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2016年/短編まとめ

みんなみんな、不器用でした

作者: 文崎 美生

うとうと、三人掛けのソファーに体を横たえて、顔を隠すようにタオルケットを被った私は睡魔の中で溶けていた。

夢現の妙な境界線で微睡むのが、何よりも気持ちが良くて好きだ。


深い息を吐き出して目を閉じる。

良い感じに眠れそうになった時、ぎぎぎ、と床の木板の軋む音。

ぱちり、目を開けてタオルケットの内部を見つめながら、深い息を繰り返す。


すぅすぅ、態とらしいくらいの寝息を立てれば、タオルケットが軽く捲られた。

慌てて目を閉じれば頬を撫でられる。

誰だ、何だ。

指先で擽るように撫でられて、ぞわりぞわり、変な感覚。


「寝てんの?」


私の名前と一緒に吐き出された言葉に、どくん、大きく跳ねた。

複数人いる兄の中でも、一番上の兄の声。

成人した兄が二人、同じ高校に通う兄が一人、三人いる兄の中で一番上の兄は、現在二十代半ばで酷く容量がよく、デザイン系の会社を立ち上げて社長の椅子に座っている。


私の顔を覗き込んでいるのか、瞼の裏が暗く、影が落ちてきた。

瞼がピクピクと痙攣して、狸寝入りがどこでバレてしまうのかと冷や汗が流れる。


「へったくそだなぁ」


ぼそっ、と呟かれた言葉に肩が小さく震えた。

バレた?バレた?バレたのか。

ドクドク音を立てる心臓が痛くて、それでも今更目を開くことは出来ない。

兄の手は相変わらず、私の頬を撫でている。


指先で軽く私の頬を押してから、その指はゆっくりゆっくり落ちていく。

頬から首に、首から鎖骨に、鎖骨から胸元に。

ぞわりぞわり、体中を駆け巡る感覚に、お腹の辺りがぐるぐると動いている。


「……お前さ、本当、どうすんの」


かさり、紙の擦れる音。

何の紙かは知らないが、心当たりがないわけでもない。

リビングのゴミ箱に、半分に破って丸めて捨てた一枚の紙があった。

そこに大きく印刷された『進路希望調査』の文字が、私に重くのしかかっている。


どうするって、何を。

何をどうすればいいの。

兄の手が私の頭に乗せられて、髪と髪の間を優しく掻き分けるように撫でる。

私は今までこの兄に、壊れ物でも扱うように触れられたことがあっただろうか。


「お前は、本当に馬鹿だねぇ」


さらり、髪の束を指から離した兄はぎぎぎ、と床板を軋ませながら部屋を出て行く。

目を開けた私の目の前には、シワを伸ばされ、セロハンテープでくっつけられた進路希望調査表。


私は、どこにも行けないよ、兄さん。

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