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迷い星の君へ

作者: 坂木哉斗

星が流れた

一筋の線

「あいつどうしているんだろ」

ふと声に出してしまった。


ここに新春に行われる春宮と七夕のころに行われる夏宮がある。

あいつとの出会いは春宮の夜祭りだった。

ちっぽけな田舎の街。

薪能の舞台がしつらわれ、舞が奉納されている。


そのとき…


重々しい空気の圧を感じた。

舞を舞っている人も周りの人も地面に倒れこんだ。


「頭をよけろ」

「ぶつかる」

「キャー」


高速で鈍く光る物体が頭上をかすめた。


ヴォンと音がした。


裏山のあたりだろうか、そこに突っ込んだようだ。


「…確かめよう」

「バカっよせよっ」

周りの男たちがなにやら言っている。

「確かめて見るだけなら、害はなかろうに」

そんな一言で急遽裏山に入る人が出てきた。

僕もその中にいた。


そして…


それがあいつとの出会いだった


「おーい、あったぞ]

そんな叫び声の向こうに先ほど飛び越えていた塊があった。


恐る恐る近づいてみる。


その物体は明滅をしているようで微振動もしているようであった。


物体の一部が動いた


「扉?」

僕がぽつりと言った


動き出すと中から白い水蒸気みたいなものが噴き出す。

そして、なにかが動いている


中からなにかか出てきた


「おぃ、ヤベーぞ、離れろ]

