ナンバーワン歯磨き屋店員
「はぁーいちゃんと磨けました」
「うんミサキちゃんのおかげでお口キレイキレイだよ」
馬鹿かよ。こいつは。いや、ここの客は馬鹿ばかりだ。
私がこの歯磨き専門店に働き始めてから三ヶ月経つが、こういった馬鹿な客しか相手にしていない。
歯磨き専門店というのは、一昔前にあった耳かき屋とか添い寝屋とか、メイド喫茶といった類のものだ。若い女が親しい接客をして、男の客を狙う商売だ。
私の働いている歯磨き専門店は、個室で客に膝枕をしながら歯磨きをしてやるというものだ。
歯磨きは普通の歯磨き。別に歯石を取ったりとか、特別綺麗に磨けるわけじゃない。ただの歯磨き。
客はそのただの歯磨きを、女の膝枕を目当てにやってくるのだ。
馬鹿だろ。ただの歯磨きに金を払って人にやってもらうなんて。歯磨きなんて毎日一人でできるだろ。まぁ働いている私が言うことじゃないかもしれないけど。
この店に来る客は何と言うか、納得できる客層というか、一言で言えば女に相手にされないだろう男ばかりだ。つまり不細工。
何日も洗ってないようなフケだらけの髪、油ギッシュのアバタ面、異臭。
それに顔が気持ち悪いのに加えて、動きとか発言までもが気持ち悪いんだよな。
フシューフシュー息荒いし、膝枕してる時おしり触ろうとしてくるし、私が使った歯ブラシ頂戴とか言ってくるし。しかも一万で。
やれるかボケ! 私の歯ブラシ欲しけりゃ百万積んで来い。
まぁそういう奴らをターゲットにしてるから成り立つ商売でもあるんだけどね。
女に相手にされないような奴らを、この私が相手してあげる。その見返りとしてお金を貰う。多少法外でも男共は黙って金を払うんだな。金がある間は相手にしてやるよ。
「また来るよミサキちゃん。絶対来るからね」
「うん待ってるから必ず来てね」
「うん!」
客は満足したように帰っていった。
疲れる。子供言葉になるのがまた気持ち悪いんだよな。
しかし今日は給料日。ホストクラブで遊んで帰ろう。想像しただけで疲れが吹っ飛ぶ。
待っててねセイヤ。私があなたをナンバーワンにして上げる。