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謝罪

作者: AKMN
掲載日:2025/12/08


 九月になりました。

新しい学期が始まりました。

キャンパスへいくと、久しぶりの友達に会えました。みんなそれぞれ口々に、就活の進展を勝手に話し始めました。聞いてもいないのに。私はみんなに合わせて、嘘の面接経験を口にしました。みんな笑っていました。

 必修の教科の単位を取れていませんでした。もう卒業まで一年を切ったのに。一、二年生の頃の自分が悪いのだけれど、それはそれ。今考えなければならないのは、卒業すること。就活を真面目にしない口実ができてしまいました。


 恋人ができました。誠実だけれど、たまに深く考えすぎて、悩み込んでしまう、馬鹿真面目な人です。なんでそんなに悩むの?物事って、もっとシンプルに考えれば楽だし早いのに。

 初めてセックスで気持ちいいと思えました。こんな日がずっと続けばいいのにと思えました。空いた窓から風がゆるく吹き込んで、カーテンが顔にかかりました。少し遠くで蝉が鳴いていました。


 就活は進んでいるのかと親に聞かれました。説明会には参加しただとか、いろいろ言葉を並べて有耶無耶にしました。嫌な焦りと罪悪感が、じりじりと心を炙っているような苦しさがありました。


 今月の予定を恋人に聞かれました。就活やら何やらで忙しいから、頻繁に会えないと思うと答えました。お互いに頑張ろうね、と言ってくれました。真面目だけれど、人を見る目はないんだなと思いました。ごめんなさい。

 クーラーの効いた実家のリビングで、漫画アプリを開きました。短編の漫画を読みました。自分の才能を疑わない女の子が、歯牙にも掛けていなかった目立たない子の能力に嫉妬する一方、その子の影の努力を目の当たりにして奮起する内容でした。とても感動したし、とてもいい漫画だと思えました。


 もう二度と読みたくありません。


 今までのことを考えてしまいました。今までどれだけのことを避けてきたのか、どれだけ快楽に流されてきたのか。私には今、何があるのか。


 何もありませんでした。


 ごめんなさい。私は努力という努力をしたことがありませんでした。

 ごめんなさい。私は情熱という情熱を抱いたことがありませんでした。

 ごめんなさい。私は今まで、ずっと、楽な方へ楽な方へと、逃げ続けてきました。虚勢を張って、逃げるための言い訳だけを探して、誰かのせいにして、頑張っている人を見下して、自分は特別なんだからどうにでもなると思い込もうとしていました。

 昔の私へ。ごめんなさい。あなたは何にでも成れたのに、その可能性があったのに、そのことに本当に気がつくのが遅すぎました。まだ若いんだから、やろうと思えばなんでも出来るよ、と言われますが、もう私は、今が精一杯です。

 昔の私へ。ごめんなさい。あなたには選択肢がたくさんあったのに。私は時間を無駄にしすぎてしまいました。もう何かを始められるだけの余裕がなくなってしまいました。後から後悔するよと、たくさんの人から言われたはずなのに。

 昔の私へ。何者にも成れるはずだった私へ。本当にごめんなさい。もうきっと、私はこのまま、何者にも成れずに、ただの背景になってしまうでしょう。


 いつのまにか、開いた窓から、秋の雨が吹き込み始めていました。


 蝉はもう死にました。

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