prologue
AD.2046.11.22.
中央アジア某所上空。
「ごめん、ソフィア。」
漆黒の中を、ごうごうとターボ音を響かせて飛ぶ、一機のハーキュリーズ輸送機の中。
ふと、窓にへばりつき糸を引く雨を眺め、ぼくは、またしても彼女のことを考えてしまった。
そう、あの日もこんな雨の日だった。
死者は、生者を赦さない。
死人に口なしとは、よく言ったものだ。
ソフィアは、ぼくを恨んでいただろう。
おそらく、いやっ、絶対に。
ソフィア。
最愛の人、唯一の家族、ぼくの妹で、あった人。
ぱら、ぱら、ぱら。
ぱら、ぱら、ぱら。
またひとつ窓ガラスの表面を雨粒が、細く細く枝分かれしながら滑り落ちてゆく。
まるで、人生のようだ。
生まれた時、人類は、可能性の粒だった。
そして、にょきにょきと人類は、自分で軌道を変えながら、枝分かれして、
細く細く伸びてゆく。
しかし、道を間違えれば、風に飛ばされてしまうだろし、軌道をくねくね右往左往しすぎたり、
枝分かれしすぎたりして、途中で力尽きてしまうことあるだろう。
でも、ぼくらも雨粒と同じく後戻りなど、できやしない。
ソフィア、教えてくれ、ぼくは、どこで道を間違ってしまったんだ。
返事は、ない。
ここに彼女は、いない。
どこにもいない。
輸送機の中には、雨のぱら、ぱら、ぱらとハーキュリーズのごう、ごう、ごう以外に音は皆無で、
冷たい殺気めいた空気が、その場を支配している。
無理もない、この輸送機は、戦場へ向かっているのだ。
「こちら、オフィスより、オフィサーへ。
ウィリアム・マクスウェル大尉。
まもなく、降下目標上空です。
降下(HAHO)の準備をしてください。オーヴァ。」
これから、ぼくが、語る。
いや、語るだろう物語は、罪の物語だ。
ぼくの罪、いや、人類の罪かは、まだ、わからない。