プロローグ バスジャック犯
私はひとり、バスに乗っていた。
バスの中には、会社員の男、学生カップル、おばあちゃん、私服姿の20代ぐらいの男、OL、運転手がいた。
その中で、私服姿の20代ぐらいの男は、私のところをガン見していた。
私が彼の方を見ると、彼は焦ったように目を逸らし、私と目を合わせないようにしていた。
おかしいな?私の存在は、普通の人間には見えないはずなのに、彼には私が見えているらしい。
そして、私の格好というのは、少し黒みがある青いビジネススーツに、ガスマスクという奇抜な格好であるから、彼がガン見する理由も分からなくもない。
ただ、彼の様子を見ると、些か不審な点があった。
どこか挙動不審というか、どこか疑っているというか、見た感じ何かをやらかしそうな感じがしていた。
私はコレを止めた方が良いのだろうか?
そんな事を考えている内に、バスはバス停に停車した。
すると、おばあちゃんが立ち上がり、料金を支払い、バスから下車した。
その直後、私服姿の男はバスの運転席の横に立ち、運転手に何かを見せ、運転手の耳元で何か囁いていた。
すると、運転手は本来のルートとは全く違うルートにバスを走らせていた。
ソレに気づいた会社員の男は、運転手にこう言った。
「おい、ルート間違えてるぞ、どこ行くつもりだ。」
「うるせぇ!!」
そう言った20歳の男は振り返り、ナイフを見せ、乗客全員に威嚇をした。
「キャー」
叫んだのは、学生カップルの女の方でそれを見た20歳の男は、「いいか、次、叫んだら、お前を滅多刺しにするからな。」と言って、ナイフを滅茶苦茶に振り回していた。
学生カップルの女は、涙を流し、彼氏の男は彼女を守るように抱き着いていた。
この状況で会社員の男は少し動揺している様子で、OLはイヤホンをつけながら、スマホをいじっていた為、この状況に全く気づいていない様子だった。
このような状況になっていた私は、少しヤレヤレといった様子で、席から立ち上がり、彼の前に近づこうとしていた。
「おい、オマエ、この状況で何、俺に近寄ってきてんだァ?!」
男は少し動揺した様子で、私にナイフを向けていた。
「いや、君こそ、こんな格好のヤバい奴がいる中で、そんな刃物をよく振り回すことが出来たね。」
そう言うと、私は彼のナイフを持っている右腕を右手でへし折り、彼の右腕を強く握り、彼の顔を自身の顔に近づけた。
「ウォッー?!」
いきなり、片手がへし折られた男を見て、バスの乗客や運転手は皆、動揺していた。
「お前は一体なんなんだ?」
そう言った男の前で私は、左手でガスマスクを外した。
「私?私は鳥人間だよ。」
そう言って、ガスマスクを外した私は、黄色いくちばしから、強烈な「キェェェェェェ!!」と言う声を出し、私服の男を気絶させた。
気絶させた男を床に置くと、男はその場で倒れた。それと同時にバスは停車し、バスの扉が開いた。
「誰か、警察を呼んでください!!」
「え?何があったんですか?!」
そんな事を騒いでいるバスの中の人達の声を聞きながら、私はバスを降りた。
私の名前は鳥人間。
何故か、私は普通の人には見えず、一部の人間にしか見ることが出来ない。
オマケに声も聞こえない為、私服の男以外、私の声は聞こえなかっただろう。
私が今回、バスジャック犯を捉えたのは、私の行きたかった方向と、真逆の方向にバスが動いてしまったからである。普段の私なら、バスジャックを止めることは無いだろう。
ただ、行きたいところと言っても、ぶっちゃけ私は目的地の無いまま、ただブラブラと旅をしているだけなのだから、このままバスジャックさせても良かった気もしている。
そんな事を思いながら、私は自身の青い鳥頭を隠す為、ガスマスクを付け直しながら、この道を歩くのであった。