「なんだ、こらぁっ」


一応人型の何かがいた。

服を着ている。

宇宙服なのか。

けど意外とラフな服に何か機器がついしている。


「☆Дш¶Ч」

「何言っているんだよ、あれ」


あれ・・・あれこそ、あいつだった

よろよろとしながらなにやら体についている機器をいじっている。


「テステステス、ワレワレハウチュウジン、ダッ、テ、チトマチ」


「宇宙人・・・って、まあ、犬のような獣のようなモフとして」

ついてきた唯一の女子、綾香がつぶやいた。


「すいません、ちょっと舟が壊れてしまって」

「しゃべったぞ、早乙女隆」

「フルネームで呼ぶなよ、アヤちゃん」

「綾香ですっ」

西川綾香。

まあ、たんなる幼馴染なので空気みたいな存在だが。


「あの、学習能力あるので、話せます」

「ほぉ」

なにやら一同が感心している


「名はアンニリス・デ・マロと。」

「で、どうしてここに」

隣のじいちゃん何突っ込んでいる

「迷いました、舟が壊れ。この辺の星の位置」

「道間違えたのか、宇宙規模で。これは傑作」

隣のじいちゃんそこで感心するところでないだろ。


「どうだ、こんなところでなにだ、ウチにこないか」

父さんはやすやすと突拍子もないことを言い始めた。

「なに、部屋ならあるだろ」

そんなこんなで、あいつこと彼との生活が始まった。


「まーまーまー、洋服は、これ使うといい」

父さんが彼に話していた。


「なんだか、めんどくさそうな服着ているが」

「ありがとうございます…まだこの星の環境になれるまで」

「この部屋使うといい、まあ、使わなくなったからね」

「ん、こっちだ。死んだ兄ちゃんの部屋」

「いいのか」

機械から翻訳された声が響いている。

「死んじゃったんだ2年ほど前に」

「…そう」

「適当に使うといいよ、別に大したものないから」


その日マロは疲れているようだった。

いや2、3日寝込んでいたと思う。

時折、部屋から、悲しそうな声ともうめき声が聞こえた。


「さあ、朝よ二人とも」

母さんが起こしてきた。

「二人に話があるの」

「えっ」

もうこのころには彼は普通に会話ができていた

ただ、こちらの地球の文化、歴史、科学には慣れていないようだった。


「隆と一緒のクラスに、留学する」

「父さん何言っているんだよ」

「いや、いろいろ街のお歴々の方から声がかかってな」

「けど、…マロは…」

「ん、いや、別にいいけど」

「しかしっ、こっちにとっては【宇宙人】なんだぞ」

「…いや、慣れているよ」

「けど、バレたらどうする他のヤツらに」

その時父さんがぽつりと

「なーにどーせばれっこないだろクラスにゆるキャラいるてことで」

「そーゆーレベルじゃ」

「じゃ、月曜日。ところで体調はどうだ」

「はあ、なんとか」

「だろうね。遠路はるばるここに来たんだから」


「じゃ、今日からしばらくの間の【留学生】を紹介する」

英語でクラス担任の坪井先生が言った。


彼が黒板の前に出る。

ざわつく。

当たり前だ宇宙人だろ


「私の名はアンニリス・デ・マロです。これでも王族です」

「王族って…どこの王子様」

新田が茶化すように言った。

「小さな星です、星というより惑星帯の一つ120人ほどの星」

「なんで、ここに来たんだよ、侵略か」

門田が言った。

「いえ、迷い込みました。舟が壊れました」

「もしかして、春宮のアレ…」

門田が言いかけた。

「そうなんです」

「ウチのおやじが言ってたぞ、アレ、早くどかせって」

「後で小さくしますので」

「えっ、折りたたみ自転車みたいに小さくなるの」

「そうなんです」


「…積もる話もあるだろうが、授業を始める」


いろいろ僕だって話聞きたかったなもっと。

今思うとそう思う。


「アンニリス・デ・マロ、長いね名前」

綾香が言った。

「マロでいい」

「はあ」

「なんとなく高貴な感じもあるし。決定ぇぇぇぃ」

「おいおい」


「ところで故郷の星ってどんなところなの」

「故郷か…」

ふとマロが空の一点を見つめた

「昔は一つの星だった。争いがあってね」

少し重い時間が流れた。

「星が…砕けたんだ。その一つが船になっている」

「船っ」

僕が驚いて突っ込みを入れた。

「砕けた小惑星の一部に動力つけている」

「で、どうするんだ」

「最終的には安住の地を探す。私は王族探査員の一人」

ちょっと不慣れそうな学校の制服をいじりながら言った。

「結構、責任ある立場なのね」

綾香が軽く言いかけた。が。

「そう、何とかして星に戻らないと」

「どうすればいいのさ」

僕が続けた。

「待つしかないかもね。救難信号は大気圏突入時に出してある」


マロが兄の部屋にいた。

もうその頃はマロの部屋であったが。


マロは兄のノートパソコンを開いて何やら調べていた。

彼の学習能力はとてもすごく短期間に自分と同じレベルになり、

またそれを追い越しているようであった。


何やら、論文を見ているようだ。


「何見ているの」

「惑星の運動に対する重力に与える影響かな、よく訳せない」

「わかんねぇ」

「私にとっては、これは〈古典〉か〈伝説〉なんだが」

「えっ」

「ちょっと、もしかすると使えるかもしれない、けど」

「なんだかすごいな」

