ホロウマン
AD.2046.11.23.
جمهوری اسلامی افغانستان
アフガニスタン・イスラム共和国
ナンガルハール州某所
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そこは、荒れた場所だった。
地面には、たくさんの死体や瓦礫が、何層にも何層にも折り重なっていて、
とてもここが道路であったなど想像できない。
空は相変わらず雨を垂らしていて、分厚い雲の天蓋は、一筋の光もよこす気は、ないらしい。
雨に濡れてぶくぶくと水分を孕んだ死体は臭く、踏むと、ぐっちょりと音を立て腐肉が沈み、黒ずんだ体液がにじみでて、気色が悪い。
世界は、21世紀の中盤に差しかかったというのにまったく平和になど、
なっていなかった。
むしろ酷くなっている。
もはやテロリズムは、国家や民族、宗教などに囚われないグローバル化したものになっていた。(無論、宗教をこじ付けで使うことに変わりは、なかったが。)
だれでも、AKやC4さえあれば、気軽にテロを起こすことができる。
そんな世界だ。
だが、ぼく達正規軍も、大きく進化していた。
今ぼく達、<アメリカ海軍特殊作戦部隊ネイビーシールズ・チーム9非常時即応展開作戦群>の最先頭に立つ兵士は、人間ではなく、虚人だ。
一見人間のようにも見えるそれは、人間の内臓に似せたぶたの改造臓物と化学
プラントで生産している人工筋肉と人工皮膚で、作られた模造人間だ。
人間のようにとまでは、いかないが、銃をもって、走ったり、狙って撃つ程度のAI知能が、インストールされている。
虚人の名は、付き添う(follow)と虚ろな(hollow)をかけた、ちょっとした洒落だ。
そうこうしていると虚人が、ぴたりと動きをとめ、敵発見の
ハンドサインを送った。
首を前にぐいっと伸ばした虚人は、かつて、先頭の兵士(
ポイントマン)がそうしたようにベネリ・ショットガンを突き出して、
無慈悲に発砲した。
スクラップ車を隔てた先で、ぼく達の存在に気がつかず、呑気に自らの行いによってできた瓦礫の山から、金目のもの探していたそいつは、首から上を熟れたトマトのようにぐちゃとつぶされて、瓦礫の仲間入りを果たした。
「エネミィ、エネ、、、、。」
ぼくは、そう叫んだそいつの近くにいる兵士に、素早く照準をつけて5.56mmNATO弾(ss109)をお見舞いした。
敵は、ざっと5、6人で、おそらくパトロール兵だけなのだろう。
武装は、お馴染みAK47と74だ。
こっちはといえば、keymod(鍵穴状の穴のあいた最新式のハンドガード)を装備しレシーバーをアンビタイプにデザインし直したHK416である、チーム9専用のアサルトカービン HK M46A1 戦争神だ。
武器の時点で勝敗は、判り切っていた。
それにDARPAの作ったカーボンナノチューブの外骨格の助けのある、ぼく達の機動能力に彼らが敵う筈が、ない。
敵の銃口を虚人が、引きつけ、ぼく達人間が、銃口の注目のない無意識の領域から、冷酷なる死を撃ち付けていく。
戦闘は、わずか、数十秒で、収束した。
もちろん、ぼく達の一方的な勝利によって。
ぼく達の戦いは、いつもこうだ。
戦いとは、程遠い <虐殺>だ。
この世界の戦争を、テクノロジーが支配しているのだ、
理不尽な科学の格差が・・・。
ぼくは、この時ばかりは、彼らに同情するものだが、
無論、彼らを殺し続けることに変わりはない。
「テロリストは、絶対悪である故、排除すべき腫瘍である」と大統領が言っていたし、ぼく達もそのことを疑ったことは、ない。
なにより、ソフィアが・・・。
いや、作戦中にこのことを考えるは、やめよう。
;00
今からかれこれ二年程前の話だ。
ノーフォーク海軍基地に連絡が入ったころには、もう手遅れだったらしい。
無論、ぼくが、リッチモンドの病院についた時はもう事後だったことは、いうまでもない話だ。
殺風景で迷路のような白い建物を、あっちこっち民間用AIをインストールした、虚人の後についていって、たどり着いたのは、
<hazard;AUTHORIZED PERSONNEL ONLY!>
