未来は輝く朝日のように
子供たちはご飯食べているかな。
心配する私をよそに、彼の瞳は興味深げに揺れ、屋台の不思議な品々に釘付け。
お財布盗まれるわよ。「問題ない。この世界のカネじゃない」あのね。
「というか、小遣い上げろ」検討のうちに入れておくわ。
彼のきょろきょろしていた瞳が足元に。
「通帳残しておいてあるから大丈夫だ」用意良いわよねぇ。あなた。
「そういうことがあるかもしれないからな」どんな予測よ。貴方ってそういう妄想するタイプだったかしら。
私の問いに彼は自嘲気味に口元を歪めると歩を進める。
彼の瞳の光が少し揺れる。「妄想じゃない。事実だ」
「この世界は、俺たちの妄想じゃない」……。
もうもうと異臭を放つ煙に巻かれ、目を細める彼。
彼が煙を手で払い、脚を踏みしめる。
彼の瞳には人間ならざるモノたちがごく自然に町並みに溶け込み、
商人の相手をしたり、恋人と歌を語り合ったり、友人と明日への夢を語り、
子供たちが足元を駆け巡るのが移る。
「妄想だったら、意外と美しいな」そうね。
「どんなものが見えるんだろうな。これから」
貴方の瞳孔に移るもの。私は忘れられないみたい。
「なら、いいものを一杯見ようぜ。二人で」
子供たちに笑って話せる日のために。彼はそう呟き、私のフレームにそっと指先を添えてみせた。
フレームが脂で汚れるから汚い手で触らないの。
「へぇへぇ」
乱暴に扱わない。
割れたらどうするのよ。
「はいはい」
ちょっと?
聞いてる? 貴方ってどうしてそうなの?
「はいはいはいはい」
子供たちを心配する様子のない彼。
その瞳の行き先は実に適当だ。
「だいたい、もう少し親なら子供を心配することができないの? 」「している」
彼の瞳がすっと空に向かう。
「しかし、現状を打開することが出来るとは思えない」
……。
「だいたい、魔王ってなんだ? 」聞いておけばよかったわね。
「俺たちはお尋ね者になってないか? 」正確には貴方一人。
私は首都の映像をいくつか彼の前に提示してみせる。
「賞金? 」勇者様の行方もとむ。確保は王国大金貨十枚だって。
「にてねぇ」くす。あなたはもう少しハンサムだしね。
「というか、俺こんなに凛々しかったっけ? 」自分で言わない。
今の夫はちょっと童顔で、キリッとした小さなつり目に甘い口元。
ツンツンの頭に何処かのヒーローの私服みたいな目立つ格好を……。
って。その格好。
「ファンタジーな世界じゃ目立つか」
彼の視線が綿で出来た自分の服に。
みんなズタ袋みたいな貫頭衣を着ていたわね。
諦めたように彼の視線は再び空の白い雲へ。
「まぁいいや。何処か遠くに行こう」そうね。
遠い遠い国に走って、
もっともっと綺麗な空を見て、
ニッコリ笑って子供たちの元に帰ろう。
彼はそう呟いた。
「二人とも男だ。なんとかするさ」
正直、その『なんとか』の根拠を論理的に話してほしいわね。
貴方は昔から音楽ばかりで適当にも程があったんだから。
とはいえ、眼鏡の身では彼の行く手を引き止めることも、
彼の行動にため息をつくことも、彼の意思を阻むことも出来そうにない。
そして、彼が私を捨てない限り、私は彼と離れることすら出来ないのだ。
「一緒に帰ろうぜ。子供たちのもとに」うん。
彼の瞳が遙か彼方にまで続く黄色いレンガの道に。
私たちは歩む。魔王の首を求めて。
私は旧姓・白川夢子。現在、遙夢子。
強烈な悪運の持ち主とされる遙一族の夫、大空の妻である。




