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白雪姫の家族【第二部】  作者: 和泉将樹
序章 新しい生活

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第130話 思わぬ再会

 央京大学のキャンパスに到着したのは、八時四十分だった。

 バスは空いているというほどではないが、少なくともすし詰めというほどではない感じで、乗っていたのはおそらく同じ入学式に参加するであろうスーツ姿が三分の一。あとは在校生だろう。

 この中で見ると、和樹も少し年上であるとはいえ、学生に見える――かどうかは白雪には分からない。

 背格好は確かに学生らとあまり変わらないが、やはり雰囲気が違う様に思う。

 あるいはそれは、白雪がそう見ているだけかもしれないが。


 白雪の服装は、グレーのスーツだ。

 こればかりは今まで持っていなかったので、今回新しく購入している。

 そういえば、生活費はくれると言っていた貫之だが、三月まではとりあえず今まで通りの金額が振り込まれていた。

 もっとも、その金額は明らかに一学生が受け取る金額としては大きい――サラリーマンの平均月収以上――ので、節約をしている白雪は実は相当な金額が貯まってしまっている。


 シューズはローヒールのパンプス。正直に言えばあまり履き慣れてはいないが、こればかりは我慢するしかない。

 だから今日は歩いていく選択肢はなかったのだが。


「桜……すごいですね」


 バスを降りて最初に目に入ったのは、山の斜面を覆い尽くした桜。

 少し散り気味になっているとはいえ、まだまだ美しいピンク色で、斜面を彩っている。見ると、その下には多くの学生がレジャーシートを広げているようだ。


「あれは……」

「在校生だな。まあ、今日の場合は入学式後に、新入生を誘ってそのまま花見に巻き込もうって魂胆もあるんだろうが」

「巻き込む……?」

「いわゆるサークル勧誘だ。入学式終わったら、色々あるから、あまりフラフラと着いていくなよ」

「が、頑張ります」

「そういえば、サークル活動とかなんか考えているのか?」


 言われてから、少し首を傾げてしまった。

 白雪は高校でも部活には所属していない。

 サークルは、高校の部活に近いイメージだが、実のところそうやりたいことがあるわけではない。

 むしろ、和樹と一緒にいる口実にもなるし、大藤教授の研究室に出入りしたいと思っているくらいだ。


 運動をやりたいという希望もない。

 とはいえ、何があるのかという興味はなくもないが。


「まあ高校の部活とはまた違うからな。別に所属しなければならないってことはないが、とりあえず見てまわると良い」

「はい。和樹さんは……これから打ち合わせ?」

「そうだな。なのでまあここでしばらくお別れだ。一応だが、変なのにはついていくなよ?」

「私をなんだと思ってるんですか」

「どうやっても心配になるのが家族ってもんだろ?」


 それはそうですが、と言いたくなる。

 多分今の和樹の発言は、完全に白雪の保護者視点での発言だろう。


「ちゃんと気を付けます。えっと、和樹さんが終わるのは?」

「教授が入学式に参列する都合もあって、十一時前には終わる予定だ。その後、戻ってきた教授や研究室連中と久しぶりに学食で食事ってことになってるが……そういえば白雪はお昼はどうするんだ?」

「入学式後で、と考えてましたが……」

「なら、合流するか」

「いいのですか?」

「情報学部に入ったなら、ある意味仲間だしな。それに、学祭で一度会った連中も多いから、全くの初対面ってわけじゃないだろうし」


 ということは、おそらく倉持奈津美あのひともいるのだろう。

 あの時と今では、白雪の状況が全然違うが、当然彼女はそんなことは知らない。

 ただ、会うなら早い方がいいような気もする。


「分かりました。じゃあ……」


 言いかけてから、時間はともかく場所はどこがいいかなど、全く思いつかなかった。


「入学式は多分一時間くらいで、その後オリエンテーションだから……でも確か今日はすぐ終わるはずだから、十三時にデッキの学食棟と図書館棟の間のスペースでいいか。確か、セントラルプラザって名前だったか」


 言われて、坂の上にある建物を見やる。

 前に案内された食堂棟と、その隣にある図書館棟は、大きな屋根で繋がっているが、その下のスペースのことだろう。


「分かりました。じゃあ、その時間に」

「入学式まではどうしてるつもりだ?」

「あまり歩き回って迷子になりたくはないですし……この格好で歩くのも大変なので、入学式までは図書館にいようかと」


 自分の容姿から起きうるトラブルは、実際よくわかっている。

 あまり歩き回ると、色々な人に声を掛けられて余計なトラブルを巻き起こす可能性は否定できない。

 図書館ならその心配はないだろう。


「そうか。じゃあ、またあとでな」

「はい。和樹さんも頑張ってください」


 言ってから、何をだろうという疑問は湧いてきたが、気にしないことにした。

 和樹は手を振りつつ、情報学部棟の方に去っていく。

 それを見届けてから、白雪は図書館棟の方に向かった。


 央京大学の図書館は、事前に調べたところによると、物理的な書籍の蔵書数だけで二百五十万冊以上。それに加えて、雑誌や電子書籍なども充実している。

 国立の大学ほどではないが、非常に充実してると言えた。

 また、単純な図書館としても非常に大きく広い。

 中に入ると、外の喧騒が非常に遠くなり、静謐な空気に満たされていた。

 見てみると、自分と同じように入学式に来たと思われる新一年生で、図書館にお邪魔している学生もいるようだ。


 とりあえず席を確保して、適当に興味を持った本を開架から持ち出す。

 念のため、スマホのアラームをセットしてから、白雪は本に没頭していった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 入学式は、学内の非常に大きなホールで行われた。