(危険、関係者以外立ち入り禁止。)
と赤文字で書かれた場所だった。
「368号室デス、人サシ指ヲ認証パッドニ、カザシテクダサイ。」
ドアが、熱源を感知して音声を再生する。
まったく現実感が湧いてこない、
まるで、シミューレーターに乗っているような感覚だった。
Q「ソフィア・マクスウェルの病室に行きますか?」
A「yes.」
Q「扉を開けますか?」
・・・・・・みたいなやつだ。
正直、ここまで来ておいて今更だが、ぼくには、この扉を開ける勇気がなかった。
どうせ、この先に広がっているのは、きっと酷い現実だろうから。
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「認証、通行許可受諾、容認サレマシタ。
ヨウコソ、ミスタ・ウィリアム・マクスウェル」
気がついた時には、もう扉は開かれていた。
そこに<いた>のは、いやっ、<あった>というべきだろうか。
とにかくソフィアのような何かがあった。
ベットの上に横たわって寝ているのは、肢体を、手と足を切り落とされた裸体の女の子だった。
昔、芋虫という古い日本の小説を読んだことがあるが、まさにそれだった。
すでに心臓は、止まっているのだろうか、ベットの脇には、黒い 恒常機があってそれから伸びたチューブが、彼女の胸囲に繋がっていた。
これが、本当にソフィア_(だったもの。)なのか、到底信じられなかった。
信じたくなかった・・というのが、正しい。
彼女の胎は、膨らんでいた。
側近についていた、白衣の虚人に、
「彼女は、あいつらに妊娠させられたのか。」と聞いた。
「イエ、重度ノ、ストレス状態ニヨル、ホルモンバランス ノ崩レデ、奇形ガ、生ジテイル ダケデス。」
虚人は、無表情で、無感情に答えた。
なにが、<だけです>だ。
もっと酷いじゃないか。
そんなことを模造人間である、虚人の空っぽな脳みそに訴えても意味がない。
とにかく、目を逸らしたい。
ただ、その思いで恒常機を見つめる。
国防省や、企業に置いてある、サーバー・コンピューターに似ている。
何もかもが、真っ白なこの病院の景色のなかで、その黒光りする鉄の箱は、妙に目立っていた。
よく見ると、恒常機のチューブは、どくどくと波打っていた。
おそらく、心臓を無理やり動かすための擬似信号因子をサーバ内で製造し、
心臓に送り続けているのだろう。
どくん、どくん、どくん。
こいつが、いなくちゃソフィアは、とっくに死んでいる。
むしろ、もうソフィアは、死んでいる?。
いや、ソフィアは・・・・。
生きている?
抑えきれない好奇心というべきか、そんなやりきれない何かに突き動かされてぼくは、ソフィアに触った。
温かった。
しかし、それは、あきらかに普通の人間のそれでは、ない。
あまりにも、普遍的でありすぎる。
恒常性が、人工の理想でありすぎるのだ。
なにもかもが異常で不自然なのだ。
人間としても、ソフィアとしても。
「ぼくが、見えるかい。
ぼくの声が聞こえるかい。」
こんなことになるなら・・・。
あの時・・・。
「こんなのって、ないよな。」
「彼女ハ、イキテイマス。
合衆国ノ最先端ノ技術ニヨリ・・・。」
ぼくの気持ちを知ってか知らずか、虚人は、言った。
「黙れ、こんな状態で、なにが<生きてる>だ!。」
ぼくは、頭にきてそいつに飛び掛かった。
<ネービー・シールズ・チーム9>
は、存在しません、現在の時点では、欠番です。(対テロ部隊は、チーム6のデグプルーになります。)
HK M46A1 エリスは、実際には、ありませんが、それっぽい銃は、いっぱいあります。
一様HK M46A1 エリスの概要を説明すると、SI defenceのオリジナルデザインレシーバーにkeymodハンドガード(16インチ)
そして、クレイン師団のお馴染みクレイン・ストック、中身は、以前の
リュングマン作動回転ボルト閉鎖作動方式ではない、ガス圧作動ロテイティングボルト方式のHK416。全長940mm 口径5.56mmNATO
マガジン装弾30発 本体重量2.364g ですね。