情熱の向かう先が変わったら幸せになりました
ある夏の日の昼下がり、太陽がギラギラと街を照らしていた。
カラフルな建物が立ち並ぶ通りには、陽気な音楽が響き渡り、華やかな格好の人々の笑い声が溢れている。
そんな活気あふれる街で、恋に燃える女、エブリンは恋人のジョルジオとの甘い未来を夢見ていた。
婚約者のジョルジオは、エブリンにとって太陽のような存在だった。彼の明るい笑顔と情熱的なキスで、エブリンはいつも夢心地になっていた。
エブリンは魔法留学の奨学生を狙うほどの学業優秀者だった。そんな彼女が、町の図書館でジョルジオと運命的な出会いをした。彼の情熱的なアタックにエブリンはメロメロになり、ジョルジオに「これは運命だ」と言われたことで、留学を諦め、学校の卒業と同時にジョルジオとの結婚を選択した。
二人は、まもなく結婚式を挙げる予定で、幸せの絶頂を迎えているエブリン。
「エブリン、僕たちはずっとに一緒にいようね。」
ジョルジオの甘い囁きを思い出す度にエブリンのニヤケ顔が収まらない。
なんとか頬っぺたを一生懸命マッサージし、誤魔化しながら大通りをルンルンと上機嫌に歩く。
街の至る所にいるミュージシャンが奏でる陽気な音楽は私の気持ちとリンクしてハッピーで皆に祝福されているかのようだ。
しかし、そんなエブリンの幸せは長く続かなかった。
交差点を曲がったところでエブリンは偶然、ジョルジオが別の女と腕を組んでイチャイチャしながら高級なカフェテラスで密会している現場を目撃してしまう。
「どうして……あの女誰なの?!」
エブリンは、信じられない思いでジョルジオを見つめた。
直情的な性格故黙ってられず、ジョルジオに突撃をかますエブリンにジョルジオは、慌てて、必死に弁解を始めた。
「エブリン、誤解だよ!幼なじみと話をしていただけなんだ!」
な、なんだぁビックリした!
そうよね!そんなはずないわ!ダーリン愛してる!紛らわしいことしないでよね!!
そう、言おうとしたところで相手の女が鼻持ちならない笑顔を浮かべた。
「あなたが、エブリン・ベルムーデスかしら? 貴方が恋に浮かれてくれたお陰で魔法留学の奨学生に選ばれたの。ありがとうね。
まあ、その恋も幻だったかもしれないけどねぇ。 ねぇ、ジョルジオ」
そう言いながらジョルジオの頬にキスをする。
「はぁ…?はぁ? どういうことよ?」
「魔法留学の奨学生は優秀な成績を納める学生が行けるのは勿論ご存知よね?
貴方、邪魔だったのよ。ま、所詮、ちょっと恋したら浮かれて留学しない程度のことでしょ。 別に問題ないじゃない」
「う…うそでしょ……」
「ま、ジョルジオは私の事が大好きだから、夢を叶えさせてくれたの。素敵よね?ウフフ、ごめんなさいね」
と言いながらウィンクをしてくる。
何が起きているのか理解できず、エブリンはただ呆然と立ち尽くした。
そこにジョルジオがさらに爆弾投下をしてきた。
「エブリン、アバリシアは僕のプリンセスだからね。夢を叶えてあげるのは当たり前なんだよ。その為ならなんだってするさ。分かってくれるよね?エブリン」
「なんだってする?」
「そりゃ、勿論」
「じゃ、私との結婚は?ずっと一緒にって言ってたよね?」
「まぁ、そうだね。アバリシアがエブリンに留学の邪魔されたら怖いって悩んでたから、エブリンも結婚したら邪魔出来ないだろう?僕がずっと見張ってられるしね」
アバリシアが嬉しさでピョンと跳ねて白いワンピースがひらりと揺れる。
「ジョルジオの自己犠牲は本当に凄いわ。私、貴方の愛にとっても感動してるの!」
エブリンとの結婚が留学を止める為の自己犠牲?
目の前は真っ暗になり大きな穴に落ちるような感覚に陥る。
ぶん殴ってやる。留学も愛も奪ったあの女が許せない!
