第十七章 強いて笑みを作り後事を語り 忍ぶ涙もて恩師に拝す
「誰の身体が、黴びている?」
張繡の一言が終わると、皆が静まり返った。
先ほどの大戦の興奮は、まだ完全には消えていなかった。季安の頬にも、まだ高ぶりの名残があり、新しく得た青毛の馬も道端で鼻を鳴らし続けていた。皆で陣中のことを話しながら歩き、普段もっとも落ち着いている張任でさえ、いつもより笑みが多かった。
そこへ、あるかなきかの黴の臭いがふいに漂い、誰もすぐにはそれを尸人と結びつけられなかった。
季安はまず自分の袖を嗅ぎ、それから馬の首にもたれて何度か嗅いだ。
「先ほど尸人の血がついたんだろう」
張繡が手を上げると、指先についていたのは、傷口から滲んだ血だけだった。
彼はうつむいてその匂いを嗅ぎ、それから肩の布を解いた。
布の下には、もともと鮮血だった傷が、灰黒く変色していた。傷の肉はもう血を流していなかったが、縁がわずかに腫れ上がり、まるで湿った隅にずっと放置されていたかのようだった。あの黴の臭いは、その傷から外へ漂い出ていた。
張繡はしばらくそれを見つめ、また腰の布を解いた。
そこも同じだった。
その笑みだけが、顔に貼りついたように固まっていた。
張任も馬を降りた。
彼は手を背後の傷へやり、指が布に触れた途端、粘り気のある血水が指先についた。童淵の左腕と首筋の傷は最も浅かったが、爪痕の周りにもかすかに灰色が滲んでいた。
最後に残ったのは、趙雲のこの身体だった。
兆雲は腕の布を一周ずつ解いていった。
歯型はすでに高く腫れ上がり、幾つかの歯の穴の奥からは絶えず粘つく血水が滲み出ていた。黴の臭いはたちまち濃くなり、あの太平道の農舎にあった符水の甕の匂いとほとんど同じだった。
五頭の馬が荒れた道の上で止まっていた。
誰も口を利かなかった。
遠くにはもう空村は見えず、文醜の旗と官兵も土の斜面に隠れていた。先ほど天兵に跪拝していた民、荒野に響き渡った笑い声、それらもまだつい先ほどのことのように思えた。あれほど多くの尸人を殺し尽くし、死地から生きて抜け出し、馬と趙雲の家族の消息まで得て、自分たちも、そう簡単には死ななくなったと思いかけていたところだった。
今はまるで、あまりにも短い夢から覚めたようだった。
季安が無理に笑った。「たぶん尸人の血がついただけだ。洗えば消える」
彼は一言言うたびに、皆の顔をうかがった。まるで誰かが頷きさえすれば、それでこの件は済ませられるとでもいうように。
「張公子はさっき切断された手を何本も身体に引っ掛けてたじゃないか、あれの血が傷に染み込んだのかもしれない。童先生たちも同じだ。趙公子の袖もあんなに破れてるんだから、何かついてもおかしくない」
張繡は肩の布を巻き直し、ふいに一声笑った。
「みんなでそんな辛気臭い顔をしてどうする? 何度か噛まれたくらいで人が死ぬなら、今日のあの尸人たちも殺す必要なんかなかったな。突っ立って口を開けて待ってりゃよかったんだ」
彼は馬から降りる時に肩を動かし、動作が明らかに一瞬強張ったが、立ち上がると長槍を肩に担ぎ、いつもよりさらに無頓着な様子を見せた。
「本当に変わったら、一刀で片をつけるまでだ。死ぬ時は死ぬ、それが何だ」
その言葉はやけに大きく響いた。まるで声が大きければ大きいほど、自分が本当に怖くないことを証明できるとでもいうように。
童淵は彼を一瞥したが、何も言わなかった。
一同は馬を引いて大道を離れ、西の荒れた林の中に廃屋を見つけた。
その小屋はもともと田畑を見張る者が休むための場所で、屋根の一角が崩れ、戸板も失われていた。中には黴の生えた筵一枚と、割れた甕の半分があるだけだったが、少なくとも夜風は防げた。
五頭の馬は少し離れた場所に繋いだ。
