小娘。それ以上人の夫に近づくな。呪い殺すぞ
坑道に向けて歩を進める私達。正確には夫『一人』。
旅人への捧げモノ改め清らかな生贄となった少女と私達は慎重に坑道に向けて進む。
あなた、村の人に義理立てする必要ないんじゃない?
「俺もそう思う」便利なことに彼の心のコトバは彼女には聞こえていない。
状況説明。
私たちはとある村に宿を求めたところ、宿代にしては法外なお金を請求された挙句離れにある小屋をあてがわれました。
その小屋の中には脅えた様子のそれはそれは可愛らしい女の子がいらっしゃったのです(棒読み)。
眼鏡だから怒っても何も感じないのよね。私。
貧しい村ではそういう理由の為に育てられる美しい娘がいるというけど。
「私は他の子と違い、村の皆に可愛がられ、
兄弟が飢え死にする中でもいいものを食べさせていただき、
服もいいものを食べさせていただきました。相応のことをせねばなりません」
真面目というか、けなげというか。感心ね。
朝日を思い出すわ。あの子も思いつめる節があるし。
話を聞くとこの村が衰退した理由は街道にもなっている廃坑にミノタウルスという魔物が出るようになったかららしい。
さめざめと身の上を語る少女に夫は力強く答える。
「しかたない。朝日みたいでほっておけないから助ける」そうこなきゃ。
未来くらい表面だけでも気楽に振舞えばいいのにね。あの子も。
「未来のほうが思いつめるタイプだろ」それでもあの子は周囲に漏らさないだけ立派。
「小学生だぞ」あなたよりしっかりしているわよ。
森を抜け、ごつごつした岩場を潜り抜ける彼の視線の先が急に動く。
「どした? 」優しく彼の目が細まる。ばか。逆効果よ。
余計怯えてしまったじゃない。子供になにをするのよ。
「な、何をブツブツと。もとい、勇者様は何をお考えに」
どうも、村を救わずに逃げたり、彼女を売り飛ばしたり思案していると思われているみたい。
「不本意だ」しかたないでしょ。普段旅の道連れなんていないし。なれてよ。
急に夫の脚が止まり、私は少しずれおちる。
彼は手を打ち付け、『いいことを考えた』とほざくが。
きらりと瞳が開き、歯を輝かせて彼がのたまうに。
「坑道ごとぶっ壊せば解決だな」どうしてそうなる。
「こ、こ、困ります。村の貴重な道なのです」
少女は泡を食ったように抗議するけど。
「うーん。じゃ食べよう」「えっ 」「えっ?! 」
え~? ってドン引き。
「松坂牛並に美味いといいなぁ」
瞳をらんらんと輝かせて鼻歌歌うのはいいけど。
あんたはミノタウルスを食う気なのか夫よ。半分人間だぞ。
夢あふれる大空の元、
私たちは魔王の首を求めて歩く。
私は旧姓。白川夢子。
勇者の瞳を守り、力を与える『真実の眼鏡』とは私のことである。