太陽がギラギラと照りつけるこの国は男も女も情熱的。それは愛以外でも言えること。
エブリンはアバリシアに掴みかかりキャットファイトが始まってしまう。
陽気なお国柄ゆえ、周りに集まって様子を見ていた人達も「いいぞ!ヤレヤレ!」と煽り、尖り帽子をかぶった男達がギターやマラカスもやってきてファイティングミュージックに歌まで後ろで歌われる始末。
しかも、ジョルジオはアバリシアを庇って二人で逃げて行ってしまい大号泣。
「嘘つき!グズ!こんな男、大嫌い!」
エブリンは、怒りに震えながらジョルジオに向かって叫び、泣きながらその場から走り去りさるのでやっとの状態。
ボロボロで家に帰り、裏切られたこと、恋に浮かれてあんなに一生懸命勉強してきた魔法留学の為の努力も無駄になり、悔しくて涙が止まらない状態で3日も寝込んでしまったエブリン。
エブリンの心は大嵐でもこの国は常に陽気で太陽が燦々としているので暗くなりきれない。
もうすぐ卒業式もあるので外に出てみれば、引きこもっていた間にジョルジオとアバリシアの都合のいいような噂が流れていて更にエブリンは落ち込んでしまう。
朝、気合をいれて家を出る時には、エブリンの心はすでに決まっていた。
エブリンは、ジョルジオの顔面に強烈な一発を食らわせてやる!そう心に決めていたのに、噂のせいで本当に彼を殴ろうものなら、嫉妬に狂った勘違い女扱いされてエブリンの評判は悪くなるばかり。
結婚を取り止めたのでしっかり働かなくてはいけないのに、これ以上悪い噂が流れたらいい仕事も見付からない。と更に心は大荒れの暴風雷状態。
トボトボと大通りを歩けば先日の事件を見ていたミュージシャン達が男に騙され裏切られた女の歌をギターとマラカスとアコーディオンで演奏しながら陽気に歌い、拍手喝采でチップを貰っている姿を見てエブリンの心は更にえぐられる。
あいつら、人の不幸で儲けるなんて本当にムカつく…と心は荒む一方だった。
そんな状態で迎えた卒業式で、お世話になった先生に挨拶へ行けば、
「結婚の件は残念だったね。せっかく一生懸命勉強していたのに結婚で留学を辞めてしまうなんてもったいないなと思ってたんだよ。留学は無理だけど魔法が盛んなノバアルビオン連邦国に本店がある商会がこの国でも支店を考えていて視察に来ているんだよ。一度挨拶に行ってみなさい」
と紹介状を渡してくれたのだった。
「せ、先生。ありがとうございます。この御恩は一生忘れません!」
「いやいや、それは仕事が決まってからだよ。君なら大丈夫と思うけれど、笑顔を忘れずにね」
本当にあの時の私のバカバカ!!と嘆きつつ、渡された紹介状を手に商会の人達が滞在中と聞いたトゥムルトゥス国内でも有名な高級ホテルに向かうと、想像より多くの人達が面接や商談に来ていた。
控え室で順番を待つ間、先生から貰ったチャンスをどうにか手にする為には全てをここにかけるしかない!とエブリンは意気込んでいた。
面接で紹介状を確認後、本店で研修があるが期間が短くて半年、最大でも一年位滞在して貰うこと。雪の国なのでとても寒いが大丈夫か?いつから来れるか?などが確認された。
魔法に関われる仕事は願ってもないことだしこの町を離れられるのもありがたい。寒いのも経験ないけど、なんとかなる!!と心の中で思いつつ全部に大丈夫です!家を引き払ったらすぐにでも出発出来ます!と元気よく笑顔で答えた。
最後にここに手をかざして下さい。と言われ手をかざすと魔力の有無を測る機器だったらしく、仕事が出来る範囲の数値を示すことが出来たらしい。
うんうん、と頷く面接官に一週間以内に連絡しますね。と言われ帰路についたのだった。
情熱的で熱いお国柄と同じようにエブリンは採用通知を貰うつもりで早速、家を片付け、荷物の準備を始めた。
一週間後、予想通り採用通知と二週間後に出発する船の切符が同封されていた。
大喜びで先生やお世話になった人達、離れて暮らす家族に挨拶に行きさっさと船に乗り込むのであった。
船から、生まれ育ったトゥムルトゥスが遠ざかるのを見て、エブリンは胸の奥がチクリと痛んだ。ジョルジオの顔面に一発食らわせる、という復讐を果たせなかった自分が情けない。でも、もういい。あの街も、あの男も、全て過去だ。私には、私の未来がある。
気持ちを切り替え、今回の面接で同じように国を離れる5人に挨拶をする。
皆、今回の採用で一緒に研修を受ける人達なので仲良くしたい。
陽気で楽しい挨拶に安心すると初めて乗る船に感激する余裕も出て、いくつかの寄航地を訪れ2週間の船旅を終え新天地オルサポルタに到着した。
早速、職場での挨拶の後、滞在する寮に落ち着き、今までとは全く違う環境に凄くドキドキ、ワクワクしている。もう、ジョルジオのことなんてすっかり過去のことだ。
夢にまでみた魔法の発展している国に来てしまった。仕事も魔法に関わる仕事なんて夢みたい!
