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今世はもう我慢しません!家を捨てて、精霊たちの森で自由に生きます。  作者: ちょこだいふく


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14.森の朝

朝、目が覚めたとき、リシェルは一瞬どこにいるのか分からなかった。


見慣れない天井。

粗い木の梁。


けれど、次の瞬間、胸の奥がふわっと軽くなる。


(……ああ)


思い出した。


森の小屋。


体を起こす。


驚くほど、体が軽かった。


昨日までずっと背中に張りついていた重たいものが、すっと消えているような感覚。


(……こんな朝、初めて)


窓の隙間から光が差し込んでいた。


リシェルは寝台から降り、窓へ歩く。


窓を開けると、朝の空気が一気に流れ込んできた。


森の匂い。

少し冷たい風。


そして、太陽の光が葉の間で細かくきらきらと揺れている。


思わず、深く息を吸い込んだ。


胸の奥まで空気が届く。


(……気持ちいい)


屋敷では、こんなふうに朝の空気を吸ったことはなかった。


そのとき、視界の端で何かが動いた。


「……あ」


小屋の隅。


昨日見た、小さな影。


けれど今日は、少し違って見えた。


輪郭が、はっきりしている。


子猫くらいの大きさ。

丸い体。

細い尻尾。


尻尾の先が、淡く光っている。


影は、床の上で丸くなっていたが、リシェルが動くと顔を上げた。


ぱち、と光る目。


「……おはよう」


そう声をかけてみる。


すると、影の尻尾がゆっくり揺れた。


そして──


「おはよう」


小さな声が返ってきた。


リシェルは固まった。


「……え?」


影は、首をかしげる。


「なに?」


「……今、しゃべった?」


「しゃべったよ」


あまりにも普通の返事だった。


リシェルはしばらく瞬きを繰り返し、それから小さく笑った。


「……そう」


驚いているはずなのに、不思議と怖くはない。


むしろ、どこか納得してしまう。


(精霊だものね)


影──精霊は立ち上がり、てとてと歩いてくる。


そして、リシェルの足元で止まった。


すり、と足に額を寄せる。


「……あなた、昨日よりはっきり見えるわ」


そう言うと、精霊は少し得意そうに尻尾を揺らした。


「きのうは、ぼんやりしてた」


「そうね」


リシェルはしゃがみ込み、そっと頭を撫でる。


不思議な感触。


けれど、もう違和感はなかった。


そのとき。


こん、こん。


小屋の扉が叩かれた。


リシェルは顔を上げる。


「リシェル」


扉の向こうから、落ち着いた声。


ルヴァンだった。


「起きてるか」


「ええ、起きているわ」


リシェルが答えると、扉が開いた。


ルヴァンは一歩中に入り、そこでふと足を止めた。


視線が床に落ちる。


精霊が、リシェルの足元にいた。


ルヴァンは少し眉を上げる。


「……なるほど」


それだけ言って、軽く肩をすくめた。


「もう見えてるのか」


リシェルは瞬きをする。


「知っていたの?」


「この森では珍しくない」


ルヴァンは持ってきた袋を机の上に置いた。


「パンと干し肉だ。とりあえず数日は困らない」


リシェルはその袋を見て、ふっと笑った。


「ありがとう」


精霊は袋の匂いをくんくん嗅いでいる。


ルヴァンはそれを横目で見ながら言った。


「体調は?」


リシェルは窓の外を見た。


太陽の光が、葉の間で揺れている。


胸の奥が、驚くほど静かだった。


「……とてもいいわ」


本当に、そうだった。


昨日までの自分とは、別人みたいに。


ルヴァンは少しだけ頷く。


「ならいい」


そして、森のほうへ視線を向けた。


「落ち着いたら、町を見に行くといい」


「町?」


「森の外れに小さいのがある」


リシェルの胸が、少しだけ高鳴った。


「……そう」


森の向こうに、別の世界がある。


その事実が、今はとても遠くて、でもどこか楽しみに感じられた。


精霊はいつの間にか、リシェルの隣に座っている。


尻尾の先が、静かに光っていた。


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