炎のように暖かく
「見るなだの」「手は動かせとか」「変なところを触るなだの」「お湯は沸かせとか」
最後以外無理だろと悪態をつく夫に私は睨みを効かせる。眼鏡だから睨めないけど。
というか、彼の視線直撃だけど。その視線の先には産気づいた年端のいかぬ少女。下手をすれば一六歳未満なんじゃないかしら。
目を閉じていろ。私の言うとおりに動け。
「へぇへぇ」はいは一回。
……。
……。
「化け物退治よりよっぽど疲れた」以前はあんた全然役に立たなかったしね。
がっくりと掘っ立て小屋の床にて崩れ落ちる彼のそばの寝台では少女が力尽きて眠っている。経過は良好。
パチパチと薪が炎の香りを放ち少女を温めている。
夫の保温魔術結界に包まれた襤褸小屋はもともとは猟師か誰かが一時の仮住まいとして建てたものであろうと推測されるが今は住民のいない廃屋だ。
「生まれたての赤ちゃんってしわくちゃでサルみたいで不細工だけど……可愛いよなぁ」
そう抜かす彼の瞳は私のレンズ越しに優しく揺れる。
朝日が生まれた時のアンタのはしゃぎようったらなかったしね。
力尽きた娘は寝台に横たわり、親子ともども夢の中。
「にしてもちゃんと産まれてよかったな。夢子」
逃避行に付き合った所為で何度も何度も刺客がきてたまらなかったわ。
彼の優しい瞳は生まれたての命に注がれていた。
私の名前は旧姓白川夢子。現遥夢子。
生まれたての赤子を見守る勇者の瞳の上に常にある物。
そして『真実の眼鏡』とは私の事だ。




