流行色決定会議
今年も流行色を決める会議が始まった。しかし議論は平行線。何も進展がないままニ時間が経った。
「今年は白だったのだから来年は黒などどうでしょうか」
「しかし黒は一昨年の流行色でしたから、今年はもっと違う色を流行色にしていきたいですね……」
こうやってニ時間ああでもない、こうでもないと議論を交わしている。
俺はこの業界は長いわけではないが、はっきり言って俺にはムダな時間にしか思えない。
流行色と言ってもファッション、アパレル業界の流行色の話ではないのだ。今、会議室でサラリーマンたちが会議しているのは砂糖の流行色の話をしているのだ。
砂糖だぞ。あの甘いサラサラとした砂糖だぞ。若い子たちを導いて悩ますファッションなどの流行色を決める会議じゃない。砂糖の流行色を決める会議だ。
意味なんてあるのか。
だいたい砂糖なんて白いか、黒いか、もしくは茶色かの三色くらいだろ。なんでそれで流行色なんて決めるんだよ!三年ごとに回ってくるだけじゃないか。
いや確かに何年前か前に黒砂糖ブームなんてちょっとあったかもしれない。しかしそれだって色が流行ったわけじゃない。たまたま黒砂糖が珍しさもあってうけただけだ。
なんで砂糖業界で流行色なんて決めてるんだよ。塩業界が流行色決めてるか? あっちの方が白以外に緑とかピンクとか色のバリエーションがあるだろうが。抹茶とか混ぜれば。
しかもこの砂糖流行色会議を主催しているのが砂糖業界大手の三社で、三社とも本気で議論しているというのが質が悪い。
創業100年サトウ製菓の佐藤専務。
シェア50%甘露株式会社の天井常務。
国内最大のサトウキビ農場を持つ首我さん。
三人ともなんで砂糖にちなんだ名前なんだよ。筋金入りすぎだろ。
こんな三人に囲まれて、最近砂糖業界に参入してきた我が社から、分けもわからず会議に参加させられた俺はどうしたらいいのかわからなかった。
もうすぐ会議が始まって三時間が経つ。
「うーん。じゃぁ今年は黒で決まりかな」
「そうですね。二年ぶりに黒にしますか」
やっと決まったようだ。この不毛な議論から解放される。
「ということでいいですか。藤田さん」
「えぇ私は黒が良いと思っておりました。漆黒といいますか、黒砂糖には美しさがありますからね」
俺の不注意な一言で会議室の空気が変わる。
「漆黒……。黒色と漆黒は違うね」
「漆黒。ふむ考えたことがなかったな」
「黒にも色々あるということか。どの黒でいくか、これから決めますか」
砂糖の流行色会議は終わらない。