンドロ・フレアだった。
アレクサンドロ・フレアはペルセフォネも若いころ、教えを乞うていた人物だった。性格はいたって温厚、だが叱るときは全力で叱る。主死神にも、なるべくしてなった、と言うべきだった。
彼には妻もいた。ユミル・ハイドレン。今のペルセフォネとハデスのように、夫婦でトップ2を務めていた。
彼に対する信頼が一気に瓦解したのは、今から231年前だった。
「そろそろ、周りの信頼がゆるぎないものになったな」
彼は非常に長い間冥界にいたことで、他人から確固たる信頼を得た。――これがいい意味。
この長い年月を使って彼は、周りの死神たちを油断させ、洗脳した。――これが悪い意味。
「四冥神以下、全死神に告ぐ! 冥界内にて反乱軍の勃発を確認! 反乱軍の陣頭は…主死神様! 主死神・アレクサンドロ・フレアだ!!」
「「なっ…!」」
当時四冥神のトップだったペルセフォネと、2番目だったハデスは、完全に意表を衝かれていた。
―――主死神様が、反乱を?
何が不満だったというのか。謎は深まる一方だ、と思われた。しかしそんなペルセフォネの隣で、ハデスが言った。
「......悪魔か」
「悪魔......!?」
「主死神様が悪魔で、この冥界を根底からひっくり返そうとして潜伏、ついに行動に及んだのだとしたらどうだ。仮説として、最も信憑性がある」
「でも、この冥界に悪魔なんて......」
自分より経験の短いハデスが自分より多くのことを知っていたことに対する動揺も、なかったわけではない。
「引き続き全死神に告ぐ! アレクサンドロは、人間に憑依する死神を食い荒らしている模様! 四冥神・十聖士等で人間に憑依している者は、最大級の警戒をせよ!」
「確定だな。アレクサンドロは悪魔だ」
「な、何で、」
そんなに落ち着いていられるの?
ペルセフォネはそう続けようとしたが言えなかった。
ハデスだって、人間に憑いている身だった。ペルセフォネもだ。
言ってしまってから気づいた。彼が優秀である理由は、ここにあったのだ。緊急事態に際して、いたって冷静に物事を判断できる、その対処能力に。ペルセフォネにとって、到底及ばないところだった。
「ペルさん、ハデスさん!」「大丈夫ですか」
ギミックとアルテミスが駆けつけてきた。
「俺たちが何とか食い止めます。雑魚も含めて。ここにいて下さい。あとでマドルテ先輩も合流するはずです」
「アレクサンドロは今のところ、人間に憑いている死神しか狙っていない。早めにつぶさないと、後が」
「ギミック! お前は大丈夫なのか」
ハデスが言った。
「俺が出ないで、誰が出るんですか」
「ならば俺も行く。俺の能力が、多少は役に立つはずだ」
「私も......!」
「ダメだペルセフォネ。お前はここにいろ」
「なんで! それって私が、」
「......役立たずってことだ。しゃしゃり出て死んだらどうする! 能力ないんだろう!?」
「じゃあ能力のあるマドルテは、何でここに......」
ペルセフォネの論理は破綻していた。
「あいつがアレクサンドロの過去を探ったところで何が出る? 嘘と上辺で塗り固められた反吐しかないだろ! 実際の戦闘で使えはしない」
「大丈夫だよ、ペルさん。僕らは非戦闘人員ってことだ。戦争なのに戦わなくていいなんて、そんな楽なことはない」
......そう思うしか、恰好がつかない。マドルテは少し寂しそうに、しかしはっきりとそう言った。
「早く来てくれてよかった、マドルテ。ペルセフォネを任せた」
「了解」
大殿には残っておけと言われたペルセフォネと、能力を持つものの戦闘向きでなく、また素の体力もないマドルテが残された。
「......僕はペルさん、あなたを見くびってるわけじゃない。尊敬してる」
「その呼び方のどこが尊敬なの」
「将来ペルさんがトップになったら、僕も四冥神になれるよう頑張ってる」
「私が、トップ?」
「今回の反乱があれば、アレクサンドロは何かしらあるだろう。問題は奥さんの方だけど......そうすれば必然的に、ペルさんとハデスさんがトップでしょ」
「私は、トップになれない。あれだけのことをやったバカなのに」
「じゃあ今、何で四冥神のトップなの?」
「運」
「もちろん運もあるだろうけど、もうそろそろ、いやとっくに時効だ。みんな忘れてる。忘れてなくても、忘れようとしてる。僕だって直接は知らないし、そんな死神がもうほとんどだ。ハデスさんも、もうそのことには触れないでしょ?」
「......。」
言われてみれば。あの時の約束を守ってくれているのか。
「バカなら、今何でペルさんは後輩を教えてるの」
「それは......」
「......ま、女の子ばっかり教えてるのは問題だと思うけど。苦手なんでしょ、男の子」
「まあ、暴れるし」
「賢女の存在は必要なんだけどね。自分が熱心であることには、誇りを持つべきだよ。僕の予想では、主死神だね」
「副主死神が、ハデス?」
「ハデスさんも、人前があまり得意じゃないようだし」
ハデスとギミックは大殿を出、混乱の起きたばかりの冥界の状況を冷静に見極めるのに徹していた。
「アルテミスは単独行動が出来るだろう。人間に憑いていないから」
「ええ、まあ」
「俺たちはどうするんだ、ギミック」
「俺は......シャンネの援護に、回りたいです」
「シャンネ?」
「あいつも人間に憑いてる身です。特に女だ。1人にさせるとどうなるか」
「......分かった。何かあったら、呼べ」
「了解」
フロライト・ニカテナ・アルテミス。彼女は当時マドルテに次ぐ重臣で、当時四冥神の4番目である女だった。
(大元を叩くか、あるいは雑魚兵から潰すか)
相手の数がまだ把握しきれていない。アレクサンドロが牙をむいている間、大量の雑魚悪魔が冥界に流れている可能性があった。しかもアレクサンドロが悪魔だという情報は、自分たち上の方の死神しか知らない。一般の死神たちの中にも、アレクサンドロ側についてしまうものはいるだろう。1000年近くも潜伏してやり過ごして生きてきた男だ、死神を食うところなどは見せず、ただ既存勢力に物申す、などと教唆するだろう。
(子どもたちは......)