船の中で仲良くなった5人と共に魔術道具の使い方、商品の組み立て、修理方法や商品説明の練習を行い、実際に店舗で先輩に付いてもらい働く日々はとても充実していた。
同僚のペドロと二人、街へのお使いを済ませた帰り道で疲れと寒さのあまり、何か甘くて温かいものを口にしようと相談をしていた。
「信じられない!こんなに寒いなんて!」
エブリンは、初めて降った雪を見て、子供のように目を輝かせていた。同じ国出身で、四つ年上の同僚のペドロはそんなエブリンを見て、屋台で手に入れた温かいココアを差し出した。
「本当に寒いよな。想像以上だったな。」
「寒すぎますよね。こんな極寒の地で、どうして生きていけるのか不思議です」
エブリンは、息を白く吐き出しながら、隣を歩くペドロに話しかけた。ペドロは、エブリンの赤いマフラーに視線を落とした後、温かい笑顔を見せた。
「俺たちは本当に運がいい。雪なんて見たこともない人が殆どの国で俺たちは初めての雪を知って、魔法に携わる仕事をしている。勇気を出してよかった。」
「はい。私も辛い事も沢山あったけど、今は後悔してません。」
「うん、君はそうだね。なかなか珍しい経験をしたのは間違いない。 」
そして、ふふふとペドロは笑う。
「エブリン、口の周りにココアがついてるよ。ヒゲみたいだな。」
カァーっとエブリンの顔は耳まで赤くなる。
「ちょっと!早く教えて下さいよ!!」
ペドロは同じ熱い国出身なのに静かに笑う男性でとても穏やかな会話をする人だ。
恥ずかしいのにちょっとキュンとしてしまった。
でも、また同じ過ちを犯すのではないかと、まだ一歩が踏み出せないエブリン。
そんな中、ペドロとエブリンは、忙しい研修の日々でちょっとだけいい感じの雰囲気になったりしていた。
雪が降りしきる冬の朝、ペドロは温かい紅茶を片手に食堂の窓から外を眺めていた。
そっと、後ろからエブリンはペドロの眺める景色を同じように見つめる。
積もる雪景色は美しく、なぜか清々しい気持ちにさせてくれた。
「エブリン、雪まつりに二人で行かないか?」
突然のペドロの提案に、エブリンは驚きを隠せない。
後ろから見てたのバレた!?と動揺に瞳が揺れる。
「ゆ……雪まつりですか?」
エブリンは窓の外に目をやった。街は雪に覆われ、まるで銀世界が広がっているようだった。
「せっかくこの地に来たのだから、何か思い出を作りたいと思ってね。一緒に楽しもう」
ペドロの素敵な提案にエブリンは快諾した。
次の休みに行くことが決まり、エブリンは二人きりで行こうと誘われた事に期待をしてしまう。
二人は厚着をして、手袋とマフラーをしっかりと巻いて、雪が舞い降りる中、街の中心にある広場へ向かった。
広場には、大小さまざまな氷の彫刻が展示されていた。光を浴びてキラキラと輝く氷の彫刻は、まるで芸術作品のようだった。二人は様々な氷の彫刻の前で足を止め、感嘆の声を上げた。
「この彫刻、まるで生きているみたいですね」
エブリンが指さしたのは、大きなクマの氷の彫刻だった。クマは口を開けて笑っているように見え、その表情に思わず笑みがこぼれる。
「エブリンの笑顔も、このクマみたいだ」
ペドロの言葉に、エブリンは顔を赤らめた。
「クマって強すぎじゃないですか!?」
「あはは、狂暴なクマじゃなくて、僕にはこの彫刻のような可愛いクマみたいに見えるんだ。ちょっと怒った顔も可愛い」
なんだか納得がいかないもののペドロには可愛く見えているみたいだし、ちょっと前にはアバリシアと取っ組み合いの喧嘩もした事があるので強く否定できないエブリン。
二人で橇を借りて雪の積もった丘から滑り落ちる遊びにも参加をしたし、この時期に出店している屋台での食べ歩きなど二人は精力的に色々なイベントや催しに挑戦をした。