「この道具貸してもらうよ」

「ああ」

「すごいよな、簡単にマスターできるなんて」

「いや、舟の操縦ほどでないさ。あっ、これ」

「ああ、兄ちゃんの形見のデータ」

「これは?」

「…入院していたとき使ってたからね、いろいろその時の」

「ふーん。そしてこれは」

「死んでアカウント解約するときのデータ」

「なんか色々つながっている」

「SNSやってたからね、ほら英語のもあるだろ」

マロはじっとディスプレイを見ていた

「闇を切り裂きいざゆかん新たなる光の世界へって」

「ああ、お兄ちゃんが好きだったアニメのセリフだよ」

僕はディスプレーを見ながらつぶやいた。

「最後のメッセージはご冥福をお祈りしますだったけどね」


ふと、マロが画像フォルダーの一つにカーソルを合わせた。

「ああっ」

「どうした」

「見たことあるこれ」

「えっ」

「私たちの古くから伝わる文字だ」

「兄ちゃんそういやいってたなヴォイニッチ手稿って」

「読めるよ、これ」

「ウソっ」

「本当だちょっと待ってくれ」

マロは考え込むように画面を見つめた。

「天体と、どこから来たのと、・・・」

「これだけでわかるの」

「・・・いや」

「けど、兄ちゃんが言っていた。近くの神社に似たのあるって」

「ええっ、なんでそれ早く言わない、どこだよ」

「マロが不時着したところの裏」

「そ、そんな」


翌日マロの舟を小さくして止めている、その裏側の神社に向かった。

神社併設の資料館の中だ。

「よりによって門田ん家の関係とはね」

「隆っ、いくら偶然とはいえできすぎているぞ」

「そう思うけど」

そんな僕らの会話をよそにガラスケースを見つめているマロがいる。

マロが、何やら見慣れない文字を覗き込んでいる。

「これ、撮っていいのか」

「いや。けど複製のならパンフレットに全部載っているよ」

「おおっ、それはありがたい」

「どうして、そんなに大切なんだ」

「ここに来たときに、舟の位置関係を示す装置が壊れてな」

「この古文書があるとできるのか。位置がわかると」

「ああ。そうすると、もっと正確に救難信号出せる」

「しかし、不思議だよな。星まつり伝説と一致するし」

門田が言った。

「それはっ」

「遠い昔この地に星より迷い人来りて去りゆく、だったかな」

「門田そりゃ春宮と夏宮のまつりだろ」

「伝説としてはなんだけど」

「・・・いたのか、私より前に」

「たしかな証拠はないけどね」


季節が過ぎて行った。

梅雨が終わり夏休みが近づいていた。


田んぼには稲穂が育ち、虫やら、カエルやらが鳴いている。


『ふぇぃぃん』と間の抜けたような警笛を鳴らして気動車が行く。


マロの舟がある裏山。

「にしても、変な光景だな」

門田が言った。

「宇宙船がブルーシートに隠されて地面から浮かんでいる」

新田が汗をタオルで拭きながらつぶやく。

「マロの舟にエアコンはないの」

「…壊れているからね、それに私は環境にすぐ対応できるし」

そういいながら舟の中で修理をしている。

「・・・わかれば手伝うんだけどね」

「隆、その気持ちだけでいいよ」

「で、この前手に入れた古文書他にどんなこと書いてる」

「知らないほうがいいかもしれないよ」

「まさか人類滅亡の予言とか」

「そんなものでなかった」

「じゃぁ教えろよ」

「たいしたことないよ、『かわいい子がいて幸せ』とか」

「本当かよ」

「まあ、信じるかどうかはそっち次第だ」

マロの手はなにやら奥のものをつかんだようだ

「ちょっと離れてな」

マロが乗り込む

上下左右動き出す

「…まだ、補助動力だけじゃね、飛べないか」

マロは夏空を見上げた。

「あとは、こっちので探さないと」

マロは手のひらに乗せたタブレット端末のようなものに手を触れた。


セミが背後で鳴きはじめた。

夏がすぐそこまでやってきていた。


夏休みに入った。


夏宮のまつり、星まつりで街中はそわそわしていた。

ここいらは、このまつりから夏が始まる。


街中から笛や太鼓のにぎやかな音が聞こえる。


その時だった。

スマホの着信があった


「隆っ大変だ」

「どうした」

「怪しい奴らが来ている、気をつけろ」

窓の外を見ると、物陰に隠れているような人が何人かいる。

「なんでだよ」

「マロだよ、マロを狙っているんだ」

「どうして」

「宇宙人だからだろっ、バレたんだよ」

「どうする」

「隠れるか、逃げるしかないだろ」

背後からマロがぼそっと言った。

「いや、大丈夫だ。私の出発の準備はできている」

「何っ」

「連絡が今ついたんだ」

マロがすのタブレット端末みたいの見せた。

なにかほんのりと明かりがついているところがある。


「門田、いいか、アイツラ巻くからな」

「隆、なんだよ、急に」

「今日、マロが旅立つ」

「おいっ急すぎるだろ」

「いいか、お囃子の連中がうちの前くるだろ、あれに紛れる」

「わかった。その中に加わろう」


お囃子を乗せたトラック神輿そしてその取り巻く人々がやってきた。


「準備はいいか」

「ああ、もう恒星運行用の服には着替えた」

「これだと、目立ちすぎる」

「なんだこれ」

「お面と法被」


(こっちこっち)

門田が手招きした


笛太鼓の中その中のトラックの中だ.