童淵は季安に荷物から干し飯と水を取り出させた。季安は忙しく立ち働き、まず屋内の枯れ草を掃き、それから水を汲んで皆の傷口を改めて洗った。一箇所洗うたびに、彼はうつむいて匂いを嗅いだ。
黴の臭いはまだ残っていた。
「この水が悪いんだ」季安が言った。「強い酒があればいいのに。兆雲が前に言ってただろう、お前のところでは傷を負ったら強い酒で洗うって」
兆雲が言った。「俺が言ったのは一口飲んだら喉が焼けるようなやつだ。お前らが飲んでるあの甘くて弱い酒とは違う」
季安が納得しかねた様子で言った。「あれも酒だろう」
「まったく違う。お前らのその酒で傷を洗ったら、傷が治る前にまず蟻の群れを呼び寄せるぞ」
季安はまだ言い返そうとしたが、空になった酒囊を触り、結局何も言わなかった。
張任は壁際に座り、背中の傷は自分で包帯できなかったので、季安が改めて巻き直した。張繡の番になると、張繡は手を上げて遮った。
「自分でやる」
「腰の後ろが見えるのか?」
張繡は布を彼に投げてよこした。
「傷には触るな」
季安は幾重にも巻きつけ、ほとんど腰の半分を包み込んだ。張繡はそれをうつむいて一瞥したが、結局何も言わなかった。
空の色が次第に暗くなっていった。
小屋の中では火を焚かなかった。
今回は童淵が言いつけるまでもなく、皆、火の光が通行人を引き寄せてはならないと分かっていた。もしこの傷が本当に人を尸人に変えるものなら、生きた人間からできるだけ離れているほうがいい。
季安はそれでも信じたくなかった。
「この前も皆病気になった。あんなにひどく咳をして、何日も高熱が続いても、結局何ともなかっただろう」
兆雲が言った。「だから今回も何ともないかもしれない」
「なら、なんでずっと自分の手を見てるんだ?」
兆雲は腕を袖の中へ隠した。
季安がまた尋ねた。「お前の知ってるあの話じゃ、噛まれた人はその後どうなるんだ?」
小屋の中では、誰も彼にそれ以上尋ねるなとは止めなかった。
兆雲はしばらく黙った。
「大抵は尸人になる」
「大抵ってどれくらいだ?」
「十人中九人のこともある。一人も助からないこともある」
季安は口を開きかけた。だが、何も言葉は出なかった。
張繡が壁にもたれたまま、ふいに一声笑った。
「それなら簡単だ」
「何が簡単なんだ?」季安が尋ねた。
「食うべき時に食い、寝るべき時に寝る。本当に人の見分けがつかなくなったら、一刀で片をつける」
彼は淡々と言った。まるで殺されるのが自分ではないかのように。
季安が言った。「お前は少しも怖くないのか?」
「怖がって何になる?」
「もちろんなる。怖ければ手立てを考えるだろう」
「ならゆっくり考えろ」
張繡は目を閉じ、本当に眠るつもりのような様子を見せた。ただ片手だけは刀の柄に置かれたままで、五本の指はきつく握られ、指の関節はすでに白くなっていた。
季安は言葉を封じられ、童淵と張任のほうへ目を向けた。
二人とも何も言わなかった。
時間が少しずつ過ぎていった。
小屋の外は完全に暗くなった。
傷はもともとただの痺れと痒みだったが、次第に張った痛みへ変わっていった。張任の背中の傷が最も深く、額にはすでに冷や汗が滲んでいた。張繡は目を閉じたまま、呼吸も普段より速かった。童淵はまだ座っていられたが、顔色も同じく良くなかった。
季安は皆の間を行ったり来たりしていた。
水袋を触ったかと思うと、縄を確かめ、また小屋の外へ出て馬の様子を見に行った。誰もが彼の心の中の怯えを分かっていたが、誰もそれを指摘しなかった。
しばらくして、童淵が目を開けた。
「縄を出せ」
季安の足が止まった。
張任はすでに師父の意を悟り、荷物から縄を取り出して、小屋の中央に置いた。
張繡が目を開けて見た。
「そう長くは持たない」
童淵が言った。「引き延ばせるだけ引き延ばそう」