今の状況でアレクサンドロが人間に憑くことなど知らないチビッ子たちを襲うとは思えないが、戦闘になれば子どもが巻き込まれやすい。戦えない子どもたちは危険だ。
「......ギミック」
通信をギミックにつないだ。
「はい?」
「とりあえず、雑魚処理をしながら子どもたちの誘導よ! シャンネとは合流した?」
「いえ、まだです」
「......私がシャンネと合流したわ。どうする?」
アルテミスのもとにシャンネがやって来た。シャンネはペルセフォネ最初の教え子で、かなり優秀な女だ。ここであっさりと死なせるなど惜しいという言葉では済まされない。
「シャンネ、どうする? 俺と一緒か、アルテミスさんと一緒か」
「......ギミックさんで」
「そんなに私頼りない!? ギミックと比べられて負けるくらい!?」
「たぶんシャンネは強さで選んだんじゃないですよ、圧倒的に俺よりアルテミスさんの方が強いんですから」
「うわっ、勝者の余裕かっ!」
「まだ勝ってません! ......気をつけて下さいギミックさん、そっちに二十ほど、向かっています」
「ちょっとギミック、それ一人で相手できるの?」
「大丈夫です、相手は剣持つだけでよろけるド素人だ」
「分かった。シャンネは私が送っていく。あなたは後で子どもたちの避難を、ギミックと手伝って」
この場合子どもたちとは、主に100歳以下の死神を指す。その中には後のシェド、ウラナ、レイナ、エミーもいた。
* * *
......目が覚めた。寝ていたのか。
自分の記憶と、あとから色んな人に聞いた話がごちゃ混ぜになっている。
だがあの231年前の戦争の記憶は、風化させてはいけない。まして当時主死神、副主死神に次ぐ位にいた私が。もう少し、鮮明に思い出さねば。
そうしてまた、ペルセフォネは目を閉じた。
何とか人間襲撃事件が沈静化してから、数日がたった。
(少なくとも、ペルセフォネにとっては、)何もない昼下がり。
特に何か考えがあるわけでもなく、クルーヴに頼んで、ハデスはケーキを一切れ取り寄せ、ペルセフォネの部屋へ向かった。ペルセフォネのおやつタイムである。
昔は「自分で取りに行け!」と機嫌を悪くしたものだが、今は違う。たまに部屋を訪れても何か考え事をしているようで、ハデスの存在にもなかなか気づかないし、だいぶ体力も衰えている。「ささ、ケーキ持ってきてちょーだい」というような図々しい言葉はないが(「持ってきてくれない?お・ね・が・い」くらいなら多々ある)、自分が元気なのであれば自分が持っていけばいいだけだ。
「入るぞ」
着替えをしているところを見られるとすごく嫌そうな顔をするので、念のため断る。
......返事がなかった。寝ているのか。
ドアを開けると、予想通り、ベッドで横になっていた。
ケーキをテーブルに置き、布団をかけに行く。
「風邪引くぞ」
しかしかけようとして気づいた。
―――鼻息がない。
念のため口元もみるが開いていない。まさか。
首筋に手を当ててみる。温かい。それはまだ救いだった。意識を失っているのか。
だが非常事態であることに変わりはない。
主死神の危篤を、現世視察をしている死神も含め、すべての死神に伝える。
しばらくして、たくさんの冥界にいる死神が大殿前に群がる。
その波を一番に抜け、入ってきたのはウラナだった。
「本当に? 先生が?」
「ああ、今は意識を失っているだけだがな。先ほどの連絡は冥界の外にいる死神にも行っているはずだが、特にもう一度知らせる必要のあるものには伝えてくれ」
「......レイナとか、お風呂に入ってそうだな......」
「ならば頼む」
「了解」
「特別列車も出す。パリ時間15時32分パリ発、マドリード行きが潜在的に冥界に停車する。冥界の正門から戻れない者は、そちらを利用しろ」
「あの道以外にも来る道があるって、本当だったんだ」
「特に飛べない者は列車だ」
ウラナのように飛んであっという間に門の前まで来れてしまう死神もいれば、レイナなど多くの死神は飛ぶことはできない。
喧騒に包まれている冥界をウラナが見渡すと、そこにはたくさんの死神がつめかけ、ひしめき合っていた。それはまさに非常時という言葉がふさわしい様子だった。