そのなかにまぎれこむ

バレるかひやひやしたがお祭り騒ぎだ

妙な姿なものが一人いても…おかしいか


「それにしてもにぎやかだな」

「ああ、まつりだからね」


いよいよ、最後に神社前に祭礼の列はついた。


「行くぞっ」

「ああ」


マロと僕ははお面と法被を脱ぎ捨てて神社の裏側に回る。

その鬱蒼とした雑木林の向こうに獣道がある。


「ついてくるぞ」

「こっちだ」

ここから先は地元の人でも知っている人は少ない道だ。

「はあっっ、きついけど…、もう少し」

「うっ、はっっ、わかった」


ズサっ

「ああああっっ」

背後に何やら声が聞こえる


「マロ、隆、トラップ作っておいたからな」

「新田っなんでここに」

「こんなこともあるかと思ってな、綾香」

「おい、聞いていないぞ」

「隆、門田から念のため作っておけってずーーーと前に」


「マロ見えてきたぞ」

「隆、そうだな」


弾む息を抑えつつ、マロの宇宙船に近づいた。


「新田、この覆いどかすぞ」

「門田、綾香も手伝え」

舟にかぶさっていたシートが外されてあらわになる。


「さてと」

マロがタブレット端末のようなものを取り出した。


「大きくするから、離れて」

タブレット端末の上でをかざすと舟の大きさが変わった。

「よし、そろそろ来ます」

マロが独り言のようにつぶやく。


裏山の麓では宵宮が行われているせいか、笛太鼓が聞こえてくる。


晴れていた夜空の向こうに雷光のような不思議な光が見えた。


「来ました」

マロが言った


「おおおお」

「あーーー」

「ひぃぃぃ」


荘厳な光に包まれた宇宙船が3隻。

光の中から現れ目の前にスッと着地した。


「Дюф*」

「§ЙΓ」

「失礼しました、翻訳機調整します」

三隻から三人の人が現れた。

マロと同じようだが、年を取っているようだ


《閣下、ご無事で。というよりなんて無茶を》

「いや、すまぬ。ただ、ここで素晴らしい思いができたよ」

《ここの星では、移住は》

「…残念だが、追いかけられているよ、ほら」

マロが指差した向こうに懐中電灯が光っている。


「隆、この星ではこういう時なんていうのかな」

「…さよならっ、ていうんだよ」

「いやどうかな」

「えっ」

「闇を切り裂きいざゆかん新たなる光の世界へ」

「おいそれって」

「ああ、さよならは言わない」

「じゃあ、なんて言うんだよ」

《閣下、出立準備が整いました》

「また会おう」

「きっとだな」

「いつかね。今度は舟を壊さずにね」


「最後は派手に行きます。伏せてください」

マロの乗った舟と大きな宇宙船三艘が光にくるまれた。


ヴォォォォォォンという重低音とともに

キュウィィィィィンという高周波がした


いきなり夜空の向こうに光にくるまれたトンネルが。

それから一気に吸い込まれて。


消えた。


「バカっ、ぁぁぁぁなんだよ、突然なんて、さびしいじゃんかよ」

僕は夜空の向こうに叫んでいた。


「行っちゃったね」

綾香が言った。


「ああ…けどマロなら見つけそうな気がする。安住の星」

僕は夜空を見つめていた。


「けど、いつか、きっといつか会えるよ」

独り言のように僕は呟いた


季節がまた一つ過ぎ

秋となり

冬が近づいていた。


星が、また一つ流れた。

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ネット小説大賞 キカプロコン
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