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姫戦

作者: メカバーン

第一章 黒き影


その夜、満月はいつになく紅く染まっていた。

 静かな山村の外れ、竹林の奥にひとりの少女が立っていた。名は 姫月かぐや

 艶やかな黒髪に、夜を映すような瞳。まだ十六歳の少女でありながら、その背筋には揺るぎない強さが宿っていた。


 村は今、異形の怪物に怯えていた。

 「夜鬼やき」と呼ばれる人ならざる存在。満月の夜になると現れ、人を喰らい、血で大地を染める。

 その恐怖を前に、人々はただ震えるしかなかった。


 ――ただ一人を除いて。


 「来る……」

 姫月は竹林の風に耳を澄ませた。ザワリ、と音を立てる闇の気配。次の瞬間、漆黒の影が飛び出した。

 異形の腕、爛れた皮膚、血に濡れた牙。夜鬼だ。

 だが姫月の表情に恐怖はなかった。腰に帯びた刀の柄に手を添えると、すでに心は研ぎ澄まされていた。


 「私は、もう逃げない」

 小さく呟き、刃を抜く。月光に照らされた刀身が白銀の輝きを放つ。

 それは代々、姫月の家に伝わる神器――「月影つきかげの太刀」。

 夜鬼を斬るために生まれた唯一の武器。


 鬼が吠えた。

 姫月が走った。

 刃と牙がぶつかり、火花が散る。

 夜の竹林が震えるような音を立てる中、少女と鬼の戦いが始まった。


 彼女はまだ幼い。だが、その瞳には確かに「戦う者の覚悟」が宿っていた。

 この村を守るために。自分自身の宿命を果たすために。


 紅い月の下、姫月の物語が幕を開ける。


第二章 月光の刃


 夜鬼を退けた翌朝、姫月かぐやはまだ剣の余韻に包まれていた。竹林には戦いの跡が残り、白い霜の上に血の跡が薄く残っている。


 「大丈夫か……姫月」

 村の青年、紺瑠こんるが駆け寄る。彼もまた、村を守る者のひとりだった。

 「ええ……なんとか」

 姫月は剣を握り直す。昨夜の戦いで、彼女の体は疲れ果てていたはずだが、心は逆に燃えていた。


 ――これは、序章にすぎない。


 その日の午後、村の祠に導かれるように姫月は足を運んだ。そこには村の長老、白髪の巫女が待っていた。

 「姫月……お前は月の戦巫女“かぐや”の転生者。力を使うべき時が来たのだ」

 巫女の声は静かだが、重みがある。


 「戦巫女……?」

 姫月は首をかしげる。まだ自分が何者なのか、何を背負っているのかを理解していなかった。


 「お前に授ける」

 巫女は白布に包まれた小さな刀を差し出した。光を受けて輝くその刀身は、まるで月そのものを切り取ったかのようだった。


 「これは……?」

 「月刀げっとう。夜鬼を討つための神器だ。月光を宿し、月の力を操ることができる」


 姫月が刀を握ると、体を走る熱と光に驚いた。左手の紋章が光り、月光が刀に宿る。

 「私……これで戦えるの?」

 巫女は微笑む。

 「戦える。だが覚えておけ。力だけでは勝てぬ。心を整え、仲間を信じ、そして自らの名を信じるのだ」


 その夜、再び夜鬼が村に現れた。

 姫月は月刀を手に、紺瑠と共に立ち向かう。闇の中、刀身が月光を放ち、夜鬼の影を切り裂く。

 「これが……私の力……!」


 初めて、本当の自分を実感する。

 刀と紋章、そして月光の力――姫月かぐやは戦巫女としての第一歩を踏み出したのだった。

姫月かぐやは、夜鬼の襲撃を退けた翌朝、竹林の中で一人立っていた。

 月光の紋章はまだ手首で微かに光り、昨日の戦いの余韻が体に残っている。


 「ふう……やっぱり一人じゃ無理かもしれない」

 小さく呟く。刀はある。力もある。だが、相手は無限に現れる夜鬼。孤独では戦い続けられないと感じていた。


