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白雪姫の家族【第二部】  作者: 和泉将樹
一章 和樹の過去

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第136話 和樹の傷1

「和樹さん?」


 白雪は少なからず驚いて呼びかけた。

 出会ってからであればもう二年半は経つが、和樹のそんな表情を見たのは初めてだったからである。

 悔やむような、あるいは痛みに耐えるような、そんな表情。

 いつも頼りになる和樹とは違う、ひどく傷ついた、弱々しいとすら思える表情だった。


「……あ、いや。別に。昔の知り合いだ。といっても……まあ長野までわざわざ行くこともないだろうしな」


 無理に平静を装おうとしているのが分かる。

 余人ならともかく、白雪は和樹の変化に気付かないということはない。

 本当に不安そうに、そして何かを恐れてすらいるような声音だ。


 和樹はそのまま往復はがきを手紙のストックに入れようとするが、その手を白雪が取った。


「白雪?」


 和樹のその手は、本当にわずかだが震えていた。

 ただ手紙をしまうだけでそうなる人は普通いない。

 それはつまり、この手紙、正しくはこの長谷という人に関わる何かが、和樹にはとても大きな意味があるという事でもある。


 和樹が、何かを抱えているのでは、というのを、白雪はずっと前から感じていた。

 それこそ、一緒に住む前から。

 そして、美幸との会話にあった、『余計な事』。

 和樹自身が、おそらく今も抱えている『何か』が、そのはがきの中にあるのだろう。


(本来は立ち入るべきではないのでしょう……けど)


 今の白雪と和樹は、あくまで他人だ。

 疑似的に家族になっているとはいえ、立ち入るべき範囲を間違えるのはマナー違反である。


 ただ、今の和樹は、白雪にとって八年も年上であることを忘れるほどに、動揺し、震えているようにすら思えた。

 おそらくそれほどに、和樹の中にある『何か』は今も和樹を苛んでいるのだろう。

 できることなら、それを軽くしてあげたいと思うのは、身の程知らずなのかもしれない。


 白雪は、まだ高校を卒業したばかりの子供だ。

 法的には成人と認められるとはいえ、それはあくまで表向きだけの話で、実際に子供であるのは自分自身が誰よりもよくわかっている。


 だがそれでも、和樹のことを助けたいと、心底思っていた。

 何ができるかとかは、全く分からない。

 ただ、和樹は文字通りの意味で、幾度も白雪を助けてくれた。

 出会ってからずっと、白雪は和樹に助けられてばかりである。


 無論、このことに関して白雪ができることは何もない可能性は否定できない。

 むしろその方が確率は高いだろう。

 それでも、今、何もしないということは、白雪には出来そうになかった。


(拒否されたら、それで諦める)


 そう、心に決める。

 家族とはいえ、明かせないことだってある。

 和樹が拒否したら、それ以上この話題を出すことはしないと決めて、白雪は意を決して口を開いた。


「和樹さん。そのはがき……というか、長谷という方と、昔何かあったのですか」

「いや……別に。中学の同級生というだけ……だが」


 その時点で少し驚いた。

 施主が同級生。ということは、長谷優一という人は、中学の時に父親を喪ったということになる。

 小学二年生で両親を喪った自分が言うのもなんだが、普通はあまりない。


「本来、私が踏み入ることではないのは承知しています。でも、和樹さん、その、凄く……辛そうで」

「っ……」


 和樹が顔をそらした。

 それはつまり、繕うこともできなかったという事でもある。


「私は、和樹さんに幾度も助けられました。その、私なんかが助けにならないかもしれませんけど……それでも、もし私にできることがあるなら、恩返しさせてほしいんです」

「別に……それは俺が勝手にやったことで」

「でしたら、私がそれに恩義を感じるのも、私の意思です。だから……少しでも、和樹さんの重荷を和らげる手援けは、私にはできないですか?」


 白雪が握っている和樹の手は、なおもまだ小さく震えていた。

 多分和樹自身、意識してのことではないのだろう。


 和樹はしばらくそのまま固まっていたが――やがて、大きく息を吐くと、はがきをテーブルの上に戻した。


「家族だ、と言ってるのに言わないのも……良くはないな。単に俺が臆病なだけなんだろうが」

「え?」

「すまん。正直に言えば……知られることで、嫌われるんじゃないかと……まあそんなことなんだ」


 思わず目を見開いてしまった。


「そんなことは、ないです。私が和樹さんを嫌う事なんて、それこそ、天地がひっくり返ってもありません!」


 言ってから、ある意味強烈な告白をしてしまったのでは、と思ってしまった。

 ただ、相変わらずというか、和樹はそれを家族としてだと思ったようで、やや苦笑いするだけだ。

 これはこれで複雑な気持ちにはなるが。


「家族なら……話してはおくべきだな。すまん」

「い、いえ。その、立ち入ったことなのは承知してますし、そんな無理強いするつもりはないです……が」


 白雪は和樹の手を、両手で包み込む様にとる。


「先ほども言ったように、私は何度も和樹さんに助けられてきました。それはとても感謝してます。だから、もし私が和樹さんの援けになることができるなら、私はなんだってします。そして、私が和樹さんを嫌う事だけは、絶対にありません。私の……かけがえのない、家族なんですから」


 かろうじて、好きだと言ってしまいそうになるのを、堪えた。

 ただそれでも、和樹のために何かしたいという気持ちだけは、抑えられない。


「その、私に何かできるかはわかりません。でも、話していただけるだけでも、もしかしたら……」

「……うん。まあ……そうだな。白雪には話しておいた方がいい……だろう」


 そう言うと、和樹はリビングのソファに座った。

 白雪もその隣に座る。

 普段だとこのままテレビをぼんやり見ながらか、ゲームをしながら雑談する、いつもの寝る前のある種のルーティンだが、今日の白雪は少なからず緊張しながら、次の和樹の言葉を待った。


「十二年前……俺が中学の時に、優一の……俺の友人の父親が、事故で死んだんだ。ただそれはあるいは、俺が殺したようなものだったのかもしれないんだ」

「え――」


 その瞬間白雪は、これでもかというほどに目を見開いて、和樹を見てしまっていた。


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