遊び疲れた二人は氷で出来たこの期間だけ限定でオープンするバーでホットワインを飲みながら休憩した。
「今日は本当に楽しかったです。ペドロと一緒だと、どこへ行っても楽しい」
エブリンの言葉に、ペドロは嬉しそうに笑った。
「僕も、エブリンと一緒だからこんなに楽しいんだと思う」
静まり返った夜、二人は手をつないで街を歩いた。街灯の光が雪に反射し、幻想的な世界が広がっていた。
「エブリン、君と出会えて本当に良かった」
ペドロは、エブリンの顔をじっと見つめた。
「私も、ペドロと出会えてよかった」
エブリンは、そう言ってペドロの胸に顔を埋めた。
二人の唇が触れた瞬間、二人の心は一つになった。雪が降りしきるオルサポルタの地で、二人の恋は静かに、そして確実に芽生えていった。
初めての雪に一緒に来た皆で感動したり、想像を越えた寒さに凍えながら職場に通う充実した日々はあっという間に過ぎていった。
トゥムルトゥスの店舗も完成し、本部のサポートの人達と移動し新店舗のオープンに取りかかる。オルサポルタでは子供の玩具扱いの商品でも娯楽やお洒落などに魔法が使われる余裕の無いこちらの国では高級品で憧れのアイテムとなってしまう。
近々、オルサポルタ発祥の爆発的な人気を誇るブランド『ソナーシャ』がオープンするとあって町は噂で持ちきりである。
うちの国の王女様もアイテムを既にお持ちで、新商品の確認に来店されるのではないかと言われているらしく、準備やマナーの再確認に忙しい。
そんな中、久しぶりにジョルジオとアバリシアの噂を聞く事になった。
アバリシアは魔法留学を終え向こうで出会った同じ国出身の男性と恋に落ち2人仲良く帰国したらしい。就職も魔法学を生かした会社に決まって順風満帆らしい。
ケッ!ああいう女って結局上手くやるのよね!本当にムカつくわ!彼氏に浮気されればいいのよ!!
ジョルジオはアバリシアの彼氏紹介されてショックを受けてるらしいわ。
意味分かんないけど少しスカッとしたかも。
少しよ、ほんのすこーし。
でも、いいの私も同じ研修で出会ったペドロってダーリンが出来たのよね!
辛い過去の話もしているし、一緒に船に乗って寒い中一緒に仕事を頑張った絆もあるし、何よりお互い魔法雑貨を作る喜びを分かち合えるの。
何よりの復讐はあの人達と関係していた頃より幸せになること。
そう、思って仕事に励み『ソナーシャ』のオープンの日を迎えた。
混雑が予想されたのでひとまずは予約制での来店とさせて頂いてる。
王女様もお忍びで来店されて絵本やバック、アクセサリーなどを購入されたのが印象的だったわ。
とっても喜ばれていて、これまで頑張ったかいがあったと同僚皆で喜びあい、その日の夜は家で嬉しくて泣いた。
話題のお店ということで新聞にも掲載されたの。
私達が商品を紹介している写真が載った特集ページまであって今では町の人気者よ。
今、最も輝く憧れのお仕事とまで言われてかなり嬉しいわ。
久しぶりの休日をダーリンとラブラブ歩いていたら正面からアバリシアが歩いて来ているのが見えた。
あら?あらあら?なんか顔ひきつらせてない?
目があったのでニッコリ微笑んでやったわ。
あちらはお顔がヒクヒクしてたわね。
気にしないとか言ってみたけど、やっぱり、勝ったみたいで嬉しいわ!!
尖り帽子のアイツらもギターとマラカスで華々しく帰ってきた女なんて歌を歌ってるのが聞こえてきて、すごーくすごーくいい気分!今ならチップ払ってもいいかもね!
払わないけど!(あの時の事忘れてないから!)
お読みくださりありがとうございました。
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