みんなみんな、不器用でした
うとうと、三人掛けのソファーに体を横たえて、顔を隠すようにタオルケットを被った私は睡魔の中で溶けていた。
夢現の妙な境界線で微睡むのが、何よりも気持ちが良くて好きだ。
深い息を吐き出して目を閉じる。
良い感じに眠れそうになった時、ぎぎぎ、と床の木板の軋む音。
ぱちり、目を開けてタオルケットの内部を見つめながら、深い息を繰り返す。
すぅすぅ、態とらしいくらいの寝息を立てれば、タオルケットが軽く捲られた。
慌てて目を閉じれば頬を撫でられる。
誰だ、何だ。
指先で擽るように撫でられて、ぞわりぞわり、変な感覚。
「寝てんの?」
私の名前と一緒に吐き出された言葉に、どくん、大きく跳ねた。
複数人いる兄の中でも、一番上の兄の声。
成人した兄が二人、同じ高校に通う兄が一人、三人いる兄の中で一番上の兄は、現在二十代半ばで酷く容量がよく、デザイン系の会社を立ち上げて社長の椅子に座っている。
私の顔を覗き込んでいるのか、瞼の裏が暗く、影が落ちてきた。
瞼がピクピクと痙攣して、狸寝入りがどこでバレてしまうのかと冷や汗が流れる。
「へったくそだなぁ」
ぼそっ、と呟かれた言葉に肩が小さく震えた。
バレた?バレた?バレたのか。
ドクドク音を立てる心臓が痛くて、それでも今更目を開くことは出来ない。
兄の手は相変わらず、私の頬を撫でている。
指先で軽く私の頬を押してから、その指はゆっくりゆっくり落ちていく。
頬から首に、首から鎖骨に、鎖骨から胸元に。
ぞわりぞわり、体中を駆け巡る感覚に、お腹の辺りがぐるぐると動いている。
「……お前さ、本当、どうすんの」
かさり、紙の擦れる音。
何の紙かは知らないが、心当たりがないわけでもない。
リビングのゴミ箱に、半分に破って丸めて捨てた一枚の紙があった。
そこに大きく印刷された『進路希望調査』の文字が、私に重くのしかかっている。
どうするって、何を。
何をどうすればいいの。
兄の手が私の頭に乗せられて、髪と髪の間を優しく掻き分けるように撫でる。
私は今までこの兄に、壊れ物でも扱うように触れられたことがあっただろうか。
「お前は、本当に馬鹿だねぇ」
さらり、髪の束を指から離した兄はぎぎぎ、と床板を軋ませながら部屋を出て行く。
目を開けた私の目の前には、シワを伸ばされ、セロハンテープでくっつけられた進路希望調査表。
私は、どこにも行けないよ、兄さん。