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私の夫は鼻先零ミリ  作者: 鴉野 兄貴
野に咲く花のように

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本が読める街

 街に入ろうとしたとき。

夫は真面目な顔で兵隊さんの瞳を見て一言。

「親子です」


 彼の足元から「夫婦ですっ 」と言う少女の声が聞こえた。

あげません。ええ。この人の妻はここにいますからね?

「お前怖いよ」あん? なんですって? 戦争ですからね? せんそう?!

兵士さんは夫を引きつった笑みで睨むと「こっちにこい」と告げた。


「マジで揉めた」「申し訳ないです」


 人攫いと誤解されて危うく捕まる所だった夫とマヤちゃんは焼き串を齧りながら街を歩く。

煙が飛び、ほこりが舞い、異臭の元で子ども達が駆け、

ニワトリが逃げ出し、肉屋が追う。

「だから、僕には妻がいると」「奥さん、見たことないですし」

それに私のほうが魅力的ですよと告げる少女。ここにいます。


「いや、ここにいる」


 私を指先で持ち上げて呟く彼。だから不用意に触るなと。

「また奥さんが眼鏡に変えられたとか冗談ばかり」「ガチなんだけど」

「『勇者』さまが本物の勇者というくらい、冗談の世界です」

頬を膨らませながらマヤちゃん。

「というか、私は勇者様のお名前すら知らないのですが」「お互いに名前を名乗りあうことで僕の一族は婚約が成立する」

「しちゃいましょう。そうしましょう」「あのね」


 夫の目線強制でこういうやり取り見ていると悔しいけど若い頃を思い出すのよねぇ。

夫め。私が若い頃はこういう目で見てやがったのか。いやらしい。

「誤解だ」うっさい。エロガッパ。「いやマジで」このデカブツが。187センチ。

「身長は関係ない」151センチの私に当て付けか。無駄に長い手足寄越せ。

というか、身体寄越せ。お前が眼鏡になってみろ。


 街中を歩いていると少女連れの旅人は危険である。

なにがって少女を奪われても実質取り返すことは不可能だからだ。

よって、手を握り合い。歩くのだが。

「えへへ」上機嫌のマヤちゃんを見ると複雑な気分だ。

私は愛想笑いをしていながらも少しときめいている夫と恋している少女の瞳の間にいる。

私の身体はオレンジ色かかった透明の眼鏡。

彼らの視線に色をつけることしかできやしない。

なんでも出来るのに、何にも出来ないのよね。私って。

「街はよそ者の若い娘には危ないから手は離さないように」「はい」


 それをきいてニヤリと笑うと、

夫の手を取って胸にこれ見よがしに押し付けるマヤちゃん。

胸をつけろと言っていない。デレデレするな。バカ夫。

「て、手を離し」「だめです! 」

夫はだまって彼女を宙吊りにすると、無理やり自らの肩に乗せた。

「こっちのほうがいいな」「なんか子ども扱いされています」

大体、私たちは同い年くらいでしょうと不満を漏らす少女に夫。

「僕は四〇過ぎで、キミと同い年くらいの息子がいるんだ」「ウソツキ」

夫は若返っているし、ついでに言うと童顔だ。

ベチベチと脚をばたつかせて夫の胸を叩いてみせるマヤちゃんに苦笑する夫。

「服、買わないとなぁ。そのズタ袋みたいな服はどうかと思うし」彼女の足が止まる。

「買ってくれるのですかッ?! 」

一気に上機嫌になった彼女は夫の頭を撫でだした。

「いーこいーこ。ゆうしゃさんいーこいーこ」「バカにされている気がする」

バカにされているんじゃなくて、バカだもん。

「うっさい」というか、下着も買ってあげなさいよ。

田舎だと下着もロクにないし。地味に下着って高いのよねぇ。

「そうだ。高いで思い出したがこの街には貸し本屋があるんだ」「えっ? 」

手足の動きが止まるマヤちゃんを愛しそうに見上げる夫。

私のオレンジ色越しに二人の視線が逆さまに絡み合う。


「いく? 」「うんっ! 」


 繰り返すが、本は高価だ。家が買えるほど高い。

「一冊一億か」「???? 」わかるわけないでしょ。

(※作者註訳 バブル期の家はウサギ小屋みたいな家でも場所次第で一億しました)

「朝日が聞いたら即倒するな」「?? 」

あの子は家を買ったら働くとか言い出す子だしなぁ。

「朝日の参考書をたくさん持ってくれば今頃金持ちだったのに」

そんなもん持ってたら禁書にされた上私達は火あぶりよ。

「じゃ、本を先に」「服が先じゃないのか」

「本が先です」「だから服が汚いと入れてくれないかもなぁ」真面目ぶった瞳でとぼける夫。

「服が先です」「次が本か? 悪いが日が暮れるからどっちかが先でないと」

「本! 本! 本を読みにいきます! 」「服だな」「本ッ 本ッ 本ッ?! 」

「おろせ~! おろせー!! 」「下着着てないんだから大人しくしろッ 」

さらわれる~~! この男は変態です皆様~~!! 」「おいっ??! 」

「本読ませろ変態~!! 」どんどん仲良くなっちゃって。はあ。


 夢あふれる白く輝く輪が架かった茜色の大空の元、

私たちは魔王の首を求めて歩く。


 私は旧姓。白川夢子。

勇者の瞳を守り、力を与える『真実の眼鏡』とは私のことである。

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