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最初の観測者

観測とは、存在を確定させるためのプロセスです。

「見る」という行為は、対象の状態を変化させます。


この物語は、ある研究棟で記録された“観測の更新”に

ついての報告です。



        最初の観測者



研究棟三階、実験準備室前の廊下。


そこによく見かける人がいる。


灰色のパーカーに黒いスニーカー。

背は高くも低くもなく、顔の印象も薄い。


目が合えば、軽く会釈をする程度。


名前は知らない。

「あの人」と言えば、普通に通じる。

存在感の有無という問題ではない。

クラスのほとんどが彼を知っていた。



研究棟を使う学生は百人前後。


その日も、彼は廊下に立っていた。

いつもと変わらず宮野は声をかける。


「次の課題、なんだか細かくないですか?」


彼は笑顔でこちらを向いた。

「結論までが長いよね。要点だけ拾って自分の言葉で説明した方が分かりやすいかも」


なんだか会話が楽しい。初めての感覚だ。


研究資料、参考文献、教授の癖など。

10分ほど立ち話をして、宮野は研究室に戻った。


「今度は名前を聞いてみようかな」


宮野は何を話そうかいろいろ考えていた。


同時刻

廊下の定点カメラに異常が起きていた。


ピッ‥ピッ‥ピッ‥

警告音と同時に赤いランプが点滅し始めた。

一瞬、テロップが浮かび上がる。


――次の観測者が記録されました――

 

1秒経たずにテロップが消えて点滅も止んだ。



何事もなかったように録画は続いていた。


宮野は残留思念を学ぶ研究室に所属していた。


研究テーマ「残留思念の動向」

これが今回、宮野が発表するゼミの内容だ。

廊下を映すように定点カメラをセットしていた。


映像を提出用に編集して、明日までに教授に渡さなければならない。


「ノイズやフリーズは‥‥なさそうだね」


映像をくまなくチェックする宮野。

しばらく見ていると、録画ポイントに自分が映っているのに気がついた。


「あ、やべ。あの時はパーカーの人と‥‥ん?」


廊下には、宮野一人しか映っていない。


しかし、誰かと話をしているように見える。


話を聞いて、間を取り、今度は右斜め前に視線を戻してまた話し始める。


姿が見えないが相手が居るように感じる。


「まさか幽霊?」


いやいやいや、よく考えてみよう。

気のせい。大丈夫。

落ち着け。深呼吸だ。


たしかあの時は、僕から彼に声をかけたんだ。

ゼミの話をして、彼は自分の言葉で説明するのがいいよ、と教えてくれたんだ。


話をした記憶もちゃんとある。


問題は、彼の顔がまったく思い出せないことだ。


パーカーだけは鮮明に覚えている。



映像を何度見返しても、目の前には誰もいない。


音量を上げても自分の声しか聞こえない。



周りを行き交う生徒は私達が見えているのか?


気になる。


翌日、友人たちに尋ねてみた。


「廊下でよく見かける、灰色のパーカー着てる人ってわかる?」


「灰色のパーカー?‥‥ああ、あの人ね」


「名前とかわかる?」


沈黙。


「え?名前までは知らないわ」


何人に聞いても答えは同じだった。



宮野は名簿を確認する。


研究棟利用者一覧にそれっぽい該当者はいない。



確かに映像では誰かと話をしていた。

聞けば、みんなも存在は知っている。

ただそれだけ。それ以上はわからない。


意図がまったく分からない。

ヤバい。詰みそう。


話を聞くうちに有力な情報が入った。


霊障学部にオカルトな現象を調査してる学生がいるらしいと。


前に聞いたことあるな。

てっきり都市伝説だと思っていたけどいるんだ。



      霊障学部 研究棟


宮野は準備を済ませると、すぐに霊障学部の研究棟に向かった。


他の研究棟には来る用事がないので、いささか緊張する。


オカルト研究会は‥‥3階か。


3階も造りは同じで、他と代わり映えしない。

ここも変わらずガヤガヤと騒々しい音がする。


宮野は1階で見たマップを思い出す。

まるでゲームの異世界ダンジョンに来た気分だ。


確かここを真っ直ぐ、突き当たりだったよな‥‥

あ!ビンゴ!


研究室って聞くと、白衣を着て静かにフラスコを振って、ビーカーで珈琲を飲むみたいな印象だ。


ベタな妄想過ぎて宮野は自分で笑ってしまった。


ふぅ〜

扉の前で深呼吸する。


コンココン♫


ノックをしてドアを開ける。



なんていうことでしょう。

白衣姿の青年が2人。更にビーカーでコーヒーを

飲んでいるではありませんか。


「え?マジか。やばい‥‥クックックッ‥」


見事なほどにイメージ通り。

完全にツボってしまい笑いが止まらない。


扉を開けるなり、大笑いする私を見下ろす2人。


‥‥怒られる?

