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現世【うつしよ】の鎮魂歌  作者: 奈良ひさぎ
Ketterasereiburg 編 Afterwards.

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グレッグ王子編

2つ目は、グレッグ王子となります。残り3つは味方サイドの話になります。

「はあ~~~~~~~~~~」


 夕日の差す病室に、大きな大きなため息が流れた。


「そんなため息ついたら、幸せなんて逃げ切ってすっからかんになるわよん?すっからかん」

「うるさいなぁ、ごちゃごちゃ言う暇があったら、まぶしいしカーテン閉めてよ。これでも僕、王子なんだぜ?」

「今は一族丸ごと落ちぶれて、ただの世間知らずの大ポカやらかすガキんちょでしかないけどねん」

「ぐっ......言いたい放題だよなぁ、ほんと」

「そりゃあね。色々犯罪やってるくせに、すぐ捕まらなかっただけマシって思いなさい」

「犯罪?おいおい、それは......」


”......ハイ。やりました。のぞき見とかやってます”


「ここで自白のテープ流さないでよ、趣味悪い」

「ええ、ええ、どうせ私は趣味の悪いおばあちゃんよん」

「何一人ですねてんのさ」

「別に?どうせ刑務所行きは決まってるし、さみしい期間が延びるだけだから別に何してもらっても構わないわよん」

「そんなのに乗ると思う?」

「とにかく今重要なのは光に慣れることよん。暗いところにずっといたらもっとおバカさんになるものねん」

「一言多い!!もう用済んだろ出てけ!」


 主治医の女を追い出して、また長いため息をついた。



 彼は2番目とは言え、立派な王位継承者の一人だった。

 グレッグ王子。母親も兄のサミュエル王子と同じ、父親の正妻である。もちろんサミュエル王子の方が王位継承順は上だったが、彼はサミュエル王子より少し冷静で、感情を爆発させることが比較的少ないと言われた。またサミュエル王子が休日、家でゴロゴロするのを好んだのに対して、彼は長い休みを利用しては外国に行っていた。それが勉強半分、遊び半分ではあったものの、よりよく見聞を広められると、王様である父親は快く思っていた。たまに機嫌のいい時はグレッグに王位を譲ってもいいかもしれん、とまで言った。

 そんな彼が長期休暇にいつものように外国に行っていた時に、事件は起こった。


「父が、殺された......?」


 最初にその情報だけが入ってきた。しかし、


「......兄が、やったのか」


 「兄が父を殺した」という続報が入った時、彼の衝撃は大きかった。確かにサミュエル王子は何か自分の気に入らないことがあるとすぐ怒って、ケンカや殴り合いになっていた。だが父親を殺すほどひどいとは思ってもみなかった。仕えの者の一人によってサミュエル王子自身も殺されたというさらなる続報が入ってきた。王も王子も亡くなった今、自分が王位継承者となる。戻らなければ王の不在で、国全域で混乱が起こることは必至だった。彼は大慌てで国に戻り、帰りの飛行機では即位演説の原稿を練っていたほどの用意周到さであった。


 そうして急ぎ帰ってきた母国に、一族の姿はなかった。その時の彼は、自分が置いていかれたのだろう、と思った。実際のところは国を追われ帰国を待つ余裕もなかった、というのが正しかった。いずれにせよ、彼の帰国を待つ者は誰一人としていなかった。

 人は誰しも、なれるならトップでありたいと願う。組織や集団の中で頂点に立つことで、心のどこかで支配欲が満たされ、気分がよくなる。王族も同じで、国のトップに立つことで支配欲を満たす。頂点にあることで感じられる孤独は、頂点になってから初めて気づくものなのだ。彼の孤独は、そのことで頂点に達した。


「......それで、自分一人は地下に潜って、勝手にのぞき見していた、と」

「亡命したってどちみち明るい未来は待ってない。国民の不満を力で押さえつけて、しかもそれを一族全員黙認してるような連中だぜ?一般人に何かの手違いで殺されても文句は言えないかもって僕は思ったね」


 彼は手当てを受けるために病院に運ばれ、落ち着いてから受けた取り調べでそう答えた。


「それに、......正直こんな能力手に入れて、先が長いとも思えないし」


 一族の亡命以降、彼は地下にいた。もちろん水道施設があったのできれいな水はいくらでも飲めたが、肝心の食べ物はなく餓死することは必至だった。確かに地上にいればいずれ発見され、殺されるなり不遇の扱いを受けることは間違いないが、地下にいても飢え死にする。普段裕福な食事ばかりしていた彼はすぐに体力が尽き、幻覚さえも見るようになった。


