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私の夫は鼻先零ミリ  作者: 鴉野 兄貴
彼の瞳の先には
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どうしてあなたがついてくる

 色々あって村の財政を救った私たちは新村長の誕生に立ち会い夫は飢え死にの危機から逃れることが出来たが。

「ああ。牛が食いたかった」悲しそうな瞳でぼやく夫。

彼の背を少女が『ポンポン』と慰める。彼の瞳が少し柔らかくなる。

腹が立つ。というか、どうして貴女がついてくるの。


「ああ。学生時代を思い出す。あの頃は時給五〇〇円くらいで、『一緒にY野家に行かんか』でナンパが出来た」私たちはバブル世代だけど、恩恵を受けることが出来るのは新卒の子以降で学生の私達はお金なかったものね。

(作者註訳:夢子さんたちは地球時間にして2005年前後に転移しました)


「当時はY野屋は程ほどに美味かったしなぁ」


「よしの? ばぶる? 」少女は不思議そうに首をかしげる。可愛いじゃないの。

でも夫に近づくな。そんな目で夫を見るな。ドキドキするな。

『牛が食いたい』をどう間違えたらあの新村長は牛並の価値のあるものを寄越せに解釈できるのよ。まったく。

「おかげで荒野を畑にする作業をやらされた」「凄く助かりました。勇者様」

彼女は嬉しそうに微笑む。そして寂しそうに目を伏せた。

 彼女の行方は私たちの腹次第。

この世界で女一人で世界に放り出されることは、

飢え死にか凍死かはたまた犯されて安宿の荒くれの慰み物を務める奴隷か。

長く育った村を離れることになり、怯えるのも無理はない。


 すたすた。夫は歩む。

草や木、土や道に彼の視線は優しく動く。

「よく見ておきな。おじょうちゃん」


 そうして彼は少女を引き連れて村を一望できる小高い丘の上に。

「もう、見ることはないだろうし、しっかり目に入れておけよ」

名目上は少女は夫の妻になった。要するに身売りだ。


「……」


 涙腺が崩れた少女は涙を流しながらコクリと首を縦に振った。

夫が連れて行かずともいつかは身売りされたのだろうが釈然としない。

「妹を頼みます」若い村長はそう呟いて泣いていた。

人買いに売ったり領主に差し出すよりはという配慮らしい。


 ごしごし。

夫の掌が少女の金色の髪をこする。

無遠慮な行為に涙目の少女を彼は軽く抱き上げて問う。

優しい瞳だ。でもそういう瞳は赤の他人にまではいらない。


「なんて名前だ。お前は」「ま……マヤ」彼の肩の上で少女は呟く。

「じゃ、しばらく一緒にいようか。なぁに。悪くはしないさ」

悪くした場合、何をするのか気になるところね?


 私の怒りを他所に、彼はニコニコ笑いながら歩を進める。

彼女が安心して暮らせる町を求めて。とはいえ、こんな荒んだ世界でそんな街はないのだが。


「夢子。次の街までどれくらいだ? 」三日。

「なぁに。なんとかなるし、なんとかするのが『勇者』ってもんだ」

夫は私の気持ちも知らずに能天気にそうほざく。

御互いの考えが解るのにどうして私たちはこんなにすれ違うのだろう。


 私の名は旧姓白川夢子。

勇者である夫、遥大空の瞳を守る『真実の瞳』とは私の事だ。

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