#15 取調べ
部屋に入ると、二人はいきなりこちらをにらんできた。
なるほど確かに、アクの強そうな人たちだ。
「さっさと始めろ! だらだら待たせてんじゃねえ!」
その男からは出そうな声ではあったが、思わず後ずさりしてしまう。
「大丈夫。いざという時は、私が吠える」
クルーヴのその一言で、ラインは安心することができた。
「じゃあ、始めますね」
「クソ、女ばっか来やがって。舐めてやがる」
「名前は?」
男の言葉を一切無視してエミーは尋ねた。
「......嵯峨、浩明」「仁科一」
「日本人......?」
明らかに日本人らしいその名前の響きに、ラインが戸惑いを見せた。
「ズバリ言います。あなたたち、人間じゃないでしょ」
「えっ、一体何を......」
突然そんなことをエミーが言うので、思わずラインはそう口にしてしまった。
「証拠は? えれえ警察も腐ったもんだな、証拠もなしに人を疑うなんてよ」
「......口を慎め」
「ああ!? 今誰が......?」
「まずここがどこか、分かってる?」
「地中海のどっかとかじゃねえの」
「冥界です」
「は?」
「冥界。死んだ後の世界。正確には死んだ未練のない現世の人は天国やら地獄やらに行くので、死神のたまり場に過ぎませんけど」
「何だそれ、冗談ばっか言ってんじゃねえぞ」
「......余計な口を叩くな」
「まただ! おい誰だ」
「ここでは、出た人、入った人など、そのすべての人数を記録しています。だから以前から、あなたたち2人が入ってきていたことも知ってました。貨物列車に便乗してね」
「か......貨物列車に......?」
「ほう、よく調べてんじゃん、公僕さんよ」
「そりゃあここに来るには2通りしかないしね。正面突破するか、もしくは列車に便乗して不法入国するか」
「で?」
「すでにここに来て2日は経ってる。もう現世では、死亡が確認されています」
「死亡......!?」「そんなの聞いてねーぞ」
「ご遺体のレプリカが現世に送られます」
「ふ......ふざけんじゃねえよ!!」
「ざけてんのはあんたらの方だろうが!」
エミーが声を荒げた。
「ひっ......!」
「何でここに来た」
「何でって......」「答えられるわけねえだろ」
「いいですよ別に、答えるまで留置所に入れるだけだから。ここは現世とは違うということだけ、言っておきます」
口では強がっていたが、目の前の女の豹変に二人とも恐怖を感じていたのか、顔にはしっかりと表れていた。
「......ヤバいな、どうする一」
「......使え。そういう時のための、アレだ」
「分かった。だけどお前はどうする」
「俺は別にいい。お前だけでもなんとかなるだろう」
「よし、行くぞ」
それを合図に嵯峨、という名前の男が手を高く上げた。
クルーヴとラインの二人はとんでもないものを見た。
―――男の背中に、赤い翼と、青い翼も生えている。
クルーヴが振り向く。
ラインに迷いはなかった。
「―――“最後の砦”<<アブソリュート・プレシピース>>!!」
死神ならば誰もが使える、防御能力。ラインはいたって落ち着いて、その能力を使った。強固な結界のような防御が、瞬時に形成される。同時に地の底から揺さぶられるような感覚に襲われた。
「ライン!」
「クルーヴさん!」
......揺れが収まった。
「だ......大丈夫ですか」
「平気。ナイス、ライン」
“最後の砦”だと、大抵の死神の物理攻撃を防ぐことが出来る。我ながらなかなかの判断だ、とラインは思った。
「シェドとウラナは......」
「あそこ! 手が見えてます! 範囲をあそこまで広げてたので大丈夫なはずですけど」
「シェド! 大丈夫?」
「大丈夫です、早く出してください! 今すごい体勢なので」
がれきを取り除くと、シェドが全身で、ウラナをかばっていた。
二人とも能力のない身である上に、シェドはたぶん、死神が使えるこの能力を知らなかっただろう。 ウラナはガラス越しだから、とっさの判断がしにくかっただろう。
「た、助かった......」
「ケガは?」
「ないない、大丈夫。かばってくれたから。ありがと」
ウラナが素直にシェドに礼を述べた。少しシェドは照れているようだった。
「クルーヴさん、さっきのは......」
「相当ヤバいね、あれは」
「まさか五紋家だったとは」
「五紋家?」
シェドが説明を求めた。
「あの泥棒たちが入ったのは、五紋家のうちの一つだった。死神の能力を後天的に発現させるために必要な道具を保存してる五つの家を指すの。生まれつきでは能力を得られなくて、欲しい死神が使って、ほとんどはそんなに大したことない能力になるんだけど、ごくまれに強いのが出て、特に凶悪なのが、“冥界大炎上”(デス・マグマ)とか、“冥界大粉砕”(デス・デストロイ)。あいつらの場合はここに来て2日経ったことで、死神扱いになって、能力を手に入れることもできるようになったってわけ。それに625万回に一回の悪運が重なって、両方が発動したってわけ」
「そんなに低い確率なのに?」
「追いかけるよ。外であまり暴れられたら、面倒なことになる。半径数百メートルが丸ごと吹っ飛んで、火柱が上がるから」
“オッケー、私は大殿にいる。ハデスに出てもらうから、うまく合流して”
クルーヴが手っ取り早くペルセフォネにも連絡をしており、話を聞いていたペルセフォネも同意する。
「了解!」
“みんなもいい?”
「「「了解!!」」」




