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私の夫は鼻先零ミリ  作者: 鴉野 兄貴
彼の瞳の先には
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ミノタウルスのステーキはおいしいですか

 鼻歌を歌い、楽しそうな笑みを浮かべる夫。

この人、死の罠が待つ坑道に入る自覚はあるのかしら?

「久しぶりに牛肉が食える」だから、牛じゃないっていってるでしょうが。

この世界の牛さんって筋張ってて美味しくないんだったっけ。


「あれはビーチサンダル食ってるようなもんだぞ」なら食うな。


 

「う、う」入り口でガタガタ震える娘を支えて彼はランタンを彼女に持たせる。

完全暗視ライトビジョン」はいはい。

「赤外線感知も」了解。

「敵座標およびダンジョンマップを3D投射」ターゲットロック完了。


「じゃ、早速」

彼は思いっきり平手を壁に放った。

壁に平手型の穴があき、トコロテン状にすっ飛んでいった「壁」は長大な槍と化した。


……。

 ……。


 彼の瞳が悪戯っぽく光る。

「ターゲット。死んだ? 」

ステーキになるのか疑問な程度に潰れたわ……。


「み、み、ミノタウルスは恐ろしい魔物です。何人もの村人が犠牲に」もう死んだんだけど。お嬢さん。

震える彼女に彼は『もう他所に行ったらしい』と告げた。


 相変わらず夫が無敵すぎる。

ちょっと粘りなさい。ミノタウルスさん。

やまなしオチなし意味なしにも程があるわよ。


「お前、ヤオイ趣味は卒業したんじゃないのか? 」「美緒の話はするなっ?! 」

あの子、今は何をしているのかなぁ。


「さぁ。ステーキ♪ ステーキ♪ 」

いまどきステーキをありがたるなんて貧乏人じゃない?

(作者註訳:二人が生まれた1968年は丁稚さんの給料が5000円。ステーキは1000円から2000円でした。その後日本はバブル時代に突入します)


 年甲斐もなくスキップしながら進む彼に怯えながらついてゆく娘さん。

「……」急に彼の足が止まった。「な、なんですか?! 」

彼の瞳からぽたぽたと暖かいものが流れ、悲しみの瞳の先にあるものは。

「俺のステーキがぁぁあ」残念な子だと思う。我が夫ながら。


 ペースト状になったミノタウルスを眺めながら、悲嘆にくれる彼。

下半身の形状から恐らくミノタウルスであろうと判断は出来るが、

あまりの惨事に誰がやったのか混乱する少女。


 繰り返す。眼鏡には涙はない。

『怒った』としても頭に血が上ったりしない。

『悲しい』ときも涙が流れない。

『嬉しい』ときに頬が緩んだり胸がときめいたりしない。

だから、私は呆れたとしてもため息だって出やしない。


「神様が私たちを助けてくださったのでしょうか。勇者様」ちがう。このばかが手加減しないからだ。

しかし余計なことを言えば私たちは化け物より化け物と言うことになってしまう。


 こほんとわざとらしく咳払いし、真面目ぶって喋る彼だが。

「そ、その通り、心正しきものには神の加護があるのだよ」

強烈に目が泳いでいるわよ。あなた。声が上ずっているわよ。あなた。


「神の加護により、ミノタウルスは去った。これからは平和に暮らすと良い」

繰り返すけど、目が泳いでいるんですけど? あなた。


「ああっ! 神様ッ! 村を救っていただきありがとうございましたッ 」

よほど感激したのか、血だまりの中で跪く少女を見ると『まぁいいかな』とおもったのだ。


村長のバカの台詞を聞くまでは。


「神の加護ならば、勇者様に報酬を払う必要はありませんなっ! よかったよかった! 」

夫のデコピンの一撃で、彼は天空の人となった。


 彼の名前はハルカナル 大空オオゾラ

伝説の勇者……らしい。そういっている私も自信ないけど。

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