そう思ったが、なぜかその2人も私に釣られて

大笑いしてる。


えぇぇ!

なんで君たちが笑っているんだ‥‥



      噂の理系のオカルト研



あらためてお互いに挨拶をする。


ソファにうながされ、宮野は時系列で起きたことをすべて2人に伝えた。


「宮野くんだったかな。経緯は分かった。

イノさん、宮野くんに何か質問ある?」


「まだないな。情報がもっと必要や」


話のまとめ役で背の高いイケメンがサトさん。

隣りの関西弁のイケメンがイノさん。


「会った記録があるのに記憶が曖昧ときてる」


「その記録も一方的に削りとられているやん」


「はい。記録にあって記憶にないんです」


「その言い方、かっこええな」


宮野はリュックから財布を取り出し、費用の相談をした。


「費用?研究課題を持ち込んでくれるんだ。

お金なんて取らないよ」


なんて優しいんだ。


「昼飯くらいご馳走してもええんやで」



ですよね。


早速、三人で当日の再現を含め現場検証をしてみる事になった。


「宮野くんからの依頼に間に合って良かった。

実は合わせ鏡の性質を利用したガジェットを

試したかったんだ」


サトが人差し指を眉間に当てる。


「人差し指をこうして眉間に当てる。どう?

指が見えないでしょ。

異常と見えるこの状態が、実は正常なんです。

一種のバグです。そのバグの性質を利用したものがこちらのガジェットです」


あっけにとられる宮野。

何を言ってるのか、全く理解が出来なかった。



そのガジェットはVRのように頭に装着する。


実際に付けてみると、視界がせまくなったように感じる。


狭くは感じる。

確かに合わせ鏡や三面鏡みたいに、人間の目では捉えられない角度も見てとれる。

どんな仕組みなんだ。


「これは大発明だよ。すごいね」


こんな装置を作れるなんて凄いなと、宮野は率直に思った。


         検証


「パーカーと話をしていた場所はこの辺かな」


サトは廊下の床にテープで印をつける。


廊下の中央に宮野。


正面に固定カメラ。


距離計、マーカー、簡易平面図。


新しいガジェットがよくわからない。

相談内容にどう反映されるのかも、全くもって検討がつかない。


とりあえずそれぞれの位置から、何か違和感を感じる場所を報告し合う。


サトがガジェットの使い方を説明する。


「ガジェットの画面越しなら、通常見られない場所も簡単に角度を変えて見られる」


「ほんまや。これ、すごいな。目的次第では捕まる危険性すらあるな」


「どんな使い方ですか」

宮野は思わずツッコミを入れる。



「距離1.2メートル、右斜め前です」


同じ距離で二人も続ける。


宮野、イノ、サト。


それぞれが感じる“存在位置”が提示された。



宮野:右斜め前

イノ:正面奥

サト:左壁際


位置は一致しない。


各自の視線ベクトルを図に起こし、AIが三次元化して立体的に表示させる。


ピッ

出たようだ。


高さ約1.6メートル。


座標は――


宮野の頭部中心をさしていた。


誤差範囲内。


イノが言う。


「中心は観測点そのものや。宮野くん‥‥きみ、ほんまに何者や?」



宮野は静かに俯いた。

自分の声が遠く感じる。


窓ガラスには3人の検証してる姿が映っている。

しかし、よく見ると宮野の姿だけが窓ガラスに映っていなかった。


          翌日


サトとイノは宮野がいる教室へ向かった。


まだ宮野の姿はない。


「トウマさん、最近見てないな」


「そやね。元気しとるんやろか」


しばらく見回してみたが見当たらない。


「イノさん、宮野くんってこの教室だよね?」




イノは首を傾げる。


「え?誰や宮野くんて?」


「は?‥‥昨日、三人で検証しただろ」


「昨日は二人やろ」


「本気で言ってるのか?イノさん」


「誰かいたような気もするけどな。せやけど、顔が浮かばないんや」


「あ、定点を撮っていたわ。もし3人いたらイノさんのおごりな」


すぐにPCを開いて確認してみる。




廊下にはイノとサトだけが映っていた。


二人が何かに話しかけている。


右斜め前の誰もいない方向に向けて。


「なぜ、宮野くんがいない」


「だから宮野くんて誰なん?」


昨日の研究棟利用者一覧を見に行くサト。


そこに宮野の名前はない。


「冗談はヨシコさんだぜ」


イノさんの記憶から、宮野くんの記憶だけがすっぽり抜かれていた。



その日の午後。


同じように検証を二人で行ってみる。


カメラは前回と同じ位置に固定する。


高さ、焦点、設定も同条件。


イノが立つ。


床のテープ。


そこは以前、宮野くんが立っていた位置だ。


「位置報告」


イノは迷いなく答える。


「右斜め前」


距離は1.2メートル。


同じ数値。


サトは床にマーカーを置く。


「視線固定」