「その後は?」
童淵は季安を見た。
張任も彼を見た。
季安は最初ぼんやりしていたが、やがて何かを悟ったように、顔色が急に白くなった。
「俺を見て何をする気だ?」
誰も答えなかった。
季安はうつむいて自分の腕を見て、それから肩と背、脚を撫でた。全身尸人の血だらけで、着物も何箇所か破れていたが、傷は一つも見つからなかった。
彼だけが噛まれていなかった。
張繡が言った。「俺たちが本当に変わったら、お前がやれ」
「俺が?」
「ここに他に誰がいる?」
季安は一歩後ずさった。
「俺はやらない」
張任が言った。「季安」
「やらないと言ったんだ!」
彼の声が急に高くなり、暗い小屋の中へ響いた。
「なんでこんなことを俺に押しつけるんだ? 皆あれほど強いんだろ、自分たちで何とかしろよ! 俺は槍だって満足に使えないのに、俺に誰を殺せって言うんだ? 童先生か、それともお前らか?」
一同は静かに彼を見つめていた。
季安はますます焦った様子になった。
「そんなことにはならない。この前も死ななかった、今回も死なない。兆雲だって、自分の知ってる話は全部でたらめだと言っただろ、なんで今回だけ本当だって言えるんだ?」
誰も反論しなかった。
「張公子だって、ただの皮と肉の傷だと言ってただろ? 張大公子はあんなに力があるんだから、傷なんてどうってことない。童先生だってきっと何ともない。趙公子はまだこんなに小さいのに、これから大将軍になって百万の軍を自在に往来するはずなんだろう、こんなところで死ぬわけないだろ!」
言い終わる頃には、声はすでに震えていた。
「お前らは誰も死なない。一人も」
小屋の中は依然として誰も口を利かなかった。
季安はその沈黙に苛立たされたかのようだった。
彼は大声で叫び、思いつく限りの言葉を吐き出した。ある時は兆雲のあの話が縁起でもないと罵り、ある時は張繡が一刀で片をつけるなどと言うべきではなかったと責めた。皆はきっと助かる、高邑にも医者がいる、太平道にも別の符水があるかもしれないと言った。
言っているうちに、涙がこぼれ落ちた。
最初は袖で拭っていたが、拭っても拭っても止まらず、いっそ地面にしゃがみ込んで声を上げて泣き出した。
誰も彼を慰めなかった。
童淵は戸口に座り、張任と張繡は壁にもたれていた。兆雲と趙雲は一対の目を共有し、季安がこの数日積もらせてきた恐怖をすべて泣き出すのを見つめていた。
彼はしばらく泣き、声が次第に嗄れていった。
ふいに立ち上がり、身を翻して小屋の外へ走ろうとした。
張任は先に備えていて、その襟を掴んだ。
「どこへ行く?」
「離せ!」
「はっきり言え」
季安は必死にもがいた。
「尸人を探しに行くんだ! 俺も噛まれてやる! みんな一緒に死ねば、誰も誰かを殺さなくていいだろ!」
張任は無理やり彼を引き戻した。
季安は両手を振り乱し、泣きながらほとんど息もできない様子だった。
「どうして皆は一緒に死ねるのに、俺だけ残されるんだよ! 俺は誰と高邑へ行けばいいんだ? これから誰と一緒にいればいいんだよ?」
「馬鹿を言うな!」張任が怒鳴った。
「馬鹿でいいさ! 離せよ!」
張任は手を離さなかった。
季安はしばらく暴れたが、ついに力尽き、張任に壁際へ座らされた。彼はうつむき、肩を絶えず震わせ、涙が一滴一滴、衣へ落ちていった。
小屋の中がまた静まり返った。
童淵は張任と張繡を見つめ、ふいに溜め息をついた。
「私が至らなかった」
張任が言った。「師父、何をおっしゃいます」
「そもそもお前たち二人を連れて旅に出た時、両親にきっと無事に連れ帰ると約束した。今ここで皆死ねば、私はどの面下げて彼らに会えばいい?」
張繡が顔を上げた。
「師父、俺たちが本当に皆死んだら、師父はどこで会うんです?」