 その時、木々の間から小さな炎が揺れるのが見えた。

 「……?」

 慎重に近づく姫月。そこに立っていたのは、少年だった。炎を手のひらで操るようにしながら、周囲を警戒している。


 「誰だ、君は……?」

 姫月が問いかけると、少年は身を低くして答えた。

 「俺はりん。火の民の一族の者だ。夜鬼を退けているところさ」


 次に現れたのは、獣の耳を持つ少女。鋭い瞳が姫月を見据える。

 「……お前、月の力を使えるの?」

 「ええ……少しだけ」

 「なら、一緒に来い。俺たちは影の軍勢を討つために旅をしている」


 その言葉を聞いた姫月は、一瞬迷った。

 ――一人で戦うことに慣れすぎていた自分が、仲間と行動するなんて想像もできなかった。

 だが、彼らの目の中に確かな覚悟を見たとき、胸の奥で何かが弾けた。


 「……わかりました。私も、力を貸します」

 姫月は月刀を握り直し、二人の仲間に向かって歩み寄った。


 その夜、三人は初めて共に戦った。森の奥で待ち受ける夜鬼の群れに対し、燐の炎、獣耳の少女の俊敏な動き、そして姫月の月光の刃が交錯する。

 光と炎、影と闇――混沌の中で三人の力は次第に一つに溶け合い、夜鬼を蹴散らした。


 戦いが終わった後、姫月は月を見上げた。

 「ああ……私、一人じゃない」

 月光は柔らかく降り注ぎ、彼女を優しく包み込む。

 ――これが、私の新しい旅の始まりなのだ。

第四章 月影の試練


仲間と共に影獣を退けた姫月かぐやは、夜空を仰ぎながら心を整えていた。

月光はいつも通り彼女を優しく包み込む。だが、胸の奥には不安があった。


「私……もっと強くならなきゃ」

月の戦巫女として、人々を守るためには、まだ力が足りないと痛感していた。


その時、月光が急に強く輝き、姫月の目の前に白い光の門が現れた。

「……月の宮殿?」

紺瑠や燐、獣耳の少女も後ろに控える。門の中には、淡く光る長い廊下が続き、天井には星々のような光が瞬いていた。


「姫月……進むがよい」

白衣の巫女の声が響く。

「ここで試練を乗り越えた者のみ、真の力を得ることができる」


姫月は一歩、光の廊下を踏み出す。すると、月光が彼女の体を包み、意識が別の世界へと引き込まれた。



そこは、月の宮殿の中心。天井も床も光でできているかのように白く輝き、風の音ひとつない静寂が広がっていた。

中央に立つ白衣の女性――月姫の化身が、静かに微笑む。


「姫月……そなたは己の名を信じることができるか?」

「名……私の名……かぐや……?」

「そう。名は力。名を正しく呼び、己を信じる者のみが真の力を得る」


白衣の女性が手をかざすと、姫月の左手に浮かぶ紋章が光り、刀身に月光が流れ込む。

「行け……月光の刃よ、姫月に宿れ」


その瞬間、刀は輝きを増し、姫月の体は軽やかに宙を舞った。

周囲には月光の幻影が現れ、無数の敵――影獣の姿が立ち塞がる。


「これが……試練……!」

月光の刃を振るうたび、影獣は消え、刃に反射する光が姫月の心をも照らす。

何度倒れても、何度倒しても、姫月は立ち上がった。

――これは戦いであり、己を信じる心の試練でもあった。


試練の果て、最後の影獣を斬った瞬間、白衣の女性は微笑む。

「よくやった、姫月。そなたは名を正しく呼び、己の力を受け入れた。これより真の力を得る」


光が収まり、姫月は気づくと仲間たちのいる現実世界に戻っていた。

刀には新たな輝きが宿り、左手の紋章は以前よりも力強く脈動している。


「……これが、私の力……本物……」

姫月は月を仰ぎ、心の中で誓った。

――これから来る戦いに備え、仲間と共に歩み続ける。


第五章 闇月の王


夜が深くなるにつれ、村の外に異様な黒い霧が立ちこめた。