「君の生命力には感心するよ。王族でそれほどまで生き延びているのを私は知らないね」


 突然見たグラーツの姿も、幻覚だと思っていた。


「......何だよいったい、王族に向かって生意気な」

「君が生き残る術を、提供できればいいと思ってね」


 その言葉は怪しい以外の何物でもなかったが、しかし魅力的だった。国王軍の将校の中でも有力者であるグラーツが言うあたり、信憑性も感じた。


「......それがどんなのかによるね」

「なに、そこまでリスクを負うものでもないさ」


 そうして手に入れたのが、”幻想郷の終焉”(ミスティック・コラプション)だった。得体の知れないガスのようなものを操り攻撃できる能力。そこまで攻撃性の高い能力が人間に適応するのは珍しい、やはり王族は違う、などとグラーツにはおだてられた。そう言われると確かにそこまで気分を害するものでもなかったし、一番困っていた食欲も、彼の身体から消え失せた。時々水を少し飲みさえすれば問題なく過ごせるようになった。グラーツは彼に、地下のライフラインを守ってほしい、と言われた。彼は流れで引き受けた。”西の国”と”東の国”に分かれてから、”東の国”が自分の国専用のライフラインを別に作ったため、その水道や電気は彼がいた”西の国”にしか届けられないようになっていた。つまりわざわざこんなへんぴな地下までやって来て自分を狙う者などないだろう、と彼は思っていた。かつて王国が持っていた王直属の軍も全員”西の国”に再配属されたし、それ以外に武力はない。”東の国”から襲われる心配は皆無だと言えた。


「......そうなると、君がドレーク・ヴェルスを襲撃した理由が、一層不鮮明となるわけだが」


 取り調べの時、リンツがそう問いただした。


「知らないんだよ」

「知らない?」

「僕が地下にいたことは、グラーツしか知らなかった。どちみち王政が復活しても王になんてなれない僕のことをわざわざ、周りに言う必要もないしね。事実ヴェルスが僕を見た時、驚いてた。僕が外国に行ってたのは知ってたみたいだけど、それ以上のことは知らなかったみたいだし。グラーツの命令に従うか従わないかは僕の自由だったけど、あいにくヴェルスは僕にとっては邪魔だった。昔からヴェルスは真面目だったから。僕を見て、秘密裏に殺してしまおう、なんて考えるかもしれなかった」

「......なるほど。ああ、そうだ。君の処遇について言っておこう。ドレーク・ヴェルスは回復次第、彼を一省庁の役人として欲しがっている国に向かうことになっている。君は回復後刑務所に入ることになっているが、その後に関しては君の希望を聞いておくことができる」

「僕からも聞いていい?どうしてヴェルスはセーフで、僕はアウトなの?」

「ドレーク・ヴェルスは近衛軍副司令長だった。近衛軍が組織的に行っていた犯罪の最たるものは、”東の国”の一般人の誘拐と殺傷だ。だがそれを主導したのはアーリア・ストラスブールただ一人であり、ドレーク・ヴェルスはこの件にほぼ関わっていないことが証明された。ゆえに監視の目が厳重についた状態とはなるが、自由が与えられることとなった。......一方君に対しては、報道によって詳細が国民に知られることとなり、のぞき見の苦情が多く出ていること、それから何より、君自身による自白がある。今から覆るとしても、無罪放免はまずないだろうな」

「......そっか。まあ、みんながそれで満足するならいいよ、そこまで長くないでしょ?」

「長くはないな。だが短くもない。数か月から数年の可能性が高い」

「本さえ読ませてくれたらそれでいいよ。あと今言ってものちのち変わるかもしれないけど、一応希望言っとく。元王族とかそんな箔はどうでもいいから、一般人として過ごさせてほしい。前は途中で切り上げて帰ってきたし、どうせ能力手に入れた人間って寿命短いらしいから、それまでに楽しんでいろいろやっときたいしね」

「......了解した」




 メイリアは結局カーテンを閉めてくれなかったので、病室には強烈な西日が差し込んでいた。


「ふあ~~~、あーあーあ」


 確かに彼には、光が足りなかった。西日を浴びて、何となく懐かしい気分に浸って、大きなあくびが出た。王族だった頃を懐かしいだなんて何か矛盾してるな、と思いつつ、彼はその日何度目かのうたた寝に入った。

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