放蕩者の帰還
そんなこんなで私たちは『花咲く都』に再度帰還した。
片手に馬車を担ぎ、口に焼き串を咥え、もう片手でぶんぶんと手を振って前に会ったことがある衛視さんに挨拶しながら一気に駆け抜ける夫。
不審人物以前の問題であるが、衛視さんが止める前に彼は駆け抜けてしまった。
「マキちゃんッ 待ってろッ 」名前くらい憶えてやれッ?!
と、いっても今回夫はあの子とのかかわり薄いから仕方ないわね。
夫は凄い勢いで走り抜けると、例の小屋だか廃屋だかに突撃した。
「娘さんはッ?! 」どうみても原型をとどめていないわね。スラムだと住人がいなくなった建物はすぐに占拠されたり取り壊されたりするし。
手がかりを求めて聞き込みを開始する彼。
解ったことは医療活動を無償で行う彼女を疎んじた宗教家連中に魔女として告発されたらしいということくらいだ。
「助けに行く。どこだッ 」「魔女を助けるとアンタも処罰されるぞ。貴族さん」
「都合のいい時ばかり助けてもらって、いざ助けを必要としているときは無視かッ?! 」夫よ。衣食足りて礼節を知るものだぞ。人間は。
悪臭漂うスラムを抜け、祝福の花弁を掌で押しのけ、彼は走る。
「思いっきりやっていいか? 」なんで私に聞くのよ。存分にやりなさいよ。
以前、悪徳領主をシメてやった結果、領主を名乗る山賊連中や悪徳傭兵団に狙われるようになったとある村の件を言っているらしい。
私たちに出来ることは少ない。旅の途中では領主になってあげることは出来ないし。
「おっけぃ」
夫はスラムから飛ぶようにジャンプすると、
そのまま『魔女』を収容する塔に飛び蹴りをブチ込んだ。
吹っ飛んだ瓦礫は輝く光に包まれ、爽やかな香りを放つ『花』へと変化して人々の上に舞い降りる。
きらきらと輝く光は収容されていた女の子たちを包み、彼女たちを癒していく。
夫の両の腕が原型を留めていない『なにか』を掴んだ。
「ごめん。只今」その声が聞こえたとは思えない。
それは耳に熱した鉛を入れられ、目玉を抉り出され、
内臓を抉り出されて手足を寸切りされていたのだから。
それでも、彼女は生きていた。生きていてくれた。
私たちは勇者と人は言う。
だけどそうじゃないと私は思う。
どんなに強大な力を持っていても人の心をどうこうする権利はない。
それしか知らない知りようもない世界の中、それなりに生きている人たちに勝手に私たちの世界の基準で怒り、責任も取れず後始末として領主になることも出来ないのに是正を求めるとしたら紛れもなく傲慢で。
……見るべき人が見たら『悪魔』と呼ぶに違いない。