 新入生の数は、全部でおよそ七千人だという。

 とんでもない数だが、これでも昔よりは減ったというから驚きだ。


 そしてこの大学は、一万人を優に収容できる巨大ホールがあるため、入学式はそこで行われる。

 入学式は学部、学科別。

 白雪が所属しているのは情報学部管理情報学科。

 案内に従って席に座ってから見回すと、ある意味ではすごい光景に思えた。

 何しろ、数千人が同じような服装――スーツ――で着席しているのだ。

 高校でも制服で全員体育館に集まってはいたが、数は軽くその十倍近い。

 ある意味圧倒されてしまう。


(そういえば、新入生代表挨拶とか、やる可能性はあったんでしょうか)


 一般的には主席合格者が依頼されるケースが多いらしい。

 白雪もかつて、聖華高校の入学式では新入生代表挨拶を務めた。

 もっとも、さすがにこれだけの数の中で主席を取るのは難しいだろうし、考えてみたら学部ごとに試験は異なるので、単純に主席というわけではないのだろう。

 それでも、大学が注目する学生なのは確かだ。


 そうこうしているうちに入学式が始まり、学長の挨拶、来賓の挨拶、在校生挨拶と続いて、新入生の挨拶となる。

 壇上に上がってきたのは、男性のようだ。

 ビシッとしたスーツを着こなしていて、遠目にもかなりそれが様になっていると分かる。


「桜舞い散るこの良き日に、私たちはこの央京大学へと、新たな一歩を踏み出すことととなりました」

「……あれ?」


 なぜか声に聞き覚えがあった。

 白雪のいる場所はステージから軽く五十メートルは離れているので、いくら視力の良い白雪でも、壇上にいる人の顔はよく見えない。

 ただそれでも、その立ち姿などには、なぜか既視感を覚える。


(……私の知ってる人、でしょうか?)


 知ってるとしたら聖華高校の生徒くらいしか可能性はない。

 ただ、今年、聖華高校からこの央京大学に進んだのは、全部で十人。

 もちろんその全員の顔と名前は憶えているし、その誰でもないのは確かだ。

 他に今年の新入生で、知り合いなど思いつかないので、本当にわからない。


「……以上を持ちまして、新入生の挨拶とさせていただきます」


 考えている間に挨拶が終わってしまっていた。

 あらためて目を凝らすが、やはりこの距離ではさすがに顔の識別は厳しい。


「……年四月八日。新入生代表、法学部法律学科、斎宮院さいぐういん孝之たかゆき

(え!?)


 危うく大きな声を出しそうになって、かろうじて口を抑えられた。

 一瞬声が漏れたが、すぐ近くの人間が少し不審そうな顔をしただけだ。


(斎宮院さんって……あの斎宮院さん? そうだとすれば、聞き覚えがあるのは納得できますが……。でも、なんで?)


 彼が通っていた高校は、京都にある洛央院。

 彼は当然京都に実家があるし、わざわざこちらの大学まで来る理由はないように思う。

 確かにこの央京大学の法学部は特に有名で、人によっては日本最高の環境という人もいるらしい。

 そのため、わざわざ国立の最高学府すら蹴ってくる人がいることもあるとは聞いたことはあるが、それでも、彼の立場でこの大学に来るのは予想外だ。

 だが、他人の空似や偶然の名前の一致はあり得ないだろう。


 そうしている間に、入学式は終了した。

 この後は一度各学部棟に戻って、今後の簡単な説明を受けて解散となる。

 さすがに、この人数で移動する中、孝之を探す気にはならない。


(それに……じゃあ、春日さんとは離れ離れに……?)


 孝之には同学年の春日美雪という婚約者がいる。白雪にとっても中学時代の同窓生だ。

 最後に会ったのは、一年あまり前の、聖華高校と洛央院との交流会。

 そういえばあの時に、雪奈と美雪はとても意気投合していたのを思い出す。


 普通に考えれば、二人とも京都方面の大学に進むだろうから、こちらで会うことなど考えてもいなかった。というか、今の今まで、存在を忘れていたほどだ。

 学部は違うが、あるいは機会があれば、挨拶くらいはすべきかと思いつつ、教室に入ると――。


「やっぱいたーっ、白雪ちゃんっ」


 いきなり女性に抱き着かれた。


「え!? ちょ、どな……え!?」

「忘れて……たりしないよね? 久しぶりだね、白雪ちゃん」


 抱き着いてきた女性を引きはがす。

 そこにいたのは、白雪と同じようなスーツを着た、春日美雪だった。


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