姫月かぐやと仲間たちは山道の先に、巨大な影が蠢くのを見つけた。

それは、世界を脅かす存在――「闇月の王」だった。


「……これが、闇月の王……」

燐が手のひらに炎を灯す。獣耳の少女も鋭い爪を構え、警戒の姿勢を取る。

姫月は月光の刃を握り締めた。紋章が脈打ち、心臓の奥まで力が流れ込む。


王の瞳は月光をも凌ぐ闇で光り、低く唸った。

「……月の子よ、余の力の前に何ができる」


その声が大地を震わせ、空気がねじれる。影獣の群れが王の周囲に現れ、仲間たちを襲う。


「姫月! いくぞ!」

燐の叫びとともに、三人は前に飛び出す。月光の刃が影獣を切り裂き、炎と俊敏な動きが敵の攻撃を防ぐ。

だが王の圧倒的な力は、次々と仲間を押し戻す。


「くっ……!」

姫月は一歩下がり、月を見上げた。

私の名……かぐや……私が守る……


紋章が光を増し、刀に力が宿る。月光は仲間たちを包み込み、影獣を消し去る。

「月光の刃、闇を斬れ!」


刃が光を放ち、王の闇を裂く。空間がひび割れるように響き、闇月の王は初めて後退した。


「これで……終わりじゃない……」

王は嘲笑するが、姫月は恐れずに前へ進む。

「あなたは私たちの村を脅かす。ここで止める!」


三人は一体となり、最後の力を振り絞る。月光の刃、炎、獣の俊敏な攻撃が合わさり、王を完全に打ち破った。


闇月の王が消え去り、夜空に満月が再び静かに輝く。

姫月は胸を張り、仲間たちと握手を交わす。


「私……やっと勝てた……」

紋章が静かに光り、月光が彼女たちを優しく包む。


姫月かぐやは理解した。名は力。信じる心と仲間の力が、どんな闇も超えることができるのだと。

――これからも、月の戦巫女として、仲間と共に歩み続けることを誓って。


最終章 光の継承


闇月の王を打ち破った後、村には静けさが戻った。

姫月かぐやと仲間たちは、夜空に浮かぶ満月を仰ぎながら深呼吸する。

月光は以前よりも柔らかく、温かく、まるで全てを包み込むようだった。


「これで……本当に終わったのね」

燐が微笑む。手のひらの炎は穏やかに揺れ、戦いの傷跡を照らしている。


「ええ……でも、戦いは終わっても、守るべきものは変わらない」

姫月は月光の刃を鞘に納め、左手の紋章に手を置いた。脈打つ光は、まだ未来への力を秘めている。


獣耳の少女が頷く。

「私たちは、これからも共に戦う。どんな闇が現れても、三人なら大丈夫」


姫月は深く息を吸い込み、月を見上げた。

「月よ……私に力を与えてくれてありがとう。そして、これからも導いて」


紋章が光り、月光が周囲を満たす。

それはまるで、姫月の勇気と仲間との絆が世界に反映されたかのようだった。


数日後、姫月は村の子どもたちに月光の剣術を教え始めた。

「力は、人を守るために使うもの」

教えながら、彼女は自分自身の成長を実感する。

――月の戦巫女としての使命は、終わりではなく、次の世代へと受け継がれていくのだ。


夜、再び満月が空に輝く。

姫月かぐやは静かに微笑み、仲間たちと共に歩き出す。

光は、未来へ――そして新たな物語へと続いていく。




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― 新着の感想 ―
紅く染まった満月の夜に始まる姫月かぐやの戦士としての覚悟が力強く描かれていましたが、村を襲う夜鬼という異形の存在に対し姫月がただ一人立ち向かう姿は彼女の背負う宿命を際立たせていて素晴らしいですね笑 代…
真の強さを宿すヒロインの生きざまが格好良く、闘いに勝てた後もその力を繋いでいくラストが最高の終わりであり、始まりです
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