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第六話 生者と死者の橋渡し

「……生きて、いるんだよな?」

「そっすよ。ボクはあくまで……橋渡しっす」



 煙草を吸う人間になったのか、舶来から渡ってきた紙製のそれをふかしている。火付石を使っているように見えないが、来る前に火をつけたのかとか気にしている場合ではない。


 会津藩は終わったにしても、生きていたのか。別に死んで欲しいわけではないが、一度は袂を分けてしまった男だ。その後のことなど、個人次第。土方とて、素戔嗚尊に利用されて今がある。それは拾われた命だとしても、ここはほとんど死者が彷徨う異空間。


 それなのに、斎藤は生きているのに入り込んでいる。おまけに、土方が今使った『孫六兼元』を素戔嗚尊に渡したと言い出した。わざわざ愛刀をこちら側に寄越した意味が計り兼ねている。今の職務は刀を許されているはず。であれば、そのまま使用し続けるのが普通。


 決闘はしないが、対峙している両者。土方は刀を抜きこそはしないが、斎藤の次を待つ。言葉が本心なのかどうか。若返りさせられて、いくらか感覚が鈍る今では年相応の斎藤の腹のうちが探れないからだが。


 斎藤は何故か、煙草を持つとへらりと笑い出した。



「あ?」



 いやに意味深な笑い方に、素っ頓狂な声を出したが。その後の切り出し方で斎藤一という人間がということを思い出す羽目になった。




「いっや〜! 土方さんが生きてくれてるんすよ!! ボクが離反した後に、須佐様が持ちかけてくれたんす!! 会津藩での出来事が一通り落ち着いたんなら、刀と引き換えに生き筋をって!! ボク大賛成したんすよ〜! ボクはまあまあな刀馬鹿っすけど、世渡りはぼちぼち。土方さんは……まあ政府怒らせておっ死ぬ行き先見えてましたけどぉ。……またやり合う稽古くらいしてほしかったんすよ」



 完全に刀馬鹿とか沖田以上の剣術馬鹿であることを思い出して、幾らか呆れかけたものの。最後の『やり合う』には嘆息しか出てこなかった。


 結局は、姿や生き筋が変わっても土方を失いたくなかった。それだけということか。この男ならやりかねないと思い、間をすぐに詰めて拳骨をお見舞いした。それは予測してたのか、素直に受け止めてくれたが。



「阿呆か」

「必死でしたっすよ。孫六手放すのは、ちょい嫌だったっすけど。和泉守兼定を鉄くんに頼んだのなら……ボクのしか無理でしょって」

「鉄之助とは会ったのか?」

「まさか。ボクはあくまで情報通。ボク以外にも、元隊長格は生き残って名を変えたりしてるっすね。うつし世って、こっちとの橋渡しもいるんすよ。永倉とか」

「……あいつもか」



 新撰組を抜けたのは幾人も居る。別に斎藤だけではない。沖田は病弱が悪化したことで、池田屋事件以降から離れただけだ。


 近藤の斬首事件を機に、新撰組はほぼ解散同然となった。土方も政府側に移ってからは、無我夢中だったと思う。誠を抱いたままだが、逃げ続けた者でしかなかったと。


 その終いのあとが、この場にいるためだと……斎藤の導きもだが、近藤もたしか素戔嗚尊に告げていたと聞いてはいた。皆のお陰なのだなと、感謝を抱いていいのかはまだ複雑だったが。



「とりあえず! 土方さぁん、お願いします!!」



 また煙草を咥えながらも、へらりと笑う斎藤に……今度は容赦なく鉄拳をお見舞いした。当然、斎藤は地面に倒れ込んでしまうがさらに土方は黒い洋装へ容赦なく草履で足蹴にする。土汚れはつかないが、ぐりぐりと踵に力を入れれば斎藤は呻き声を上げていく。



「阿呆過ぎないか!?」

「あう゛ぇ!? いだだだだ!? ひ、土方さんの容赦無い足蹴ぇ!? 相変わらずっすぅ!!」

「おっ前、ほんとーに!! 俺にこんなことさせても悦ぶとかど屑だな!!?」

「あははは!!」

【……須佐様からまあまあ聞いてたが。なんか、変な野郎だな?】

「だろ!?」



 剣の腕前は認めていたが、人としては少し扱いが困っていた。無類の刀好きで稽古馬鹿なので、沖田とは気が合ったりしていたが。沖田は今寝ているので来ない……と思っていると、前方で大きな旋風が。



「はじめくん! 土方さんと再会出来たからってはしゃぎ過ぎ!!」

「ははは。刀を預けたからこそ、だろうが」



 白虎の移動法で連れて来られたのか。近藤と沖田もこちらへとやってきた。もともとたぬき寝入りだったのか、沖田は到着するなり斎藤のことをさらに足蹴にし出したが。



「は・じ・めくん! 土方さんがこっちに来るように手引きしたでしょうけど!? 相変わらずこんなど変態行為されるの……警察官としてよくない!! 僕と剣術が同等とか信じられない!!」

「ぐぎぎ! そ、そーじくん! 土方さんより容赦な……い゛だだだだだ!!?」

「橋渡しの役割のくせして!! 元の刀の奪取はどーしたの!?」

「そ、それはぁ!?」



 面子が面子のせいか。神が二体居ても……新撰組の屯所生活がいっとき戻ったような懐かしい光景の出来上がりだった。気になる話は出たが、沖田が気の済むまで斎藤をなじるまでいくらか必要なのも……昔と変わらない。



【狗だったにしても、ヒトのお前も見れたな?】

「……そうかよ」



 ともあれ、この場が『うつし世』というのも知ることが出来。生者とのやり取りも可能なのが幾らか嬉しく思えたのも事実。斎藤は沖田にぼろぼろにされても紙タバコは何故か無事で、一通り顔に痣が出来ていたが話を切り出してくれたが。



「うつし世以上に、現世で日野の方面がやばいっす」

「日野?」



 江戸の方面ではあるが、土方らの故郷。


 斎藤は、頷きながらも言葉を続けた。



「膿のひとつが、そこら辺一帯を徘徊する道筋を発見したっす。須佐様が、こっちの面々への伝令をボクに頼んだんすよ。元新撰組の面々がこれでほぼ揃ったら……ボクは橋渡しの役目以外、何も出来ないっすので」

「そうだな。膿は俺もまだだが……対峙出来るのは、こちら側に与した者のみ」

「っす」



 あくまで、浄化とやらで土地を潰す程の悪疫を倒すのは……うつし世に堕ちた者のみ。斎藤のように一応生きている者はこれ以上関われない。斎藤は斎藤で、通常の任務に戻るからと井戸を介して……現実側へと帰っていったが。



【膿と直接対決……に、トシの本来の刀ねぇ?】

「残してきた者を、巻き込むことになるってことか?」

【かもな?】



 維新を迎えたとは言え、あの田舎に何が残るか。けれど、小姓に託した刀や手紙のその後は気になる土方は。皆で日野へ向かうことを決めた。

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