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白雪姫の家族【第二部】  作者: 和泉将樹
二章 縮む距離

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23/25

第152話 繋がれる距離

 十時きっかりに白雪と和樹は家を出た。


「またずいぶん……おめかしした、か?」

「そうでしょうか。日焼け対策と、あとは歩きやすさは重視しましたが」


 白雪の服装は、先日美雪達と一緒にショッピングモールに行った時に買った服である。

 上はデニムのチュニックに、ボトムズはオフホワイトのワイドパンツ。

 靴は普通にスニーカーだ。

 それに和樹から誕生日にもらった首飾り。

 髪は今回は後ろで結わえて編み込んでいる。暑くなりそうなので、この方がいいと思ったのだ。

 化粧は日焼け対策も兼ねたベースメイクのみ。自分で言うのもなんだが、多分まだちゃんと化粧する必要はないと思ってるのもある。

 あとは陽射しが本当に厳しかった場合のための日傘も準備した。


 和樹の服装は相変わらずといえば相変わらず。

 さすがに今日は暑いのでジャケットはないが、シャツは長袖だ。


「そういえば和樹さんって、半袖のシャツをほとんどお持ちじゃないですよね」

「まあな。日焼け対策ってのもあるが、別にまくればそう困らないしな。だから夏用に生地の薄いシャツは多いが、半袖はほとんど買ってない」


 それゆえか、和樹はほとんど日焼けしていない。

 もちろん白雪も気を付けてはいるのでしていないが、和樹も特に意識せずに対策してしまっているタイプのようだ。


 二人並んで駅について、そこから電車に乗る。


「ああ、そうだ。一つ手前で降りるぞ」

「あれ。鎌倉ではなく、ですか?」

「目的地の一つがそちらの方が近いんだ」


 降りたのは鎌倉駅の一つ手前。

 鎌倉駅よりはるかに小さい、というより――。


「この路線でもこんな小さな駅もあるんですね」

「俺も以前仕事出来た時に驚いた。地元では別に珍しくもないが、この路線にこんな駅があるとは思わなかった」


 一応小さな駅舎がいて、駅員は常駐しているようだが、改札も通常の自動改札機ではなく、小さな機械があるだけ。

 いつも鎌倉に行く時に通過していたはずだが、あまり気にしたことはなかった。


 陽射しはあまりないため暑いというほどではないが、少し湿度が高めで蒸し暑いという感じはある。

 陽射しの中で立っているとじわじわと汗ばんでくる感じだ。


 和樹と二人、線路沿いの道をしばらく歩くと、少し人の流れが増えてきた。

 そこから道を折れると、案内板が見えてくる。白雪も見たことがある寺院の名前だ。


「紫陽花寺として知られている場所ですね」

「さすがに知っていたか。まあそうだな。俺もここに行くのは初めてだが」


 水路といえるような川沿いの道を歩くこと五分ほどで、当該の寺に到着する。

 拝観料を払って中に入ると、白雪は思わず感嘆の声をあげた。


「すごい。紫陽花で埋まってます」

「これほどとはな。いや、話には聞いてはいたんだが」


 寺の本堂へ向かう通路、階段。

 それらの両脇がすべて紫陽花で埋まっていた。

 そして鮮やかな青い小さな花が集まった紫陽花の花が、美しく咲いている。


「なんかすごくいいです。こんなにたくさんあるとは思いませんでした」


 白雪が嬉しそうに周囲を見渡す。

 どちらを見ても、ひたすら紫陽花がその花を咲かせているのが見える。

 瑞々しい緑の葉と、可愛い青い紫陽花が連なる光景は、とても美しく思えた。


「和樹さん、写真、一緒にいいですか?」

「ああ、いいよ」


 和樹が応じてくれたので、白雪は和樹の手を取って、紫陽花の前に立つ。白雪が手を伸ばしてスマホを掲げるが、少し背が足りず、いい構図にならない。

 すると和樹が白雪のスマホを取って、掲げてくれた。そして、シャッターが切られる。


「ありがとうございます、和樹さん」


 今回は、感情が駄々洩れになるのはこらえることは出来た。

 あるいは気付かれてしまってもいいと思っていたのだが、そう開き直ると逆に自然に振る舞えてしまっているらしい。


 二人はそのあと、紫陽花寺を巡り続けた。

 本当に紫陽花が多く楽しくなるが、考えてみたらこの季節以外は花はないので、その季節はどうなんだろうと思ってしまう。


「あとはどうしましょうか……」

「とりあえず歩いて鎌倉駅辺りまでは行くか。少し歩くが」

「はい」


 そういうと、二人は寺を後にして歩き出す。

 ほどなく寺の参道めいた道が終わると、車道横の歩道を歩いていくことになるが、ここでは和樹が先に立って歩いていく。

 本音を言えば、手をつなぐとまで言わずとも、並んで歩きたいところだが、そもそも歩道が狭くて、並んで歩くと迷惑になりかねないから仕方ない。


 それでも、和樹は時々白雪の方を振り返り、歩く速度を調節してくれるので、それだけでも嬉しくなる。

 途中、けんちん汁発祥ともされる店が少し気になったが、時間的に食事には少し早かったので、後日にすることにして今回は見送った。


「それにしても、あちこちに紫陽花がありましたね」


 途中、トンネルめいた場所までくるとさすがに歩道が広くなったので、白雪は和樹の横に並んだ。

 実際、結構あちこちにも紫陽花があったのである。


「そうだな。街の人間が好きなんだろう。実際、紫陽花推しなのか、かき氷とかが紫陽花をイメージした商品が夏には……いや、もう出てるか」


 すでに真夏のような陽射しがあるので、もうとっくに夏商品も出ているだろう。

 紫陽花のような、というのがどういうものか分からず、少し興味が出てくる。


「そういえば、もしかしてこのトンネル……切通しですか?」

「ああ、多分そうだろうな」


 トンネルというか、道をトンネルめいた構造物で覆っている。要するに上からなにかが落ちてくるのを防ぐための設備だ。

 つまりこの道のすぐ横に崖があるということになる。


「今でこそ道路が出来てますが……本当はもっと狭い道だったんでしょうね」

「だろうな。ま、つまりこの先が鎌倉、というわけだ」


 実際、そのトンネルまでは登り坂だったのが、そこから下り坂に変わる。

 十分も歩かないうちに、植生豊かなエリアが左手に見えてきた。


「あ、これって、八幡宮の」

「そういうことだ。その外側だな」


 歩いていくと、鶴岡八幡宮に入るための通路も見えてきた。

 逆側から鎌倉に向かっている感じだ。

 今日のところは鶴岡八幡宮に行く予定はないので、そのまま道沿いに行くと、二人はそのまま多くの店が並んでいる通りに入った。

 平日にもかかわらず、結構人が多い。


「少し早いが、ここで食事していくか?」


 和樹に言われて時計を見ると、十二時少し前。

 今日は朝が早かったし、大学に行って帰ってきて、またここまで歩いたのでだいぶお腹は空いていた。


「そうですね、確かに、お腹空いてきました」

「まあそれじゃ、よさげな店に入るか」

「はいっ」


 人が増えてきたから、はぐれるのが少し心配――と思ったら、和樹が手を出してくれた。白雪はその手を迷わず取り、握る。

 自然と手を繋ぐことができることが、今の白雪にとっては本当に嬉しく思えた。


(ずっと、こんな距離でいたいですね――)


 握った手に、わずかに力を籠める。

 和樹はそれに気付いて、少しだけ白雪を見てから――同じように握り返してくれた。


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