童淵は一瞬呆気にとられた。
張任が思わず笑い声を漏らした。
「仲錦の言うことにも一理あります。それに、そもそも師父についてどうしても旅に出ると言い張ったのは私たち二人です、師父の責ではありません。父も、弟子が死ぬ前に多くの百姓を救ったと知れば、責めはしないでしょう」
「俺の親父も責めやしないさ」張繡が言った。「先に、死ぬ前に何体殺したかを聞くだけだ」
童淵は首を振った。
「お前が家で一番の馬を勝手に持ち出したと知れば、まず馬はどこにあるかと聞くだろうな」
張繡の表情が硬直した。
張任が言った。「あの馬は迷子になったんじゃなかったのか?」
「後で見つけた」
「どこで見つけたんだ?」
張繡はしばらく黙った。
「自分で家に帰った」
小屋の中が一瞬静まった。
張任がついに声を上げて笑った。
かつて張繡が少年の頃、家の駿馬を無断で乗り出したところ、百里余り走ってようやく道に迷ったと気づいたのだという。彼は沿道の百姓に道を聞くのが嫌で、勘だけを頼りに二日間さまよい、しまいには人も馬も一緒に迷ってしまった。夜、馬が手綱を振りほどいて自分で家へ帰り、張繡だけがなお外でもう一日飢え、ようやく家の従者に見つけられたという。
「昔はそんな話じゃなかっただろう」張任が言った。
「幾つか枝葉を省いただけだ」
「日月星辰を頼りに方角を見定め、一度も道に迷ったことがないと言っていたぞ」
「馬が道を知っていた、それも俺が知っていたということにしていい」
季安はまだ目を赤くしたままだったが、それを聞いて思わず鼻をすすった。
兆雲は場の空気が少し和らいだのを見て、口を開いた。
「恥をかいたと言うなら、俺の知り合いにこんな奴がいる。初めて客と酒を飲んだ時、豪快さを見せようと机を叩いて自分は三斤飲めると豪語した。結果、半斤も飲まないうちに、店の前の石獅子と義兄弟の契りを結ぶと言い出して、頭を抱えて離さず、口を開けば兄貴、兄貴、しかも福も難儀も共にすると誓っていた」
張繡が言った。「その人物、お前のことじゃないのか?」
「言っただろう、俺の知り合いだ」
「名前は?」
「飲み終わってすぐ絶交した、名前は覚えてない」
「やはりお前だな」
小屋の中に、ようやくまた笑い声が戻った。
もう誰も重々しく遺言など語らなかった。皆で互いの失態を選んで話し、まるで今夜が尸変を待っているのではなく、ただ旅の途中で荒屋に宿を借りているだけで、暇つぶしに互いの恥を暴き合っているかのようだった。
ただ趙雲だけが、ずっと口を開かなかった。
日が暮れてから、傷はますます痛み、身体も熱くなったり冷たくなったりを繰り返した。趙雲は意識の奥へ身を沈め、皆の笑い声を聞きながら、心はすでに高邑へ飛んでいた。
母はもうそこに着いているはずだ。
兄もいる。
彼は母が院の門の前で自分を呼び、飯を食べに帰ってこいと叫ぶ姿を思い出した。あの声はごくありふれたもので、以前は毎日聞こえていて、彼は時に遊びに夢中になり、母が二度呼んでからようやく戻ることもあった。
今はただ、もう一度あの声を聞きたいと思った。
たとえ母に叱られ、勝手に出歩くなと責められても構わない。
彼はまた、兄が書案の傍らで自分の書き取りを見ていた姿を思い出した。兄は県の文吏で、普段の仕事も真面目で几帳面だった。彼が字を乱雑に書いているのを見ると、指の関節で机をこつこつと叩き、書き直させた。趙雲は口では文句を言ったが、兄は決して怒らず、ただ書き損じた竹簡を脇へ置いて、書き終えるまでずっと付き添っていた。
この前、兄が市へ行った帰りに、手のひらほどの木馬を一つ持ち帰ってくれた。
木馬の彫りはあまりうまくなく、片方の前脚が長く、もう片方が短くて、机の上に置くといつもぐらついた。兄は行商人がおまけにくれたもので、大した値打ちはないと言っていた。趙雲は後になって、母から、それが兄がわざわざ市で選んで買ったものだと聞いた。
