まもの<<<あかちゃん
なんですか。これは。
彼女がお乳をあげている間席をはずしていた夫は彼女の悲鳴で大きくみじろき。
お蔭で私は彼の鼻先から落ちそうになる。うわ~。こんなところに墜ちたくない。
「なんですか。この甘いおかゆっ?!!!!! 」口元を押さえて喜んでいる少女に夫は告げた。「甘酒」
「俺の生まれた国では飲む点滴って言ってな。栄養価は高い」
そういって彼は他所の国の某一軒家で発酵させていたそれを再度鍋の中でかきまぜた。
繰り返すが夫はこの世界を一日で一周できる。
その気になれば暗殺者など余裕で撒けるのだ。
流石に大陸の先にまで暗殺者も追ってこない。
「面倒になった。子供も大丈夫そうだし暖かい国に行く」
そういって彼は恐ろしい勢いで彼女を浚ってしまった。
私たちが誘拐犯になってどうするのだろうか。
少女は鍋の中に入っていたそれをふうふうと息をふきかけて冷ましながら口に運ぶ。
「甘いです。ひょっとして蜜を入れたのですか」「入れていない」
「このどろどろのつぶは何ですか」「コメっていう。麦の十倍育つ」妙に博識ね。あなた。
妊婦にアルコールは良くないけどコウジカビで作った甘酒なら大丈夫。
余ったご飯も転用できるし。そう夫は続けるけど。アンタそんな知識何処で?
「俺が赤ん坊の頃もお袋が呑んでいたらしい」へぇ。
「お乳に良いんだぜ」そーいえば貴方って。
「ん? 」いや。お父様やお母様の話しないなって。いや。良いんだけど。
急に話し相手が変わっているような違和感に気づいたらしい少女の瞳。夫は咳払いして小屋を出る。
赤ちゃんの笑い声が聞こえる。遠い国に来たしもう大丈夫ね。
「そうだな。そろそろ魔王を探しに行くか」そうねぇ。でもあの子は一人で生活できないでしょう。もう少しいてあげてもいいわよ。
「お前がそういうならいいんだが」うん?
「ちょっと、扉開けて出会い頭におっぱいは刺激的で」……死ね。
夫ははぁとため息をついてしゃがみこむ。
「子育てって魔物退治より大変なんだなぁ」あったりまえでしょう?! ふざけんじゃねぇわよっ?!
夕焼け空に私の声なき説教が響き渡る。
私の名前は旧姓白川夢子。勇者の瞳を守り、知識と力を与える『真実の眼鏡』とは私の事だ。




