「アンタ王様に似ているな」「はぁ」
マキちゃんが夫の手を引っ張る。夫は私越しにマキちゃんに視線をやり、苦言を放つ。
「お、おい、マキちゃん。そんなうごいちゃダメだって」「大丈夫です。これ以上動かなかったらなまっちゃいます! 」
私たちは花畑を抜け、村の中央に向けて走る。
村の中央ではボロイ馬車の周りに人だかり。
威勢の良い売り言葉に村人たちの買い言葉が重なる。盛況みたい。
マキちゃんは商品にしゃがみこんで「これ、ほしい」とかおねだりしているけど夫が買うの? ちょっとウザいわよ。私も買ってほしいのに。
というか、眼鏡の身が呪わしい。アクセサリも化粧も香水も不要だしときめかない。
「あれ? アンタは」げげげげっ?! わたしと夫はその商人の顔を見て青ざめた。
何時ぞやの花咲く都のインチキ商人じゃない。どうしてこんな遠くの国に居るのよ。
おっちゃんはわたしたちをじーろじろ。楽しそうな笑みを浮かべる。
「ん? その娘は女房かい? やるねぇ」黙れッ? これ以上喋るなッ
幸いにも村人たちがもみくちゃにしてくれたので私たちへの追及は避けられた。
「うんうん。あの時は大変だったよ。まさか魔王に化かされるとは」村人たちとたわいない雑談をする彼。
「この香水をつければ奥さん。旦那さんも惚れ直し間違いなし! 」とか「この塩は氷結海の岩塩から採った塩。他の塩とは味が違うよ」とか色々……。
ちょっとまて。
「魔王に化かされるって? 」夫が問うとおっちゃんはへらへら笑う。
「なんかまっすぐな道を馬車で通っていたら行けども行けども同じ道しるべが出るのよ。こりゃ魔物の幻覚かと思って道しるべを見てビビったね。道しるべと思ったら魔王を祭る祭壇でさ。旅の安全を願ってお菓子を捧げたらいつの間にか海を隔てた故郷にいたってわけさ」「……」「……」
私たちとマキちゃんは絶句。マキちゃんは普通に冗談と取ったらしい。
「よくあるんだぞ? 二度と帰れないと思っていた故郷に帰ったり」年輩のおっちゃんが補足説明。
「あ。私は旦那と結婚できたな」太ったおばちゃんが呟く。意外と霊験あらたからしい。「俺はトモダチと仲直りした」小さな子供まで。
「『零の女神』もそうだけど霊験あらたかだぜ。リューマチに効く」肩こりなんて治してくれる魔王が何処にいるの?!
零の女神ってアレか。慈愛の女神とかいう女神を信奉している異教徒の人たちが本尊と一緒に大事に祭っているボロイ木像だったっけ。黒い髪の。
「神殿は異教の悪魔を信奉するなってうるせえんだけど、実際加護あるしなぁ」まぁ税だけバカみたいに取る神殿よりはいいかもね。
「そうそう。海の向こうの冬の国と山の国は戦争の準備をしているね」ぶっそうね。
「『花咲く都』? 発展しているよ。今の聖女マナ様は本当にできた人だぜ」へぇ。頑張ってるのね。
「おっちゃんおっちゃん。『海辺の街』にこういう風体の魔導士の娘いなかったか」「うん? ひょっとしてあの噂の女魔導士マヤ?! 知り合いかよッ 」知り合いとか言いたくないけど知り合いね……。
「今や飛ぶ鳥を落とす勢いで出世しているぜ。飢饉を防いだりな」へぇ。
「実は貧しい濃度の娘だって噂があってな。その所為か貧困対策に力を入れているらしい」へえ。
「これ、買っていいですか」買っていいけど自分で稼げッ マキちゃん! わたしだってへそくり貯めたぞッ 自慢できないけどッ
キラキラした瞳で安物のアクセサリを見ているマキちゃんに商人のおっちゃんはこうつぶやいた。
「アンタ。美人さんだな」「……」マキちゃんが黙ったのは夫が隣に居ても隙あれば迫ってくる村人が後を絶たないからである。
もっとも、夫が席を外すときは私が彼女の身の回りにいるので今は難を逃れているが。
多少村人の何人かが『浮気すると勃起不全』だの『気のない相手に無理やり迫ると足腰が立たなくなる』呪いにかかった程度だ。
「なんか、あんた山の国の王様に似ているんだよな。銀の瞳なんて珍しいしな」
商人は銀色のアクセサリをマキちゃんの首にかけて呟いた。
「これはサービスです未来の女王様」そういって大げさに臣下の礼を取ってみせたので村人たちと夫は大笑いをする。
「商人さん。もっとよその国の事を話してくれよ」「そうだそうだ」
女たちがとっておきの御馳走を作り、豚が潰されて、ガチョウの卵が運ばれる。
子供たちが楽器をかき鳴らし、若者たちが土の上でステップを踏んで夜は更けていく。
その様子を空の上にある星々と月、不思議な『輪』が見守り続ける。