イノが、淡々と言う。


「中心は、観測点そのものだ」



サトの手が止まる。



それはイノが宮野に言った言葉だった。


「……今の、誰に言った言葉か覚えてるか?」


イノは不思議そうに振り向く。


「サトさんやで?‥‥あれ、違うか」



赤いランプが点滅する。


廊下には二人しかいない。


サトはカメラのレンズを見つめていた。




「なぁ、イノさん」


「検証ができないのは、存在しないと同義かな」


「いや、同義ではないやろ」


イノが続ける。


「その存在してるかしてないかを、検証しているんやから同義やない」


確かにイノさんの言う通りだな。



沈黙。


そのとき、サトが小さく息を吐く。


廊下中央を見る。


誰もいない空間。


昨日、宮野がいた地点。


焦点は合う。


「イノさん、何か見えてる?」


「見えへん。でも見えへんから、おらんってわけやない」


サトはゆっくりと振り向く。




宮野が書いた検証ノートを開いてみる。


筆跡は確かに残っていた。


映像、数値、ノート。


すべて残っている。


だが何かが欠けていた。


「……残ってるのに、記憶だけが少しずつ消えていく」


無意識に漏れた言葉。


イノが笑う。


「記録にあって記憶がないやつな」


サトの手が止まる。


その言葉は――。


「宮……あ、何でもない」


サトはノートを閉じた。


「帰ろうか。イノさん」


イノは静かに答える。


「サトさん、さっきの監視カメラのやつな。

二人しか映ってへんかったら、メシ奢るぞーって言うてたよな?」



サトは目を細めた。


「記録にあるが‥‥記憶にないな」


「誰が上手いこと言えと」



二人の笑い声が夜の校舎に響き渡る。



まもなくメインゲートが閉まる時間だ。





<セキュリティ室 監視モニター前>



メインモニターは、半分閉めかかった正門を映していた。


まばらだが、学生達が集まっている。


思った以上に生徒が残っていたことに驚く。


一人ひとりに声をかける優しい警備員さん。


「イノくんにサトくん。また君たちがラストワン賞だね。しかも、今日は珍しく3人か」


「みんな、気をつけて帰るんだよ」


メインゲートは閉ざされ、先程の警備員も交代していた。


「あの人、うちらのこと3人って言うてたね」


「案外スキル持ちかも」


「ラストワン賞って言うてた。相当やってるぞ」





「ここにいるのか‥‥宮野くん」



「なぁ、サトさん。その‥‥」



照れ臭そうに言葉を続けた。



「宮野くんにはよ会えるとええな」


サトは笑みを浮かべる。


「イノさん。ご飯食べに連れてってやんよ」


「やったぜ!」


「宮野くんも行こか?‥サトさんのおごりやで」



返事はないが来れるなら憑いてきてほしい。


「イノさん、3人が座れる店にしよう」


「さすがサトさん。駅の近くにありそうやな」




監視カメラに異常はない。





深夜2:00



正門を映す監視カメラの観測は続いていた。



警告音と共に赤いランプが点滅する。



ピッーーー!と電子音が鳴り、テロップ文字が浮かび上がる。



――次の観測者が記録されました――


                    


                   



        あとがき



最後まで読んで頂きありがとうございました。


ご無沙汰してました。宮野です。


観測者って言葉、あまり使わないですよね。

幽霊も長い間、認識や観測をされないとどうなるでしょうか。


人は誰からも認識されないと悲しくなります。


霊も元は人ですので、同じ感情だと思います。


時代も変わり、SNSやYouTubeの登場で、

観測する目が爆破的に増えました。


時代の流れ。


そう言って割り切れるほど簡単でありません。


幽霊も適応していかないと消えてしまいます。


ネット世界は、霊にとって良いのか悪いのか。


今はまだ分かりません。それはまた別の物語。


サトさんやイノさんに、必ずもう一度会いに行きます。


それまで皆さんもお元気で。



そして、次の観測者はアナタです。



                     完

2度目の後書きになります。

最後まで読んでくれてありがとうございます。

宮野くん、また会いたいですね。

トウマさんと同じ学部だから、もしかしたら友達かも知れませんね。

別の話で共演できたら楽しそうです。


今回は観測について書きました。

この話は月を見てて思い浮かんだ話です。

ずっと地球を観測している月とは何ものなのか。

そんなことを考えながら寝れるのは幸せです。

今後、月を交えた小説も書きたいと思っています。

これからもよろしくお願いします。

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