あの木馬は、まだ家に置いてある。
趙雲は、これから先、それを取りに帰る者がいるかどうか分からなかった。
母が恋しかった。
兄も恋しかった。
その思いは理由もなく強くなり、抑えれば抑えるほど激しくなった。彼は今、内力もいらない、天下に名を轟かせることもいらない、兆雲の言う白馬も長槍もいらない、ただ今すぐ戸を押し開ければ、母と兄が中に座っているのが見えることだけを願った。
彼は自分が死ぬことは怖くなかった。
ただ、母が永遠に自分がどこで死んだかを知らず、これからも毎日高邑で自分を待ち続けることだけが恐ろしかった。
趙雲はずっと耐え続けていた。
だが目はますます赤くなり、涙が眼のふちで揺れたまま、どうしても引かなかった。
兆雲は、彼の心が激しく乱れているのを感じ取っていた。書案、木馬、母と兄の声が、絶えず意識の奥から浮かび上がってきていた。彼はそれを慰めもせず、自分でも信じられないような気休めの言葉も口にしなかった。
童淵はずっと趙雲の顔を見つめていた。
「子龍」
趙雲は無理に応えた。「先生」
「こちらへ」
兆雲は身体を趙雲に渡した。
趙雲は立ち上がり、童淵の前まで歩いた。童淵は彼を見つめ、それから張任と張繡のほうを見た。
「この数日、私はお前にほんの入門の技をいくつか教えただけだ。それなのに、お前はずっと私を師父と呼んでいた」
趙雲はうつむいた。
「私が礼を失しておりました」
「もうしばらく見てみようと思っていた」
童淵は言葉を止めた。
「今日、見届けた」
趙雲は顔を上げた。
童淵が言った。「私を師と仰ぐ気はあるか?」
普段であれば、趙雲はどれほど喜んだか分からない。
だが今は、どうしても喜べなかった。
童淵はまさに彼のかねてよりの願いを叶えてくれたというのに、彼はただ泣きたい気持ちだった。趙雲は先生を失望させたくなかったので、そっと息を吸い込み、涙を必死にこらえて、無理に喜びの表情を作った。
彼はその場に跪き、いつもより大きな声を出した。
「弟子趙雲、師父に拝します!」
その一声に、破れた小屋の中の埃がさらさらと落ちた。
張繡が笑って言った。「小師弟の拝師、他の誰よりも威勢がいいな」
趙雲は地に伏したまま、目にはなお涙が揺れていた。
童淵は彼を助け起こした。
「もう一人いる」
兆雲は少し呆気にとられた。
自分は趙雲と同じ身体にいるのだから、趙雲が師父を拝せば、二人一緒に拝したことになると思っていたが、童淵はまさかこれほどはっきり二人を分けて考えていたとは思わなかった。
童淵が言った。「兆雲、この数日、私はお前にも站樁と槍の持ち方を教えた。お前もそのつもりがあるなら、自分でもう一度拝すべきだ」
兆雲はいつもの茶化した様子を収め、趙雲の口を借りて厳かに言った。
「弟子兆雲、師父に拝します」
童淵は頷いた。
「お前と子龍は名前の音が同じで、他の者が呼びにくかろう。子龍にはすでに字があるのだから、お前も一つ取るがいい」
「師父、字を賜りたく存じます」
童淵はしばらく考え込んだ。
「お前は子龍の身を借りてこの世に来た。道中ともに悲しみともに喜び、いわば龍に乗ってやって来たようなものだ。今後、争おうと譲ろうと、結局のところ手を携えて共に歩んでいくことになる。ならば『乗龍』を字とせよ」
兆雲は二度、心の中で唱えた。
「兆雲、字は乗龍」
それから、小声でぼやいた。
「これじゃ中国語だとラプラスじゃないか¹。この調子だと、いつかまたどこかへ転生した時、本当にポケモンの世界へ飛ばされて、サトシにモンスターボールで捕まえられるんじゃないか」
童淵が眉をひそめた。
「今、何と言った?」
「何でもありません。弟子、この字を大変気に入っております」
