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私の夫は鼻先零ミリ  作者: 鴉野 兄貴
銀の光の輝く人

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帰ってどうするの?

「山の国……私のお父さんやお母さん……か」


 マキちゃんは私が御気に入りらしい。

時々夫から奪っては弄って遊んでいるけど使用誤例です。

「なんか、これを持っていると励ましてくれたり叱ってくれたりする孤児院の院長を思い出すのです」とは彼女の弁。

励ましているのも叱っているのも事実だよッ?! 気付いてッ?!

というか、さっき赤ちゃんを宥めて寝かしつけたの私だよッ? 今やってるその抱き方危険だからねっ?!


「……? 」


 不思議そうな顔をしてマキちゃんは赤ちゃんを抱きなおす。

「こっちのほうがこの子には楽そうですよね」そうそう。その抱き方だよ。危なっかしいなぁ。

夫なんて論外。まだ首が座っていない息子を『たかいたかい』しようとする。

そういえば朝日って小さいころは超可愛かったんだよな。皮肉屋でムカつく息子に育っちゃったけど。まぁアレはあれで可愛い。でもやっぱりムカつく。私のとっておきのティラミスを食ったのは夫と思ってぶんなぐってたら朝日だったし。


 薬湯の苦い香りに危機を感じた男たちが跳ね起きていく中、夫と一部の村人、村長さんたちは相変わらずぐーすかぐーすか。

「ホント、ハルカナルは良く寝るね」「です。つまんないですよ? 」

まぁ若い娘が隣にいてもなんとか手を出していないのは評価する。呪うけど。

というかマキちゃんに手を出したらロリコンである。

マキちゃんを孕ませた主人の息子という奴は万死に値する。

「そんなにひどい人じゃなかったですよ。優しかったです。夢子さん」ほに?!


 ぽーっとした表情でつぶやいたマキちゃんはふと我に返って口元を押さえる。

「あ? あれ? 何言ってるんだろ私」び、びっくりした。白昼夢?


「ぼうや。覚えていてね。貴方のお父さんは優しくて立派で領民の皆さんを大事にする方でしたよ」

そういってマキちゃんは子守歌代わりに憎い男の話を赤ちゃんに語ってみせる。

結論だけ言うとそうして結ばれた筈なのに王族に売られたマキちゃんは出奔しちゃうんだけど。おなかに子供がいるのに。


「帰りたいな。あの町に。あの小さな村の孤児院に」


 彼女は細くて綺麗な声で歌いながら呟く。

「みんな死んじゃいましたけど」そういって彼女は赤子を抱きしめた。

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