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第四話 元旗の下にいた集い

 久方ぶりの再会。


 しかしながら、神に利用される狗集団となったとは言え。


 生前、政府側に使い回しにされていたのと此度は……近藤の説明によると少しばかり事情が違うことを教わった。沖田は腹一杯になったら眠りについてしまったため、寝かすための寝所の方へと土方は近藤と共に運んだ。


 壬生浪士組だった、あの寄せ集め集団になる前の。道場での兄弟弟子の関係に戻った気分は……一瞬。先んじて、この界隈に関わっていた人物として、土方は沖田を布団に寝かせてから改めて教わろうと姿勢を正すことにした。近藤はと言うと、窓を開けてその軒先に重い腰を下ろしていたが。



「そんな固くなるな……は、お前さんには無理か?」

「……仕組まれた、と俺は思ったくらいだ」

「そうなるか。しかしながら……この戦の歴史はかなり長い。道半ばで拾われた者は意外と少ないが」

「……少ない?」

「そうだな。面白い先達なら……先の世の武将、らもいるぞ? 幾人かは願いを成就したことで、輪廻の輪を潜っていったが」

「……実感がないが」

「そんなものだ。俺とて、ヒトの命を終えた後……須佐様が命ごと拾ってくださっただけだ」



 近藤の話によると。腹を自ら切り、首を落とされた直後は闇の中だったと。命を終えれば、そのまま地獄へと堕ちていくものだと思っていたらしいが……近藤の命は、素戔嗚尊が引き上げられていた。



『勿体無い使い方だな? 俺の手足になれ』



 素戔嗚尊は、次代の戦に扱う人間を探していたと。いくらこれまでの死人がいても、ある程度の願いの成就が成されれば冥府の裁きにかけられる。一方的に神自身が利用するわけでもなく、ある程度の差し替えに使う立場だと。


 土方は朧げにしか素戔嗚尊を覚えていないが、よくよく考えてみれば無作為な勧誘でないことを思い出す。


 利用はするが、お前も俺を利用しろ。


 それを騰蛇のかいつまんで説明してきたような気がしたのだ。あの神はあくまで使われるだけの神。最高位に近い素戔嗚尊にとっては、道具のひとつ。土方らも同じだが、使いっ走りにしたつもりはないのだと。


 少し冷えた気持ちになれた土方は、少し考え方を変えることが出来たのだった。それでも、沖田のように神将を纏えるとは思っていないが。



「……俺にも、あんな戦い方を?」

「そうさな。だが、膿の末端を狩るのも全く無縁ではない。天変地異への先触れを抑える効果があるらしい」

「は?」

「俺が言うよりも、彼に頼もうか」



 肩に乗せていた虎の毛皮を宙に放つ。近藤が投げたそれは、小さな旋風を起こした。寝ている沖田を起こす強さはないでいたが……風が消えた後には近藤以上の体格を持つ白髪の男が立っていた。目は水面のように澄んで青いが、力強さは騰蛇とよく似ていた。ただし、勇ましさについては彼奴より格段に上と見える。少し気圧されそうだった。



【俺は白虎という。騰蛇を扱うヒトが出るとはな?】

「……土方歳三だ」

【ああ。今も聞いていた。俺は近藤勇が扱う十二神将の一柱。風の将の一角だ】

「近藤さんが?」

「ああ。あの打首後から、だが。まだまだ俺はひよっこだ。総司のがまだ上手い」

【台風並みの風を毎回出そうとするからだ……。加減をもう少し覚えろ】

「ははは。済まない!」



 仲良さげに会話をする光景に、いくらか惚けそうにはなったが。それでも、まだ信じられない気持ちが大きかった。己の願いがよくわからないのもあるが、そこまでして生きたかった願いの先……沖田や近藤のように明るく切り替えられる自信がない。威勢は少し戻りかけたが、近藤の前で泣き腫らしてからは戻ったままだ。


 気落ちも戻りかけていると、頭を誰かに軽く叩かれた。目を向ければ、そこに居たのは白虎。近藤も土方の顔を見ていたのか……少し苦笑いだった。



【扱いは、たしかに……気の良いものではないかもだが】

「トシ。俺が言えたことではないが……もうひとりで踠く必要はない! 俺も、総司もいる!! それ以外にも頼っていいんだ! お前さんだけの戦いは……悔しいが、終わったんだ。ここはあの場所ではない」

「……近藤さん」



 苛烈や卑劣の場を狂わせた人殺しが、神に拾われ……神が司る土地の戦へ投げの駒にされた。生き死にを左右されることに変わりはないが、国の明日への重責ではないと、近藤は告げてくれた。白虎も頷きながら、また宥めるように頭を叩いてくれる。



【勇も最初はお前のようにかなりしょげくれていたさ。土方も似たもんだと言ってはいたが……その通りだったな? なんなら、生き方を見直さずにぶつけてみてはどうだ】

「ぶつける……?」

【膿の滓だ。総司に先を越されたようだが、土方も挑んでみたらいいじゃないか】



 そら、と宙に投げられてしまったが。目が瞬く間に……また外へ出ていたことに気づく。首根っこを掴んできたのは、白虎ではなく騰蛇だったが。



【……相変わらずの雑さだなあ?】

「と、騰蛇?」

【あ? 俺じゃ不服か? てか、トシは俺しか纏えねぇんだよ】

「それじゃねぇよ。……どこだ、ここ。白虎は何を」

【あ〜……。習うより慣れろってことをさせてーんだよ。あいつは】



 ほら、と土方を落として前を向けと言ってきた。鼻にツンとつく鉄と硝煙の臭いに、曲がりそうだと思ったが。奥に見えたズルズルと蠢く赤黒い蛇の巨体に、腰に履いたままの刀を抜いた。己の刀ではないが、妙に抜き易いと一瞬感じるも。



(纏うって、総司のようにか……?)



 少し小っ恥ずかしいものの、やるしかないのかと騰蛇に振り返れば……俺を使えと言わんばかりにニヤついた表情をしていた。

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