張任が笑みを含んで拱手した。
「子龍師弟、おめでとうございます。乗龍師弟の得字も、おめでとうございます」
張繡も拱手して言った。「師父が一人弟子を取ったつもりが、いつの間にか師弟が二人増えた。これほど得な話は、今後二度とないでしょうな」
趙雲と兆雲は相次いで口を開き、二人の兄弟子に礼を述べた。
季安は目を赤くしたまま壁際に座っていたが、それでも一緒に拱手した。
「趙公子の拝師、おめでとうございます。乗龍公子の得字も、おめでとうございます」
兆雲はそれを聞いて、すぐさま彼のほうへ顔を向けた。
「おめでとうと言うだけで何になる? まだ座って何してるんだ、早くこっちへ来い。俺たちがあれだけ長く師兄争いをしてきたんだ、今日ようやく決着がつくじゃないか」
彼は手を伸ばして季安を引こうとした。
季安は猛然と手を引っ込めた。
「俺は拝さない」
「今さら何を意地張ってるんだ?」
「意地なんか張ってない」
季安は童淵を見る勇気も、張任と張繡を見る勇気もなく、ただうつむいて自分の靴先を見つめていた。
「俺はただの従者だ。お二人の公子が童先生を師と仰ぐのは当然のこと。俺が何者だというんだ、お二人と同じ立場に並べるわけがない」
張任が眉をひそめた。「何を言い出すんだ?」
季安はなおも首を振った。
「前に趙公子と師兄弟を争ってたのは、俺が分をわきまえていなかっただけだ。あれは全部ふざけていただけで、本気にしちゃいけない」
兆雲がもう一度手を伸ばすと、季安はさらに後ろへ下がった。
童淵はしばらく彼を見ていたが、無理強いはしなかった。
張繡が自分の傍らの地面を叩いた。
「こっちに座れ。拝師しないならしないでいい、まさか俺たちと口も利かないつもりか?」
季安はしばらくためらってから、彼の隣に座った。
一同はまた雑談を始めた。
趙雲は壁にもたれ、目はまだ真っ赤だった。季安は時おり涙を拭いながら、それでも口では皆を縁起でもないと罵り、こんな時に限って冗談を言うのかと文句を言い続けた。
兆雲は次第に皆が何を話しているのか聞き取れなくなっていった。
彼は自分が読んだことのある武侠小説を思い出した。内力は傷を癒し、毒を追い出し、優れた者になれば人の命をも繋ぎ止められるという。それらの話がでたらめであることは分かっていたが、どうせ、死を待つ以外にすることもなかった。
兆雲は心を身体の奥深くへ沈め、残り少ない内力を、初めて自分から傷へ向けた。暖かい流れが下腹から立ち上り、ゆっくりと腕へ流れていき、傷の近くまで来ると、あの湿って冷たく粘つく何かの中へ沈み込んだ。
彼はその湿冷の中へ、さらに押し込もうとした。
暖かい流れは、すぐに大半が散っていった。
兆雲はしばらく休み、改めて残った内力を集め、また傷へ送った。
小屋の中の笑い声が、次第に遠くなっていくようだった。
三度目に内力を傷へ送り込んだ時、あの湿って冷たい気配に、ふいに変化が起きた。
二つの力が触れ合ったところで、まるで薄い氷が温水に浸されたかのように、その縁が音もなく少し溶けた。あの黴の臭いはまだ残っていたが、居座る範囲はさっきよりわずかに小さくなっていた。
兆雲は息を止めた。
彼は残った内力を改めて集め、ゆっくりと同じ場所へ送った。
湿って冷たい気配が、また少し溶けた。
今度は、はっきりと感じ取れた。
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**脚注**
¹乗龍――ポケモンの「ラプラス」は、中国で最初にアニメが吹き替え放送された際の公式訳名で、のちに音訳の「拉普拉斯」に変更された。
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