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今世はもう我慢しません!家を捨てて、精霊たちの森で自由に生きます。  作者: ちょこだいふく


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15/15

15.硬いパン

小屋での生活は、思っていたよりも静かに始まった。


朝は早く目が覚める。


鳥の声が聞こえて、光が差し込んで、

それだけで体が自然と起きる。


屋敷にいた頃のような重さは、もうなかった。


(……不思議)


リシェルは窓を開け、森の空気を吸い込む。


精霊はいつの間にか窓辺に座っていて、外を眺めている。


「寒くないの?」


「寒いけど平気」


「そう」


精霊は相変わらず猫みたいだった。


名前はまだない。


呼ばなくても、近くにいる。


それが当たり前みたいに。


その日も、ルヴァンが食料を持ってきた。


干し肉と、固いパン。


机の上に置いて言う。


「しばらくはこれで足りる」


リシェルはパンを手に取った。


固い。


重い。


そして、少し苦い匂いがする。


「ありがとう……それにしてもこのパン…ずいぶん硬いのね」


「保存用だ」


「保存がきくのね…」


一口かじる。


噛むのに少し力がいる。


けれど、嫌いではなかった。


「……ねえ、ルヴァン」


「なんだ」


「この辺りに町があるって言っていたわよね」


ルヴァンは頷いた。


「森を抜ければある。小さいが、人もいる」


リシェルは少し考えてから言った。


「パン屋はあるの?」


「一応ある」


「…一応?」


ルヴァンは少しだけ考えてから答えた。


「…備蓄用食料としてパンも売っている。」


その言い方に、リシェルは思わず笑った。


「つまり、あまり美味しいパンではないのね」


ルヴァンは否定もしなかった。


精霊が机の上に飛び乗る。


パンの匂いを嗅いで、顔をしかめた。


「これ、かたい」


「そうね」


「きのうのもかたかった」


「保存用だからよ」


精霊は少し考えてから言った。


「やわらかいの、ないの?」


その一言で、胸の奥に小さな記憶が浮かんだ。


焼きたてのパンの匂い。


まだ温かくて、手でちぎれるくらい柔らかいパン。


前世の記憶か、

それとももっと昔の記憶か、分からない。


けれど──


「……作れるわ」


自分でも驚くほど自然に言葉が出た。


ルヴァンが顔を上げる。


「何が」


「パン」


少しだけ笑う。


「もっと柔らかくて、美味しいの」


精霊が目を輝かせた。


「ほんと?」


「ええ」


ルヴァンは腕を組んだ。


「小屋で作るのか」


「ううん」


リシェルは窓の外を見る。


森の向こう。


まだ見たことのない町。


「町で作れたらいいと思ったの」


ルヴァンは少し黙った。


それから言う。


「……町には、空いてる店がある」


リシェルは振り向く。


「本当に?」


「ああ。前はパン屋だった」



「もう少し落ち着いたら連れて行こうかと思っていた。」




胸が少しだけ高鳴る。



怖さはある。


でも、それ以上に。


(……やってみたい)


精霊が机の上で尻尾を振る。


「やわらかいの、つくる?」


リシェルは笑った。


「作るわ」


そう言ったとき、

胸の奥が静かに温かくなった。


逃げてきた場所で。


隠れるための小屋で。


初めて、自分から何かを始めたいと思った。


窓の外では、森の光が揺れている。


その向こうにある町を、

リシェルはまだ知らない。


けれどもう、そこへ行くことを迷ってはいなかった。

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